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.第4章 高校3年
84 花火大会(4)
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とはいえ、花火が始まる頃になると、私はかなり後悔していた。
座って見られるようなスペースはなかったから、みんな並んで立ち見だ。ただ立っているだけでも、少し重心がぐらつけば足に痛みが走って辟易した。
やせ我慢なんてするんじゃなかった。素直に痛いと言えばよかった。
いや、そもそも家を出るときにらカッコつけずにビーサンにすればよかったのかもしれない。もしくは祖母のアドバイス通り、代わりの靴を持ってきておけば……
臨場感ある花火の爆発音を聞き、空に色が光るたび大喜びする小夏と勝巳くんの横で、内心は痛む足が気になって仕方ない。
これじゃせっかくの花火もだいなしだ。
自分にあきれ返るけれど、今さらどうしようもない。私ははやく花火が終わるよう祈った。そして、帰りには行きのようなハプニングがないように、人にぶつかられないように――
じくじくと痛む足の甲は、たぶん、いや間違いなく、皮がむけて出血している。
花火を見上げながらも、頭では、お風呂に入るとしみるだろうなぁ……なんて、ついつい気が逸れてしまった。
最後の花火がひときわ華やかに空に広がった。時間差で夜空に花咲く光と音。わぁ、と歓声が挙がる。小夏も嬉しそうに手を叩く。
「すごい、綺麗だね! 礼奈!」
「うん……」
人混みの暑さのせいだけでなく、痛みで変な汗をかいている。
私の様子がおかしいと気づいたのは慶次郎だった。
「……橘、どうかしたのか?」
私は慌てて首を振り、取り繕う。
「な、何が? 何でもないよ」
「……そうか?」
慶次郎が眉を寄せる。
花火が終わったので、周りの人たちが駅に向かって動き始めた。ゆっくり進んでいく人波に、私たちも歩き始める。
歩くとなると、一層足の痛みを強く感じた。違うことに意識をむけようとするけれど、ひりひりと焼けつくような痛みに顔がひきつる。
「おい」と慶次郎が私の手を引いた。
「け、慶次郎……!」
「あれ、慶ちゃん?」
慶次郎はふくれっ面で、私を人波の外に引っ張っていく。小夏と勝巳くんが不思議そうにそれに従った。
「ね、ちょっ……慶次郎ってば……!」
道の端までやってきて、慶次郎はようやく立ち止まった。とたんにまた足の痛みが強くなる。引っ張られて歩いているときは混乱で気が散っていたから、痛みに鈍感になっていたらしい。
「足、痛いんだろ。無理すんな」
むすっとした慶次郎はそう言って黙る。ついてきた小夏たちが私たちを見比べた。
「え? どうかしたの? 礼奈」
「あ……えと……」
小夏に問われて苦笑する。もう隠す必要もないだろう。
「鼻緒が擦れて……歩くと痛くて」
「え! 大丈夫!?」
小夏がとたんに心配そうな顔をした。
「絆創膏絆創膏! 誰か持ってないの?」
「……ふっふっふ……」
得意げに笑ったのは勝巳くんだ。みんなの視線が勝巳くんに向く。
「こんなこともあろうかと!じゃじゃーん……」
「いいからとっとと出せ」
もったいぶった勝巳くんに、小夏と慶次郎のツッコミが重なる。勝巳くんは寂しそうに唇を尖らせて、「はーい」と荷物から絆創膏を取り出した。と思うや、慶次郎がそれを奪い取るようにしてしゃがみ込む。
私は慌てた。
「えっ、い、いいよ! 自分でやるよ!」
「できねーだろ、この人込みだし、座れるとこねぇし。ほら、足出せ。鼻緒踏む感じで下駄の上に乗せろ」
「で、でも足汚いし」
「いーからはやくしろ。足引っつかまれたいか」
絆創膏の封を切りながら言う慶次郎に言い負かされ、観念して言われたとおり足を下駄の上に置く。
慶次郎は患部を見て眉を寄せた。
「うっわ痛そー」
うげ、やっぱり見てもそんな感じ?
