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(5)あえて越えない一線、それでも越えてしまった一線

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昼食の後、泉と紗絵が寝室に下りて聡と謙太がテーブルに残された。
食後の後片付けをしながら、謙太が訊いた。

「なぁ・・・ちょっと確認のため聞くが・・・午前中の下での君たちの行為、あれは疑似だよね?」
「・・・と、言うと?」
「紗絵は君と密着していただけで・・・挿入はしてないんだよね? 距離があったからはっきりとは見てないが、そう見えた」
「いや、それはもちろんそうですよ!」
「そうか・・・」

謙太は安心したようだった。
しかし聡を残して下に行き、すぐに戻ってきてから白封筒を手渡した。

「・・・なんですか?」
「中を見てみて」

覗いてみると、コンドームのパウチが3個入っていた。
聡はギョッとして、謙太の方を向いた。

「お守りだ。君と紗絵の関係には一切口を出すつもりはないが・・・しかし・・・」
「しかし・・・なんですか?」
「紗絵は、あんな大胆な子じゃ、なかったんだけどな。むしろ交際相手をシビアに選ぶような。いや、僕がそう思い込んでいただけかもしれないけど・・・」

言葉の後半は、聡の方は見ずに独り言のように言った。
窓の向こうの青い海を見ながら、寂しそうに。

・・・

謙太と泉が別荘を出てから、聡は紗絵に自転車に乗らないかと誘われた。
行き先は、道の向こうの灯台だと言う。

ガレージにあったママチャリに乗って、紗絵が前になって出発。
道の右側には樹木の隙間を通して海が見え、左側は荒地。

楽に漕いで上れるほど緩やかな上り坂を会話ができるくらいゆっくり走って5分もかからず、荒地は尽きて雑木林となった。
そこから山側に少し行ったところにコンクリート造りの塔があり、それが間近に見えるあたりで紗絵は自転車を停めた。

「あれ、開発業者が給水塔のために建ててそのまま放置されてる」

別荘からも見えていた、打ち棄てられた構造物。
近くで見るとコンクリートのひび割れや崩落などかなり劣化が進んでいるようで、下の部分からつる性の植物が覆ってきて容赦なく上へと伸びている様は、文明が滅んだあとの廃墟を見るようだった。

「さ、行こう」

わざわざ自転車を停めたくせにさしたる興味もなさそうに、紗絵は再び自転車を走らせる。
そこから緩やかに左右のカーブを繰り返す下り坂となり、10分ほど走ると道の左わきに数台の車が停まっていた。

「ここから下りていった岩場が、釣りポイントなんだって」

今度は自転車を停めずに、紗絵が後ろの聡に説明する。
みんな岩場に降りて行ってしまっているようで、人の気配はない。

そこから道は平坦だけれど左右に蛇行し始め、カーブの先で左側に海が見えるようにもなってきた。
潮騒の音も両側から聞こえてくるようになって、岬が近づいているようだ。

さらに15分ほど走って、道は終点となった。
そこには数台が停められる駐車場と公衆トイレがあるが、いずれもひどく古びていて駐車場の路面にはひび割れが走りそこから雑草が顔を覗かせたりしている。

「バブル景気の時に地元の役所が整備したんだけど、ほとんど来る人なんかいない」

自転車を降りながら、紗絵はまた説明した。
駐車場の奥に遊歩道の入口があり、朽ちて読めなくなった案内板の下に自転車を停める。

遊歩道に入り、丸太を模したコンクリート柱でできた階段を上ると道は二手に分かれる。
紗絵によれば、灯台の下をぐるりと一周する遊歩道の付け根にあたると言う。

どちらの道も、両側から雑草や蔓草が迫り、頭上は樹木の枝が覆いかぶさる。
空気もジトジトと水蒸気が飽和しているみたいで、昼間なのに陰気な事この上ない。

左の道を選ぶと灯台に上がる「関係者以外立入禁止」の脇道が現れ、それを過ぎると急に明るくなり目の前に海が広がった。
さらに先に進むとコンクリート製のベンチとテーブルが2組置かれた広場に出て、そこからは半周・・・180度を超えて外洋が広がる素晴らしい眺め。

