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第二章 ふくらむつぼみ
69 自爆
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「かんぱーい」
がちん、と鈍い音を立ててビールジョッキを合わせると、三人揃ってぐいと煽る。
「ぷっはー。うまっ」
二人よりも長く喉にビールを流し込んでから、私はジョッキを机に置いた。
「相変わらず色気の欠片もねぇな」
「阿久津先輩の言う色気って何ですかね」
「とりあえず乾杯のビールを一気に半分飲み干すことでないのは確かだ」
阿久津さんが言いながらまた一口ビールを飲んだ。ジャケットを早々に脱いだ阿久津さんの、肘下までまくったワイシャツの袖口から手首までの硬さについつい目がいく。男の人の腕。
「男の人なら、人によっては色気感じますよね。一気飲み」
それが重いビールジョッキならなおのことだ。
「一気飲みに男らしさ?飲みサーのコールみたいだな」
神崎さんは笑いながらジョッキを傾けた。
「アリだと思いますけどね。一気飲みそのものっていうより、喉仏かもしれないけど」
「あー、なるほどな」
神崎さんはまた笑う。
「確かに女にはない部位だからな」
「ヨーコさんは噛み付きたくなるって言ってましたけど」
「うっわ。噛み付かれてぇー」
「その前にジョーに殺されるぞ」
にやつく阿久津さんに神崎さんが半眼を向けた。
「神崎さんは何とも思わないんですか、ヨーコさん」
神崎さんは一瞬ぎくりとした後で目を反らした。
お?掘り下げたら面白そうな気配。
私は思わずにやりとする。
「そういえば、神崎さん、ヨーコさんとのセクハラ疑惑もあったらしいですね」
私が言うと、神崎さんが心底嫌そうな顔をした。
「お前それどこで……」
「本人から聞きました。受付嬢の出席を取り付けるための餌として財務部の忘年会に参加した神崎さんにベタベタ触ったって」
「餌……」
「阿久津さん笑いすぎでしょ」
「マーシーが餌とか的確すぎる。それ発案者誰?」
「そりゃ山崎財務部長しかいないでしょう」
「山崎部長かぁ。いいね」
「よくねぇよ」
うんざりした顔の神崎さんは言いながらまたジョッキを煽った。
「ヨーコさんって、神崎さんのこと好きですよねぇ」
改めて口にしてみて、実感する。そう、ヨーコさんは神崎さんのことがとーっても、好きなんだろうと思うのだ。夫は別の人なのに。
「やめろって」
神崎さんが嫌そうな顔をするのは、安田さんが絡んで来る要因だからか。
「えー、でも、いいじゃないですか。ヨーコさんみたいな素敵な女性、思わせぶりなこと言われて嫌な気はしないでしょう」
「だからこそ余計たちが悪い」
神崎さんは口にしてからはっとして、ばつが悪そうな顔になった。途端に私と阿久津さんは目を輝かせて互いに目配せをする。
「あ、本音?」
「やっべー。橘女史とジョーには言えねぇな」
「違、そういう意味じゃーー」
取り繕おうとして諦めたらしい。神崎さんは深々と嘆息した。
「だからどうって話じゃねぇだろ。向こうだってそうだよ。あれはあれで夫婦仲いいんだから」
「ほほぅ、なるほどー」
「独身の俺には分からない関係性だなぁ」
「お前らなぁ、他人事だからって面白がりやがって」
「いやぁ、いつも面白いネタを提供いただきありがとうございます」
慇懃に頭を下げると、神崎さんは私の頭を小突いた。ちょっと強めに。
「痛いですー」
「人のことをネタとか言うからだ」
「だってぇ」
私は唇を尖らせながら叩かれたところをさすり、ふと口を閉ざした。
「どうした?」
「いやぁ……」
問われて、首を傾げる。
「神崎さんも、ヨーコさんにドキドキしたりするわけですよね」
神崎さんは何も言わず目を反らした。
「やっぱ、やりてーなー、とか思うんでしょ?」
「露骨過ぎだろ」
