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2章 神崎くんは残念なイケメン
14 大学2年、2月
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2月3週目の金曜日。天気は晴れ。
先週のバレンタインデーに、早紀は幸弘に返事をしたらしい。
もちろん、イエスと。
そう聞いたのは、早紀本人からだった。
おめでとう、と私は言った。早紀にも。幸弘にも。
大切にしてね、と。これも、二人に。
「よかったの?」
「何が?」
「気持ち、伝えなくて」
ケーキの刺さったスプーンを口に運びながらのサリーの言葉に、私は苦笑する。
サークルまでまだ時間があるから、お茶でもして行こうと誘われ、大学ーーいつもの共学大学ではなく、私たちの通う女子大近くのカフェにいた。
私は相変わらずホットコーヒー。サリーはホットカフェオレ。
そして目を引かれたチョコレートケーキは、二人で半分こ。これぞ女子の醍醐味。
「全然言わなかったわけじゃないよ」
サリーは深くため息をついた。
「あいつの場合、直球勝負しないと、届かないでしょ。分かってるくせに」
分かってるよ。
分かってて、勝負できなかったの。
私はブラックコーヒーを口に含む。深い香りが鼻腔に満ち、口中には苦みと香ばしさが広がった。コーヒーにはリラックス効果がある、と聞いたことがある。あながち嘘ではないな、と私はぼんやり思った。
ためらいながら、サリーは言った。
「気づいてたんだよ」
ドキリと心臓が高鳴った。
誰が?
何に?
「早紀。まあ、もしかして、くらいの感じだったけど」
ーー香子ちゃんの大切な人なら、私、ちゃんと香子ちゃんと話して決めなきゃって。
香子ちゃんには、いつも笑っていて欲しいから。ーー
早紀。
優しくて、ちょっと鈍くて、時に強い早紀。
互いに、同じようなことを思っていたのかもしれない。
少し目が潤んだ。
「そっか。……なんか、面倒かけたね。サリー」
間に挟まれて、戸惑ったであろう友人に詫びる。
「私のことはどうでもいいけどさ」
サリーは嘆息した。
「あんたは、あいつのこと、神格化し過ぎなんだよ。アイドルじゃあるまいし」
幸弘と私とサリーは、出会ったときも一緒で、過ごした時間的にも同じくらのつき合いだ。
だから、私のことも、幸弘のことも、よく分かっている。特にサリーの人間観察力は鋭い。私の気持ちにもすぐに気づいていたが、見守ってくれていたのだ。
「ちゃんと対等な人間として、ぶつかってみないと、進めないんじゃないの。どんなに優良物件が近くにいても」
対等な人間。優良物件。
私はその言葉を心中で反趨して、首を傾げた。
「そういうもんなのかなー」
よくわかんないや。
ヘラッと笑う私に、サリーが深々と嘆息する。
「みんなが、やたらと神崎くんと推薦してくれるのは分かってるよ」
手元のカップを両手で包み、その温もりを感じながら、私は言う。
サリーがおや、というように目を上げた。
いくら何でも、気づかないのが無理だ。さすがに私もそこまで鈍感じゃない。
「でも、神崎くんの気持ちは、分からない」
だから、気づかない振りをしている方が、楽だった。
私に好意を寄せてくれる男の子は、大体私の強さに興味を持ってくれる。
強さ。正義感。責任感。そういうもので覆われた、かっこいい私に。
でも、私は知っているのだ。
私はかっこいい訳じゃない。
私の弱いところ、怠惰なところを見たら、幻滅するんだろうな。
いつもそう思って、ほどほどにごまかしてきた。
弟扱いしたり、気づかない振りをしたりして。
もし、かっこ悪い私を見ても、その好意は変わらないんだろうかーー
神崎くんは、それを試すには、あまりに魅力的すぎる。
友人としても、男性としても。
