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本編
16(終)
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身体を重ねた後、二人は少しの間まどろんだ。
翔は紗也加の髪に鼻先をうずめたがり、紗也加が髪先を胸の前へ寄せて頭を抱擁してやると、嬉しそうに抱き着いてきた。
(……可愛い)
初めて見る恋人としての翔の振るまいに、紗也加はついついほだされる。
初めての行為は痛みがなかった訳ではないが、翔は宣言通り、できるだけ優しく抱いてくれたと分かった。
その気持ちだけでも、充分に嬉しかった。
紗也加より翔の方が先に寝息を立てはじめたが、起きたのも紗也加の方が先だった。
すやすや眠る翔の髪を撫で、額に唇を寄せてみる。
白い肌はうらやましいほどきめ細かくて、紗也加は至近距離で初めて翔を観察した。
長いまつげ、通った鼻粱、薄めの唇。
頬を手で包むと、閉じられていたまつげが震えた。
切れ長の目がうっすらと開き、紗也加をとらえる。
途端に、照れ臭そうに笑った。
紗也加も笑いを返す。
「……痛くない?」
「痛い」
「……ごめん」
「ふふ」
紗也加が笑うと、翔は不思議そうな顔をした。
「なんでご機嫌?」
「しょーくんがいるから」
翔がまた言葉を失った。
紗也加はふと気づく。不安な予感に胸がざわめいた。
翔の腕に手を添えると、その目を見つめて話しかける。
「……ねえ、しょーくん」
「何?」
「あたし、重い女かも」
「うん?」
「嫉妬深いし」
「うん」
「……しょーくんのこと、独り占めしたい」
翔が噴き出した。
「うん」
「うん、って何」
「だから、それで?」
「だって……」
紗也加はうつむいた。
「嫌でしょう、そういうの」
翔は笑って、紗也加の髪を撫でる。
「他の女ならね」
紗也加はちらりと翔を見た。
「紗也加なら、なんでもいいよ」
翔が言う。
紗也加は照れをごまかすために唇を尖らせたが、頬が赤くなったのを感じた。
「……じゃ、幹事は無し」
「幹事?」
「お兄ちゃんの、二次会」
「はぁ?」
翔は意味が分からないとでも言うように笑う。紗也加は唇を尖らせた。
「他の幹事の子と、仲良くなっちゃうかもしれないし」
「まあ、多少はね」
「当日だって、いろいろ聞かれたり、話し掛けられたりするかもしれないし」
「……幹事だったら、そうだろうね」
だから……駄目。
そう言って紗也加は寝具の中に潜り込む。翔はそれをかき分けるように入ってきて、紗也加の身体を抱きしめた。
「サヤ」
「……あきれたでしょ」
「全然」
「ほんとに?」
「ほんと。……むしろ」
翔は言いかけた言葉を止め、苦笑してごまかす。
「……むしろ?」
紗也加は不安を感じて問うた。
翔は両手で紗也加の両頬を包み込む。
「……そういうこと言ってると、もう一回したくなる」
「な、なんで!」
紗也加は真っ赤になって、翔の手から逃れようと暴れた。
翔は笑いながら紗也加を抱きしめ、裸の背中をぽんぽんとたたく。
「じゃ、こうすれば」
「な、何?」
「俺とペアリングするとか、いっそ婚約しちゃうとか」
「え?」
戸惑う紗也加に、翔は言った。
「親友の妹、本気じゃなくて手ぇ出す訳ないだろ。当然、先々の覚悟はしてるよ」
力みもなく笑われ、今度は紗也加が言葉を失う。
じわり、とまた目に涙が込み上げた。
「……やだ」
「え? 嫌?」
「そうじゃなくて……」
紗也加は腕を伸ばし、翔の首に抱き着いた。
「好き。大好き」
「知ってるよ」
「愛してる」
「うん」
「足りない」
「え?」
紗也加はぐりぐりと翔の首筋に顔をうずめた。
「……もっと、もっと、翔が欲しい」
翔が動きを止める。
「だから……そういうの……」
「だって、しょうがないよ」
紗也加は困惑顔の上目遣いで翔を見た。
「ずっと、我慢してたんだもん……」
翔は何か言いたげに息を吸った。
が、言葉が見つからなかったらしく、そのまま吐き出す。
「……だって、痛いんだろ?」
「……ちょっと」
「じゃ、やめとこうよ」
「……ぎゅってするだけでも、駄目?」
「駄目……じゃないけど……」
翔は赤い顔で「あー」「うー」と意味のない声を出していたが、ため息をついて紗也加に向き直った。
「今日は我慢する。次回は知らないぞ」
紗也加はこくりと頷いて、首を傾げた。
「……2回目なら、痛くないもん?」
「知らねぇよ……俺、男だし……」
翔の言葉に、それもそうだと頷いて、紗也加はその首に腕を絡めた。
翔はため息をつきながら、紗也加の背に手を回す。
裸のままの互いの温もりが、少しずつ、少しずつ、今までの時間を埋めてくれそうな気がした。
FIN.
***
ご覧くださり、ありがとうございました!
とりいそぎ本編のみ公開します(22/2/6)
翔は紗也加の髪に鼻先をうずめたがり、紗也加が髪先を胸の前へ寄せて頭を抱擁してやると、嬉しそうに抱き着いてきた。
(……可愛い)
初めて見る恋人としての翔の振るまいに、紗也加はついついほだされる。
初めての行為は痛みがなかった訳ではないが、翔は宣言通り、できるだけ優しく抱いてくれたと分かった。
その気持ちだけでも、充分に嬉しかった。
紗也加より翔の方が先に寝息を立てはじめたが、起きたのも紗也加の方が先だった。
すやすや眠る翔の髪を撫で、額に唇を寄せてみる。
白い肌はうらやましいほどきめ細かくて、紗也加は至近距離で初めて翔を観察した。
長いまつげ、通った鼻粱、薄めの唇。
頬を手で包むと、閉じられていたまつげが震えた。
切れ長の目がうっすらと開き、紗也加をとらえる。
途端に、照れ臭そうに笑った。
紗也加も笑いを返す。
「……痛くない?」
「痛い」
「……ごめん」
「ふふ」
紗也加が笑うと、翔は不思議そうな顔をした。
「なんでご機嫌?」
「しょーくんがいるから」
翔がまた言葉を失った。
紗也加はふと気づく。不安な予感に胸がざわめいた。
翔の腕に手を添えると、その目を見つめて話しかける。
「……ねえ、しょーくん」
「何?」
「あたし、重い女かも」
「うん?」
「嫉妬深いし」
「うん」
「……しょーくんのこと、独り占めしたい」
翔が噴き出した。
「うん」
「うん、って何」
「だから、それで?」
「だって……」
紗也加はうつむいた。
「嫌でしょう、そういうの」
翔は笑って、紗也加の髪を撫でる。
「他の女ならね」
紗也加はちらりと翔を見た。
「紗也加なら、なんでもいいよ」
翔が言う。
紗也加は照れをごまかすために唇を尖らせたが、頬が赤くなったのを感じた。
「……じゃ、幹事は無し」
「幹事?」
「お兄ちゃんの、二次会」
「はぁ?」
翔は意味が分からないとでも言うように笑う。紗也加は唇を尖らせた。
「他の幹事の子と、仲良くなっちゃうかもしれないし」
「まあ、多少はね」
「当日だって、いろいろ聞かれたり、話し掛けられたりするかもしれないし」
「……幹事だったら、そうだろうね」
だから……駄目。
そう言って紗也加は寝具の中に潜り込む。翔はそれをかき分けるように入ってきて、紗也加の身体を抱きしめた。
「サヤ」
「……あきれたでしょ」
「全然」
「ほんとに?」
「ほんと。……むしろ」
翔は言いかけた言葉を止め、苦笑してごまかす。
「……むしろ?」
紗也加は不安を感じて問うた。
翔は両手で紗也加の両頬を包み込む。
「……そういうこと言ってると、もう一回したくなる」
「な、なんで!」
紗也加は真っ赤になって、翔の手から逃れようと暴れた。
翔は笑いながら紗也加を抱きしめ、裸の背中をぽんぽんとたたく。
「じゃ、こうすれば」
「な、何?」
「俺とペアリングするとか、いっそ婚約しちゃうとか」
「え?」
戸惑う紗也加に、翔は言った。
「親友の妹、本気じゃなくて手ぇ出す訳ないだろ。当然、先々の覚悟はしてるよ」
力みもなく笑われ、今度は紗也加が言葉を失う。
じわり、とまた目に涙が込み上げた。
「……やだ」
「え? 嫌?」
「そうじゃなくて……」
紗也加は腕を伸ばし、翔の首に抱き着いた。
「好き。大好き」
「知ってるよ」
「愛してる」
「うん」
「足りない」
「え?」
紗也加はぐりぐりと翔の首筋に顔をうずめた。
「……もっと、もっと、翔が欲しい」
翔が動きを止める。
「だから……そういうの……」
「だって、しょうがないよ」
紗也加は困惑顔の上目遣いで翔を見た。
「ずっと、我慢してたんだもん……」
翔は何か言いたげに息を吸った。
が、言葉が見つからなかったらしく、そのまま吐き出す。
「……だって、痛いんだろ?」
「……ちょっと」
「じゃ、やめとこうよ」
「……ぎゅってするだけでも、駄目?」
「駄目……じゃないけど……」
翔は赤い顔で「あー」「うー」と意味のない声を出していたが、ため息をついて紗也加に向き直った。
「今日は我慢する。次回は知らないぞ」
紗也加はこくりと頷いて、首を傾げた。
「……2回目なら、痛くないもん?」
「知らねぇよ……俺、男だし……」
翔の言葉に、それもそうだと頷いて、紗也加はその首に腕を絡めた。
翔はため息をつきながら、紗也加の背に手を回す。
裸のままの互いの温もりが、少しずつ、少しずつ、今までの時間を埋めてくれそうな気がした。
FIN.
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