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第二章 ふくらむつぼみ
76 ポケットティッシュ
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仕事に忙殺されている間にも、クリスマスが近づいて来る。休日に出勤した私は、午後まだ日のあるうちに会社を出た。自宅の最寄り駅につくと、出勤している咲也のために、たまには夕飯を準備してあげようと駅前の食料品店へ足を伸ばす。
改札を出て店へ入る手前で、何かのキャンペーンブースの前を通った。差し出されたポケットティッシュを何も考えずに受け取ってコートのポケットにつっこみ、店に入ってカゴを手にする。
夕飯、何がいいかなぁ。寒いからやっぱり鍋?
考えながら店に入ると、出来合いのおでんが目に留まる。これなら楽だし温まるな、とそれを手にしたら、関東では珍しい具が目に留まった。餃子巻きといって、ちくわの中に餃子が入っているようなものだ。私は懐かしさにそれを手に取り、うきうきと会計へ向かった。
帰宅して、ほとんど温めるだけのおでんを作り、ぎょうざ巻きや追加の具も入れてご飯を炊くと、咲也が帰ってきた。
「ただいまぁ。おでん?いい匂い」
「うん、出来合いのだけど。ぎょうざ巻きも買ったよ」
「ぎょうざ巻き?」
「福岡ではメジャーなんだけど。ちくわの中にぎょうざが入ってるようなやつ」
「そんなのあるんだ」
咲也は言いながらコートとジャケットを脱ぎ、一度脱衣所へ向かって部屋着に着替えてからキッチンへ戻ってきた。気のおけない関係であっても、咲也は私に無駄に素肌をさらすことはない。私の方がずぼらなくらいで、ときどき怒られるのだが。
「いただきます」
二人で卓につき、ご飯を食べ始める。
「身体があったまるねぇ」
「外寒かった?」
「うん、寒かった」
言いながら食べていると、咲也があ、と鼻を押さえた。
「鼻水出る。ティッシュティッシュ」
「ああ、待ってーーはい」
私はコートのポケットに入れていたティッシュを咲也に渡した。受け取った咲也は、そこから一枚取り出して鼻に当てる。
「気温差で出てきたんだね」
「そうみたい。ーーあれ、これ」
「駅で配ってたよ。何かのキャンペーンだったみたいだけど」
咲也はポケットティッシュの広告に視線を落としていたが、私の言葉を聞くと、曖昧に微笑んだ。
「ああ、そう」
「うん。ーー何だった?」
「いや、別に」
咲也は言って、ティッシュをテーブルに置くと、食べようと言って箸を進めた。私もあえてそれ以上追求することもなく、また食事を再開する。
「これ、ぎょうざ巻き?」
「そうそう」
咲也は一口噛みきって、咀嚼すると目を輝かせた。
「おいしい。初めて食べた」
「関東じゃあんまり見ないよね」
咲也があまりに嬉しそうなので、私の分も譲ってあげる。咲也は笑いながらお礼を言った。
「あともう少しでクリスマスだねぇ」
「そうだね、アキちゃんの嫌いな」
「まあね」
咲也の言葉に、私は笑った。
「でも、せっかくだからデートでもしてみる?」
「あはは、いいかもね。大体この時期って、デートにちょうどいい映画もやるよね」
「ああ、ラブストーリーとかね」
「そうそう」
二人で顔を見合わせてまた笑う。
そうしていると、不思議とクリスマスが楽しみになって来る。そんな自分がちょっとだけ単純で、素直になったように感じた。
ーー悪くない。
浮き立つ気持ちと共に、私は思う。
咲也と色んな場所に行き、色んなものを見て、色んなものを食べて、色んな話をするのはーー悪くない。
それを失う可能性については、意識的に考えないことにした。
改札を出て店へ入る手前で、何かのキャンペーンブースの前を通った。差し出されたポケットティッシュを何も考えずに受け取ってコートのポケットにつっこみ、店に入ってカゴを手にする。
夕飯、何がいいかなぁ。寒いからやっぱり鍋?
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