神崎くんは残念なイケメン

松丹子

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2章 神崎くんは残念なイケメン

16 大学3年、春

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 4月1日。進級と新入生の入学に備え、我々の代は部室の整理整頓をすべく集まることになっていた。
 夕方からはいつも通り活動があるので、昼前から適宜集まり、午後には全員集合するように、となっている。
「香子、いいところに会った。実は、相談したいことがあるの……」
 大学の最寄り駅でばったり会ったサリーが、深刻な顔をして言ったので、私はどきりとした。
「な、何?」
「……告白されたの」
「えっ、誰に?」
「それが……」
 私の耳元に口を寄せる。私が神妙に言葉を待っていると、
「う・そ」
 言ってケラケラ笑いだした。私がきょとんとしてその笑顔を見ていると、腰に手をやって嘆息混じりに言う。
「やっぱり、香子、すぐ騙されるんだからー。もーサリーちゃん心配よ」
 だから、先手必勝でした!と敬礼する。なぜ敬礼。
「今日エイプリルフールだよ。ちゃんと心してかかるように!」
 あ、そうか、と私は手をたたいた。そういえばそんなイベントもあったっけ。
「ということで、行こう。私は購買で今季限定味のアイスを買って行くから、先行っててね」
 なんじゃそりゃ、と私は苦笑しながら、サークル棟の部屋へ向かって歩き始めたのだった。

 サークル棟の部屋のドアを開けると、本を読んでいる神崎くんの背中が見えた。
「今日は早いね」
 邪魔してしまったと思ったけれど、ドア近くに座っていた神崎くんは、音で気づいたらしい。目を上げた神崎くんに声をかける。
「うん」
 神崎くんは本を閉じ、荷物の中に閉まった。本の表紙がちらりと目に入るーーアメリカ、とだけ見えた。
「鈴木さん、あのっ……」
 私が奥の机に鞄を置くと、不意に神崎くんが立ち上がり、勢いよく頭を下げた。
「つき合ってください!」
 私はぽかんと口を開ける。
 次いで、あ、そうかと呟いた。
「……神崎くんも、そういうの乗るたちだったんだ」
「……え?」
「え?エイプリルフールでしょ?」
「え、ちょっと待って、違ーー」
「さっきさー、サリーにもやられちゃって。ダメなんだよねぇ私、すぐ信じちゃうから笑われちゃった」
 私が苦笑すると、神崎くんが慌てる。そこで、またドアが開いた。
「あ、ざっきーも来てたんだ。感心感心ーー」
 ドアを開けて立つ幸弘の表情が、神崎くんの顔を見て凍り付く。私からは神崎くんの頭しか見えないので、どういう表情なのかわからない。
「……もしかして俺、タイミング悪かった?」
 凍り付いた笑顔のまま幸弘が言うので、私は首を傾げた。
「何で?そんなことないよ。今日エイプリルフールだねって話してたの」
「違っ……あああもう」
 神崎くんががっくりと椅子に腰かけ、頭を抱える。
「こばやん、最近で一番お気に入りの自分の写真ある?」
「何で?」
 幸弘が訝しげに尋ねると、神崎くんは淡々と言った。
「ちょうだい。的に張るから。最初はどこからがいい?やっぱり目かな」
「え、えぇえやめてそんなの!その本気の目も怖いしちょっと呪いくさい!ごめんじゃあちょっと出直すからーー」
 言いかけたとき、がちゃりとまたドアが開き、相ちゃん、サリー、えみりんが入ってくる。
「やっほー。なんか賑わってんね」
「あー!俺、的にされちゃう!!」
「的?何のこっちゃ」
 幸弘と相ちゃんがわいわい言っている横を通り抜けて、サリーが中まで入って来た。
「なに、どうかしたの?」