潮騒を乗せて海風が吹くのを感じながら、ベンチのひとつに並んで座る。
自然とからだが密着したかたちになり、思わず聡は紗絵の肩を抱き寄せる。

彼女も、目を閉じて顔を近づけてくる。
キスを待っているのがそのまま伝わり、聡は軽くくちびるを合わせた。

聡は紗絵の胸に手を当てたが、彼女はやんわりとその手をのけた。
しかし彼女は微笑んだままで、聡に言った。

「ここ、いわゆる屋外だよ。こんな寂しいところでも、いつ、誰が来るかわからない」
「ああ、ごめん」

聡は慌てて手を引っ込める。
なるほど、彼女の言うとおりだし・・・彼女なりに屋外と屋内でのけじめを付けていたんだなと、感心した。

肩を寄せ合いながら、広い海と空を眺めながら、持ってきた飲料水とスナック菓子で憩う。
カラダの快楽を求めなくても、ふたりこうしているだけでも心が満たされる思いなのは発見だった。

「お兄ちゃんと泉さん、上手くやってるかなぁ・・・」

ふと、紗絵がつぶやく。
その目は、遠くの水平線の辺りを見つめていた。

「きっと、上手くやってるよ。アネキはそこらへん抜け目がないし」
「だといいんだけど・・・このままあのふたりの関係が続けば、きっと私とサトルくんの関係も一緒に続いていくのに」
「・・・僕も、紗絵さんとの関係がこのままずっと永遠に続けばいいのにって思ってる」

それは聡の、まったくの本心だった。
それを汲み取ったか紗絵は、再び彼にキスを求めた。

今度はふたり密着しての、舌を絡めての濃厚なキス。
しばらくそうして抱き合ってから、帰ろうとそこを離れた。

しかし自転車のところへ下りようとして、ふたりは足を止めた。
樹木の枝葉を透かして、一台の車が駐車場に停まっているのが見えた。

そして、顔は見えないけれども若い男女が半裸になって絡み合い・・・いわゆるカーセックスをしているのまで見えた。
車が揺れているように見えるのはそれだけ車内の動きが激しいからか、それとも心の動揺のあまり眼球が振れているからか。

聡も紗絵も、思わず無言でもと来た道を戻った。
そして再び、ベンチのところまで来た。

「ああ~、びっくりしたぁ!」

紗絵は海に向かって叫び、そしてケラケラと笑い出した。
聡も真似をして叫び、なおも笑い続ける紗絵のからだを抱いた。

抱きながら、ベンチに腰を下ろした。
またふたりは濃厚なキスをしたが、こんどは胸を触っても紗絵はそれを受け入れた。

聡は思い切って、紗絵の耳に口を近づけ囁くように言った。
それは、彼がいまこの瞬間に切実に思っていることだった。

「紗絵さん・・・別荘に帰ったら、僕は紗絵さんとつながりたい・・・ひとつになりたい・・・指だけじゃなくて、僕そのもので紗絵さんの中に這入っていきたい・・・」
「ありがとう・・・」
「実は、お兄さんから僕たちのために、コンドームもらったんだ」
「でも・・・だけど・・・」
「だけど・・・?」

紗絵は真っ直ぐ彼の目を見て、微笑みながら答えた。
答えながら、手のひらは優しく聡の股間で大きくなったものをズボン越しに撫でる。

「私、サトルくんとの関係を大切にしたいから・・・いますぐは、できない」
「どういうこと? 意味がわからない」
「前に付き合ってた大学生のカレ・・・付き合い始めてから毎日が楽しくって、充実してた。でも、一度セックスしたら急に心が冷めてしまって、あとは快楽のためだけの関係になっちゃった」
「・・・」
「サトルくんとの関係を、そんなふうに終わらせるんじゃないかって、それが怖くって。でも、本当は私だってサトルくんとつながりたい。だけど・・・ごめんなさい」
「別に謝らなくて、いいよ。紗絵さんの気持ち、よくわかった」

おそらく、それが紗絵の本心なのだろう。
彼自身、我慢できない気持ちは抑えきれないが、それが彼女なりに設定した「最後の超えない一線」とも言うべきものなのだろうと考えると、それを尊重したい気持ちもあった。