「……お風呂、しみるかな……」
「痛いだろうな」
「ううう……」
慶次郎は言いながら絆創膏を張ってくれた。そのときの擦れる刺激にも痛んで顔が歪む。
「こっちの足だけか?」
「……両方です……」
無言で促され、もう一方の足も出す。
処置を終えると、慶次郎が立ち上がった。
「お前、ご家族が迎えに来てくれるんだったっけ」
「うん……おじいちゃん」
「じゃあ電話しろ。近くまで迎えに来てもらえ。足痛めたことも言えよ」
「……はーい……」
てきぱき指示を出される。ここは大人しく従うしかない。
私は祖父母宅に電話をして、今いる場所と状況を知らせた。
「向こうの通りのコンビニの前で、って。ここじゃ人がすごいだろうからって」
「そうか」
階次郎がため息をつく。
「じゃあ、移動するか。……この人波を横断するのも骨が折れそうだけどな」
前を流れていく人波を見つめて、私はうなだれた。
「あの……ごめんね……」
「ああ?」
慶次郎は呆れたように私を見下ろすと、またため息をつく。
「どういう意味で謝ってんのか知らないけど、そういうのは我慢しないではやく言え。その方が結果的にみんなのためだ」
「……はい……」
意気消沈した私をフォローすべく、小夏が「慶ちゃんてば、言い方」と唇を尖らせている。
慶次郎はちらりと小夏を睨みつけた後、「行くぞ」とまた私の手首を掴んだ。
「け、慶次郎。一人で歩けーー」
「人とぶつかったらまた足痛むだろ。いいから来い」
進む私たちを見ながら、小夏と勝巳くんが後ろから「おっとこまえー」「やっぱイケメンは違うねー」と茶化す。慶次郎はあきらかに聞こえていたけど、完全に無視を決め込んでいるらしい。
私の腕を引っ張って仏頂面で進む慶次郎を見ながら、私は苦笑した。
謝らなきゃいけないのはむしろ、あーちゃんに対して、かもなぁ。
なんて。
座って見られるようなスペースはなかったから、みんな並んで立ち見だ。ただ立っているだけでも、少し重心がぐらつけば足に痛みが走って辟易した。
やせ我慢なんてするんじゃなかった。素直に痛いと言えばよかった。
いや、そもそも家を出るときにらカッコつけずにビーサンにすればよかったのかもしれない。もしくは祖母のアドバイス通り、代わりの靴を持ってきておけば……
臨場感ある花火の爆発音を聞き、空に色が光るたび大喜びする小夏と勝巳くんの横で、内心は痛む足が気になって仕方ない。
これじゃせっかくの花火もだいなしだ。
自分にあきれ返るけれど、今さらどうしようもない。私ははやく花火が終わるよう祈った。そして、帰りには行きのようなハプニングがないように、人にぶつかられないように――
じくじくと痛む足の甲は、たぶん、いや間違いなく、皮がむけて出血している。
花火を見上げながらも、頭では、お風呂に入るとしみるだろうなぁ……なんて、ついつい気が逸れてしまった。
最後の花火がひときわ華やかに空に広がった。時間差で夜空に花咲く光と音。わぁ、と歓声が挙がる。小夏も嬉しそうに手を叩く。
「すごい、綺麗だね! 礼奈!」
「うん……」
人混みの暑さのせいだけでなく、痛みで変な汗をかいている。
私の様子がおかしいと気づいたのは慶次郎だった。
「……橘、どうかしたのか?」
私は慌てて首を振り、取り繕う。
「な、何が? 何でもないよ」
「……そうか?」
慶次郎が眉を寄せる。
花火が終わったので、周りの人たちが駅に向かって動き始めた。ゆっくり進んでいく人波に、私たちも歩き始める。
歩くとなると、一層足の痛みを強く感じた。違うことに意識をむけようとするけれど、ひりひりと焼けつくような痛みに顔がひきつる。
「おい」と慶次郎が私の手を引いた。
「け、慶次郎……!」