「サリーちゃん、何で今日俺より早く鈴木さんに会っちゃったの……」
 とは、頭を抱えた神崎くんのセリフ。サリーは何故か腰に手を当てて胸を張った。
「あら、人のせいにしないでくださる?いくら香子が天然だからって」
「天然って……」
 私が苦笑しながら言うと、サリーははっとしたように目を輝かせ、手に持った味気ないビニール袋を掲げた。
「香子。期間限定フレバーのアイス、2種類あって迷っちゃって。両方買ってきたの。一緒に食べよー」
「ええ、寒いよ」
「だから、私が風邪引かないように手伝って。溶けない内に食べなきゃ」
 言いながら、せっせと二つのアイスの蓋を開けにかかっている。私はスプーンを仕方なしに受け取った。
「250円のところ、200円にまけてあげよう」
「しかも料金徴収するんかい」
 私はツッコミながら、アイスを掬い上げたスプーンを口に運んだ。冷たい甘さが口の中に広がる。ーーと、サリーがそのスプーンを横取りした。
「えっ?」
「じゃあ、お詫びにこれを一口神崎くんにあげよう」
 サリーが私のアイスを一掬いして掲げる。
「ーーそんな、俺が変態みたいに」
「人は誰しも一種の変態よ」
 サリーが力強く言う。訳が分からない。
「そんな食べかけあげるなら、もう一つ買ってくれば?」
 私が苦笑すると、サリーはそれじゃ意味ないのよと嘆息した。
「さあざっきー。心が揺らいでるのはお見通しなのよ!観念なさい」
「いや、この状況じゃちょっと勇気が」
「もー、そんな煮え切らないこと言ってたら」
 サリーが言って、自分の口にスプーンを運んだ。
「サリーちゃんが食べちゃう」
「あっ」
 サリーの口がぱくりとスプーンを咥えたのを見て、神崎くんが声を上げる。
 一体何をしているんだか……
「これからは一口ごとに料金が発生します」
「どんだけアコギな商売だよ」
 サリーが胸を張ると、幸弘が半眼で言った。
「ちなみにいくら?」
「何故えみりんが聞く」
「値段設定が最適か気になるじゃない」
 実はえみりんは経済学部である。サリーは片手を広げて言った。
「50円」
「あー……」
「悪くないセンみたいね」
 額に手を当てる神崎くんを見て、えみりんがふむと鼻を鳴らした。いい加減訳の分からない会話はやめてほしい。
 がちゃりと扉が開いて入ってきたのは顔色の悪い早紀だった。私とサリーは咄嗟に近づこうとして、思い止まる。幸弘が近づいて行くのが視界に映ったからだ。
「顔色悪いけど、大丈夫か?」
「うん……電車、少しダイヤ乱れてて、人込みに酔ったみたい。少し休めば、大丈夫」
 そのやり取りを見ていたサリーが、急に深々とため息をついた。
「とうとう早紀も人のものかー。サリーちゃん寂しい」
 幸弘が動揺して赤面しつつ振り返る。
「こら、サリー」
「私、ものじゃないよー」
 早紀がふんわり微笑んで言った。私は驚愕のあまり自分の顔を覆う。
「なんてことだろう」
「どうしたの、香子」
「その台詞も早紀が言うととてつもなく可愛い」
 衝撃を受けている私に、神崎くんが意を決したように言った。
「す、鈴木さんが言っても可愛いよ」
「神崎くん、ありがとう。でも、下手な慰めは時に人を傷つけるだけだよ」
 遠い目をして私が応えた。
 えみりんが幸弘と早紀を見て、ふぅんと言った。
「そうだったんだー。ようやくそうなったんだー。おめでとー」
 その物言いは、なんとなく冷たく棘がある。
「どうしたの、えみりん」
「別にぃ。私、お昼ご飯買ってくるの忘れてた。ちょっと購買行ってくる」
 えみりんが部屋を出ていくと、相ちゃんが苦笑した。
「虫の居所が悪いだけだろ。俺、ちょっと話してくるよ。先できるとこから始めてて」
 私たちは生返事を返して、相ちゃんの姿を見送った。
