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後日談1 天然系彼女が愛し過ぎる件(勝弘視点)

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 翌朝、目を覚ますと、柔らかい温もりが隣にうずくまっていた。俺は梢ちゃんの髪をそっと撫でて、目尻に唇を落とす。
 彼女が気にしている「年齢」ということで言えば、確かに目尻には小さなしわがあった。でも、いつも笑顔の梢ちゃんらしくて、俺にとってはチャームポイントにしか見えない。
 ふと微笑んで、すやすや眠る彼女の頬を撫で、また唇を落とす。
 そろりとベッドを抜けると、身支度を整えて朝食を準備した。彼女の家に泊まると分かっていたから、会社で買ったパンを並べ、食べはじめる。
 その間に梢ちゃんが起きてくることを期待したけど、疲れていたのかなかなか起きて来ない。知らせず出勤してしまうと悲しむと知っているので、一人で朝食を済ませた後で部屋へ向かった。

「梢ちゃん、俺行くよ」

 肩に手を当てて声をかけると、梢ちゃんの閉じたまぶたがぴくりと動く。「んん……」なんて口の中で発する声も可愛いのは、もう惚れた弱みだろう。
 俺はその無邪気な寝顔に微笑み、頬にキスをした。
 梢ちゃんの目が、うっすらと開く。

「……勝くん……」

 梢ちゃんはぼんやり俺を見て、「いってらっしゃい」と寝ぼけた口調で言うと、「あ」と思い出したように俺の袖を引いた。

「勝くん、今日は……うち、来れる?」

 どきりと、心臓が高鳴る。そりゃ、来れますけど。来ていいんなら、いつでも来ますけど。
 心中では拳を握って答えながら、表面上は優しい笑顔で頷く。

「来てもいいの?」
「うん……」

 梢ちゃんは頷いて、気恥ずかしそうにうつむいた。

「……ご飯、準備して待ってるね」

 照れ臭そうな微笑みに、俺の胸中にじわじわと、叫び出したいほどの幸福感が広がる。
 ああ、はやく俺のものにしたい。いつでも、この人のところに帰って来たい。乱暴に抱きすくめたい衝動を堪え、その代わり、彼女の額に優しくキスをした。

「ありがとう。楽しみにしてる」

 梢ちゃんがまた、頬を桃色に染めて俺を見上げた。
 その目にハートが飛んでいる(気がする)。
 紳士的な男を演じるたび、梢ちゃんは惚れ惚れと俺を見つめてくれる。その顔見たさについつい発揮する俺の演技力もなかなかのもんだ。
 心中で自画自賛しつつ、「じゃ、行ってくるよ」と微笑んで部屋を出た。

 ***

 梢ちゃんの家から俺の職場までは、徒歩で約15分。外商のオフィスは百貨店にはなく、場所を借りて内勤担当と共に別のビルに入っている。
 エレベーターを待っていると、後ろからトンと叩かれた。

「エンドゥー、おっはよ」

 お元気娘の晴々とした笑顔に、「おはよ」と軽く笑みを帰す。彼女が同期の那岐山優麻。“王子“と名高い広瀬を落とした女だ。

「なーん、ご機嫌じゃん。彼女のとこから来たの?」
「まーな」
「マジかー。ピンク色のオーラ出てるよ、あのエンドゥーが。ウケる」
「勝手にウケんな」

 ナギはからからと笑って、俺の肩をぱしぱしと叩いた。その手のスキンシップを平気するたちなので、広瀬だけじゃなく一部男子が翻弄されていたのだが、当人は気づいていないだろう。
 呆れ顔であしらう俺に、ナギはふと顔を寄せて声をひそめた。

「で、いつ会わせてくれんの。エンドゥーの“最愛の人“」
「さっ、最愛って……」

 あまりにこっぱずかしい言葉に、俺の声が裏返る。が、言われれば確かにそうで、最愛の人と言えば梢ちゃん以外に浮かびようもないのだ。
 そう気づくや、咳ばらいをして気を改める。エレベーターのドアが開いた。他の数人と共に乗り込む。

「……結婚式では会えるよ」
「えー! 私とエンドゥーの仲じゃーん! もっと早く会わせてよー!」
「知るか。ただの同期だろ。エレベーターの中で騒ぐな」

 言い放つと、ナギはふて腐れたように唇を尖らせた。

「いいじゃんよー。会わせてよー。徒歩圏内なんでしょ? 昼休みにでも呼んでよー。会いたいよー」
「会って何話すつもりだよ」
「え? そーだなぁ……エンドゥーのどこが好きですかとか……」

 それはちょっと俺も聞いてみたい。
 ふむとあいづちを打ったら、ナギが俺の顔を見てにやりとした。

「後々恨まれる別れ方するような男ではないから安心してくださいね、とか……」
「会わせねぇ。ぜっってぇ、会わせねぇ」

 散々遊んでいた過去を知る女の意味ありげな発言に、顔を引き攣らせながら答えると、ナギは笑い声をあげた。エレベーターが外商のフロアについて、軽く手を挙げ、下りる。
 「お幸せに」と笑って手を振るナギの姿に、エレベーターのドアが幕を下ろした。
 俺はやれやれと嘆息する。

 が、ふと思った。

(昼休み……昼休みか……)

 梢ちゃんの仕事がある平日ならともかく、休みの日なら……近くに来てもらっておいて、昼休みに近くをうろつくこともできるかもしれない。
 正直、せっかく想いが実ったのに、日が落ちてからしか会えないのは寂しいものがあったのだ。
 ちょっとばたつきはするが、日中に会える可能性が脳裏にちらついて、わずかに気持ちが浮き立った。
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