もし、それで、彼が離れて行ってしまったら、私は自分を保っていられる気がしなくて。
でも、彼の隣に漂う居心地のいい静かな空気にあって、ずっとかっこいい自分を演じられるような気はしない。
どんなにがんばっても、仮面がはがれていくだろう。
それくらい、不思議と、自然な場所だったから。
「分かろうとする勇気がないだけじゃなくて?」
サリーが言った。いつでも、彼女の目は真理を見据えているんだろう。
「そうかもしれないね」
私は微笑んで頷いた。逃げているだけだと分かっていても、そう答えるしかなかった。
サリーがまた複雑な表情でため息をついた。
「私は、好きだよ。どんな香子も。ざっきーは、ちゃんと見てくれてると思うけど」
私は何も言わずに微笑んだ。
サリーが銀行に寄るというので、私は一足先にいつもの共学大学に行っていることにした。サークル棟へ向けて歩いていたとき、後ろから声が聞こえた。
「鈴木さん!」
追いかけて来たのは神崎くんだった。
片手に小さい紙袋を持っている。
「あらー。もうバレンタイン過ぎてるのに、さすがだねぇ」
「そんなんじゃないよ」
慌てたように紙袋を後ろ手に隠そうとしたが、思い直してやめたようだった。
「弓道部の後輩から。今日、久しぶりに練習行ったから。きっとみんなに渡してたんだろうと思うよ」
私は微笑んで、ふぅん、と言った。それにしてはラッピングが気合入ってるけど。
「鈴木さんは、誰かにあげたの?」
私はきょとんとして神崎くんの顔を見た。
「バレンタイン?」
「……うん」
「あげたよ」
私がさらっと言うと、神崎くんは複雑な表情をした。
「ゼミの子と、先生と、早紀と、サリー」
指折り数えながら、お菓子を渡した相手と、その表情を思い浮かべる。
女子大では手作りお菓子を配っても白い目で見られたりしない。ハントする男がいないからで、その点気が楽なのだ。
「女子って、みんな嬉しそうに貰ってくれるんだよね。作り甲斐ある」
ふふふ、と笑った。
「……もう、残ってないの?」
犬耳があったらしゅんと垂れていそうな表情で、神崎くんが言う。
私は眉を寄せた。
「バレンタインデー、何日も前だよ。残ってたらカビてるよ」
神崎くんが急に気を取り直し、力強く言った。
「俺、食うよ」
神崎くんのテンポは相変わらず唐突で、訳がわからない。
「鈴木さんのくれたものなら。消費期限切れてても、腐ってても、腹壊しても、食う」
その調子が、ずいぶん一所懸命なので、私は吹き出した。
「私がろくでもないプレゼントするような言い方じゃない」
「いや、違、そんなんじゃなくて、そのーー」
「はいはい。じゃあ、何か失敗作ができたらあげるよ」
私の言葉に、神崎くんはまた微妙な顔をして、呟いた。
「いや、失敗作じゃなくても、いいんだけど……」
私は笑った。
「あ、ざっきー先輩」
また後ろから声がかかり、振り向くと1年のゆかりちゃんだった。
「コッコ先輩も、こんにちは」
にこりと笑って小首をかしげる。ポニーテールにした柔らかい髪がふんわりと流れた。ファー付きのピーコートに臙脂色のミニスカート、黒いタイツ、ダークブラウンのロングブーツ。最近少しだけ装いがシンプルになった気がするけど、相変わらずかわいらしい。
「この前渡したの、食べてくれました?お口に合ったか心配で」
邪魔者は退散しようと思っていたのだが、間髪入れず始めってしまったので逃げ損ねる。
むしろ聞かせようということか。内心苦笑しながら、私は神崎くんの隣をゆかりちゃんに譲り、一歩前を歩いた。
「ええと、うん。ありがとう。おいしかったよ。あんまりお菓子詳しくないから、何なのかよくわからなかったけど」
「マカロンです。女子には人気あるんですよ。カラフルでかわいいから」
ずいぶん気合の入ったお菓子を作ったものだ。マカロンのピンポン玉大のカラフルな姿を思い浮かべながら思う。
「そうなんだ」
