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おまけ
子どもの名前
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はい、と渡された白黒の写真を見せられて、なんやこれ、とまばたきした。
そうと察した礼奈が笑って、「赤ちゃん、できたって」て言うたときも、一瞬意味が理解できず、えっ? あっ……? てのが最初の言葉で。
せやかて、礼奈はピル飲んでるて言うてたし、妊娠せえへんのやなかった?
戸惑いながらそう聞いたら、引っ越しが落ち着いた頃に飲むのをやめたのだと言う。
「そ、そうやったんか……すまん、そうと知らんで俺……」
「私が言わなかったんだもん、謝るのはこっちだよ」
ごめんね、と礼奈が眉尻を下げる。
ひとしきり互いに言い合ってから、顔を見合わせて笑った。
何が写っとるのかも分からん白黒写真を、改めて手に取る。
礼奈は「これが心臓で、これが頭で……」て説明してくれた。嬉しそうな横顔に俺も嬉しくなったけど、説明されても正直よう分からへん。礼奈は「分かんないよね」と笑った。
どれが頭でどれが手で、どれが足なのかも分からへん、ただの荒い白黒をしばらく見つめているうち、
「そうか……俺たちの子どもか……」
実感と共に、じわじわ喜びが込み上げる。
ばあちゃんの家に住み始めるとき、そんなことも考えはした。けどそれは妄想みたいなもんで、こんなに早く現実になるとは思うてへんかった。
「そうか……子どもか……男かな、女かな……」
「やだなぁ、気が早いよ。まだ性別分からないって」
「え、そうなん? いつ分かるんやろ」
浮き立つ気持ちをそのままに立ち上がると、礼奈の前にしゃがみ込んだ。
「ここにおんねんな?」
「ふふ、うん」
「……触ってええ?」
そんなん、今まで許可なんて取らんで触ってたのに、こうなるとただの礼奈の身体っちゅうより、神聖なもんに思える。
礼奈がくすくす笑いながらうなずいたのを見て、そっと手を伸ばした。服の上から触ったそこは、まだ何の変化もなさそうや。
「……ほんまにここにおんねんな?」
「ふふ。うん。信じられないよね」
はにかむ礼奈の顔に、たまらなくなって抱き締める。
礼奈のことも、子どものことも、俺が守る……守りたい。
そんな幸せな気持ちにひたった、数ヶ月後のことやった。
***
「なあ、礼奈」
「んー? なぁに」
大きくなってきたお腹を抱えて、礼奈が振り返る。見た目はもうだいぶ妊婦らしいねんけど、本人は割と普通に動くもんやから職場でも周囲がヒヤヒヤしとるらしい。
「性別、まだわからへんの?」
「だって、隠しちゃってたんだもん」
礼奈は縮こまるジェスチャーつきで笑う。
昨日、産婦人科に検診に行ったばかりや。
「知られたくないんじゃない? どっちでもいいように、準備しとけばいいよ」
「そう言うたって、名前とか……」
「名前ねぇ」
礼奈はそう繰り返して、いたずらっぽい目を俺に向ける。
「ちなみに、なんかいい案があるの?」
「案? 案な……」
案、ていうほどでもないけど、まあ、そうやな……。
「男やったら……政之、とかどうや?」
なんとなく怪訝そうな礼奈の目が俺に向く。
「だ、だめか? せやったら、政樹……晴政……」
言えば言うほど、礼奈の表情が冷たくなる。え、あかんの? なんで?
「ええ名前やろ!」
「いい名前だけど……」
はぁぁ、と礼奈が、しみじみとため息をついた。
「栄太兄。……そんなに、お父さんの一字使いたいの?」
「うぐっ……」
ば、バレたか……漢字は言うてへんのに、て思うたら、礼奈は心底呆れたように「バレバレだよ」と半眼を向けた。
「そうだなぁ。じゃあ、女の子だったらー」
礼奈がにやりと笑うのを見て身構える。
女やったら……なんや?
「和香奈ちゃん、なんてかわいくない? 私の名前も一文字取ってーー」
「それだけは勘弁してくださいっっっ‼︎‼︎」
迷わず平身低頭した俺に、礼奈はドン引いたらしい。うわっ、と驚いた声を出すと「そこまで嫌?」と苦笑した。
嫌か嫌やないかて、嫌やないわけあるか! あの魔王の名前と被り過ぎやろが‼︎
「あはははは、わかった、わかったよ。じゃあ、一緒に考えよ」
「ああ……」
「お父さんの名前も、和歌子さんの名前も、封印ね」
「……わかった」
不承不承うなずいた俺に、礼奈はまたからからと笑う。
おかしいなぁ。礼奈も政人のことは好きやって言うてたはずやのになぁ。
首を傾げる俺の肩を、「それとこれとは話が別」と笑いながら礼奈が叩いた。
===
読者さんからいただいた小ネタを膨らませました。
ご提供ありがとうございました!!
