330 / 368
.第12章 親と子
326 親族会議(3)
しおりを挟む
家に着くと、栄太兄は祖母が靴を脱ぐのを手伝った。祖母がひと眠りすると言うので、そのまま寝室へと連れて行く。私はその様子を、廊下から見守っていた。
栄太兄は寝室から出てくると、私の背中を軽くたたいた。
「おおきに。――礼奈がいてくれてよかったわ」
小さな声で言われて、私はどうしてと問うつもりでその顔を見上げる。
「礼奈がおったから、ばあちゃんもちょっと安心したろ。――みんな頭がキレすぎて、ばあちゃん話について行けへんようなってたし」
「そう……なのかな」
思いつきで連れ出したのは、迷惑だったかと思っていたけれど、それならよかった。栄太兄は私の頭をぽんぽんと叩き、居間に続くドアを見やる。
「今後の話も大事やし、みんな集まれる機会なんて早々ないからな。決めることも確認することも、あれこれあるのは分かる。――けど、人の気持ちはそうそう簡単に割り切ることなんてできへんやろ。ついていけへんばあちゃんに、黙って寄り添ってやる人も必要やった。――俺もそれを忘れてたわ」
栄太兄は困ったように微笑んだ。
私はその顔を見上げて、うつむく。
少しは、役に立てたんだろうか。
――何もできない無力さを、感じてばかりだったのに。
来年は、おじいちゃんと花見に行こう。
――そんな優しい嘘すら、口にできなかったのに。
「……少しは役にたてたなら……よかった」
身体の前で自分の手を握り、呟くようにそう言う。
栄太兄が不思議そうに私を見下ろした。
「……礼奈? 大丈夫か?」
栄太兄が、そっと私の頬に手を伸ばす。
大丈夫。
そう言おうとしたのに、顔を上げて栄太兄と目が合うや、何も言えなくなった。
開いた口を、震わせながら閉じる。
唇をぎゅっと引き結んで、またうつむいた。
衰えた祖父の手、それぞれにできることを話す父や兄、祖母のやつれた横顔、栄太兄の優しい嘘――
そのどれもが、私に自分の無力さを感じさせるもので。
その場に立ちすくんだまま、顔を覆ってため息をつく。
「……礼奈?」
「……うん……」
コンコン、と居間からノックの音がして、居間から廊下に繋がるドアが開いた。
「……お話中かな? あたたかいお茶淹れたから、よければ飲んで。外、冷えたでしょ」
気遣わしげに顔を出したのは朝子ちゃんだった。栄太兄が「おおきに、朝子。今行くで」と微笑む。
朝子ちゃんは私と栄太兄を見比べて笑顔を残すと、さっとドアの内側に引っ込んだ。
できるだけ音を立てないように閉じられたそのドアを、私はぼんやりと見つめていた。病院から到着したときにも、朝子ちゃんはささっと動いて、お茶を淹れ、椅子を譲ってくれたのだった。その動きはすごく自然で、まるでこの家に住んでいるみたいだった。
それもそうだろう。祖父が倒れてから、栄太兄に次いで何度も鎌倉を訪れていたのは朝子ちゃんだったそうだから。
栄太兄と朝子ちゃんがかち合うこともあっただろうし、それぞれ分担して祖母を支えてもいただろう。
朝子ちゃんの方が、よほど――
ぐらり、と足元が揺れたような錯覚に、思わず栄太兄の腕に手を伸ばした。栄太兄が驚いたように私の腕を取る。
「礼奈?」
戸惑ったような栄太兄の声に、私は何かを答えようと思ったのに、声が出ない。胸の内側で、喉の奥で、何かが詰まってしまった。震える手で、栄太兄の腕にしがみつく。呼吸が、できない。おかしい。息が。苦しい。喉に――何かが――
「礼奈」