神崎くんが先を行く私の方を気にしているのを感じたが、サークル棟に入るところで私が振り返った。
「まだ鍵開いてないかもしれないから、私管理人さんに鍵もらいに行ってくるね。二人は先に部屋に行ってて」
言って、さっさと歩きだす。神崎くんは、うん、と気のない返事を返しながら、ゆかりちゃんと歩いて行った。
私が鍵を受け取って部屋へ行こうとすると、相ちゃんにばったり出くわした。
「あ、コッコ。鍵取ってきてくれたんだ。サンキュ」
「うん」
二人で連れ立って歩いて行く。
部屋の前で、神崎くんとゆかりちゃんが笑って話していた。
ゆかりちゃんは平均的な身長だが、ロングブーツの底が厚めなのか、いつもより背が高く見える。神崎くんは紺色のトレンチコートにベージュのチノパン、靴は文化祭のときと同じ黒いミドルブーツ。並ぶとカップルモデルみたいだ。
神崎くんがゆかりちゃんと話している姿は、いつを境にだったか、よく見かけるようになっていた。最初はほどほどの距離感で接していた神崎くんも、最近はずいぶん打ち解けているように見える。
ーー誰が見ても、お似合いの二人。
その姿を目に留めたところでふと私は立ち止まり、廊下の窓から外を見た。
「今日は天気よくて、気持ちいいねぇ」
「え?う、うん」
突然の年寄じみた私の言葉に、相ちゃんが戸惑いながら応じる。
「ぼちぼち追いコンもあるし」
「そうだな」
「私たちももう3年だねぇ」
「そうだなぁ」
もう就活のこと考えなきゃいけないのか、嫌だなぁ。と呟きながら、私はまた歩き出した。神崎くんとゆかりちゃんもこちらに気づく。
「コッコ先輩、ありがとうございます」
ゆかりちゃんが笑った。私も微笑を返して鍵を開けた。相ちゃんが盛んに首を傾げながら後に続く。
部屋に入ってみると、机の上に写真の束とメモがあった。
メモには、白井先輩の字で、取り急ぎ、一部現像したのを置いて行きます、と書いてあった。
「あ、白井先輩の写真だ」
文化祭で先輩がカメラマンになっていたのを思い出す。文化祭、練習風景、クリスマスコンサートーーは先輩も出ていたから舞台裏の様子。それぞれ束が分かれている。
「へぇ、こんな上手いんだ。いいなぁ、一眼レフ」
神崎くんが一つの束を手に取って言った。めくっていこうとすると、横から背伸びしたゆかりちゃんが言う。
「私も一緒に見せてくださーい」
「ああ、ごめん」
神崎くんが言って、ゆかりちゃんの身長に合わせて手を下げた。
私はクリスマスコンサートの束を手に取る。
受付の飾り付け、看板。受付係が手順を確認している様子。机を設置した男子がピースサインして写っているもの。
一枚一枚、めくっていく。
ふと、手を留めた。
パンフレットを片手に、話しながら笑っている、早紀と幸弘。
ーーお似合い、だなぁ。
わずかに、私の顔が笑顔の形に歪む。また一枚写真をめくった。
次の写真は、先程の写真の続きのようだった。シャッター音で先輩に気づいたのか、二人がカメラ目線で写っている。
早紀は照れ臭そうな笑顔。幸弘は子供のように無邪気な笑顔でピースしている。
ーーよかったね。
心中で二人に話しかけていると、神崎くんと写真を見ていたゆかりちゃんの声がした。
「あ、これいい感じに写ってません?焼き増しもらえるかなぁ」
神崎くんの手から一枚取って、小走りに私の方へやって来る。
「コッコ先輩、見てください。なんかいい感じに見えませんか?」
にこにこ嬉しそうに持ってきたのは、ファントムに扮装した神崎くんと、黒いワンピースのゆかりちゃんが談笑している写真だ。
「そうだね。よかったね、いい記念になって」
私が言うと、ゆかりちゃんが嬉しそうに頷いた。神崎くんの視線を感じる気がするけど、気にしないことにする。
「ーーあ」
写真に目を戻した神崎くんが急に声を出したので、3人とも神崎くんの方を見た。
「ちょっとーー変に写ったのがあったから、貰っとこ」
