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(5)最後のデートのはずが

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街から海岸沿いに車で1時間。
康と沙織にとっては、3年ぶりに訪れるホテル。

前回そこに入った時、まだふたりは童貞と処女だった。
そして数時間の滞在の後には、それぞれがお互いの体を知っていた。

ベッドからは、寝ながらにして海が見えた。
カーテンを全開にし、ずっと愛し合った。
沖合に浮かぶ釣り船から双眼鏡で覗かれるかもしれない事も承知で。

沙織はセックスの最中には、少し痛そうにしていた。
しかし全体的に甘い空気にふたり包まれ、帰りの車の中にまでそれを持ち込んだ。

つい昨日の事のように思える。
しかし、遠い昔の事のようにも思える。

ここ半年ほど、ふたりの間にあるのは、深い溝、冷めた空気。
特に理由があるわけでもない。

言ってしまえば、お互いに飽きたというところか。

折しも、もうすぐふたりは大学を卒業する。
それを潮に、別れようという事になった。

どうせ別れるのだったら・・・と、そのホテルを再訪したのだった。
あの日と同じ部屋が空いていた。

窓の向こうには、あの時と同じような、穏やかな春の海。
天気は快晴で、照明を消した部屋の中からはとても眩しい。

先にシャワーを浴びた康は、素肌にタオル地のバスローブだけ引っ掛けて、ソファに前かがみで腰掛けながら、ポテチをかじる。
浴室からは、沙織がシャワーを使う水音。

初めての時も、一緒に浴室に入らなかった。
沙織だけでなく、康にも気恥ずかしさがあった。

やがて、一緒に入浴し、洗いっこもした。
浴室でのセックスも、度々した。

しかし最近は、別々にシャワーを浴びる事がほとんど。
いや、セックスだってもう今年に入って一度もしていない。

それだけ、ふたりの仲は冷めてしまったのだろうか。
切なくなった康はポテチを鷲掴みにして頬張り、赤い缶に入ったコーラで流し込んだ。

やがて、沙織が重い足取りで部屋に戻ってきた。
バスタオルを巻いただけの姿。

そのままベッドの上に、横座り。
康も、足を引きずるようにベッドに向かい、彼女のそばに腰を下ろす。

おそるおそる腰に手を回し、引き寄せる。
軽い抵抗を受けたが、それは一瞬で、ふたりは密着。

バスタオル越しに沙織の体の柔らかさと温もりを感じ取る、康の手のひら。
何ヶ月ぶりかの、すでに懐かしいような感触。

それも今日を最後に、もう二度と感じられなくなってしまうのか。
静かに湧き上がる、それを惜しむような、切ない気持ち。

しかし、もう別れると決めたのだ。
未練は断ち切らなければならない。

康は、沙織の唇を荒々しく吸った。
彼女も吸い返し、ふたりは舌を絡め合う。

手のひらを、バスタオルの上から彼女の乳房に当てる。
撫で、さすり、ゆっくりと揉む。

「んっ・・・」

「ん・・・」

「・・・んんっ」

間隔を置いて、小刻みに体を震わせる沙織。
唇や舌の動きが、活発になってくる。

次第に互いの体温が上がってくるのを感じる。
康は沙織のバスタオルを剥ぎ取り、自分もバスローブを脱ぎ捨て、彼女を横たえた。

柔らかくて、温かく、滑らかな肌。
濃いピンク色の乳首を頂に載せた、円やかな乳房。

康は乳房に顔を寄せ、ピンと固くなった乳首を吸い、舐める。
同時に、手を彼女の股間に這わせる。

処女のように身を固くする沙織。
しかし彼女の性器は、すでに熱く柔らかく、濡れ始めていた。

ヌメヌメとした性器を指先でなぞる。

「ああん・・・」

沙織は甘い声を上げ、生唾を飲み込む。
さらに一番敏感な部分を指先で押さえるように転がす。

「あっ・・・ああっ・・・」

身をくねらせ、脚を曲げ伸ばしし、腰を揺るがせながら感じる沙織。
性器から漏れ出る粘液は、その量を増したようだ。

康は、そんな彼女が愛おしいと思った。
先程から追い払おうとしている切なさも、緩やかに心に堆積してくる。

・・・本当に別れなければならないのか?

・・・しかし、別れようと決めたじゃないか。

彼は全てを吹っ切るように起き上がり、彼女の脚の間に移動した。
そこにある、熱い露を流す鮮紅色の肉に、口を寄せる。

舐め上げたり舌先で刺激しながら、粘液を吸う。
それも、この3年間でいちばん丁寧に、心を込めて。

せめて最後は、互いに最高のセックスとしたい。
彼女の心に、自分という男の記憶を、少しでも刻み付けたい。

「ああっ・・・ああん・・・ひいっ!」

沙織は、全身で乱れる。
彼の思いが通じたのか、これまででいちばん激しい、感じ方。

脈打つように収縮する性器から、間欠泉のように溢れる粘液。
泉の源に向けてそこを指で分入っていくと、熱く柔らかい世界。

激しく締めつけられる中で、指を曲げて彼女の中をくじる。

「ああっ!・・・あっ!・・・あっ!」

快感に襲われながら、全身をうねらせる沙織。
うねりはどんどん大きくなる。

ついに、彼女は訴えた。

「お願い・・・来て・・・」

康は彼女の燃えるような体を上っていき、自分の性器を彼女の入り口に当てがった。

「・・・いくよ」

もうこれが最後の、沙織との目合まぐわいか。
彼女の感触を心に焼き付けるように、ゆっくりと性器を挿し入れた。

熱く、柔らかい。
その中を突き進んでいく。

「・・・あ、ああ~」

声を上げる彼女の目尻から、涙の粒がこぼれ落ちた。

「泣いてるの?」

康の問いに、沙織は目を閉じたまま、首を横に振った。

後ろ髪引かれる思いはあったが、康はピストン運動を開始した。
はじめは、ゆっくりと、長く引いて、奥まで入れる。

「ああ~・・・ああ~・・・」

腰の動きに合わせて、彼女の口から吐息とともに声が漏れる。
そして、彼を繰り返し締め付ける。

また、彼女の涙の粒がこぼれた。
やはり彼女も、別れるのが辛いのだろうか?

康も、胸がいっぱいになった。
それを振り払うため、だんだんとピストン運動を激しくした。

奥を、ずんずん突く。
大きく喘ぐように荒くなる、沙織の声。

大粒の涙が、彼女の両目から流れ始めた。
康の胸も堪え切れなくなり、涙が出てくる。

彼の背中に回した沙織の腕に、力がこもる。
泣くような喘ぎ声を上げながら、涙が止まらない。

康も、さらなる締め付けを感じながら、泣いた。
泣きながら、突き続ける。

ついにふたりは、涙の中で同時に絶頂に達した。

行為の後、いつまでも抱き合うふたり。
互いの温もりを受け止めながら、軽いキスを続ける。

やがて口を離して、沙織は言った。

「ねぇ・・・最高だった」

康も、答えた。

「僕たち、まだまだいけるんじゃない?」

沙織は、こっくりと頷いた。
それからふたり起き上がり、身を寄せ合いながら、黙って同じ海を見つめた。 (了)
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