私の様子がおかしいのを察して、栄太兄が私の背中に手を回す。ぐらぐら、足元が揺れている。大丈夫、栄太兄。大丈夫。私は、大丈夫だから――そう言いたいのに、口から洩れるのはヒューヒューとかすれた音ばかりだ。それなのに、吸えない。酸素が、息が、おかしい、おかしいな、どうやって、息って、呼吸って、わたし、いままで、
「礼奈! 鼻から息吸え! 口から吸うな!」
知らない間に、私の身体は崩れ落ちて、栄太兄に支えられていた。ガタンとドアが開いて、「どうしたの!?」と朝子ちゃんの声がする。目の前が、だんだんと、色を失っていく。
「過呼吸や。礼奈、聞こえるか!?」
栄太兄の声がした。えいたにい、と言おうとしたのに、声が出ない。「口閉じろ、鼻で呼吸させろ!」父の声がして、大きな手に口を覆われる。くるしいよ、くるしい、くち、開けたいのに。手、はなして、
「礼奈、大丈夫やで」背中を大きな手がさすっている。「健人、2階でベッドの準備してくれ」「了解」珍しく上擦った父と兄の声がする。「礼奈、大丈夫か? 聞こえるか?」栄太兄の声。
聞こえるよ。聞こえる。こくこく、頷く。でも、息が、苦しい。身体中が心臓になったみたいにざらついている。くるしい。かこきゅう、そうか、過呼吸ってこんなに苦しいのか。知らなかった、部活の仲間で、なってる子を見たことあるけど、こんな風に、
「栄太兄、上連れて来れる? 俺抱えようか」「いや、大丈夫や。俺が連れてく」健人兄と栄太兄の声がして、口を塞いでいた手が離れる。ぷはっと息をついたら、私の両手をぐいと口の前に持って行かれた。
「礼奈、口で息するなよ、鼻で呼吸しとけ。行くぞ」
よく分からないまま、こくこく頷く。膝の下に手が入り込んだと思ったら、ふわっと、身体が浮いた。浮遊感に、身体がこわばる。「大丈夫や、礼奈。力抜いて」栄太兄の声がして、私は口を手で押さえながら、またこくこく頷く。真っ白だった視界が、少しだけ、ざらついた色味を取り戻す。他のものは何も見えないのに、栄太兄の顔だけがはっきり見えた。切羽詰まった表情。大好きな人の顔。目が合ったのが分かったのか、栄太兄が微笑む。
「二階行って休むで。俺が抱えて行くからな。安心しろよ」
その声だけははっきり聞こえて、私もこくこくと頷く。栄太兄は、私を抱えて、階段を一段一段昇っていく。「礼奈、大丈夫なの?」と母の声がした。「大丈夫だろ、栄太郎の声は聞こえてた」と父の声。
「過呼吸って何か落ち着く方法あったっけ。水とか持って行く?」健人兄が言うのが聞こえた。「あいつ、予定詰め込みすぎだよ。バイトとインターンで息つく暇なかったんじゃないの?」と揶揄するような声は、たぶん私のことを想って言ってくれている。
兄の言う通り、春休みはめいっぱい就活とバイトの予定を入れた。母に文句を言われたくなかった。文句を言われないように、がんばらなくちゃと思っていた。
がんばらなくちゃって。
だって、私だけだから。
まだ、子どもなのは、私だけだから。
「礼奈」
階段を登り切った栄太兄が、少し息を乱しているのが分かった。
ごめんね、栄太兄。重いよね。ごめん。
ふわりと、頬に何かが触れて、それが栄太兄の髪だと分かる。抱えたまま頬を摺り寄せるように、栄太兄は耳元で囁いた。
「――ほんまいつも、がんばりすぎやで」
その声が、優しくて、切なくて。
私は本当に、大切に想われているんだと、実感した。
栄太兄は寝室から出てくると、私の背中を軽くたたいた。
「おおきに。――礼奈がいてくれてよかったわ」
小さな声で言われて、私はどうしてと問うつもりでその顔を見上げる。
「礼奈がおったから、ばあちゃんもちょっと安心したろ。――みんな頭がキレすぎて、ばあちゃん話について行けへんようなってたし」
「そう……なのかな」
思いつきで連れ出したのは、迷惑だったかと思っていたけれど、それならよかった。栄太兄は私の頭をぽんぽんと叩き、居間に続くドアを見やる。
「今後の話も大事やし、みんな集まれる機会なんて早々ないからな。決めることも確認することも、あれこれあるのは分かる。――けど、人の気持ちはそうそう簡単に割り切ることなんてできへんやろ。ついていけへんばあちゃんに、黙って寄り添ってやる人も必要やった。――俺もそれを忘れてたわ」
栄太兄は困ったように微笑んだ。
私はその顔を見上げて、うつむく。
少しは、役に立てたんだろうか。
――何もできない無力さを、感じてばかりだったのに。
来年は、おじいちゃんと花見に行こう。
――そんな優しい嘘すら、口にできなかったのに。
「……少しは役にたてたなら……よかった」
身体の前で自分の手を握り、呟くようにそう言う。
栄太兄が不思議そうに私を見下ろした。
「……礼奈? 大丈夫か?」
栄太兄が、そっと私の頬に手を伸ばす。
大丈夫。
そう言おうとしたのに、顔を上げて栄太兄と目が合うや、何も言えなくなった。
開いた口を、震わせながら閉じる。
唇をぎゅっと引き結んで、またうつむいた。
衰えた祖父の手、それぞれにできることを話す父や兄、祖母のやつれた横顔、栄太兄の優しい嘘――
そのどれもが、私に自分の無力さを感じさせるもので。
その場に立ちすくんだまま、顔を覆ってため息をつく。
「……礼奈?」
「……うん……」
コンコン、と居間からノックの音がして、居間から廊下に繋がるドアが開いた。
「……お話中かな? あたたかいお茶淹れたから、よければ飲んで。外、冷えたでしょ」
気遣わしげに顔を出したのは朝子ちゃんだった。栄太兄が「おおきに、朝子。今行くで」と微笑む。
朝子ちゃんは私と栄太兄を見比べて笑顔を残すと、さっとドアの内側に引っ込んだ。
できるだけ音を立てないように閉じられたそのドアを、私はぼんやりと見つめていた。病院から到着したときにも、朝子ちゃんはささっと動いて、お茶を淹れ、椅子を譲ってくれたのだった。その動きはすごく自然で、まるでこの家に住んでいるみたいだった。
それもそうだろう。祖父が倒れてから、栄太兄に次いで何度も鎌倉を訪れていたのは朝子ちゃんだったそうだから。
栄太兄と朝子ちゃんがかち合うこともあっただろうし、それぞれ分担して祖母を支えてもいただろう。
朝子ちゃんの方が、よほど――
ぐらり、と足元が揺れたような錯覚に、思わず栄太兄の腕に手を伸ばした。栄太兄が驚いたように私の腕を取る。
「礼奈?」
戸惑ったような栄太兄の声に、私は何かを答えようと思ったのに、声が出ない。胸の内側で、喉の奥で、何かが詰まってしまった。震える手で、栄太兄の腕にしがみつく。呼吸が、できない。おかしい。息が。苦しい。喉に――何かが――
「礼奈」
私の様子がおかしいのを察して、栄太兄が私の背中に手を回す。ぐらぐら、足元が揺れている。大丈夫、栄太兄。大丈夫。私は、大丈夫だから――そう言いたいのに、口から洩れるのはヒューヒューとかすれた音ばかりだ。それなのに、吸えない。酸素が、息が、おかしい、おかしいな、どうやって、息って、呼吸って、わたし、いままで、
「礼奈! 鼻から息吸え! 口から吸うな!」
知らない間に、私の身体は崩れ落ちて、栄太兄に支えられていた。ガタンとドアが開いて、「どうしたの!?」と朝子ちゃんの声がする。目の前が、だんだんと、色を失っていく。
「過呼吸や。礼奈、聞こえるか!?」
栄太兄の声がした。えいたにい、と言おうとしたのに、声が出ない。「口閉じろ、鼻で呼吸させろ!」父の声がして、大きな手に口を覆われる。くるしいよ、くるしい、くち、開けたいのに。手、はなして、
「礼奈、大丈夫やで」背中を大きな手がさすっている。「健人、2階でベッドの準備してくれ」「了解」珍しく上擦った父と兄の声がする。「礼奈、大丈夫か? 聞こえるか?」栄太兄の声。
聞こえるよ。聞こえる。こくこく、頷く。でも、息が、苦しい。身体中が心臓になったみたいにざらついている。くるしい。かこきゅう、そうか、過呼吸ってこんなに苦しいのか。知らなかった、部活の仲間で、なってる子を見たことあるけど、こんな風に、
「栄太兄、上連れて来れる? 俺抱えようか」「いや、大丈夫や。俺が連れてく」健人兄と栄太兄の声がして、口を塞いでいた手が離れる。ぷはっと息をついたら、私の両手をぐいと口の前に持って行かれた。
「礼奈、口で息するなよ、鼻で呼吸しとけ。行くぞ」
よく分からないまま、こくこく頷く。膝の下に手が入り込んだと思ったら、ふわっと、身体が浮いた。浮遊感に、身体がこわばる。「大丈夫や、礼奈。力抜いて」栄太兄の声がして、私は口を手で押さえながら、またこくこく頷く。真っ白だった視界が、少しだけ、ざらついた色味を取り戻す。他のものは何も見えないのに、栄太兄の顔だけがはっきり見えた。切羽詰まった表情。大好きな人の顔。目が合ったのが分かったのか、栄太兄が微笑む。
「二階行って休むで。俺が抱えて行くからな。安心しろよ」
その声だけははっきり聞こえて、私もこくこくと頷く。栄太兄は、私を抱えて、階段を一段一段昇っていく。「礼奈、大丈夫なの?」と母の声がした。「大丈夫だろ、栄太郎の声は聞こえてた」と父の声。
「過呼吸って何か落ち着く方法あったっけ。水とか持って行く?」健人兄が言うのが聞こえた。「あいつ、予定詰め込みすぎだよ。バイトとインターンで息つく暇なかったんじゃないの?」と揶揄するような声は、たぶん私のことを想って言ってくれている。
兄の言う通り、春休みはめいっぱい就活とバイトの予定を入れた。母に文句を言われたくなかった。文句を言われないように、がんばらなくちゃと思っていた。
がんばらなくちゃって。
だって、私だけだから。
まだ、子どもなのは、私だけだから。
「礼奈」
階段を登り切った栄太兄が、少し息を乱しているのが分かった。
ごめんね、栄太兄。重いよね。ごめん。
ふわりと、頬に何かが触れて、それが栄太兄の髪だと分かる。抱えたまま頬を摺り寄せるように、栄太兄は耳元で囁いた。
「――ほんまいつも、がんばりすぎやで」
その声が、優しくて、切なくて。
私は本当に、大切に想われているんだと、実感した。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
〖完結〗幼馴染みの王女様の方が大切な婚約者は要らない。愛してる? もう興味ありません。
藍川みいな
恋愛
婚約者のカイン様は、婚約者の私よりも幼馴染みのクリスティ王女殿下ばかりを優先する。
何度も約束を破られ、彼と過ごせる時間は全くなかった。約束を破る理由はいつだって、「クリスティが……」だ。
同じ学園に通っているのに、私はまるで他人のよう。毎日毎日、二人の仲のいい姿を見せられ、苦しんでいることさえ彼は気付かない。
もうやめる。
カイン様との婚約は解消する。
でもなぜか、別れを告げたのに彼が付きまとってくる。
愛してる? 私はもう、あなたに興味はありません!
設定ゆるゆるの、架空の世界のお話です。
沢山の感想ありがとうございます。返信出来ず、申し訳ありません。
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる