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.7 年の差カップル
37 想いの奔流
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誰かを愛することは喜び――のはずやのに、膨らんでいく自分の想いを、初めて、怖い、と思った。
自覚すればするほど、コントロールが利かなくなる。叶うものなら礼奈を俺の腕の中に留めて、他の男に見せないようにしたい。礼奈を包むすべてが俺であればいい。礼奈が俺しか見ず、俺にだけ微笑んでくれればいい。
そんなことはあり得ない。そう分かっとるはずやのに、礼奈への想いはときに狂暴に胸を揺さぶる。
礼奈の笑顔を見たとき。嬉しそうに俺の名を呼ぶとき。ヤキモチをやいてすねるとき――礼奈のすべてが、俺の理性を麻痺させる。
これほど強い感情を、今まで持ったことがなかった。どうしても譲れないもの、というのを、持ったことがなかった。幼稚園やなんかのオモチャも、友達が地団駄を踏んでよこせと言えば、仕方ないなと渡してやった。誰かの気分を害してまで、手に入れたいと思ったものは今までなかった。
それなのに。
礼奈が笑う。照れる。怒る。涙する。
「好きだよ」
そう言って俺を見上げる。俺にも同じ言葉を求める。
そのたびに、胸が息苦しいほど揺さぶられる。
もう、手放すことなんてできへん。
礼奈は。
本当に。
一生、俺のそばにいてくれるつもりなんやろうか。
百かゼロか、しかないことに、ここまできてようやく気づいた。
俺の隣に、礼奈がいる将来。それ以外の未来はすべて、暗闇にしか繋がらない。
礼奈がいなければ俺は――闇の中を、生きていくしかない。
***
十一月に会ったとき、礼奈はなんや様子が変やった。紅葉狩りと称した、祖父母との散歩は柔らかな時間で、同時になんとなく切なくて、礼奈の気持ちをかき立てたのかもしれん。
祖父母が昼寝に寝室に行った後、二人で話すのもそこそこに泣き出して、俺にしがみついてきた。
「栄太兄……」
泣きじゃくる礼奈を浮け止め、困惑しながら、俺はうっすらと感じていた。
もしかしたら、礼奈も……俺と同じなのかもしれへんな、て。
空気みたいなもんや。水みたいなもんや。俺にとっての礼奈は、礼奈にとっての俺は、自分の中の一部分で、消えてなくなることはない。なくなるなんて、考えられない。
必死で相手にすがりついてるのは、俺だけやなくて……
「栄太兄」
泣きながら、礼奈が呼ぶ。
「ずっと一緒にいて。一生、一緒にいて」
溢れ出る本音が、その声ににじんでいる。
……ああ、やっぱりや。
喜びとか、安堵とか、そんなもんやなかった。――納得。たぶん、それが一番近い。
他からどう見えるかは分からへん。けど、俺と礼奈はたぶん不可分で、ついこないだまで別々の道を選ぼうとしてたことの方が不自然で、なにも考えなくてもたぶん、結局はここに落ち着いたんや。
そうやろ、礼奈。
「ああ。もちろんや」
悩むことなんて何もない、即答やった。
呼吸するのと同じくらいの自然さで、俺は礼奈の隣を選ぶ。
礼奈は俺の傍にいてくれる。
運命、なんて言葉は好きじゃないけど――
いつだか母さんが言うてた言葉を思い出した。
ほんま、そうやな。母さん。
今なら、その言葉がよく分かる。
どうあがいても引き寄せられる、引力みたいなものが、そこにある。
なぁ、父さん。母さん。ええやろ。
やっぱり、この子や。
この子が、俺の一生そのものや。
そう言うても……ええやろ。
――年末、奈良に帰るとき、一緒に行かへんか。
礼奈に問うと、やっぱり迷いのないうなずきが返ってきた。
好きや。愛してる。そんな言葉なんかどうでもいい。
礼奈。――お前は、俺、そのものや。
自覚すればするほど、コントロールが利かなくなる。叶うものなら礼奈を俺の腕の中に留めて、他の男に見せないようにしたい。礼奈を包むすべてが俺であればいい。礼奈が俺しか見ず、俺にだけ微笑んでくれればいい。
そんなことはあり得ない。そう分かっとるはずやのに、礼奈への想いはときに狂暴に胸を揺さぶる。
礼奈の笑顔を見たとき。嬉しそうに俺の名を呼ぶとき。ヤキモチをやいてすねるとき――礼奈のすべてが、俺の理性を麻痺させる。
これほど強い感情を、今まで持ったことがなかった。どうしても譲れないもの、というのを、持ったことがなかった。幼稚園やなんかのオモチャも、友達が地団駄を踏んでよこせと言えば、仕方ないなと渡してやった。誰かの気分を害してまで、手に入れたいと思ったものは今までなかった。
それなのに。
礼奈が笑う。照れる。怒る。涙する。
「好きだよ」
そう言って俺を見上げる。俺にも同じ言葉を求める。
そのたびに、胸が息苦しいほど揺さぶられる。
もう、手放すことなんてできへん。
礼奈は。
本当に。
一生、俺のそばにいてくれるつもりなんやろうか。
百かゼロか、しかないことに、ここまできてようやく気づいた。
俺の隣に、礼奈がいる将来。それ以外の未来はすべて、暗闇にしか繋がらない。
礼奈がいなければ俺は――闇の中を、生きていくしかない。
***
十一月に会ったとき、礼奈はなんや様子が変やった。紅葉狩りと称した、祖父母との散歩は柔らかな時間で、同時になんとなく切なくて、礼奈の気持ちをかき立てたのかもしれん。
祖父母が昼寝に寝室に行った後、二人で話すのもそこそこに泣き出して、俺にしがみついてきた。
「栄太兄……」
泣きじゃくる礼奈を浮け止め、困惑しながら、俺はうっすらと感じていた。
もしかしたら、礼奈も……俺と同じなのかもしれへんな、て。
空気みたいなもんや。水みたいなもんや。俺にとっての礼奈は、礼奈にとっての俺は、自分の中の一部分で、消えてなくなることはない。なくなるなんて、考えられない。
必死で相手にすがりついてるのは、俺だけやなくて……
「栄太兄」
泣きながら、礼奈が呼ぶ。
「ずっと一緒にいて。一生、一緒にいて」
溢れ出る本音が、その声ににじんでいる。
……ああ、やっぱりや。
喜びとか、安堵とか、そんなもんやなかった。――納得。たぶん、それが一番近い。
他からどう見えるかは分からへん。けど、俺と礼奈はたぶん不可分で、ついこないだまで別々の道を選ぼうとしてたことの方が不自然で、なにも考えなくてもたぶん、結局はここに落ち着いたんや。
そうやろ、礼奈。
「ああ。もちろんや」
悩むことなんて何もない、即答やった。
呼吸するのと同じくらいの自然さで、俺は礼奈の隣を選ぶ。
礼奈は俺の傍にいてくれる。
運命、なんて言葉は好きじゃないけど――
いつだか母さんが言うてた言葉を思い出した。
ほんま、そうやな。母さん。
今なら、その言葉がよく分かる。
どうあがいても引き寄せられる、引力みたいなものが、そこにある。
なぁ、父さん。母さん。ええやろ。
やっぱり、この子や。
この子が、俺の一生そのものや。
そう言うても……ええやろ。
――年末、奈良に帰るとき、一緒に行かへんか。
礼奈に問うと、やっぱり迷いのないうなずきが返ってきた。
好きや。愛してる。そんな言葉なんかどうでもいい。
礼奈。――お前は、俺、そのものや。
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