神崎くんが慌てたように言って、ポケットに入れていた文庫本に写真を一枚挟む。
「なに、半目だったりした?」
「うん、そんな感じ」
相ちゃんが笑うと神崎くんが苦笑する。
おかしいな。先輩、そういうのはわざわざ現像しない筈だけど。
相ちゃんもそれを知っている筈だ。でも何かあるんだろうと、敢えて何も言わずに、残りの写真を見ていた。
「俺も先輩に教えてもらおうかな、写真」
神崎くんが言うと、相ちゃんが苦笑した。
「まーたそういう、モテスキル身につけちゃったら、大変だぞ」
「モテスキル?」
神崎くんが眉を寄せて首を傾げる。
「でも、大切な人のいい表情、きれいに残せたら、良くない?じーちゃんばーちゃんとか、ゆくゆくは子供とか」
「えらい被写体が飛んだな」
相ちゃんの言葉に笑う。私も手の中の写真にまた目を落としながら言った。
「子供かー。撮るの難しそー」
「コッコ子供欲しいとかあるの?」
「まあできればね。その前に結婚できるかが問題だけど」
相ちゃんの問いに答えると、ゆかりちゃんがへぇ、と言った。
「ちょっと意外。コッコ先輩はバリバリ仕事するのかと思ってました」
「そんなことないよ」
ゆかりちゃんの言葉に苦笑する。まあよく言われることなのだが。
「ゆかりんは専業主婦希望?」
「うーん、子供が小さいときは家にいて、小学生になったらパート、みたいなのがいいです」
なんという模範解答。私は内心で呟く。
相ちゃんとゆかりちゃんが話している横で、神崎くんが写真を目に微笑んだ。
「なんかあった?」
私が問うと、神崎くんは頷いて、私に見せるように写真を差し出した。
「あ、可愛い」
直接は知らないけど、多分、夫婦揃ってサークルの卒業生なのだろう。生後半年ほどの赤ちゃんと、若い夫婦が写っている。一緒に、ゆっきー先輩たちも写っているから、最近の卒業生だろうと思った。
「ふふ。ほっぺたむちむち。つつきたい」
「赤ちゃんはいくらむちむちでも咎められないね」
「そうだね。特権だよね。腕のとこのちぎりパンとか」
私が自分の手首を指し示しながら言うと、神崎くんが笑った。
「もしかして、自分の子供欲しいのって、いろいろいじって遊びたいから?」
「あ、ばれた?こういうのとか、やりたいの」
私は言って自分の両頬を手でぷちゅっと挟む。神崎くんが噴き出した。
「やばい、それ。もう一回して、写メ撮る」
「やだよ。残っちゃうじゃん」
「残したいから撮るんでしょ。時々見て和むから」
「キャンパスの猫でも見て和んでください」
しまった。神崎くんのツボにはまってしまったらしい。そんなにうけると思っていなかった私は、顔を赤らめて慌てた。
横から感じるゆかりちゃんの視線が冷たいように思う。
「ヤッホーみんな元気ぃ?あれ、何、騒いでるのコッコとざっきー?珍しいね」
言いながら入ってきたのはケイケイとイオン。相ちゃんが頷いて言った。
「なんかイチャイチャし始めたから、所在なく思ってたとこ」
「してない!断じてしてない!」
「マジでー?コッコにも春が来たかー。俺の春はいつ来るのかなー」
「コッコ先輩の変顔が面白かったみたいですよ」
ケイケイが肩をすくめるのを見て、ゆかりちゃんが笑って言う。
「春とかわけわかんない!神崎くんもちゃんと言ってよ!」
神崎くんは片手にスマホをちらつかせながら応じた。
「さっきの顔撮らせてくれたら考える」
「何でそんな気に入っちゃったの!」
私が悲鳴のような声をあげると、神崎くんは微笑んだ。
「だって、可愛かったから」
瞬間、部屋がしんと静まり返る。私は自分の顔がこれ以上ないほど真っ赤になったのを感じた。
「え、変顔が面白かったんじゃないんですかー」
ゆかりちゃんが明るく言う横を、トイレ!と言い残し、振り切るように部屋を出た。
可愛い、という言葉に抗体がなさ過ぎる我が身を恨みつつ、私は女子トイレに駆け込み、鏡に映った真っ赤な顔を見る。