片手で紗絵の豊満な胸を撫でながら、もう片手で彼女の頭を撫でる。
紗絵は聡に軽いキスを幾度も重ねながら、彼の股間のものを頭を撫でるように愛おしむ。

「この子、私の中に這入りたいんだよね・・・本当にごめんね」

ふたりは含み笑いをしながら、更に固く抱きしめあった。
それ以上のことなど一切せずに、時間も忘れてそうしていた。

・・・

駐車場に戻ると、カーセックスの車は立ち去っていた。
ふたりも、もと来た道を戻っていった。

別荘に戻ると、紗絵は聡に言った。
思い詰めたような表情をしていて、いったい何事かと聡は胸がキュッと締まった。

「ね、汗かいちゃったね・・・お風呂、入ろっか・・・一緒に」
「うん!」

何だ、そんなことかと聡は安心した。
しかし、重要なことは紗絵の次の言葉に込められていた。

「お兄ちゃんから、コンドームもらったんでしょ。・・・それも、持ってきていいよ」
「いいの? 本当に? ありがとう!」

思わず聡は紗絵にキスをして、そしてハグをした。
ふたりはもつれ合うように洗面脱衣室に転がり込み、笑いおどけながら互いの衣服を脱がせあう。

聡は紗絵のブラジャーを外しショーツひとつにして、その彼女をバックハグ。
すでに彼は紗絵によって全裸にされており、血液を孕んで破裂しそうに巨大化した彼のものを彼女のヒップの割れ目に圧し当てながら。

後ろからキスをしながら聡の手は、紗絵の乳房とショーツの下を刺激する。
紗絵は快感に「あっ! ああん!」などと声を上げながら身悶えするものだから、聡のものはヒップに圧されるようにグリグリと刺激された。

紗絵も全裸になって浴室では、彼女はまた聡を海に向かって仁王立ちにさせた。
今度は彼にひざまずき、彼のものにかけ湯をしてからそれを咥えて舌と口で存分に舐る。

「ああ・・・」

心からあふれそうな愉悦を覚え、ついつい声に出してしまう聡。
紗絵の頭の後ろに丸くまとめられた髪の毛を、両手で包むようにいじる。

次第に快感が増してきて、下腹にそれが集中しそうな気配を感じる。
そのままイッてしまって終わりにしたくなかったから、紗絵には離れてもらった。

次にはボディーソープをふんだんに使っての洗いっこ。
どうしてもお互いの感じるところを集中的に、しかも相手が感じるように洗うものだから笑い声混じりの甘い喘ぎ声が絶えず浴室に反響してしまう。

最後は、紗絵を四つん這いにさせて背中から腰、ヒップへと湯を掛けて泡を洗い流す。
白い泡に覆われていた彼女の薄もも色の性器が、彼の目の前に現れた。

聡は一切の断りもなく、身を屈めてそこに口をつける。
朝には拒んだ紗絵は、むしろヒップを突き出して彼を受け入れた。

キスをして舌先でそこを舐めあげると、それは生き物のようにキュッと収縮して透明な露のような粘液を流した。
舌での愛撫を続けると紗絵は「ああん・・・ああん・・・ああっ・・・ああ~・・・」などと声をあられもなく上げながら、腰をくねらせ、背中をうねらせる。

そして・・・。

「サトルくん、そろそろ、ひとつになろ」

ついに紗絵のお許しが出た。
聡は脱力しかかった彼女のからだを抱え上げ、洗面脱衣所に向かわせようとした。

そのまま寝室に行き、ベッドでするつもりだった。
しかし彼女はしゃがみ込み、見上げるように言った。

「・・・私、ここでしたい・・・広い海を見ながら」

ならばと聡はひとりで寝室に戻り、バッグにしまった封筒からコンドームのパウチをひとつ、取り出した。
少し震える手で、ピクピクと身震いするモノに装着し、浴室に戻る。

紗絵は、海に面した窓の下辺の窓框まどかまちに腕を付き、ヒップを向けて聡を待っていた。
恥ずかしいのか彼を振り向くことなどせず、しかし性器を無防備にさらけ出して。

聡は紗絵の円いヒップに手を添え、膝の間に割って入るように近づいた。
彼の先端がそこに接すると、スポット的な強烈な快感を受ける。

「・・・いくよ」
「・・・来て」

彼は腰を突き出すように前進しながら、見えない「一線」を越えるのを意識した。
彼のモノは、トロトロとした紗絵の奥深くへと潜っていく。

「あ・・・ああ・・・」

紗絵は甘い悲鳴にも似た声を、喉から絞り出した。
聡は脳髄まで貫くような快感と共に、目の前の海の眩しさに視界が白い光で埋め尽くされるのを感じた。
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