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後日談4 アネゴ気質の鍛え方(梢視点)
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三月頭の日曜日、勝くんは仕事だったけど、少し早めに切り上げて、私との時間を作ってくれた。
「ちょっといいところで食事するから、セミフォーマルでね」
なんて言われて服に迷って、結婚式の二次会によく着る薄紫色のワンピースを着たけど、なんだか気恥ずかしくてロングコートで隠してきた。
待ち合わせは勝くんの勤める百貨店。コスメカウンターを遠目に見ながら、同じフロアの婦人雑貨コーナーをぶらつく。並んでいるのは女性ものばかりなのに、意外と男性のお客さんが多いことに気づいた。
「梢ちゃん。お待たせ」
「あ、勝くん。お疲れさま」
胸につけていた店員バッヂを外し、ロングコートを手にした勝くんが、私を見つけて爽やかに微笑む。関係が恋人、になってからもその微笑みに感じるときめきは変わらず、私を癒してくれる。
こんな素敵な人といられるなんて、私はほんとに幸せ者だなぁ。
だからこそ、彼がほっとできる時間を作ってあげたい。
「ごめんね。ほんとは午後丸っと休めればよかったんだけど、日曜の午後イチはだいたいお得意様がいらっしゃるから」
「ううん。もう大丈夫なの?」
「うん、あとは配送の手配とかだけだから、サービスカウンター任せ」
「へぇ。そういう感じなんだ」
「人によるけどね。俺が婚約したてだって知ってるから、茶化しつつも応援してくれてる」
勝くんは言いながら、さりげなく私の背中に触れて、ぶつかりそうになった人から避けてくれた。勝くんと話していると視線が上に向くから、ついつい周囲への注意が散漫になる。
「お客さん多いね。日曜だから?」
「それもあるし、ほら」
勝くんは店内に立てられたポップを指さした。そこには『ホワイトデー』と書いてある。
「あ、そっか。そういえば、そうだったね」
通りで、婦人雑貨フロアに男性客が多いわけだ。真剣に婦人財布を見つめる男性の横顔を見つつ納得する。
「あはは。忘れてたの?」
「えっと、うん」
思わず、先月のバレンタインデーのことを思い出す。そういうのとしばらく無縁だった私は、とりあえず有名店のチョコレートと、悩みに悩んで、ネクタイをプレゼントしたのだった。
「あ、そのネクタイ……使ってくれてるんだ」
「うん。お客様が似合うって言ってくださったから、自慢しといた」
「そ、そっか。よかった」
にこにこ言われて、照れ臭さにうつむく。その視線の先に彼の大きな手があって、握りたいなぁと思ったけど、ここは彼の職場なのだ。変にべたべたするのもためらわれる。
そう思って気を逸らそうとしたのに、勝くんは何のためらいもなく私の手を取った。
「梢ちゃん、最近口紅とか買った?」
「え、え?」
「口紅一本で、女性ってすごい印象が変わるでしょ。梢ちゃんに似合う色見つけてくれそうなBAさんがいるから、行ってみようよ」
「えっ、え、でも今日、すごい混んでるし……」
「大丈夫、これまだ空いてる方。それとも、嫌かな?」
覗き込まれて、言葉に詰まる。嫌ではないけど、心構えをしてなかったから戸惑った。
「その子、後輩の奥さんでもあるんだ。梢ちゃんを紹介したかったから、挨拶だけでもいいよ。もし嫌ならそう言って」
「あ、い、嫌じゃ……ない」
「ほんと? なら、行ってみよう」
勝くんはぐいぐい私を引っ張っていく。途中で百貨店の社員さんが勝くんに気づいて会釈したり挨拶してきて、勝くんがさわやかな笑顔のまま軽く挨拶を返す横で、私はうろたえながらそれにぺこぺこ応えた。
「ちょっといいところで食事するから、セミフォーマルでね」
なんて言われて服に迷って、結婚式の二次会によく着る薄紫色のワンピースを着たけど、なんだか気恥ずかしくてロングコートで隠してきた。
待ち合わせは勝くんの勤める百貨店。コスメカウンターを遠目に見ながら、同じフロアの婦人雑貨コーナーをぶらつく。並んでいるのは女性ものばかりなのに、意外と男性のお客さんが多いことに気づいた。
「梢ちゃん。お待たせ」
「あ、勝くん。お疲れさま」
胸につけていた店員バッヂを外し、ロングコートを手にした勝くんが、私を見つけて爽やかに微笑む。関係が恋人、になってからもその微笑みに感じるときめきは変わらず、私を癒してくれる。
こんな素敵な人といられるなんて、私はほんとに幸せ者だなぁ。
だからこそ、彼がほっとできる時間を作ってあげたい。
「ごめんね。ほんとは午後丸っと休めればよかったんだけど、日曜の午後イチはだいたいお得意様がいらっしゃるから」
「ううん。もう大丈夫なの?」
「うん、あとは配送の手配とかだけだから、サービスカウンター任せ」
「へぇ。そういう感じなんだ」
「人によるけどね。俺が婚約したてだって知ってるから、茶化しつつも応援してくれてる」
勝くんは言いながら、さりげなく私の背中に触れて、ぶつかりそうになった人から避けてくれた。勝くんと話していると視線が上に向くから、ついつい周囲への注意が散漫になる。
「お客さん多いね。日曜だから?」
「それもあるし、ほら」
勝くんは店内に立てられたポップを指さした。そこには『ホワイトデー』と書いてある。
「あ、そっか。そういえば、そうだったね」
通りで、婦人雑貨フロアに男性客が多いわけだ。真剣に婦人財布を見つめる男性の横顔を見つつ納得する。
「あはは。忘れてたの?」
「えっと、うん」
思わず、先月のバレンタインデーのことを思い出す。そういうのとしばらく無縁だった私は、とりあえず有名店のチョコレートと、悩みに悩んで、ネクタイをプレゼントしたのだった。
「あ、そのネクタイ……使ってくれてるんだ」
「うん。お客様が似合うって言ってくださったから、自慢しといた」
「そ、そっか。よかった」
にこにこ言われて、照れ臭さにうつむく。その視線の先に彼の大きな手があって、握りたいなぁと思ったけど、ここは彼の職場なのだ。変にべたべたするのもためらわれる。
そう思って気を逸らそうとしたのに、勝くんは何のためらいもなく私の手を取った。
「梢ちゃん、最近口紅とか買った?」
「え、え?」
「口紅一本で、女性ってすごい印象が変わるでしょ。梢ちゃんに似合う色見つけてくれそうなBAさんがいるから、行ってみようよ」
「えっ、え、でも今日、すごい混んでるし……」
「大丈夫、これまだ空いてる方。それとも、嫌かな?」
覗き込まれて、言葉に詰まる。嫌ではないけど、心構えをしてなかったから戸惑った。
「その子、後輩の奥さんでもあるんだ。梢ちゃんを紹介したかったから、挨拶だけでもいいよ。もし嫌ならそう言って」
「あ、い、嫌じゃ……ない」
「ほんと? なら、行ってみよう」
勝くんはぐいぐい私を引っ張っていく。途中で百貨店の社員さんが勝くんに気づいて会釈したり挨拶してきて、勝くんがさわやかな笑顔のまま軽く挨拶を返す横で、私はうろたえながらそれにぺこぺこ応えた。
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