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.第6章 大学1年、前期

142 メンバー集め(2)

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 すっかり恒例になった、英語の講義後のランチタイム。お弁当を広げる私とハルちゃんの横で、慶次郎はコンビニおにぎりを3つ取り出す。
 私はそれを見て呆れた。

「いっつもそんなんだね」
「温めなくても美味くて腹持ちするっつったらこれしかねぇだろ」

 慶次郎が言いながら、一つ目を開けて口に運ぶ。のりが割れるぱりっという音が聞こえて、私はため息をついた。

「慶次郎もたまには作って来れば?」

 慶次郎はちらっと私の顔を見て、私の手元を見る。
 今日は、昨夜の鳥の照り焼きをキープしておいて、お弁当に詰めた。私が口を開きかけたとき、慶次郎の手が伸びてきてその一つをつまんでいく。

「いただきっ」
「あー!」

 叫んだけれど、時すでに遅し。慶次郎はぺろりとそれを口に放り入れて、「んま」と嬉しそうに笑う。
 あまりに嬉しそうなので、私は喉奥でぐっと呻いて、念のため補足することにした。

「それ、昨日お父さんが作ってくれたやつ」
「……はぁ!?」

 慶次郎が呆れた顔をしている。私は唇を尖らせて、残りの一切れを口に運ぶ。

「んー、美味しい。言わなかったっけ? うちの夕飯、ほとんどお父さんが作ってる」
「ほんまぁ!? すごいパパやな!!」

 ハルちゃんが目を丸くして驚いた。私はふんと胸を張る。

「そうなの。すごいの」
「相変わらずファザコンだな」

 ちっと舌打ちをしながら、慶次郎がまたおにぎりを口に運ぶ。私はその横顔に白い目を向けた。

「そう言うなら、慶次郎も料理してみなよ。ちゃんと自炊できるかって大事だよー。どうせあんた、独り暮らししないつもりでしょ」

 大学も実家から通える距離だからそう言ったのだったけれど、慶次郎はふんと鼻を鳴らした。

「二年か、三年になったら独り暮らしするよ」
「えっ、そうなの? なんで?」

 三年になれば違うキャンパスに通い始めることになるけれど、実家からでも通える距離であることに変わりはない。私が驚くと、慶次郎は「親の方針」と端的に答えた。
 へぇ。そんな方針もあるんだ。

「それって、家事とか自分でできるように?」
「さぁ。たぶんそうじゃね」
「じゃ、やっぱり料理とか練習しといた方がいいじゃん」

 慶次郎が嫌そうな顔をして、ふと思い直したようににやりとした。

「で、何? お前のパパに近づけて、婿候補にしようってこと?」
「む!?」

 私は思わずむせそうになって、慌てて口を押さえた。

「む、婿って何! 何言ってんの!」

 顔が熱くなるのが分かる。慶次郎の肩をばしばし叩いたら、ハルちゃんがはっとした顔で私と慶次郎を見比べた。

「あ、あの……気になってたんやけど……も、もしかして、やっぱり、二人って、つき合ってはるん……?」

 そわそわと訊かれて、私は慶次郎を睨むと息を吸った。

「違う!」
「そうだよ」

 答えると、慶次郎も同時にそう言った。
 真逆の解答に、ハルちゃんがぽかんとする。
 私は改めて慶次郎を睨んだ。

「慶次郎!」
「往生際が悪いぞ、礼奈」

 ふんと鼻を鳴らして、慶次郎が言った。
 あああああ! その名前呼び! まだ慣れない!!
 思わず顔を赤くしながら、私は慶次郎に向き直る。

「あのねぇ、あんた、相変わらずそーやって突っかかって来るのやめてくれない!? いちいちそうだから、全然ーー」
「全然そんな気になれない?」

 慶次郎がふんと笑う。
 何よ、その余裕ありげな態度!
 私がむっとしたところで、慶次郎はやれやれとため息をついた。

「お前のことだから、いきなりそれらしく振舞ったって嫌がるだろ。今まで通りが一番だろうと思ってこうしてんの。ご所望ならそれっぽくするけど?」

 若干上から目線で言われて、イラっとする。

「へぇー、だったらそれっぽく振る舞ってみなさいよ!」

 売り言葉に買い言葉だ。どうせ慶次郎のことだ、いきなりラブラブカップル、みたいなことは絶対できないはず!
 大真面目に意気込む私の顔を見て、慶次郎はぷっと笑った。

「ほんと、お前分かり易い」

 言うと、私の頭をぽんぽん叩く。
 前だったら、そこで髪をぐちゃぐちゃにするところだーーとは、さすがの私も分かる。
 思わず毒気を抜かれて、変な顔をしていると、慶次郎は微笑んで続けた。

「次は俺の分も作ってよ、弁当。それじゃ不公平だってんなら、順番にしようぜ。……お前の弁当、食ってみたい」

 さりげなくつけ加えられた一言に、ハルちゃんが「きゃー」と口を押さえる。
 思わず、顔が熱を持つのが分かった。

「そ、そういうの、なし!」
「何だよ。どっちだよ」
「だ、だって、そういうの、友達の前で言うの、なし!」
「二人っきりならいいってこと?」
「ふ……!?」

 二人っきり!? 二人っきりになることなんて、あったっけ!?
 思っていることは相変わらず駄々洩れだったらしい。慶次郎は「そりゃー、つき合ってるんならデートくらいするよなぁ?」とにやにやしている。
 で、で、デート!? 慶次郎と!?
 目を白黒させている私に、慶次郎は心底呆れた顔をした。

「お前なー。……ったく。ちょっと様子見ててやったけど、ほんとに全然自覚ないのな。オッケー、分かった」
「わ、分かったって、何が」
「自覚させる」

 慶次郎は宣言して、おにぎりをぱくぱくと口に運ぶ。あっという間に2つ目を食べ終えて、3つ目の包装を破ったとき、「そういえば」とハルちゃんに話しかけた。

「いきなりだけど、バスケとか興味ない?」
「ば、バスケ……?」

 慶次郎の言葉に、はっと思い出す。
 そうだった、そうだった。そういえば小夏に仲間集めとけって言われたんだった。

「そうなの。えーとね、私もこいつも、元バスケ部で。高校時代の友達と、市民団体作ろうって話してるんだけど、人数がもう一人足りないの」
「市民団体?」
「うん。少なくとも職住のどちらかが市内の人、ていうのが条件らしくて。ハルちゃん、もしよければ、一緒にどうかなって……」

 ハルちゃんは目をぱちぱちして、首を傾げる。
 考えている様子を見て、私は慌てた。

「あ、あの、無理しなくていいんだけど。でも、結構面白い子たちだし、もしよければ一緒にどうかなー、なんて……」
「ええよ」

 ハルちゃんはにこりと笑った。

「要するに名前貸せばええねんな? 毎回参加できるか分からんけど、二人がプレイしてるとこ見てみたいわ」
「ほんと!? ありがとー!」

 私は思わずハルちゃんの手を握る。ハルちゃんはくすくす笑った。

「二人の友達やったら、面白そうやし」

 大阪の子にそう言われると、私ってそんなにツッコミどころが満載なのかな、なんて思ってしまう。
 けどまあ、これで人数は揃ったし、小夏にも喜んでもらえるだろう。

「楽しみやわ」

 ハルちゃんは、私と慶次郎を見比べて笑う。
 それがなんとなく意味深に見えて、私は首を傾げた。
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