142 / 368
.第6章 大学1年、前期
139 2年間の過ごし方(1)
しおりを挟む
とにかく風呂に入れ、という父の言葉に甘え、一番風呂をいただいて、自分の部屋に戻った。
飲み会だけでなく、その後の出来事が追い打ちをかけて、精神的にものすごく疲れている。
ベッドの上に横になると、思わず深いため息が出た。
少しだけ飲まされたアルコールはもうとっくに飛んでいるみたいだったけど、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
飲み会で自分に向けられた好奇の目。
自然で不自然なボディタッチ。
懸命に私を守ろうとしてくれた慶次郎の表情。
頬へのキスと、唇へのーー
「あああああああああ」
「どうしたー。とうとう故障したかー?」
顔を押さえてのたうち回ると、コンコン、とドアをノックする音と共に、健人兄の声がする。
私はドアを睨みつけた。
どうしよう。入れるべきか、入れざるべきか……。
でも、今、事情を知っているのは健人兄だけだ。愚痴るにも相談するにも、不本意ながら健人兄しか浮かばない。
慶次郎との対峙で、誕生日にしたデートの様子も、栄太兄から聞いたんだろうと察しがついたし。
迷った挙句、渋々ドアを開けることにした。
ドアを開けると、ちょっと意外そうな顔の健人兄が私を見下ろした。
「開けてくれると思わなかった」
そう言われて、私も唇を尖らせた。
「他に話せる人、いないし……」
「父さんとか」
「は、話せるわけないでしょ!」
面倒見のいい父親だからといっても、さすがに娘として恋愛相談をする気にはならない。
登場人物が近しい関係の人なのだからなおさらだ。
健人兄は笑いながら私の部屋に入ってきて、学習机から引き出した椅子にまたいで座った。
「で、どうすんの?」
「どう、って……?」
「あの子。なんつったっけ。ケージローくん?」
「う……うん……」
うつむいた私に視線をやって、健人兄は椅子の背に頬杖をつく。
「いいんじゃないの。どーせ、栄太兄もいろいろ経験してみろって言ったんでしょ。あの子も事情、分かってるみたいだしさ。甘えてみたら」
「そ、そんなの……」
健人兄は目を細めて、私を見つめる。
「だってさ、考えてもみろよ。もし、今栄太兄とつき合ったとしてもよ。あんだけ仕事仕事で、休日もろくに休めてないんだよ。いつ会うわけ? その点、あの子の方が生活リズム一緒だし、大学生らしい遊びも一緒にできんじゃん。海行ったりとか、スケボー行ったりとか、普通に映画観たりショッピングモールうろついたり……」
私は思わず目を逸らす。健人兄は構わず続けた。
「そもそも、会う時間ができたって、栄太兄じゃはしゃいで遊ぶ体力もないだろうしねー。友達と一緒にダブルデート、とかも気まずいだろうし。ーーそれに」
健人兄は私をまっすぐに見据えて、静かに言った。
「2年、待ったとして、栄太兄が本当に礼奈の気持ちに応えてくれるかどうかは分からないよ?」
ぐさ、と言葉が胸に刺さる。ぎゅ、と手で胸を押さえると、健人兄は薄く微笑んだ。
「礼奈に新しい出会いがあるように、栄太兄にだってもしかしたら新しい出会いがあるかもしれない。いや、もしかしたらもう会ってる人と、距離が近づくこともあるかもしれない。そんなの、誰にも分かんないだろ。2年ーー今までの栄太兄とのつき合いからしたら短いと思うかもしれないけど、関係が変わるには充分な時間だよ。お前が誰か別の人を好きになるにも、栄太兄を忘れるのにも、充分な時間だと思う。ーー特に、生活環境が変わった今は」
どきどきと心臓が高鳴る。
それは考えたくなかったことーー無意識に考えるのを避けていたことだ。
「……健人兄は……」
私の声はかすれて、泣き声みたいになった。健人兄はあくまで静かに私を見つめている。
「どういう、つもりなの? だって……あんなに、さんざん……私、を、栄太兄と、くっつけようとしてたくせに……」
健人兄はため息をついて顔を逸らした。
「次に進むにしても、自分の気持ちに気づかないままじゃ進めないだろ。だから、気づくように仕向けただけだよ。お前も、栄太兄も」
--栄太兄?