そうと察した礼奈が笑って、「赤ちゃん、できたって」て言うたときも、一瞬意味が理解できず、えっ? あっ……? てのが最初の言葉で。
せやかて、礼奈はピル飲んでるて言うてたし、妊娠せえへんのやなかった?
戸惑いながらそう聞いたら、引っ越しが落ち着いた頃に飲むのをやめたのだと言う。
「そ、そうやったんか……すまん、そうと知らんで俺……」
「私が言わなかったんだもん、謝るのはこっちだよ」
ごめんね、と礼奈が眉尻を下げる。
ひとしきり互いに言い合ってから、顔を見合わせて笑った。
何が写っとるのかも分からん白黒写真を、改めて手に取る。
礼奈は「これが心臓で、これが頭で……」て説明してくれた。嬉しそうな横顔に俺も嬉しくなったけど、説明されても正直よう分からへん。礼奈は「分かんないよね」と笑った。
どれが頭でどれが手で、どれが足なのかも分からへん、ただの荒い白黒をしばらく見つめているうち、
「そうか……俺たちの子どもか……」
実感と共に、じわじわ喜びが込み上げる。
ばあちゃんの家に住み始めるとき、そんなことも考えはした。けどそれは妄想みたいなもんで、こんなに早く現実になるとは思うてへんかった。
「そうか……子どもか……男かな、女かな……」
「やだなぁ、気が早いよ。まだ性別分からないって」
「え、そうなん? いつ分かるんやろ」
浮き立つ気持ちをそのままに立ち上がると、礼奈の前にしゃがみ込んだ。
「ここにおんねんな?」
「ふふ、うん」
「……触ってええ?」
そんなん、今まで許可なんて取らんで触ってたのに、こうなるとただの礼奈の身体っちゅうより、神聖なもんに思える。
礼奈がくすくす笑いながらうなずいたのを見て、そっと手を伸ばした。服の上から触ったそこは、まだ何の変化もなさそうや。
「……ほんまにここにおんねんな?」
「ふふ。うん。信じられないよね」
はにかむ礼奈の顔に、たまらなくなって抱き締める。
礼奈のことも、子どものことも、俺が守る……守りたい。
そんな幸せな気持ちにひたった、数ヶ月後のことやった。
***
「なあ、礼奈」
「んー? なぁに」
大きくなってきたお腹を抱えて、礼奈が振り返る。見た目はもうだいぶ妊婦らしいねんけど、本人は割と普通に動くもんやから職場でも周囲がヒヤヒヤしとるらしい。
「性別、まだわからへんの?」
「だって、隠しちゃってたんだもん」
礼奈は縮こまるジェスチャーつきで笑う。
昨日、産婦人科に検診に行ったばかりや。
「知られたくないんじゃない? どっちでもいいように、準備しとけばいいよ」
「そう言うたって、名前とか……」
「名前ねぇ」
礼奈はそう繰り返して、いたずらっぽい目を俺に向ける。
「ちなみに、なんかいい案があるの?」
「案? 案な……」
案、ていうほどでもないけど、まあ、そうやな……。
「男やったら……政之、とかどうや?」
なんとなく怪訝そうな礼奈の目が俺に向く。
「だ、だめか? せやったら、政樹……晴政……」
言えば言うほど、礼奈の表情が冷たくなる。え、あかんの? なんで?
「ええ名前やろ!」
「いい名前だけど……」
はぁぁ、と礼奈が、しみじみとため息をついた。
「栄太兄。……そんなに、お父さんの一字使いたいの?」
「うぐっ……」
ば、バレたか……漢字は言うてへんのに、て思うたら、礼奈は心底呆れたように「バレバレだよ」と半眼を向けた。
「そうだなぁ。じゃあ、女の子だったらー」
礼奈がにやりと笑うのを見て身構える。
女やったら……なんや?
「和香奈ちゃん、なんてかわいくない? 私の名前も一文字取ってーー」
「それだけは勘弁してくださいっっっ‼︎‼︎」
迷わず平身低頭した俺に、礼奈はドン引いたらしい。うわっ、と驚いた声を出すと「そこまで嫌?」と苦笑した。
嫌か嫌やないかて、嫌やないわけあるか! あの魔王の名前と被り過ぎやろが‼︎
「あはははは、わかった、わかったよ。じゃあ、一緒に考えよ」
「ああ……」
「お父さんの名前も、和歌子さんの名前も、封印ね」
「……わかった」
不承不承うなずいた俺に、礼奈はまたからからと笑う。
おかしいなぁ。礼奈も政人のことは好きやって言うてたはずやのになぁ。
首を傾げる俺の肩を、「それとこれとは話が別」と笑いながら礼奈が叩いた。
===
読者さんからいただいた小ネタを膨らませました。
ご提供ありがとうございました!!
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あお様
コメントありがとうございます!
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長らくお付き合いくださり、ありがとうございました!
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松丹子様
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きぃち様
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