「じゃあ、抱いてみたいなー、とか」
「変わんねぇよ」
神崎さんは何とも言えない表情でジョッキに口づける。
明らかに話を終わりにしたがっているのを察しながら、私は一人ごちるように続けた。
「でも、それを実行に移すことは、多分一生ないんですよね」
神崎さんは、飲み物を噴き出しかけてむせた。
「ったりめーだろ」
むせる合間に、投げつけるように言う。
私は神崎さんの方を見ることなく、自分に問うように呟いた。
「どうして、当たり前なんでしょう」
視線はぼんやりとジョッキに添えた自分の手に向いている。
「不倫する人だっているじゃないですか。でも神崎さんとヨーコさんは、そういう関係にならない。それって、道徳感の問題ですか?人のーー後輩の物だから?可愛い妻が悲しむから?それとも……他の理由なんでしょうか」
神崎さんは黙って私の顔を見た。
「結婚って、互いの行動を縛り付けるためにするものですか。ただ一緒に住むだけじゃ、家族になれないんでしょうか」
ふと、思考が飛ぶ。咲也のことを想った。
咲也は今夜、夕飯を一人で食べるんだろう。同棲を始めてからほとんど毎日一緒に摂っていた夕飯。飲んで来る、と連絡した私に、いってらっしゃいと届いた返事を思い出す。次いで、いってきます、いってらっしゃい、おかえり、ただいま。今、互いが自然と口にする言葉と、その穏やかな微笑みを。
「結婚のメリットって何なんだろう。だって、苗字変えるのだって、めんどくさいのに」
神崎さんが苦笑した。確かに面倒だな、と呟く。
「メリットっちゃあ、子どもできたとき混乱しなくて済むとか?あとは税金関係でお得とか?」
「まあそうは言っても、税金も片働きカップルで子供がいるっていう想定だからなぁ。共働きだとそんなに関係ないかもな」
阿久津さんの言葉に神崎さんが応じる。私はさらに口を開いた。
「だいたい、結婚するときには子供が欲しいと思ってたって、実際できるかどうかは別じゃないですか。もし子供ができなかったらーーまあ、別れるカップルもいるでしょうけど、そうじゃないでしょ」
「まあな」
「じゃあ、なんで結婚しようと思ったんですか?」
ぐい、と顔を寄せると、神崎さんがその分後ろに下がる。
「どうしたよ。誰かに何か言われたか?」
「いや、そうじゃないんですけど」
私は我に返って座り直した。確かに自分がどうしてこんなに気にするのかよく分からない。でも気になる。
「神崎さんって、元々割とドライなタイプじゃないですか。いやドライじゃないな。うーんと、結局最終的に懐まで飛び込ませないっていうかーーうーん」
「まあ言いたいことは分かるよ」
神崎さんは言って、懐かしげに笑う。
「色んな奴が近寄って来るから、本気で向き合ってると自分がもたなかったんだよな」
「じゃ、アヤさんは何が違ったんですか?」
「攻めるなぁ。さすが財務部の特攻隊長」
阿久津さんが喉を鳴らすように笑った。神崎さんも笑う。
「違った、というかーー肩の力が抜けたんだよな」
神崎さんは言いながら、小さな嘆息と共にネクタイを少しだけ緩めてボタンを一つ開けた。この人は服装を崩さずにお開きまで飲むこともある。
伏せ目がちに笑いながら、神崎さんは続けた。
「あいつと居ると、面倒くさいしがらみから解放された気分になったというか。それで、今までとらわれていたものをちょっとどけてみたらーー危なっかしくて放っておけなかった」
ーーうわ。
私は咄嗟に視線を神崎さんからジョッキに落とした。顔が赤くなっているのが分かる。訝しんだ神崎さんが目を上げて私の顔を確認するより先に、ジョッキに残っていた半分のビールを一気に飲み干した。
「……おいおい」
「アキ、それは自爆だろ」
呆れ顔の神崎さんと、我関せずと目をそらした阿久津さんがほとんど同時に呟いた。
「くっそー、くっっそぉお」
悔しい。すっごく、すっっごく、悔しい。
神崎さんの惚気に飲まれてしまうだなんて。