私は思わず問いたくなる。
栄太兄は、私のことを、どう考えてるんだろう。健人兄は何か知ってるの?
健人兄を見る目が、すがるような気配を持ったことを自覚する。けれど、健人兄はきっとそれが分かっているのに、教えてくれない。
「正直、俺もちょっと期待外れだったなー。栄太兄、もう少し腹くくって、ちゃんと答えてくれるかなーと思ってたんだけど。先延ばしみたいなこと言っちゃってさ。ーーまあ気持ちは分かるけど。でも、そんな優柔不断な男なら、さっきの子の方がよっぽど頼りになるかもよ。長い付き合いで、何だかんだで傍にいる奴なんでしょ」
「そ、そうだけど……」
「いいじゃん、そういうの」
健人兄はにこっと笑って、私を見つめる。
「どうして、って言ったな。俺がどうして、お前にハッパかけたのかって。ーー俺はただ、幸せになって欲しいだけだよ。お前も、栄太兄も」
健人兄らしからぬ視線の優しさに戸惑う。目を泳がせ、うつむいた。
「幸せになるとき、お前らの隣にいるのが誰なのかなんて、俺には分かんないから。ま、せいぜい後悔しないようにアドバイスするくらいかな」
健人兄は立ち上がった。椅子を机の下にしまい込み、ドアに向かう。
「あと2年後ーーいや、5年、10年後に、大学で遊んどけばよかった、とかって思わないようにしろよ。そのとき栄太兄との関係がどうなってるかは、まーなんつうか、なるようになるし、ならないようにしかならないんだからさ」
私は思わず肩をすくめる。なんだか悔しくて、唇を尖らせた。
「……なんか、知ったような口きくね」
ずいぶん、悟ったみたいな言いぶりだ。
健人兄は笑った。
「そうかな。……そうかもね。だいたい、ジョーさんとヨーコさんの受け売り。じゃ、おやすみ」
言い残して、部屋を出ていく。
パタン、と乾いた音が、耳に残った。
「……後悔、ないように、か……」
ため息をつく。
2年。
とにかく、2年間は、栄太兄と私の距離が近づくことはない。
その間に何をするか、どう過ごすかは、私の自由なのだ。
膝を抱えて、また息を吐き出した。深く。長く。
若干、自分で気づいてはいた。
だから、戸惑っていたのだ。
--ナルナルに告白されたときとは、気持ちが違う、ってことに。
飲み会だけでなく、その後の出来事が追い打ちをかけて、精神的にものすごく疲れている。
ベッドの上に横になると、思わず深いため息が出た。
少しだけ飲まされたアルコールはもうとっくに飛んでいるみたいだったけど、頭の中がぐちゃぐちゃだ。
飲み会で自分に向けられた好奇の目。
自然で不自然なボディタッチ。
懸命に私を守ろうとしてくれた慶次郎の表情。
頬へのキスと、唇へのーー
「あああああああああ」
「どうしたー。とうとう故障したかー?」
顔を押さえてのたうち回ると、コンコン、とドアをノックする音と共に、健人兄の声がする。
私はドアを睨みつけた。
どうしよう。入れるべきか、入れざるべきか……。
でも、今、事情を知っているのは健人兄だけだ。愚痴るにも相談するにも、不本意ながら健人兄しか浮かばない。