 それと入れ違いに、他のメンバーが集まり始める。11時頃には、お寝坊なたっちゃんを除く全員が集合した。
 棚から私物を出し、所持者を確認しながら分類する。えみりんと相ちゃんもその頃には帰ってきたが、所持者の知れない一山ができた。
「これ、たっちゃんのかな。たっちゃん、まだ寝てるんじゃないの」
 言ったのはりんりん。私も苦笑した。
「そうかも。さっきメッセージ送ったけど見てないみたい。電話してみようか」
「俺、するよ」
 神崎くんがスマホを取り出して言った。
「うわ、ざっきーのモーニングコールとか、貴重過ぎる」
「少し低めにお願いします!」
 ケイケイとイオンが何故か嬉しそうに言う。神崎くんは苦笑しながら、画面に触れてコールした。ご要望通り、少し低めの声。ケイケイとイオンが息を殺して笑っている。
「ーーおはよう。今起きたとこ?」
 確かに、起きぬけにこの声を聞いたら、どんな気分になるんだろう。
 そんなことを思ったのは私だけではなかったらしい。ちゃきとりんりんも思わず顔を見合わせている。
「いい声は得よねー」
 サリーが歌うように言った。
「女は耳で恋をする。男は目で恋をする」
「何、それ」
「名言でしょ。失恋した同じゼミの子が言ってた」
 男は目で恋をするーー幸弘が早紀に惹かれ始めたのは、いつからだったんだろう。何がきっかけだったんだろう。
 そんなことを思って、また苦笑した。いまさらそんなことを考えて何になるんだろう。
 途中から、電話は神崎くんからイオンに変わった。神崎くんの穏やかな物言いに不満を抱いたらしい。手厳しくあれこれ言うイオンの横で、神崎くんは苦笑いしている。
 もしもーー本当に、みんなが言うように、神崎くんが私を好きだったとして。
 私の何が、彼をひきつけたんだろう。
 考えてみても、分からない。自意識過剰に思えて、やめる。
 えみりんのように胸が豊かな訳でも、早紀のように華奢な訳でも、サリーのような明るさを持つ訳でもない。褒め言葉にあたるものといえば、カッコイイ、すらっとしてる、くらいだけど、やっぱり魅力的な女の子を形容するものからはだいぶ遠いように思う。
「どちらも、かなり本能に近い感性よね。結局」
 サリーが興味深そうに言った。彼女の専攻は行動心理学である。
「あんまり頭で考えるようなことじゃないのかもね、ってことだよ」
 私はサリーに頭をこつりとされて、初めて自分に対する言葉だったのかと気づいた。
 神崎くんのことは、嫌いじゃない。恵まれた容姿、耳障りのいい声、あまり感情に振り回されない穏やかさ。礼儀作法もしっかりしてるし、頭の回転もいいーー時々よく分からない言動もあるけど。
 でも、私のこの好意は、彼自身を好きと言えるのだろうか。他の子が彼に抱く憧れと違うとは、私には思えない。
 もしも、特別さを感じるところがあるとしたら……
 二人だけになったときの、静かだけど居心地のいい空気。丁寧なお礼の言い方。 子供のように無邪気な笑顔、ーー 不意打ちのように言われる「可愛い」という褒め言葉。
 私は顔が赤らむのを抑えるように、ぶんぶん首を振った。
「鈴木さん、どうかしたの」
 神崎くんの声に、はっと我に返る。
「いや、何でもない」
 取り繕って笑う。神崎くんが不思議そうに私を見て、申し訳なさそうに言った。
「今の電話でだいぶバッテリー減っちゃって。充電器借りてもいい?」
 イオンの長電話のせいだろう。私は苦笑した。
 私が部室に置いていた私物の一つがスマホの充電器だった。他の部員も使えるようにと思ってのことなので、みんなピンチのときはよく借りていて、存在を知っている。手元から充電器を差し出した。
「イオンはいつも長電話だからね。かかって来たときは気をつけて」