ジョッキをドンと勢いよくテーブルに置き、頭を抱えて呻いた私は、顔を上げて店員さんに手を挙げた。
「黒糖焼酎、ロックで二つ!」
「それでこそアキだ」
阿久津さんが満足げな笑い声を立てた。
がちん、と鈍い音を立ててビールジョッキを合わせると、三人揃ってぐいと煽る。
「ぷっはー。うまっ」
二人よりも長く喉にビールを流し込んでから、私はジョッキを机に置いた。
「相変わらず色気の欠片もねぇな」
「阿久津先輩の言う色気って何ですかね」
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それが重いビールジョッキならなおのことだ。
「一気飲みに男らしさ?飲みサーのコールみたいだな」
神崎さんは笑いながらジョッキを傾けた。
「アリだと思いますけどね。一気飲みそのものっていうより、喉仏かもしれないけど」
「あー、なるほどな」
神崎さんはまた笑う。
「確かに女にはない部位だからな」
「ヨーコさんは噛み付きたくなるって言ってましたけど」
「うっわ。噛み付かれてぇー」
「その前にジョーに殺されるぞ」
にやつく阿久津さんに神崎さんが半眼を向けた。
「神崎さんは何とも思わないんですか、ヨーコさん」
神崎さんは一瞬ぎくりとした後で目を反らした。
お?掘り下げたら面白そうな気配。
私は思わずにやりとする。
「そういえば、神崎さん、ヨーコさんとのセクハラ疑惑もあったらしいですね」
私が言うと、神崎さんが心底嫌そうな顔をした。
「お前それどこで……」
「本人から聞きました。受付嬢の出席を取り付けるための餌として財務部の忘年会に参加した神崎さんにベタベタ触ったって」
「餌……」
「阿久津さん笑いすぎでしょ」
「マーシーが餌とか的確すぎる。それ発案者誰?」
「そりゃ山崎財務部長しかいないでしょう」
「山崎部長かぁ。いいね」
「よくねぇよ」
うんざりした顔の神崎さんは言いながらまたジョッキを煽った。
「ヨーコさんって、神崎さんのこと好きですよねぇ」
改めて口にしてみて、実感する。そう、ヨーコさんは神崎さんのことがとーっても、好きなんだろうと思うのだ。夫は別の人なのに。
「やめろって」
神崎さんが嫌そうな顔をするのは、安田さんが絡んで来る要因だからか。
「えー、でも、いいじゃないですか。ヨーコさんみたいな素敵な女性、思わせぶりなこと言われて嫌な気はしないでしょう」
「だからこそ余計たちが悪い」
神崎さんは口にしてからはっとして、ばつが悪そうな顔になった。途端に私と阿久津さんは目を輝かせて互いに目配せをする。
「あ、本音?」
「やっべー。橘女史とジョーには言えねぇな」
「違、そういう意味じゃーー」
取り繕おうとして諦めたらしい。神崎さんは深々と嘆息した。
「だからどうって話じゃねぇだろ。向こうだってそうだよ。あれはあれで夫婦仲いいんだから」
「ほほぅ、なるほどー」
「独身の俺には分からない関係性だなぁ」
「お前らなぁ、他人事だからって面白がりやがって」
「いやぁ、いつも面白いネタを提供いただきありがとうございます」
慇懃に頭を下げると、神崎さんは私の頭を小突いた。ちょっと強めに。
「痛いですー」
「人のことをネタとか言うからだ」
「だってぇ」
私は唇を尖らせながら叩かれたところをさすり、ふと口を閉ざした。
「どうした?」
「いやぁ……」
問われて、首を傾げる。
「神崎さんも、ヨーコさんにドキドキしたりするわけですよね」
神崎さんは何も言わず目を反らした。
「やっぱ、やりてーなー、とか思うんでしょ?」
「露骨過ぎだろ」
「じゃあ、抱いてみたいなー、とか」
「変わんねぇよ」
神崎さんは何とも言えない表情でジョッキに口づける。
明らかに話を終わりにしたがっているのを察しながら、私は一人ごちるように続けた。
「でも、それを実行に移すことは、多分一生ないんですよね」