慶次郎との対峙で、誕生日にしたデートの様子も、栄太兄から聞いたんだろうと察しがついたし。
迷った挙句、渋々ドアを開けることにした。
ドアを開けると、ちょっと意外そうな顔の健人兄が私を見下ろした。
「開けてくれると思わなかった」
そう言われて、私も唇を尖らせた。
「他に話せる人、いないし……」
「父さんとか」
「は、話せるわけないでしょ!」
面倒見のいい父親だからといっても、さすがに娘として恋愛相談をする気にはならない。
登場人物が近しい関係の人なのだからなおさらだ。
健人兄は笑いながら私の部屋に入ってきて、学習机から引き出した椅子にまたいで座った。
「で、どうすんの?」
「どう、って……?」
「あの子。なんつったっけ。ケージローくん?」
「う……うん……」
うつむいた私に視線をやって、健人兄は椅子の背に頬杖をつく。
「いいんじゃないの。どーせ、栄太兄もいろいろ経験してみろって言ったんでしょ。あの子も事情、分かってるみたいだしさ。甘えてみたら」
「そ、そんなの……」
健人兄は目を細めて、私を見つめる。
「だってさ、考えてもみろよ。もし、今栄太兄とつき合ったとしてもよ。あんだけ仕事仕事で、休日もろくに休めてないんだよ。いつ会うわけ? その点、あの子の方が生活リズム一緒だし、大学生らしい遊びも一緒にできんじゃん。海行ったりとか、スケボー行ったりとか、普通に映画観たりショッピングモールうろついたり……」
私は思わず目を逸らす。健人兄は構わず続けた。
「そもそも、会う時間ができたって、栄太兄じゃはしゃいで遊ぶ体力もないだろうしねー。友達と一緒にダブルデート、とかも気まずいだろうし。ーーそれに」
健人兄は私をまっすぐに見据えて、静かに言った。
「2年、待ったとして、栄太兄が本当に礼奈の気持ちに応えてくれるかどうかは分からないよ?」
ぐさ、と言葉が胸に刺さる。ぎゅ、と手で胸を押さえると、健人兄は薄く微笑んだ。
「礼奈に新しい出会いがあるように、栄太兄にだってもしかしたら新しい出会いがあるかもしれない。いや、もしかしたらもう会ってる人と、距離が近づくこともあるかもしれない。そんなの、誰にも分かんないだろ。2年ーー今までの栄太兄とのつき合いからしたら短いと思うかもしれないけど、関係が変わるには充分な時間だよ。お前が誰か別の人を好きになるにも、栄太兄を忘れるのにも、充分な時間だと思う。ーー特に、生活環境が変わった今は」
どきどきと心臓が高鳴る。
それは考えたくなかったことーー無意識に考えるのを避けていたことだ。
「……健人兄は……」
私の声はかすれて、泣き声みたいになった。健人兄はあくまで静かに私を見つめている。
「どういう、つもりなの? だって……あんなに、さんざん……私、を、栄太兄と、くっつけようとしてたくせに……」
健人兄はため息をついて顔を逸らした。
「次に進むにしても、自分の気持ちに気づかないままじゃ進めないだろ。だから、気づくように仕向けただけだよ。お前も、栄太兄も」
--栄太兄?
私は思わず問いたくなる。
栄太兄は、私のことを、どう考えてるんだろう。健人兄は何か知ってるの?
健人兄を見る目が、すがるような気配を持ったことを自覚する。けれど、健人兄はきっとそれが分かっているのに、教えてくれない。
「正直、俺もちょっと期待外れだったなー。栄太兄、もう少し腹くくって、ちゃんと答えてくれるかなーと思ってたんだけど。先延ばしみたいなこと言っちゃってさ。ーーまあ気持ちは分かるけど。でも、そんな優柔不断な男なら、さっきの子の方がよっぽど頼りになるかもよ。長い付き合いで、何だかんだで傍にいる奴なんでしょ」
「そ、そうだけど……」
「いいじゃん、そういうの」
健人兄はにこっと笑って、私を見つめる。
「どうして、って言ったな。俺がどうして、お前にハッパかけたのかって。ーー俺はただ、幸せになって欲しいだけだよ。お前も、栄太兄も」
健人兄らしからぬ視線の優しさに戸惑う。目を泳がせ、うつむいた。
「幸せになるとき、お前らの隣にいるのが誰なのかなんて、俺には分かんないから。ま、せいぜい後悔しないようにアドバイスするくらいかな」
健人兄は立ち上がった。椅子を机の下にしまい込み、ドアに向かう。
「あと2年後ーーいや、5年、10年後に、大学で遊んどけばよかった、とかって思わないようにしろよ。そのとき栄太兄との関係がどうなってるかは、まーなんつうか、なるようになるし、ならないようにしかならないんだからさ」
私は思わず肩をすくめる。なんだか悔しくて、唇を尖らせた。
「……なんか、知ったような口きくね」
ずいぶん、悟ったみたいな言いぶりだ。
健人兄は笑った。
「そうかな。……そうかもね。だいたい、ジョーさんとヨーコさんの受け売り。じゃ、おやすみ」
言い残して、部屋を出ていく。
パタン、と乾いた音が、耳に残った。
「……後悔、ないように、か……」
ため息をつく。
2年。
とにかく、2年間は、栄太兄と私の距離が近づくことはない。
その間に何をするか、どう過ごすかは、私の自由なのだ。
膝を抱えて、また息を吐き出した。深く。長く。
若干、自分で気づいてはいた。
だから、戸惑っていたのだ。
--ナルナルに告白されたときとは、気持ちが違う、ってことに。
0
お気に入りに追加
129
あなたにおすすめの小説
私のドレスを奪った異母妹に、もう大事なものは奪わせない
文野多咲
恋愛
優月(ゆづき)が自宅屋敷に帰ると、異母妹が優月のウェディングドレスを試着していた。その日縫い上がったばかりで、優月もまだ袖を通していなかった。
使用人たちが「まるで、異母妹のためにあつらえたドレスのよう」と褒め称えており、優月の婚約者まで「異母妹の方が似合う」と褒めている。
優月が異母妹に「どうして勝手に着たの?」と訊けば「ちょっと着てみただけよ」と言う。
婚約者は「異母妹なんだから、ちょっとくらいいじゃないか」と言う。
「ちょっとじゃないわ。私はドレスを盗られたも同じよ!」と言えば、父の後妻は「悪気があったわけじゃないのに、心が狭い」と優月の頬をぶった。
優月は父親に婚約解消を願い出た。婚約者は父親が決めた相手で、優月にはもう彼を信頼できない。
父親に事情を説明すると、「大げさだなあ」と取り合わず、「優月は異母妹に嫉妬しているだけだ、婚約者には異母妹を褒めないように言っておく」と言われる。
嫉妬じゃないのに、どうしてわかってくれないの?
優月は父親をも信頼できなくなる。
婚約者は優月を手に入れるために、優月を襲おうとした。絶体絶命の優月の前に現れたのは、叔父だった。
病気になって芸能界から消えたアイドル。退院し、復学先の高校には昔の仕事仲間が居たけれど、彼女は俺だと気付かない
月島日向
ライト文芸
俺、日生遼、本名、竹中祐は2年前に病に倒れた。
人気絶頂だった『Cherry’s』のリーダーをやめた。
2年間の闘病生活に一区切りし、久しぶりに高校に通うことになった。けど、誰も俺の事を元アイドルだとは思わない。薬で細くなった手足。そんな細身の体にアンバランスなムーンフェイス(薬の副作用で顔だけが大きくなる事)
。
誰も俺に気付いてはくれない。そう。
2年間、連絡をくれ続け、俺が無視してきた彼女さえも。
もう、全部どうでもよく感じた。
本日、私の大好きな幼馴染が大切な姉と結婚式を挙げます
結城芙由奈@12/27電子書籍配信
恋愛
本日、私は大切な人達を2人同時に失います
<子供の頃から大好きだった幼馴染が恋する女性は私の5歳年上の姉でした。>
両親を亡くし、私を養ってくれた大切な姉に幸せになって貰いたい・・・そう願っていたのに姉は結婚を約束していた彼を事故で失ってしまった。悲しみに打ちひしがれる姉に寄り添う私の大好きな幼馴染。彼は決して私に振り向いてくれる事は無い。だから私は彼と姉が結ばれる事を願い、ついに2人は恋人同士になり、本日姉と幼馴染は結婚する。そしてそれは私が大切な2人を同時に失う日でもあった―。
※ 本編完結済。他視点での話、継続中。
※ 「カクヨム」「小説家になろう」にも掲載しています
※ 河口直人偏から少し大人向けの内容になります
【完結】もう無理して私に笑いかけなくてもいいですよ?
