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.第9章 穏やかな日々
227 電話
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その夜、栄太兄に電話をした。本当は毎日したいけど、あんまり頻繁でも迷惑だろうなと、相変わらず2、3日に1度の電話を続けている。
「今日ね、学部図書館に行って、昔の冊子に栄太兄の名前見つけたよ」
『――なんや、そんなもん探したんか』
いつも、栄太兄に電話をかけるのはベッドの中でだ。部屋の明かりも小さくして、うとうとしながら聴く声の心地よさにすっかりハマってしまった。
「そんなもん、じゃないよ。あ、ほんとに栄太兄いたんだなーって……」
『ははは。学歴詐称でも疑ってたか?』
「違うよ、そうじゃなくて――」
大学生の頃の栄太兄は、私にとって遠かった。ずっと歳上の、大人の男の人で、目線も使う言葉も、何もかもが私とは違った。
だから、不思議な感じがするのだ。今の私と同じくらいのときの栄太兄を感じると、何だか変な感じがして、同時に、すごく嬉しい。
「……一緒に通ってたら、どんな感じだったのかな、とか」
『一緒に? 大学にか』
私は黙る。
別に、大学じゃなくてもいい。小学校でも、中学校でも、高校でも――どこでもいい。けど、どこまでさかのぼっても、私が栄太兄と重なる可能性はない。
『そうやなぁ。なんや、お互い当たり障りなく接して、そのまま過ぎ去りそうやけどな』
つきん、と胸が痛む。ーーそれは、たぶん、私も同じように感じているからだ。
「……栄太兄と私が、イトコじゃなかったら、やっぱりこうはならなかったのかな」
『さあなぁ。でも、お互い、近づくには不器用過ぎるやろ』
「……うん、そうかも」
でも、と思う。多分、そうだったとしても、私は栄太兄のことが気になっただろう。気になって気になって、でも遠ざかりたくないから近づくのが怖くて、その背中ばっかりを見つめて――会わなくなってから、後悔したに違いない。
「……よかった、イトコで」
『そうやな』
くすくすと、栄太兄が笑う。
栄太兄にとっては、どうなんだろう。もし、イトコじゃなくても、私のことを好きになってくれたんだろうか。
バレンタインデーのときの言葉を思い出す。
不器用な自分に、新しい人間関係を築くのは難しいから――
栄太兄は、あのとき、そんな意味合いのことを言った。
――それなら。
と、あのとき、心の奥底によぎった不安がある。
――それなら、朝子ちゃんでもいいの?
それでも、それは口に出せなかった。
栄太兄が迎えに来てくれたのは、私のところだったのだから。
それ以上何か言うのは、意地悪なような気がして。
そして同時に――そうかもしれない、と言われるのが、怖かった。
「でもね。そしたら、案内してくれてた先輩に、バレちゃった。私、そんなに全部顔に出てるのかな? もう少し、ポーカーフェイスを勉強しなくちゃ……」
『……その先輩は……女の?』
どこか言いにくそうに訊かれて、一瞬どきりとした。
動揺する必要なんてないのに。
私は迷った後、明るく言った。
「……男の先輩だよ。院生なんだって。――芦田さんって言うの」
『……そうか』
「印象、翔太くんみたいな感じなんだけどね。話すと隼人さんみたいで、穏やかな感じ。研究者ってああいう雰囲気になるのかな」
『……そうかも知れへんな』
なんだか、栄太兄の声が遠い。
「……栄太兄?」
『ああ、いや……』
しばらくためらうような気配がして、はは、と軽い笑い声が聞こえた。
『……別に、何でもないねん。そや、俺、明後日から一週間くらい奈良に帰るよって、またお土産でも買っとくな』
「……うん」
頷きながら、じわじわと胸に寂しさが広がる。
なんだか、取り繕ったような気配が、寂しい。
「……栄太兄?」
『なんや?』
「言いたいこと……何かあるんじゃないの?」
私がおずおずと問うと、栄太兄は数秒の沈黙の後、いや、と言った。
『そんなん、無いて。すまんな、変に気ィ遣わせたか』
「ううん……それは……いいんだけど」
栄太兄に気を遣うなら、別にいくら遣っても苦にならない。栄太兄が笑ってくれるなら。でも。
「……次、いつ会えるかな」
ぽつりと言ってから、はっとした。
何となく、それを私から言うのは禁句なような気がしていたのに、つい、言ってしまった。
『奈良から帰ってきたら、時間あるけど。――礼奈が忙しいやろ』
「……」
思わず黙る。
ゼミの発表は、五月頭だ。四月中に大体めどをつけておかなければいけない。
――早めの順番になんか、するんじゃなかった。
先の方が気が楽だ、なんて手を挙げてしまった自分の気質を恨む。
黙ったまま唇を噛み締めていたら、栄太兄が苦笑する気配がした。