「鈴木さんにも、かかって来たことがあるの?」
 神崎くんはありがとうと充電器を受け取りながら言った。
「あるよー。酔ってるときなんかほんと最悪」
 イオンが電話をかける時間と相手は割と無作為だ。曰く、たまたま講義の合間が空いたから。少し待ち合わせより早く着いたから。バイトまでの時間つぶしに。飲み会からの帰路に手持ちぶさたで。究極、すぐ眠れなそうだから、というときには、ぐだぐだと夜半まで付き合わされたときもある。
 サリーなどは自己都合で切るようだが、その分面倒見のいいメンバーが割を食う。相ちゃんと私はその筆頭だろう。
「電話、かぁ……」
 神崎くんは充電器を差し込みながら呟いた。
「今度かけてみてもいい?」
 うかがうような目線に、私は笑った。
「別に、いいけど。いつも出られる訳じゃないよ」
「もちろん。それでいいよ」
 神崎くんは微笑んだ。その微笑みが多くの人を魅了することには、きっと無自覚なんだろうな。早紀と同じく。
「でも、神崎くん、この前遠慮なくメッセージ送れるって言いながら、結局変わらないからなぁ。私への用事がないんでしょう」
 笑って言うと、神崎くんは困ったような顔をした。
「そうじゃなくてーー何送っていいかわかんなくて。俺、文章苦手だから」
「ふぅん。ま、そういうことにしておきましょう」
 私は言いながら、雑巾とバケツを手に取った。
「そろそろ棚とか机拭くよー。自分の荷物まとめといてねー」
 言いながら、水を汲みに部屋を出る。
 トイレで水を汲んで戻ろうとしたとき、声をかけられた。
「コッコ先輩。持ちます」
 現れたのはさがちゃん。私が反応するより早く、バケツに手をかけたので、おとなしくお願いすることにした。
「ありがとう。どうしたの?」
「今日、2年の先輩たちが片付けするって聞いたんで、お昼頃に差し入れをと思って」
 さがちゃんは片手にビニール袋を持ち上げた。2リットルペットボトルが2本見える。私は慌てた。
「え、そんな重いの持ってたの。バケツ私持つよ」
「いいんです。これでも俺、男ですから」
 言って笑う。身長はほとんど私と変わらない上、幼い笑顔。
 これでも、男だから。ーーこの子も、私と同じような劣等感があるのかも知れない。気づいてはいけない傷口に気づいてしまったような罪悪感が心中を満たす。
 八代先輩が、男として見てもらえない、と唇を尖らせていたのを思い出しながら、当たり障りのない会話をして隣を歩いた。
 私たちがドアの前についたとき、ちょうど開いたドアから幸弘が顔を覗かせた。
「おっ、さがちゃん。なに、差し入れ?サンキュー」
 さがちゃんが頷いてビニール袋を持ち上げる。それを受けとった幸弘が机に乗せたが、軽々と持ち上げた腕力の違いが、残酷なほどはっきり目に映った。
「重かったね。ありがとう」
 言って、神崎くんが逆側のバケツを受けとる。不必要に揺れない水面が、その安定を物語る。
 圧倒的な力の差。
「すっげ、さがちゃん両手にこんな重いの抱えてきたの?俺無理だわ。がんばったね」
「左右バランス取れて、逆に楽でした」
 肩の力の抜けたイオンの言葉にさがちゃんが笑う。その手は赤くなっていた。
「手、赤くなっちゃったね。痛くない?」
 私が声をかけると、笑顔が返ってきた。
「大丈夫です」
 まっすぐな視線。
 ーーちゃんと向き合ってあげないと、失礼だ。
 今まで弟扱いしてごまかせばすむと思っていた、心の奥に潜む無意識が、不意に罪悪感に変わる。
「ありがとう」
 私が微笑むと、さがちゃんは一層嬉しそうに笑った。
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