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.第6章 大学1年、前期

134 サークル勧誘(2)

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「あの……今週の水曜、夜ご飯要らないから」

 日曜日の夜、私が言うと、父と母は顔を見合わせた。
 何も言わなくても、だいたい察してくれたらしい。

「一次会までで帰ってこいよ」
「まだあんたは未成年なんだからね。お酒、すすめられても飲んじゃだめよ」

 口々に言われて、つい苦笑した。

「大丈夫だよ、心配性だなぁ」

 私は自分の不安も棚にあげてそう答える。
 両親に言われると、いつまでも子ども扱いなんだから、と内心呆れてしまう。
 実際には、まだ参加すべきなのか迷っていたし、心配でもあったけど。
 でも、たぶん、大学生ならみんな経験することなのだろう。
 きっと、栄太兄も、経験したのだろう。
 ーーだったら、飛び込んでみるのも、いいんじゃないか。

「場所は?」
「大学の近く」
「なら、近いな。健人か悠人、駅まで迎えに行かせるから」
「え、いいよそんな」

 手を振りかけた私に、父の静かな目が向けられる。

「よくない。開始時間は訊いてるのか?」
「え、えっと、六時だって……」
「分かった。なら、九時頃には駅に着くかな。会場出るとき連絡しろよ」

 珍しく厳しい父の言い方に驚いていると、母が苦笑した。

「女の子はやっぱりいろいろ心配だから、最初のうちはね。二次会に行こうとか、誘われるかもしれないけど、断っておいで。迎えが来るから、とか、気分が悪いから、とか、言えばいいわ」
「う、うん……」

 そんなにしつこく誘われるもんなのかな。なんか、こう、断るスキルとか必要なんだろうか。
 思わず緊張する私の肩を、母がぽんと叩いた。

「まあ、せっかく大学生になったんだし、楽しみなさい。でも、守ることは守って。私もお父さんも、遅くなればなるほど、心配するからね。了解?」
「は、はい……」

 うなずいた私を見ながら、父も苦笑した。

「まあ、確かに、今経験しとかないと、社会に出ても戸惑うだろうしな。彩乃みたいに流されっぱなしでも困る」
「あら、失礼な。私はちゃんと、断るべきときは断るわよ」
「そうかぁ? だってお前、俺と飲んだときーー」
「あーあーあーあー!! ちょっと! 子どもの前でナニ話すつもりなのよ!!」

 ナニって何だろう。
 私がまばたきしていると、母が急に顔を真っ赤にして、ばたばた父の前で手を振る。
 父は柔らかく笑ってそれを受け止め、私の方に微笑みを向けた。

「まあそれは冗談としても、自分の守り方は知っておいた方がいいからな。何かあったら連絡しなさい。すぐ店まで迎えに行くから」
「……ありがと」

 えー、気になる。
 お父さん、何言いかけたんだろ。それって、お母さんと初めて二人で飲んだ日のことかな?
 男女がどうやって仲良くなって、夫婦にまでなるのか、純粋に興味がある。
 ……いや、もちろん、別にそれに栄太兄と自分を当てはめようなんか、思ってないけど。
 でも、そろそろ、知っといてもいいんじゃないかなー、なんて思うわけで。
 後学のために、ってやつ。

「お父さん」
「何だ?」
「さっきの話、何だったの?」
「さっきの?」
「お母さんと飲みに行って……」
「ああっ! ちょっ……」

 慌てる母の口を、父の手がやんわりと塞ぐ。父は笑いながら、もう片方の手で私の頭を撫でた。

「帰りがけ、もう少し一緒にいたいって言われただけだよ」
「ぐっ……!」

 父に口を塞がれた母が、真っ赤になっている。父が「そうだったろ?」と意味ありげな視線を送ると、母は「ま、まあね……」と顔を逸らした。
 ……うーん?

「なんかごまかしてない?」
「ごまかしてない! ない! ないってば、ない!」
「ははははは。まあ、結婚したらもう一度訊いてみるんだな」
「あ、やっぱりなんかごまかしてる!」
「ま、政人ぉー!!」

 母が顔を真っ赤にして父を睨んでいるけれど、父は平気な顔で笑ってた。
 なんだろ。オトナの話なのかな。
 思いながら、私は首を傾げていた。
 飲み会って、そんなに、あれこれ予想外のことが起こるもんなんだろうか。
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