「勘弁してよ……」
そのままがっくりうなだれたのだった。
先週のバレンタインデーに、早紀は幸弘に返事をしたらしい。
もちろん、イエスと。
そう聞いたのは、早紀本人からだった。
おめでとう、と私は言った。早紀にも。幸弘にも。
大切にしてね、と。これも、二人に。
「よかったの?」
「何が?」
「気持ち、伝えなくて」
ケーキの刺さったスプーンを口に運びながらのサリーの言葉に、私は苦笑する。
サークルまでまだ時間があるから、お茶でもして行こうと誘われ、大学ーーいつもの共学大学ではなく、私たちの通う女子大近くのカフェにいた。
私は相変わらずホットコーヒー。サリーはホットカフェオレ。
そして目を引かれたチョコレートケーキは、二人で半分こ。これぞ女子の醍醐味。
「全然言わなかったわけじゃないよ」
サリーは深くため息をついた。
「あいつの場合、直球勝負しないと、届かないでしょ。分かってるくせに」
分かってるよ。
分かってて、勝負できなかったの。
私はブラックコーヒーを口に含む。深い香りが鼻腔に満ち、口中には苦みと香ばしさが広がった。コーヒーにはリラックス効果がある、と聞いたことがある。あながち嘘ではないな、と私はぼんやり思った。
ためらいながら、サリーは言った。
「気づいてたんだよ」
ドキリと心臓が高鳴った。
誰が?
何に?
「早紀。まあ、もしかして、くらいの感じだったけど」
ーー香子ちゃんの大切な人なら、私、ちゃんと香子ちゃんと話して決めなきゃって。
香子ちゃんには、いつも笑っていて欲しいから。ーー
早紀。
優しくて、ちょっと鈍くて、時に強い早紀。
互いに、同じようなことを思っていたのかもしれない。
少し目が潤んだ。
「そっか。……なんか、面倒かけたね。サリー」
間に挟まれて、戸惑ったであろう友人に詫びる。
「私のことはどうでもいいけどさ」
サリーは嘆息した。
「あんたは、あいつのこと、神格化し過ぎなんだよ。アイドルじゃあるまいし」
幸弘と私とサリーは、出会ったときも一緒で、過ごした時間的にも同じくらのつき合いだ。
だから、私のことも、幸弘のことも、よく分かっている。特にサリーの人間観察力は鋭い。私の気持ちにもすぐに気づいていたが、見守ってくれていたのだ。
「ちゃんと対等な人間として、ぶつかってみないと、進めないんじゃないの。どんなに優良物件が近くにいても」
対等な人間。優良物件。
私はその言葉を心中で反趨して、首を傾げた。
「そういうもんなのかなー」
よくわかんないや。
ヘラッと笑う私に、サリーが深々と嘆息する。
「みんなが、やたらと神崎くんと推薦してくれるのは分かってるよ」
手元のカップを両手で包み、その温もりを感じながら、私は言う。
サリーがおや、というように目を上げた。
いくら何でも、気づかないのが無理だ。さすがに私もそこまで鈍感じゃない。
「でも、神崎くんの気持ちは、分からない」
だから、気づかない振りをしている方が、楽だった。
私に好意を寄せてくれる男の子は、大体私の強さに興味を持ってくれる。
強さ。正義感。責任感。そういうもので覆われた、かっこいい私に。
でも、私は知っているのだ。
私はかっこいい訳じゃない。
私の弱いところ、怠惰なところを見たら、幻滅するんだろうな。
いつもそう思って、ほどほどにごまかしてきた。
弟扱いしたり、気づかない振りをしたりして。
もし、かっこ悪い私を見ても、その好意は変わらないんだろうかーー
神崎くんは、それを試すには、あまりに魅力的すぎる。
友人としても、男性としても。
もし、それで、彼が離れて行ってしまったら、私は自分を保っていられる気がしなくて。
でも、彼の隣に漂う居心地のいい静かな空気にあって、ずっとかっこいい自分を演じられるような気はしない。
どんなにがんばっても、仮面がはがれていくだろう。