神崎さんは、飲み物を噴き出しかけてむせた。
「ったりめーだろ」
むせる合間に、投げつけるように言う。
私は神崎さんの方を見ることなく、自分に問うように呟いた。
「どうして、当たり前なんでしょう」
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「不倫する人だっているじゃないですか。でも神崎さんとヨーコさんは、そういう関係にならない。それって、道徳感の問題ですか?人のーー後輩の物だから?可愛い妻が悲しむから?それとも……他の理由なんでしょうか」
神崎さんは黙って私の顔を見た。
「結婚って、互いの行動を縛り付けるためにするものですか。ただ一緒に住むだけじゃ、家族になれないんでしょうか」
ふと、思考が飛ぶ。咲也のことを想った。
咲也は今夜、夕飯を一人で食べるんだろう。同棲を始めてからほとんど毎日一緒に摂っていた夕飯。飲んで来る、と連絡した私に、いってらっしゃいと届いた返事を思い出す。次いで、いってきます、いってらっしゃい、おかえり、ただいま。今、互いが自然と口にする言葉と、その穏やかな微笑みを。
「結婚のメリットって何なんだろう。だって、苗字変えるのだって、めんどくさいのに」
神崎さんが苦笑した。確かに面倒だな、と呟く。
「メリットっちゃあ、子どもできたとき混乱しなくて済むとか?あとは税金関係でお得とか?」
「まあそうは言っても、税金も片働きカップルで子供がいるっていう想定だからなぁ。共働きだとそんなに関係ないかもな」
阿久津さんの言葉に神崎さんが応じる。私はさらに口を開いた。
「だいたい、結婚するときには子供が欲しいと思ってたって、実際できるかどうかは別じゃないですか。もし子供ができなかったらーーまあ、別れるカップルもいるでしょうけど、そうじゃないでしょ」
「まあな」
「じゃあ、なんで結婚しようと思ったんですか?」
ぐい、と顔を寄せると、神崎さんがその分後ろに下がる。
「どうしたよ。誰かに何か言われたか?」
「いや、そうじゃないんですけど」
私は我に返って座り直した。確かに自分がどうしてこんなに気にするのかよく分からない。でも気になる。
「神崎さんって、元々割とドライなタイプじゃないですか。いやドライじゃないな。うーんと、結局最終的に懐まで飛び込ませないっていうかーーうーん」
「まあ言いたいことは分かるよ」
神崎さんは言って、懐かしげに笑う。
「色んな奴が近寄って来るから、本気で向き合ってると自分がもたなかったんだよな」
「じゃ、アヤさんは何が違ったんですか?」
「攻めるなぁ。さすが財務部の特攻隊長」
阿久津さんが喉を鳴らすように笑った。神崎さんも笑う。
「違った、というかーー肩の力が抜けたんだよな」
神崎さんは言いながら、小さな嘆息と共にネクタイを少しだけ緩めてボタンを一つ開けた。この人は服装を崩さずにお開きまで飲むこともある。
伏せ目がちに笑いながら、神崎さんは続けた。
「あいつと居ると、面倒くさいしがらみから解放された気分になったというか。それで、今までとらわれていたものをちょっとどけてみたらーー危なっかしくて放っておけなかった」
ーーうわ。
私は咄嗟に視線を神崎さんからジョッキに落とした。顔が赤くなっているのが分かる。訝しんだ神崎さんが目を上げて私の顔を確認するより先に、ジョッキに残っていた半分のビールを一気に飲み干した。
「……おいおい」
「アキ、それは自爆だろ」
呆れ顔の神崎さんと、我関せずと目をそらした阿久津さんがほとんど同時に呟いた。
「くっそー、くっっそぉお」
悔しい。すっごく、すっっごく、悔しい。
神崎さんの惚気に飲まれてしまうだなんて。
ジョッキをドンと勢いよくテーブルに置き、頭を抱えて呻いた私は、顔を上げて店員さんに手を挙げた。
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