冬馬亮
恋愛
公爵令嬢のエリーゼは、遅れて出席した夜会で、婚約者のオズワルドがエリーゼへの不満を口にするのを偶然耳にする。
オズワルドを愛していたエリーゼはひどくショックを受けるが、悩んだ末に婚約解消を決意する。だが、喜んで受け入れると思っていたオズワルドが、なぜか婚約解消を拒否。関係の再構築を提案する。その後、プレゼント攻撃や突撃訪問の日々が始まるが、オズワルドは別の令嬢をそばに置くようになり・・・
「彼女は友人の妹で、なんとも思ってない。オレが好きなのはエリーゼだ」
「私みたいな女に無理して笑いかけるのも限界だって夜会で愚痴をこぼしてたじゃないですか。よかったですね、これでもう、無理して私に笑いかけなくてよくなりましたよ」
人違いラブレターに慣れていたので今回の手紙もスルーしたら、片思いしていた男の子に告白されました。この手紙が、間違いじゃないって本当ですか?
石河 翠
恋愛
クラス内に「ワタナベ」がふたりいるため、「可愛いほうのワタナベさん」宛のラブレターをしょっちゅう受け取ってしまう「そうじゃないほうのワタナベさん」こと主人公の「わたし」。
ある日「わたし」は下駄箱で、万年筆で丁寧に宛名を書いたラブレターを見つける。またかとがっかりした「わたし」は、その手紙をもうひとりの「ワタナベ」の下駄箱へ入れる。
ところが、その話を聞いた隣のクラスのサイトウくんは、「わたし」が驚くほど動揺してしまう。 実はその手紙は本当に彼女宛だったことが判明する。そしてその手紙を書いた「地味なほうのサイトウくん」にも大きな秘密があって……。
「真面目」以外にとりえがないと思っている「わたし」と、そんな彼女を見守るサイトウくんの少女マンガのような恋のおはなし。
小説家になろう及びエブリスタにも投稿しています。
扉絵は汐の音さまに描いていただきました。
アルバートの屈辱
プラネットプラント
恋愛
妻の姉に恋をして妻を蔑ろにするアルバートとそんな夫を愛するのを諦めてしまった妻の話。
『詰んでる不憫系悪役令嬢はチャラ男騎士として生活しています』の10年ほど前の話ですが、ほぼ無関係なので単体で読めます。
断る――――前にもそう言ったはずだ
鈴宮(すずみや)
恋愛
「寝室を分けませんか?」
結婚して三年。王太子エルネストと妃モニカの間にはまだ子供が居ない。
周囲からは『そろそろ側妃を』という声が上がっているものの、彼はモニカと寝室を分けることを拒んでいる。
けれど、エルネストはいつだって、モニカにだけ冷たかった。
他の人々に向けられる優しい言葉、笑顔が彼女に向けられることない。
(わたくし以外の女性が妃ならば、エルネスト様はもっと幸せだろうに……)
そんな時、侍女のコゼットが『エルネストから想いを寄せられている』ことをモニカに打ち明ける。
ようやく側妃を娶る気になったのか――――エルネストがコゼットと過ごせるよう、私室で休むことにしたモニカ。
そんな彼女の元に、護衛騎士であるヴィクトルがやってきて――――?
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる