神崎くんは残念なイケメン

松丹子

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3章 神崎くんと私

24 LUNCHTIME

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 相ちゃん宅での打合せの翌々日。職場にいた私が帰宅しようと机を片付け、お疲れさまです、と周りに声をかけながらスマホを見ると、メッセージの着信があった。
[取引先の打ち合わせで、明日、そちらの職場近くに行きます。お昼一緒しない?]
 急なお誘いに驚きつつ、断る理由もないので、私は了解と送り返した。正午には周りのオフィスも一気にランチタイムに入るので、入れるなら先に入っていて、と返す。
 神崎くんからも、了解、楽しみにしています、と返ってきた。
 でも、何で急に。
 私は不思議な思いで、そのメッセージを見ていた。
 そういえば、在学中から、神崎くんからの連絡はかなり事務的だった。とにかく、当たり障りのない言葉。
 会ったり電話したりすると、不思議なことも色々言っていたけれど。と思い出す。
 そういえば、可愛い、と言われて動揺したことも何度かあった。いまだに思い出すとくすぐったくて笑ってしまう。
 唯一、事務的でないと言えそうなのは、留学中に送られてきた写真と添えられていたメッセージだが、それでも何か心中がうかがえるようなものではなかった。
 私はスマホを鞄にしまい、駅へ向かいながら思った。
 ーーでも、今、神崎くんには、彼女とはっきり言えなくても、特定の女の子がいる。
 相ちゃん宅での神崎くんの大人びた苦笑と共に、思い出す。
 えみりんやサリーがあれこれ言ったせいで、変に意識してしまう。
 私は苦笑しながら歩幅を広めた。

 ランチのお店は職場にほど近いパスタ屋さんだった。神崎くんから先に入店した旨の連絡をうけて、昼休みのチャイムが鳴るとともに、先輩に声をかける。
「すみません、今日、外で食べます」
 ノートパソコンをロックし、閉じて、鞄を持った。
「行ってらっしゃーい」
 コンビニの袋を片手に、鈴木係長が言った。朝買ってきたヨーグルトとサンドイッチを出し、パソコンに向き合ったまま食べ始める。
 鈴木係長は美しくて頭の回転の速い人だが、アラフォーで未婚だ。初めて一緒に飲んだとき言われたのを鮮明に覚えている。
「同じ苗字だから言うんじゃないけど、香子ちゃんは、下手したら私と同じ道を辿る気がするから、念のため言っておくよ。ライフプランを大切にしなさい。会社に人生決められちゃだめよ」
 もうこの歳になった頃には、結婚して子ども二人いる予定だったのに!と、悔しそうな言葉に、昔から知り合いの隣の係長が、そうなの?そうは見えなかったけど、と笑っていた。
 そんなことを思い出しながら、私は神崎くんの待つお店へ向かった。
 お店は職場から近いこともあり、私たち職員もよく使うところだった。窓際にスーツ姿の神崎くんを見つけて、歩み寄る。
「お待たせ」
「ううん。お疲れ」
 私は神崎くんの正面に腰かけた。
 仕事モードの神崎くんは、この前会ったときよりもぴしっとして見えた。弓道のせいか、もともと見ていて気持ちがいいほど伸びた背筋なのだが、スーツのジャケットを着ると益々それが引き立つのだ。
 今更ながら窓際であることを意識し、内心しまったと思った。誰か知り合いに会いませんように。見られませんように。
「もう決まった?」
「うん、俺は決めたよ。香子ちゃんもどうぞ」
 ランチメニューを私の方へひっくり返しながら言う。ん?と一瞬違和感があって神崎くんの顔をうかがい見たが、神崎くんは平然と微笑んでいる。
「どうかした?」
「いや……別に」
 あれ?何か、違和感あったよね。名前、呼ばなかった?
 この前会ったとき、私のこと何て呼んでたっけ。そういえば呼ばれなかった気もする。
「決まった?」
 メニューとにらめっこしている私に、神崎くんが穏やかに問う。私は慌てて頷きながら、しまった、と思った。まだ決まってない。店員さんが来るまでに決めよう。
 神崎くんは片手をあげて店員さんを捕まえた。声も出していないのに、店員さんはすぐに気づいてこちらに向かって来る。
 えー!いつも呼ぶの大変なのに!イケメンはこういうときも得だな!
 混乱のあまり、思考回路がサリー化している。
「日替わり一つ。香子ちゃんは?」
「あ、私もそれで」
「セットでお飲み物がつきますが、何にしますか?」
 店員さんが問う。
「アイスコーヒーを、食後に」
「俺も」
 私の言葉に重ねて言って、神崎くんが微笑んだ。
 その微笑みを思いきり正面から受け取ってしまい、私は呼吸を忘れる。
 ーーなんだこの人、心臓に悪い。
 私は思わず視線を背けて、そう思ったのだった。
 ーー平常心、平常心。
「でも、急だったからびっくりしたよ。この近くに取引先があるの?」
「うん、そう。今年度は週に一度くらい来てるよ。この前会ったときに話してて、そういえば、って思って。迷惑だった?」
「いや、そんなことはないけど」
 私は背中に変な汗が浮かぶのを感じていた。ときどきどこからか視線を感じるのだ。顔を隠したい気になったが、窓際の方を隠すべきか、店側の方を隠すべきか。考えていると視線があっちこっちにさまよう。
「どうかした?なんか、落ち着かないみたいだね」
 その笑顔が一番落ち着かない。と言いそうになるのをすんでのところで堪え、私は開き直って背筋を伸ばした。もういいや、どうとでもなれ、と業務用の笑顔を浮かべる。
「そんなことないよ」
 神崎くんはきょとん、とした顔になった。あれ、この顔知ってる。
 一気にビジネスマンの仮面が外れた神崎くんに、私は思わず噴き出した。
「え、なに」
 神崎くんが慌てている。やっぱりさっきのは仮面をかぶっていたんだ、と私は嬉しくなって、ますます笑った。
「いや、知らない神崎くんだなと思ったら、やっぱり神崎くんは神崎くんだった」
 神崎くんの微妙な表情に、ついついお腹を抱えて笑ってしまう。涙も出てきて思わず手で押さえる。
「結構、笑い上戸だよね、鈴木さんて」
 神崎くんが、わずかに唇を尖らせて呟いた。笑われて照れくさいのか、頬が少し赤くなっている。
「あ、ほら。やっぱり」
 私はしたり!とばかりに身を乗り出した。
「さっき、香子ちゃん、とかって言ったから、なんか変だなと思って」
 神崎くんは、はっとした顔で口を押えた。いたずらを発見された子どものような顔ですねる。
「いや、だって……改めるなら、いいチャンスかなって」
「何を急に」
 私は笑った。不意に、深呼吸した神崎くんが座りなおして私に向き合う。
「鈴木香子さん」
 私も笑いながら、背筋を伸ばして座りなおす。
「はい、何でしょう」
 そのとき、店員さんがパスタを運んできた。
「お待たせいたしました」
「わ、おいしそう。いただきまーす」
 神崎くんは深々と嘆息して、横にあるカトラリーを私に差し出した。

「あのですね」
 パスタを食べ終え、コーヒーが運ばれてくると、神崎くんはもう一度私に向き合った。
「どうしたの」
 グラスを持ち、ストローをくわえながら言うと、その手元だか口元だかをぼんやり見ていた神崎くんは、はっとしたように首を振った。
「いや、だからね。今日は、俺なりに、決心して来たんだよ」
「ほほう。何を」
「それは、その」
 神崎くんは構わずストローをくわえたままの私を見て、困った顔をすると、脱力した。
「ああ、もう」
「いや、何」
 コーヒーを飲みながら問う。
「す……香子ちゃん相手だと、調子が狂う」
「鈴木さんでいいよ」
「俺の言う問題点はそこじゃないの」
 神崎くんは深々と嘆息してコーヒーを飲んだ。
「……忘れたこと、なかったよ」
 私はきょとんとする。
「私もだよ。忘れられなんかしないよ、神崎くんのこと」
「そういうとこ、天然だよね」
 神崎くんは苦笑したけど、それは不思議と柔らかい笑顔でもあった。
「また、ランチ誘っていいかな」
「いいけど」
 私は首を傾げた。
「毎回私誘っても、代わり映えしなくてつまらなくない?」
 神崎くんは笑った。少しだけ、余裕の戻ったような笑顔だった。
「いい加減、気づいてよ。ーー俺、香子ちゃんを口説こうとしてるんだから」
 私は口に含んだコーヒーを飲みこみ損ねて、思い切りむせた。

「コッコちゃん!見たよ!さっき、すんごいイケメンと会ってたじゃない!なに、彼氏!?彼氏なの!?」
 昼休みが終わるからと、バタバタと戻ってきた私に、いきなり食いついてきたのは、2期上の新藤さんだ。うらやましいくらい豊満なバストをしているが、いつもいやらしくならないような服を着ていて、女としても好感が持てる。
「いや、そういう訳じゃ……」
「コッコちゃん。確認だけど、結婚は歳の順よ」
 鈴木係長が胸を張って言う。もちろん冗談とは分かっているので、新藤さんも冗談めかして唇を尖らせた。
「そんな、係長待ってたら結婚できないじゃないですか」
「失礼な!」
 二人につられて私も笑った。
「で、誰なの?」
 新藤さんはがっちりと、私の腕を抱え込んでいる。女同士だから当人は気にしてないのだろうが、胸が当たって非常にそわそわする。
「大学時代の友人です。ちょうど今、取引先が近くにあって、しばらく、週に一度くらい来るからって……」
 言い終わるより先に、新藤さんの目がきらりと輝いた。
「また来るの?私も一緒させてー!」
「……とりあえず、聞いてみます」
 日ごろお世話になっている先輩をないがしろにはできず、私は気圧されたように頷いたのだった。

 仕事を終えてパソコンを閉じたとき、新藤さんから改めて釘をさされた私は、忘れないうちに神崎くんにメッセージを送った。なかなか返って来ないかと思われた返事は、比較的すぐ返ってきた。
[俺は、別にいいけど]
 考えているのか、少しの間の後、
[俺の気持ちは、変わらないよ]
[たとえ誰に会っても]
 その返事を見た瞬間、私は赤面するのを感じた。
 ーーいつの間に、そういうくさい台詞を言うようになったのーー
 事務的なメッセージからのギャップについていけない。
 心中呟きながら、気づかずにはいられなかったーーちょっと嬉しく思う自分に。
 はっと気づいて、ぶんぶんと首を横に振る。だめだ、流されてはいけない。だって、彼には、誰か、いるんだから。
 ーーいるといえばいるし、いないといえばいない。
 そんな風に表現する誰かが。

 新藤さんを交えた3人のランチーーは、急遽4人になった。
 というのも、同じフロアで他の部署にいる同期の前田くんが、新藤さんとお近づきになりたがっていたからだ。
 前日の残業中に給湯室でそんな話になったので、神崎くんへの連絡は当日の朝になってしまった。帰宅が早かった新藤さんも同様だが、新藤さんはふぅんと気のない返事をした程度だった。
[念のため確認だけど、その同期は、あくまで新藤さんを狙ってるの?]
 神崎くんの返信に、私は苦笑した。
[私はそんなにモテないよ。会えば分かるでしょ]
 返すとすぐに返信が来る。
[それもそうだね。香子ちゃんは鈍いから気づいてないかも知れないし]
 なんと、失礼な。幸弘や早紀よりはマシだと自負しているのに。
 とりあえず拗ねた顔の絵を送り付けたところで、始業のチャイムが鳴った。

 昼休みになると、新藤さんと連れ立って、同じお店に向かった。神崎くんはもう来ていて、ひらひらと手を振ってくれたので、私も手を挙げて応じる。
 近くまで行くと、神崎くんはすいと立ち上がって新藤さんに挨拶した。今日はビジネス用の顔で対応するらしい、と察する。
「はじめまして。神崎です」
「はじめまして!コッコちゃんの隣人の新藤です」
 神崎くんはそれを聞いて笑った。
「懐かしいな、その呼び方。職場でもそう呼ばれてるんですか?」
「香子ちゃん、が多いかな。鈴木さんて呼ぶ人もいるけど、係長も女性で、鈴木だから」
 そうなんですか、と頷いて、神崎くんはどうぞ、と前の椅子を指し示す。新藤さんは神崎くんの正面に座った。
 私が一瞬迷ってから新藤さんの隣に座ろうとしたとき、神崎くんが店の入口を指して言った。
「もしかして、あれが前田さん?」
 振り向くと、確かに前田くんが私たちを探しているのが見える。私が手を振ると、ホッとしたようにこちらに歩いて来た。
「すみません、お待たせしました」
 前田くんは軽く会釈して言ってから名乗った。神崎くんほどではないけど、平均よりはやや高めの身長で、年寄り受けのする爽やかな笑顔の好青年だ。私は立木くんにちょっと似ていると思っている。
「よかったね、電話につかまらなくて」
 高齢者に関係のある部署だからか、彼の部署には長電話が頻繁にかかってくる。時々昼食を取りそこねる、と苦笑していたのを思い出す。
「うん、今日は出ますって言ってたら、先輩が取ってくれた。次のときは頼むぞって言われたけど」
 言いながら、前田くんはごく自然に新藤さんに一言ことわり、その隣に腰掛ける。
 ーーあれ。この二人、案外悪くないんじゃないの。
 最近、いい雰囲気のカップルを続けて見ていたからか、直感的にそう思った。
「香子ちゃんもどうぞ」
 神崎くんが隣の椅子を引いてくれた。私はお礼を言って神崎くんの隣に座る。前田くんと新藤さんは、共通の知り合いである新藤さんの同期の話で、すぐに打ち解けていた。
「決まりました?頼みますね」
 前田くんが手を挙げて、すみませーん、と店員さんを呼ぶ。しばらくしてやって来た店員さんに注文を済ませると、新藤さんが言った。
「大学のときの友人、って聞きましたけど、どんな繋がりなんですか?コッコちゃん、女子大だったよね」
 新藤さんの問いに、神崎くんが答える。
「インカレサークルで一緒だったんです。香子ちゃんは副部長だったから、何かと目を配ってくれて」
「ああ、合唱って言ってたよな」
 前田くんが納得したように言う。
「歌上手いもんなぁ、コウ」
 同期には何故かコウと呼ばれている。これもやっぱり鈴木が2人いるからだが。
「神崎くんも上手いよ」
 私が十八番を譲る程に、というと、神崎くんが驚いた顔で私を見た。
「十八番って……俺女性ボーカルの歌は歌わないよ」
「え、コウって女性ボーカルの歌、歌うの?」
 神崎くんの言葉に、前田くんが驚く。神崎くんが前田くんを見ると、前田くんは笑った。
「男より男前に男性ボーカルのバラードとか歌うから、全部見せ場持っていかれて困るんだよね、いつも」
「コッコちゃんの声、かっこよくて素敵だもんねー」
 前田くんと新藤さんが話すのを、神崎くんがふぅんと相槌を打って私の方を見た。
「カラオケはみんなで何度か行ったけど、香子ちゃんの男性ボーカルのバラードなんて、聞いたことないな。なんで?」
 ーーだって、神崎くんが歌ってくれるから。
 割と聞き惚れてました、とは到底言えず、そうだったかなぁと視線をそらしてとぼけて見せた。むしろ、これ歌ってあれ歌ってとリクエストしていた記憶もある。
「もしかして、俺にリクエストしてた曲も、香子ちゃんの持ち歌だったのかなぁ」
 うげっ、しっかり覚えてるのか。私が更にうろたえて視線をさ迷わせていると、前田くんが笑った。
「神崎さん、よほど上手いんじゃないですか。何で男性ボーカルばっかり歌うのって聞いたら、『満足できるクオリティーで歌ってくれる男子がいないから』って断言してましたよ」
 すべてネタバレされた感じが気まずくて、私が小さくなったとき、それを見た神崎くんが噴き出した。
「相変わらずーー可愛いなぁ」
 私をとらえる優しい目。瞬時に、頬が赤くなる。
「神崎くんこそ、それ、相変わらず」
 反撃のつもりで口を尖らせて言ってから、はっとした。これじゃ在学中から口説かれていたと言っているようだ。
「あ、じゃなくて」
 慌てて訂正の言葉を探し始めたとき、店員さんが歩いてきた。
「お待たせしました。パスタお持ちしましたー」
 私は会話が一次中断されたことにホッとして、美味しそうなパスタを受けとった。

「なぁんだ。彼氏ではないけど、コッコちゃん狙いなのね」
 昼食後は歯磨きをするのが日課だ。職場のお手洗いで並んで歯磨きをしながら、新藤さんは軽やかに笑った。
「や、よくわかりません。彼女っぽい人がいるとかいないとか言ってたし」
 私が小さくなりながら言うと、新藤さんはふふふと笑う。
「でも、二人の空気、いい感じだったよ。コッコちゃん、彼の前だととっても可愛かったし」
 私は思い切りうろたえた。また顔が赤くなる。
「あ、思い出してるの?可愛いー」
「違います!可愛いって言われなれてないだけです!」
 私はからかう新藤さんに手を振って否定した。新藤さんは笑う。
「私はまた違う人探さなくっちゃ。コッコちゃん、応援してるよ」
 ひとしきりからかった後でそう言われたとき、正直ホッとした自分に気づいて、私はまた動揺した。
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