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後日談2 ずっと近くにいたいから(梢視点)

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「……大丈夫?」
「だい……じょうぶ」

 特有の浮遊感から戻ってきたら、バスタオルにくるまれたままベッドの上に横たわっていた。ズボンを履いた勝くんはまだ上半身裸のままで、髪からしずくが滴っている。

「お水、少し飲んで……だから言ったのに。のぼせないようにねって」
「……ごめん」

 水を受け取ろうと身体を起こすと、胸元を隠していたバスタオルがずるりと落ちそうになった。私が動くより先に、勝くんがタオルケットを引き寄せて上からかけてくれる。

 ……こういう、スマートな振る舞いが、ときどき私を不安にする。

「……梢ちゃん?」

 黙って水を口に含み、少しずつ、飲み込む。そうしていないと、言葉がほろりと零れてしまいそうな気がした。
 年上とも思えない、みっともない本音。
 勝くんの前にプライドなんて、ない。けど、確かに私と勝くんの間には6年の差があって、6年って言ったら、見ていたテレビだって思春期に聞いていた曲だって一回り違うはずなのだ。
 それなのに、勝くんは、魅力的すぎる。あまりに、落ち着いていて、優しくて、立ち振る舞いが洗練されていて、それなのに厭味がなくて――
 年相応、いやそれ以上の魅力を、勝くんは持っている。たとえ、四十歳になっても、五十歳になっても、彼は魅力的な男の人なんだろう。一回りも二回りも年下の女の子が惹かれてもおかしくないくらいに。
 女の直感が、そう私に言っている。そして私の自信と安心を奪っていく。
 みっちーに言ったら、買い被りすぎだと笑うだろう。惚れた欲目だと言うだろう。
 そうだったら、いいのに。

「……梢ちゃん、どうかし……」
「勝くん、お風呂、入ってきて。まだ途中だったでしょ」

 顔を見上げる余裕もなく、言葉を遮って言う。

「風邪、引いたら困るから。しっかりあったまってきて。私も落ち着いたら、自分でパジャマ着るから」

 勝くんは困惑した様子で黙った後、「分かった」と寝室を出て行った。
 彼がつけてくれた暖房が、ぬくもりを与える代わりに私の身体から水分を奪っていく。

「……はぁ」

 私はもう一口、水を飲み込んで、ベッドから足を下した。
 私を茶化した会社のオジサンたちの半笑いが瞼の裏に浮かぶ。

 ――男はいくらでもやり直しきくけど、女は辛いよね。
 ――しっかり捕まえときなよー。三十っつったらまだまだ遊びたい歳だし。

 勝くんがただ若いだけだったら、私もここまで必死にならなかったと思う。
 でも、勝くんは自分をよく知ってる人だ。長所も、短所もよく分かった上で、自分の魅せ方を知っている。
 彼がそのつもりになれば、どんな人だって――

「……はぁ」
「パジャマ、まだ着てないの?」

 ショーツを身につけ、のろのろと上衣のボタンを留めていたら、後ろから抱きすくめられて、驚きに身体がすくんだ。パジャマ越しに感じる温もりと力強さに、気持ちが溢れそうになって息を止める。
 勝くんがどこか誇らしげに笑う。

「風呂、ソッコーで済ませてきた。はやく着ないと、風邪ひくよ」

 勝くんは私の耳元で囁く。唇が触れそうな距離で感じる彼の吐息に、顔がまた熱を持つ。

「……それとも」

 するり、と勝くんの左手が動く。私のむきだしのままの腿を這い、腰まで撫でさする。

「……このまま、してもいいの?」

 私は何も言えないまま、空気とわずかな唾液を飲み込む。

「……誘ってくれてるつもりなのかなー、と思ってたんだけど、違った?」

 勝くんの右手がパジャマ越しに胸に触れ、かっと身体が熱くなる。
 面倒だからとブラジャーを着けずにパジャマを着てしまったことを後悔しかけ――
 諦めた。
 くるり、と後ろを向いて、勝くんの唇を唇で塞ぐ。
 一瞬驚いた様子だった勝くんも、すぐにいつもの余裕を取り戻した。
 舌が絡まり、吐息が重なる。私は勝くんの首後ろに腕を回し、ひたすらその唇を味わう。
 私の息が上がってくると同時に、勝くんも息が乱れてくる。それが嬉しくて、ますます首に抱き着く。勝くんが私の腰を、ショーツ越しにまさぐる。ときどき、故意かどうか布地が指にひっかかる。いつ脱がされるのか、期待するだけで身体が疼く。

「んっ、ぅん」

 勝くんにひときわ強く舌を吸われ、余裕をなくして喉を上げた。空気を求めて息を吸う私の首元に、勝くんが噛みつくようなキスをする。

「――ほんっと、クソ可愛い」

 凶暴なのは言葉だけじゃない。荒い息の合間に垣間見える目の奥が燃えているのが見えて、また身体が疼く。求められている。勝くんは、確かに私を、求めている。
 嬉しくて切なくて、すがるようにまた首を引き寄せた。

「っ――勝くん」

 勝くんの耳元で、子どものような声をあげる。

「なにも、考えられなく、させて」

 勝くんが鳴らした喉の音が、言葉代わりの答えだった。
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