「あれ、慶ちゃん?」
慶次郎はふくれっ面で、私を人波の外に引っ張っていく。小夏と勝巳くんが不思議そうにそれに従った。
「ね、ちょっ……慶次郎ってば……!」
道の端までやってきて、慶次郎はようやく立ち止まった。とたんにまた足の痛みが強くなる。引っ張られて歩いているときは混乱で気が散っていたから、痛みに鈍感になっていたらしい。
「足、痛いんだろ。無理すんな」
むすっとした慶次郎はそう言って黙る。ついてきた小夏たちが私たちを見比べた。
「え? どうかしたの? 礼奈」
「あ……えと……」
小夏に問われて苦笑する。もう隠す必要もないだろう。
「鼻緒が擦れて……歩くと痛くて」
「え! 大丈夫!?」
小夏がとたんに心配そうな顔をした。
「絆創膏絆創膏! 誰か持ってないの?」
「……ふっふっふ……」
得意げに笑ったのは勝巳くんだ。みんなの視線が勝巳くんに向く。
「こんなこともあろうかと!じゃじゃーん……」
「いいからとっとと出せ」
もったいぶった勝巳くんに、小夏と慶次郎のツッコミが重なる。勝巳くんは寂しそうに唇を尖らせて、「はーい」と荷物から絆創膏を取り出した。と思うや、慶次郎がそれを奪い取るようにしてしゃがみ込む。
私は慌てた。
「えっ、い、いいよ! 自分でやるよ!」
「できねーだろ、この人込みだし、座れるとこねぇし。ほら、足出せ。鼻緒踏む感じで下駄の上に乗せろ」
「で、でも足汚いし」
「いーからはやくしろ。足引っつかまれたいか」
絆創膏の封を切りながら言う慶次郎に言い負かされ、観念して言われたとおり足を下駄の上に置く。
慶次郎は患部を見て眉を寄せた。
「うっわ痛そー」
うげ、やっぱり見てもそんな感じ?
「……お風呂、しみるかな……」
「痛いだろうな」
「ううう……」
慶次郎は言いながら絆創膏を張ってくれた。そのときの擦れる刺激にも痛んで顔が歪む。
「こっちの足だけか?」
「……両方です……」
無言で促され、もう一方の足も出す。
処置を終えると、慶次郎が立ち上がった。
「お前、ご家族が迎えに来てくれるんだったっけ」
「うん……おじいちゃん」
「じゃあ電話しろ。近くまで迎えに来てもらえ。足痛めたことも言えよ」
「……はーい……」
てきぱき指示を出される。ここは大人しく従うしかない。
私は祖父母宅に電話をして、今いる場所と状況を知らせた。
「向こうの通りのコンビニの前で、って。ここじゃ人がすごいだろうからって」
「そうか」
階次郎がため息をつく。
「じゃあ、移動するか。……この人波を横断するのも骨が折れそうだけどな」
前を流れていく人波を見つめて、私はうなだれた。
「あの……ごめんね……」
「ああ?」
慶次郎は呆れたように私を見下ろすと、またため息をつく。
「どういう意味で謝ってんのか知らないけど、そういうのは我慢しないではやく言え。その方が結果的にみんなのためだ」
「……はい……」
意気消沈した私をフォローすべく、小夏が「慶ちゃんてば、言い方」と唇を尖らせている。
慶次郎はちらりと小夏を睨みつけた後、「行くぞ」とまた私の手首を掴んだ。
「け、慶次郎。一人で歩けーー」
「人とぶつかったらまた足痛むだろ。いいから来い」
進む私たちを見ながら、小夏と勝巳くんが後ろから「おっとこまえー」「やっぱイケメンは違うねー」と茶化す。慶次郎はあきらかに聞こえていたけど、完全に無視を決め込んでいるらしい。
私の腕を引っ張って仏頂面で進む慶次郎を見ながら、私は苦笑した。
謝らなきゃいけないのはむしろ、あーちゃんに対して、かもなぁ。
なんて。
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