それくらい、不思議と、自然な場所だったから。
「分かろうとする勇気がないだけじゃなくて?」
サリーが言った。いつでも、彼女の目は真理を見据えているんだろう。
「そうかもしれないね」
私は微笑んで頷いた。逃げているだけだと分かっていても、そう答えるしかなかった。
サリーがまた複雑な表情でため息をついた。
「私は、好きだよ。どんな香子も。ざっきーは、ちゃんと見てくれてると思うけど」
私は何も言わずに微笑んだ。
サリーが銀行に寄るというので、私は一足先にいつもの共学大学に行っていることにした。サークル棟へ向けて歩いていたとき、後ろから声が聞こえた。
「鈴木さん!」
追いかけて来たのは神崎くんだった。
片手に小さい紙袋を持っている。
「あらー。もうバレンタイン過ぎてるのに、さすがだねぇ」
「そんなんじゃないよ」
慌てたように紙袋を後ろ手に隠そうとしたが、思い直してやめたようだった。
「弓道部の後輩から。今日、久しぶりに練習行ったから。きっとみんなに渡してたんだろうと思うよ」
私は微笑んで、ふぅん、と言った。それにしてはラッピングが気合入ってるけど。
「鈴木さんは、誰かにあげたの?」
私はきょとんとして神崎くんの顔を見た。
「バレンタイン?」
「……うん」
「あげたよ」
私がさらっと言うと、神崎くんは複雑な表情をした。
「ゼミの子と、先生と、早紀と、サリー」
指折り数えながら、お菓子を渡した相手と、その表情を思い浮かべる。
女子大では手作りお菓子を配っても白い目で見られたりしない。ハントする男がいないからで、その点気が楽なのだ。
「女子って、みんな嬉しそうに貰ってくれるんだよね。作り甲斐ある」
ふふふ、と笑った。
「……もう、残ってないの?」
犬耳があったらしゅんと垂れていそうな表情で、神崎くんが言う。
私は眉を寄せた。
「バレンタインデー、何日も前だよ。残ってたらカビてるよ」
神崎くんが急に気を取り直し、力強く言った。
「俺、食うよ」
神崎くんのテンポは相変わらず唐突で、訳がわからない。
「鈴木さんのくれたものなら。消費期限切れてても、腐ってても、腹壊しても、食う」
その調子が、ずいぶん一所懸命なので、私は吹き出した。
「私がろくでもないプレゼントするような言い方じゃない」
「いや、違、そんなんじゃなくて、そのーー」
「はいはい。じゃあ、何か失敗作ができたらあげるよ」
私の言葉に、神崎くんはまた微妙な顔をして、呟いた。
「いや、失敗作じゃなくても、いいんだけど……」
私は笑った。
「あ、ざっきー先輩」
また後ろから声がかかり、振り向くと1年のゆかりちゃんだった。
「コッコ先輩も、こんにちは」
にこりと笑って小首をかしげる。ポニーテールにした柔らかい髪がふんわりと流れた。ファー付きのピーコートに臙脂色のミニスカート、黒いタイツ、ダークブラウンのロングブーツ。最近少しだけ装いがシンプルになった気がするけど、相変わらずかわいらしい。
「この前渡したの、食べてくれました?お口に合ったか心配で」
邪魔者は退散しようと思っていたのだが、間髪入れず始めってしまったので逃げ損ねる。
むしろ聞かせようということか。内心苦笑しながら、私は神崎くんの隣をゆかりちゃんに譲り、一歩前を歩いた。
「ええと、うん。ありがとう。おいしかったよ。あんまりお菓子詳しくないから、何なのかよくわからなかったけど」
「マカロンです。女子には人気あるんですよ。カラフルでかわいいから」
ずいぶん気合の入ったお菓子を作ったものだ。マカロンのピンポン玉大のカラフルな姿を思い浮かべながら思う。
「そうなんだ」
神崎くんが先を行く私の方を気にしているのを感じたが、サークル棟に入るところで私が振り返った。
「まだ鍵開いてないかもしれないから、私管理人さんに鍵もらいに行ってくるね。二人は先に部屋に行ってて」
言って、さっさと歩きだす。神崎くんは、うん、と気のない返事を返しながら、ゆかりちゃんと歩いて行った。
私が鍵を受け取って部屋へ行こうとすると、相ちゃんにばったり出くわした。
「あ、コッコ。鍵取ってきてくれたんだ。サンキュ」
「うん」
二人で連れ立って歩いて行く。
部屋の前で、神崎くんとゆかりちゃんが笑って話していた。
ゆかりちゃんは平均的な身長だが、ロングブーツの底が厚めなのか、いつもより背が高く見える。神崎くんは紺色のトレンチコートにベージュのチノパン、靴は文化祭のときと同じ黒いミドルブーツ。並ぶとカップルモデルみたいだ。
神崎くんがゆかりちゃんと話している姿は、いつを境にだったか、よく見かけるようになっていた。最初はほどほどの距離感で接していた神崎くんも、最近はずいぶん打ち解けているように見える。
ーー誰が見ても、お似合いの二人。
その姿を目に留めたところでふと私は立ち止まり、廊下の窓から外を見た。
「今日は天気よくて、気持ちいいねぇ」
「え?う、うん」
突然の年寄じみた私の言葉に、相ちゃんが戸惑いながら応じる。
「ぼちぼち追いコンもあるし」
「そうだな」
「私たちももう3年だねぇ」
「そうだなぁ」
もう就活のこと考えなきゃいけないのか、嫌だなぁ。と呟きながら、私はまた歩き出した。神崎くんとゆかりちゃんもこちらに気づく。
「コッコ先輩、ありがとうございます」
ゆかりちゃんが笑った。私も微笑を返して鍵を開けた。相ちゃんが盛んに首を傾げながら後に続く。
部屋に入ってみると、机の上に写真の束とメモがあった。
メモには、白井先輩の字で、取り急ぎ、一部現像したのを置いて行きます、と書いてあった。
「あ、白井先輩の写真だ」
文化祭で先輩がカメラマンになっていたのを思い出す。文化祭、練習風景、クリスマスコンサートーーは先輩も出ていたから舞台裏の様子。それぞれ束が分かれている。
「へぇ、こんな上手いんだ。いいなぁ、一眼レフ」
神崎くんが一つの束を手に取って言った。めくっていこうとすると、横から背伸びしたゆかりちゃんが言う。
「私も一緒に見せてくださーい」
「ああ、ごめん」
神崎くんが言って、ゆかりちゃんの身長に合わせて手を下げた。
私はクリスマスコンサートの束を手に取る。
受付の飾り付け、看板。受付係が手順を確認している様子。机を設置した男子がピースサインして写っているもの。
一枚一枚、めくっていく。
ふと、手を留めた。
パンフレットを片手に、話しながら笑っている、早紀と幸弘。
ーーお似合い、だなぁ。
わずかに、私の顔が笑顔の形に歪む。また一枚写真をめくった。
次の写真は、先程の写真の続きのようだった。シャッター音で先輩に気づいたのか、二人がカメラ目線で写っている。
早紀は照れ臭そうな笑顔。幸弘は子供のように無邪気な笑顔でピースしている。
ーーよかったね。
心中で二人に話しかけていると、神崎くんと写真を見ていたゆかりちゃんの声がした。
「あ、これいい感じに写ってません?焼き増しもらえるかなぁ」
神崎くんの手から一枚取って、小走りに私の方へやって来る。
「コッコ先輩、見てください。なんかいい感じに見えませんか?」
にこにこ嬉しそうに持ってきたのは、ファントムに扮装した神崎くんと、黒いワンピースのゆかりちゃんが談笑している写真だ。
「そうだね。よかったね、いい記念になって」
私が言うと、ゆかりちゃんが嬉しそうに頷いた。神崎くんの視線を感じる気がするけど、気にしないことにする。
「ーーあ」
写真に目を戻した神崎くんが急に声を出したので、3人とも神崎くんの方を見た。
「ちょっとーー変に写ったのがあったから、貰っとこ」
神崎くんが慌てたように言って、ポケットに入れていた文庫本に写真を一枚挟む。
「なに、半目だったりした?」
「うん、そんな感じ」
相ちゃんが笑うと神崎くんが苦笑する。