『まあ、電話は毎日でもしてええんやし、元々しょっちゅう会うとるわけでもないし、寂しないやろ』
「……」
『……礼奈?』
「……」
黙ったまま、ぶーっとむくれる。
栄太兄が戸惑ったように、「礼奈」とまた名前を呼んだ。
「……栄太兄は、全然平気?」
『は?』
「私と……会えなくても、平気?」
栄太兄が押し黙る。私はむっとして、さらに続けた。
「私、来週、ゼミの懇親会あるんだ。その院生の先輩も来るし、就活中の先輩たちも来るって。だから、いろいろ、話聞くつもり」
『……ああ』
「じゃあ、おやすみ」
『れ、礼奈』
慌てたように呼ばれて、「なに」と不愛想に答えてみる。すると、栄太兄は言葉を選ぶようにゆっくり言った。
『あのな。俺も、その……会いたいとは、思うてるで』
「……ほんとかな」
呟く。私だって、そう信じたい。けど。
栄太兄がため息をついた。
『……部屋に一人でおるとな』
栄太兄の声に、まぶたを閉じて、思い出す。
二人で過ごした、栄太兄の部屋。何をするわけでもなく、抱きしめ合って、髪を撫でてもらった幸せな時間。
『……礼奈が来たときのこと、思い出すねん』
栄太兄が、どこかに手を伸ばしたような気がした。その手は虚空を掴んで、静かに戻って来る。
すると、ふっ、と自嘲気味に笑う吐息が聞こえた。
『……あかんな』
「……何が?」
『こんなん、中坊みたいやん』
中坊。
……そうかも。
慶次郎から聞いた「高校生のおつき合い」を思い出して、ひとり赤面する。
でも、私にはこれくらいがいい――まだ、これくらいのペースが、ちょうどいい。
『じゃあ、またな。都合、いいとき教えてや。会えるの楽しみにしとるから』
「うん……おやすみ」
『おやすみ、礼奈』
栄太兄は言ったけど、いつもは電話を切るタイミングなのに、まだ切らずに何かためらっている。どうしたのと問おうとして息を吸ったとき、小さな声が聞こえた。
『好きやで』
言うだけ言って、『ほなな』と電話が切れる。私はスマホを耳に当てたまま、しばらく唖然とした。
「……やだ」
止めていた息をゆっくり吐き出しながら、呟く。
手近な枕で顔を覆って、そのまま「うぁー」と声を出した。
「ばか、もう。えいたにい、ばか」
部屋の外には聞こえないボリュームでそう言いながら、ベッドの上で足をばたつかせる。
顔が熱くて、胸がどきどきしていて、とてもじゃないけど、すぐ眠れそうにない。
――ばか。
――だいすき。
ばふん、と両手を広げてうつぶせに倒れると、はぁー、と息を吐き出した。
……これが、世に言う「幸せ」ってものなんだろうな。
頭の中のお花畑が、知らないうちに夢の中へと私をいざなった。
「今日ね、学部図書館に行って、昔の冊子に栄太兄の名前見つけたよ」
『――なんや、そんなもん探したんか』
いつも、栄太兄に電話をかけるのはベッドの中でだ。部屋の明かりも小さくして、うとうとしながら聴く声の心地よさにすっかりハマってしまった。
「そんなもん、じゃないよ。あ、ほんとに栄太兄いたんだなーって……」
『ははは。学歴詐称でも疑ってたか?』
「違うよ、そうじゃなくて――」
大学生の頃の栄太兄は、私にとって遠かった。ずっと歳上の、大人の男の人で、目線も使う言葉も、何もかもが私とは違った。
だから、不思議な感じがするのだ。今の私と同じくらいのときの栄太兄を感じると、何だか変な感じがして、同時に、すごく嬉しい。
「……一緒に通ってたら、どんな感じだったのかな、とか」
『一緒に? 大学にか』
私は黙る。
別に、大学じゃなくてもいい。小学校でも、中学校でも、高校でも――どこでもいい。けど、どこまでさかのぼっても、私が栄太兄と重なる可能性はない。
『そうやなぁ。なんや、お互い当たり障りなく接して、そのまま過ぎ去りそうやけどな』
つきん、と胸が痛む。ーーそれは、たぶん、私も同じように感じているからだ。
「……栄太兄と私が、イトコじゃなかったら、やっぱりこうはならなかったのかな」
『さあなぁ。でも、お互い、近づくには不器用過ぎるやろ』
「……うん、そうかも」
でも、と思う。多分、そうだったとしても、私は栄太兄のことが気になっただろう。気になって気になって、でも遠ざかりたくないから近づくのが怖くて、その背中ばっかりを見つめて――会わなくなってから、後悔したに違いない。
「……よかった、イトコで」
『そうやな』
くすくすと、栄太兄が笑う。
栄太兄にとっては、どうなんだろう。もし、イトコじゃなくても、私のことを好きになってくれたんだろうか。
バレンタインデーのときの言葉を思い出す。
不器用な自分に、新しい人間関係を築くのは難しいから――
栄太兄は、あのとき、そんな意味合いのことを言った。
――それなら。
と、あのとき、心の奥底によぎった不安がある。
――それなら、朝子ちゃんでもいいの?
それでも、それは口に出せなかった。
栄太兄が迎えに来てくれたのは、私のところだったのだから。
それ以上何か言うのは、意地悪なような気がして。
そして同時に――そうかもしれない、と言われるのが、怖かった。
「でもね。そしたら、案内してくれてた先輩に、バレちゃった。私、そんなに全部顔に出てるのかな? もう少し、ポーカーフェイスを勉強しなくちゃ……」
『……その先輩は……女の?』
どこか言いにくそうに訊かれて、一瞬どきりとした。
動揺する必要なんてないのに。
私は迷った後、明るく言った。
「……男の先輩だよ。院生なんだって。――芦田さんって言うの」
『……そうか』
「印象、翔太くんみたいな感じなんだけどね。話すと隼人さんみたいで、穏やかな感じ。研究者ってああいう雰囲気になるのかな」
『……そうかも知れへんな』
なんだか、栄太兄の声が遠い。
「……栄太兄?」
『ああ、いや……』
しばらくためらうような気配がして、はは、と軽い笑い声が聞こえた。
『……別に、何でもないねん。そや、俺、明後日から一週間くらい奈良に帰るよって、またお土産でも買っとくな』
「……うん」
頷きながら、じわじわと胸に寂しさが広がる。
なんだか、取り繕ったような気配が、寂しい。
「……栄太兄?」
『なんや?』
「言いたいこと……何かあるんじゃないの?」
私がおずおずと問うと、栄太兄は数秒の沈黙の後、いや、と言った。
『そんなん、無いて。すまんな、変に気ィ遣わせたか』
「ううん……それは……いいんだけど」
栄太兄に気を遣うなら、別にいくら遣っても苦にならない。栄太兄が笑ってくれるなら。でも。
「……次、いつ会えるかな」
ぽつりと言ってから、はっとした。
何となく、それを私から言うのは禁句なような気がしていたのに、つい、言ってしまった。
『奈良から帰ってきたら、時間あるけど。――礼奈が忙しいやろ』
「……」
思わず黙る。
ゼミの発表は、五月頭だ。四月中に大体めどをつけておかなければいけない。
――早めの順番になんか、するんじゃなかった。
先の方が気が楽だ、なんて手を挙げてしまった自分の気質を恨む。
黙ったまま唇を噛み締めていたら、栄太兄が苦笑する気配がした。
『まあ、電話は毎日でもしてええんやし、元々しょっちゅう会うとるわけでもないし、寂しないやろ』
「……」
『……礼奈?』
「……」
黙ったまま、ぶーっとむくれる。
栄太兄が戸惑ったように、「礼奈」とまた名前を呼んだ。
「……栄太兄は、全然平気?」
『は?』
「私と……会えなくても、平気?」
栄太兄が押し黙る。私はむっとして、さらに続けた。
「私、来週、ゼミの懇親会あるんだ。その院生の先輩も来るし、就活中の先輩たちも来るって。だから、いろいろ、話聞くつもり」
『……ああ』
「じゃあ、おやすみ」
『れ、礼奈』
慌てたように呼ばれて、「なに」と不愛想に答えてみる。すると、栄太兄は言葉を選ぶようにゆっくり言った。
『あのな。俺も、その……会いたいとは、思うてるで』
「……ほんとかな」
呟く。私だって、そう信じたい。けど。
栄太兄がため息をついた。
『……部屋に一人でおるとな』
栄太兄の声に、まぶたを閉じて、思い出す。
二人で過ごした、栄太兄の部屋。何をするわけでもなく、抱きしめ合って、髪を撫でてもらった幸せな時間。
『……礼奈が来たときのこと、思い出すねん』
栄太兄が、どこかに手を伸ばしたような気がした。その手は虚空を掴んで、静かに戻って来る。
すると、ふっ、と自嘲気味に笑う吐息が聞こえた。
『……あかんな』
「……何が?」
『こんなん、中坊みたいやん』
中坊。
……そうかも。
慶次郎から聞いた「高校生のおつき合い」を思い出して、ひとり赤面する。
でも、私にはこれくらいがいい――まだ、これくらいのペースが、ちょうどいい。
『じゃあ、またな。都合、いいとき教えてや。会えるの楽しみにしとるから』
「うん……おやすみ」
『おやすみ、礼奈』
栄太兄は言ったけど、いつもは電話を切るタイミングなのに、まだ切らずに何かためらっている。どうしたのと問おうとして息を吸ったとき、小さな声が聞こえた。
『好きやで』
言うだけ言って、『ほなな』と電話が切れる。私はスマホを耳に当てたまま、しばらく唖然とした。
「……やだ」
止めていた息をゆっくり吐き出しながら、呟く。
手近な枕で顔を覆って、そのまま「うぁー」と声を出した。
「ばか、もう。えいたにい、ばか」
部屋の外には聞こえないボリュームでそう言いながら、ベッドの上で足をばたつかせる。
顔が熱くて、胸がどきどきしていて、とてもじゃないけど、すぐ眠れそうにない。
――ばか。
――だいすき。
ばふん、と両手を広げてうつぶせに倒れると、はぁー、と息を吐き出した。
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