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(3)偶然と運命の違い・・・鮎美の視点で

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偶然は、いくつまで重なる事が許されるのだろうか。
偶然は、いくつ以上重なると実はそれは運命だと言えるのだろうか。

鮎美は、その事をずっと考え続けていた。

彼女が初めて「彼」と出会ったのは、学校帰り、コンビニでアイスクリームを買って店の外に出た時だった。
その年いちばんの暑さが訪れた日で、太陽が燃えるようにぎらついていたのを覚えている。

出会ったというのは、適切な言い方ではないかもしれない。
正しくは、見かけた、だ。

信号待ちでバスが店の前に停まっていた。
バスの中は外よりも暗く、ガラス窓の外からは中にいる乗客は見えづらかった。

けれども彼女は窓越しに、制服の白いシャツを着た「彼」を見た。

なぜだろう。
今までもそんな状況というのは幾度となくあったはずだ。

けれどもその時は、思わず「あっ」と声を上げたくなるくらい、何かが心に響くのを感じた。
誰だろう、かつて会った事のある人だろうか、彼女は「彼」がただの他人ではない事を感じ取っていた。

けれど、誰だろう。

必死に思い出そうとしている間に、バスは青信号で発車した。

「鮎美!」

一緒に店を出た友達の声はそれとほぼ同時だった。
彼女は、我に返った。

それからも、「彼」は誰だったのだろうかといろいろと考えたが、結局は会った事もない人、という結論に達した。

ではなぜ、「彼」のことが気になるのだろう。
「彼」のことを考えると、なぜ他人でないような気がするのだろう。

昔からの、ひょっとしたら生まれる前からの知り合いだとしても不思議でないくらいの、身近さを感じていた。

家で趣味のジグソーパズルを作り上げるその途中でも、「彼」のことが気になった。
数あるピースから、ある一部分に合致するピースを一個一個、丹念に探し出し、はめ込む。

すでに完成された部分と、そのピースとの凹凸が一致した時の、ささやかな喜び。
その時も、心の中には、「彼」の影を浮かべていた。

言ってみれば、彼女が生まれた時から持っている、心の中で一部分だけ欠けた部分・・・そこに合致するピースが、「彼」ではないかとさえ思えてきた。

誰なのだろう・・・思いは募っていった。
その一方で、二度と会えないかもしれないという諦めにも似た気持ちは、あった。

その直後の週末。
図書館からの帰りに江津湖畔の遊歩道を散策しようと外に出た彼女は、再び「彼」と会った。

すれ違った後にお互い振り向いただけだったが、何という偶然なのだろうかと信じられない気持ちであった。

けれど、これが最後だろう。
二度ある事は三度あるというが、そんな虫のいい話はないだろう。

そう思いつつも、三度目があってほしいと心ひそかに願っていた。
そして三度目は、雨の日にやってきた。

鮎美は、コンビニでファッション誌を立ち読みしていた。
モデルの女性たちのしなやかな肢体、均整の取れた顔立ち、それに調和したヘアーメイク、そして着こなし。

これくらい好条件が揃ったら、もし「彼」と再会したときに心を惹き付けられるかなと、ため息をついていた。
その時、ふと顔を上げると、信号待ちで停まったバスから「彼」が鮎美の方を見ていた。

偶然にしては、あまりにでき過ぎだった。
もうこれは偶然ではなくて、運命なのではないかと、彼女は直感した。

運命なら、またきっと出会えるはずだ。
もし出会えるならば、いちばん近い距離ですれ違った、図書館の近くのあの遊歩道だ。

そう確信しながら迎えた日曜日、まずは図書館へと向かった。

彼も、あの時と同じ時間帯に、同じ場所で待っているかもしれない。
その時間帯まではまだ間があったので、郷土資料室で時間をつぶす事にした。

すると、なんという事だろう。
彼が鮎美よりも先にそこにいた。

努めて平静を装い、適当に書架から抜き出した古い本を持って、すぐ近くの机に着いた。
そして、本を読むふりをしながら、どうしようかと考え出した。

運命だとしても、どちらかが何かの行動を起こさなければ先へは進めない。
鮎美は運命だと思っていても、彼のほうは少しもそんな事を考えていないかもしれない。

だとしたら、彼女から接近するのだろうか。

考えている間に、彼は席を立った。

(あ、もう帰っちゃうの?)

一瞬、鮎美は慌てた。
読んでもいない本にかじりつきながら、焦っているうちに、彼は行ってしまった。

(どうしよう、やっぱりただの偶然の重なりだったんだろうか)

彼女が気落ちし始めた頃、また彼がやってきて、机の横を通り抜けていった。
そして、通り過ぎざまに何か紙片を机の上に置いて行った。

ずんずん足早に遠ざかる彼の後ろ姿を目で追いながら、紙片を手に取った。
表にはおにぎりとウーロン茶を500円玉で買った事が印字されているレシートの裏に、メールアドレスが走り書きしてあった。

(やっぱり運命だったんだ)

鮎美は、それを手帳の間に大事にしまいながら、期待に心がぐんぐん伸びていくのを感じていた。
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