おかしいな。先輩、そういうのはわざわざ現像しない筈だけど。
相ちゃんもそれを知っている筈だ。でも何かあるんだろうと、敢えて何も言わずに、残りの写真を見ていた。
「俺も先輩に教えてもらおうかな、写真」
神崎くんが言うと、相ちゃんが苦笑した。
「まーたそういう、モテスキル身につけちゃったら、大変だぞ」
「モテスキル?」
神崎くんが眉を寄せて首を傾げる。
「でも、大切な人のいい表情、きれいに残せたら、良くない?じーちゃんばーちゃんとか、ゆくゆくは子供とか」
「えらい被写体が飛んだな」
相ちゃんの言葉に笑う。私も手の中の写真にまた目を落としながら言った。
「子供かー。撮るの難しそー」
「コッコ子供欲しいとかあるの?」
「まあできればね。その前に結婚できるかが問題だけど」
相ちゃんの問いに答えると、ゆかりちゃんがへぇ、と言った。
「ちょっと意外。コッコ先輩はバリバリ仕事するのかと思ってました」
「そんなことないよ」
ゆかりちゃんの言葉に苦笑する。まあよく言われることなのだが。
「ゆかりんは専業主婦希望?」
「うーん、子供が小さいときは家にいて、小学生になったらパート、みたいなのがいいです」
なんという模範解答。私は内心で呟く。
相ちゃんとゆかりちゃんが話している横で、神崎くんが写真を目に微笑んだ。
「なんかあった?」
私が問うと、神崎くんは頷いて、私に見せるように写真を差し出した。
「あ、可愛い」
直接は知らないけど、多分、夫婦揃ってサークルの卒業生なのだろう。生後半年ほどの赤ちゃんと、若い夫婦が写っている。一緒に、ゆっきー先輩たちも写っているから、最近の卒業生だろうと思った。
「ふふ。ほっぺたむちむち。つつきたい」
「赤ちゃんはいくらむちむちでも咎められないね」
「そうだね。特権だよね。腕のとこのちぎりパンとか」
私が自分の手首を指し示しながら言うと、神崎くんが笑った。
「もしかして、自分の子供欲しいのって、いろいろいじって遊びたいから?」
「あ、ばれた?こういうのとか、やりたいの」
私は言って自分の両頬を手でぷちゅっと挟む。神崎くんが噴き出した。
「やばい、それ。もう一回して、写メ撮る」
「やだよ。残っちゃうじゃん」
「残したいから撮るんでしょ。時々見て和むから」
「キャンパスの猫でも見て和んでください」
しまった。神崎くんのツボにはまってしまったらしい。そんなにうけると思っていなかった私は、顔を赤らめて慌てた。
横から感じるゆかりちゃんの視線が冷たいように思う。
「ヤッホーみんな元気ぃ?あれ、何、騒いでるのコッコとざっきー?珍しいね」
言いながら入ってきたのはケイケイとイオン。相ちゃんが頷いて言った。
「なんかイチャイチャし始めたから、所在なく思ってたとこ」
「してない!断じてしてない!」
「マジでー?コッコにも春が来たかー。俺の春はいつ来るのかなー」
「コッコ先輩の変顔が面白かったみたいですよ」
ケイケイが肩をすくめるのを見て、ゆかりちゃんが笑って言う。
「春とかわけわかんない!神崎くんもちゃんと言ってよ!」
神崎くんは片手にスマホをちらつかせながら応じた。
「さっきの顔撮らせてくれたら考える」
「何でそんな気に入っちゃったの!」
私が悲鳴のような声をあげると、神崎くんは微笑んだ。
「だって、可愛かったから」
瞬間、部屋がしんと静まり返る。私は自分の顔がこれ以上ないほど真っ赤になったのを感じた。
「え、変顔が面白かったんじゃないんですかー」
ゆかりちゃんが明るく言う横を、トイレ!と言い残し、振り切るように部屋を出た。
可愛い、という言葉に抗体がなさ過ぎる我が身を恨みつつ、私は女子トイレに駆け込み、鏡に映った真っ赤な顔を見る。
「勘弁してよ……」
そのままがっくりうなだれたのだった。
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