22 / 99
第一章 こちふかば
21 恋する男子と酒豪女子
しおりを挟む
「お詫びって言うなら、また政人さんとの飲み会企画してね」
紅茶を煎れながら、咲也くんがいい笑顔で言った。もう隠す必要もないからすっきりしているんだろう。しっかり恩を作ってしまった私は苦笑するしかない。
「ほんとは昨日返すつもりだったんだけど」
紅茶を蒸らす間に、私にショールを渡し、透明な袋に入ったタオルを大切そうに持つ。神崎さんが、服を拭けと渡したあれだ。
そのタオルをしばらく見つめていたかと思えば、咲也くんがほぅと息を吐き出した。
「ドキドキしたなぁ、あのとき」
紅潮した頬とわずかに伏せられた目。
ーー恋する乙女。
咲也くんの横顔についついその言葉が連想されて、気恥ずかしくなり目を反らした。
「でも、既婚者だよ」
一応、念を押す。
「知ってるよ。ノンケだってのも」
咲也くんが笑う。
「でも見て楽しむのは自由でしょ。ときめき大事だよ」
「ときめきねぇ」
そんなの感じたの、いつが最後だろう。
「え、感じない?ドキドキしない?神崎さん」
私は途端に嫌な顔になった。何も言っていないが、その顔が答えを示していたらしい。咲也くんが苦笑する。
「……感じないんだね、何とも」
「うん全然」
「それは……それで、幸せかも」
私は暖かい紅茶に口をつけながら、唇を尖らせた。
「むしろヨーコさんにドキドキする」
「あああ」
咲也くんが不思議な相槌を打った。
「まあ、それも分かる」
「でも私はレズじゃないよ」
「いや、分かってるって」
私は紅茶を一口飲み干し、ふぅと息をついた。
「あの色気。見惚れる」
「でも触りたいとか、触られたいとか、思わないんでしょ」
「んー、まあね」
頷きつつ、逆の意味を察する。
「……つまり、咲也くんは神崎さんとの身体的な接触が嬉しいわけだ」
「やめてよそういう言い方」
にらみ返して来るけれど、その紅潮した頬で言われても意味がない。恋人の惚気を聞いているような気分になり、ハイハイと手を振った。
「とっとと紅茶飲んで帰りまーす」
「そうだよね、仕事だもんね」
咲也くんは笑った。
「でも、ほんとに二日酔いしないんだ。すごいな」
「まあ、チャンポンして飲んでないし」
首尾一貫、焼酎を飲みつづけた私である。
「酒豪だなぁ」
「一緒に飲んでぐだぐだにならないの、神崎さんくらいなもんだからね」
妻のアヤさんも割と飲める方だが、神崎さんの酒量は計り知れない。とはいえ基本的に彼は洋酒を好むので、私と趣味が合致している訳ではない。
神崎さんとのつき合いが続いているのは、潰れない先輩がいると飲むときに何かと楽だからというのもある。きっと彼もそれを分かっていて、仕方ねぇなぁと言いながらつき合ってくれている。
「そっか、政人さんはお酒、強いんだ。……それはよかった」
「何で?」
「あれで酔い潰れることがあったら……大変だよ」
咲也くんは困ったような笑顔で言った。それが何を示しているのか察して、私は黙って紅茶を口に含んだ。
紅茶を煎れながら、咲也くんがいい笑顔で言った。もう隠す必要もないからすっきりしているんだろう。しっかり恩を作ってしまった私は苦笑するしかない。
「ほんとは昨日返すつもりだったんだけど」
紅茶を蒸らす間に、私にショールを渡し、透明な袋に入ったタオルを大切そうに持つ。神崎さんが、服を拭けと渡したあれだ。
そのタオルをしばらく見つめていたかと思えば、咲也くんがほぅと息を吐き出した。
「ドキドキしたなぁ、あのとき」
紅潮した頬とわずかに伏せられた目。
ーー恋する乙女。
咲也くんの横顔についついその言葉が連想されて、気恥ずかしくなり目を反らした。
「でも、既婚者だよ」
一応、念を押す。
「知ってるよ。ノンケだってのも」
咲也くんが笑う。
「でも見て楽しむのは自由でしょ。ときめき大事だよ」
「ときめきねぇ」
そんなの感じたの、いつが最後だろう。
「え、感じない?ドキドキしない?神崎さん」
私は途端に嫌な顔になった。何も言っていないが、その顔が答えを示していたらしい。咲也くんが苦笑する。
「……感じないんだね、何とも」
「うん全然」
「それは……それで、幸せかも」
私は暖かい紅茶に口をつけながら、唇を尖らせた。
「むしろヨーコさんにドキドキする」
「あああ」
咲也くんが不思議な相槌を打った。
「まあ、それも分かる」
「でも私はレズじゃないよ」
「いや、分かってるって」
私は紅茶を一口飲み干し、ふぅと息をついた。
「あの色気。見惚れる」
「でも触りたいとか、触られたいとか、思わないんでしょ」
「んー、まあね」
頷きつつ、逆の意味を察する。
「……つまり、咲也くんは神崎さんとの身体的な接触が嬉しいわけだ」
「やめてよそういう言い方」
にらみ返して来るけれど、その紅潮した頬で言われても意味がない。恋人の惚気を聞いているような気分になり、ハイハイと手を振った。
「とっとと紅茶飲んで帰りまーす」
「そうだよね、仕事だもんね」
咲也くんは笑った。
「でも、ほんとに二日酔いしないんだ。すごいな」
「まあ、チャンポンして飲んでないし」
首尾一貫、焼酎を飲みつづけた私である。
「酒豪だなぁ」
「一緒に飲んでぐだぐだにならないの、神崎さんくらいなもんだからね」
妻のアヤさんも割と飲める方だが、神崎さんの酒量は計り知れない。とはいえ基本的に彼は洋酒を好むので、私と趣味が合致している訳ではない。
神崎さんとのつき合いが続いているのは、潰れない先輩がいると飲むときに何かと楽だからというのもある。きっと彼もそれを分かっていて、仕方ねぇなぁと言いながらつき合ってくれている。
「そっか、政人さんはお酒、強いんだ。……それはよかった」
「何で?」
「あれで酔い潰れることがあったら……大変だよ」
咲也くんは困ったような笑顔で言った。それが何を示しているのか察して、私は黙って紅茶を口に含んだ。
0
お気に入りに追加
63
あなたにおすすめの小説

【完結】家族にサヨナラ。皆様ゴキゲンヨウ。
くま
恋愛
「すまない、アデライトを愛してしまった」
「ソフィア、私の事許してくれるわよね?」
いきなり婚約破棄をする婚約者と、それが当たり前だと言い張る姉。そしてその事を家族は姉達を責めない。
「病弱なアデライトに譲ってあげなさい」と……
私は昔から家族からは二番目扱いをされていた。いや、二番目どころでもなかった。私だって、兄や姉、妹達のように愛されたかった……だけど、いつも優先されるのは他のキョウダイばかり……我慢ばかりの毎日。
「マカロン家の長男であり次期当主のジェイコブをきちんと、敬い立てなさい」
「はい、お父様、お母様」
「長女のアデライトは体が弱いのですよ。ソフィア、貴女がきちんと長女の代わりに動くのですよ」
「……はい」
「妹のアメリーはまだ幼い。お前は我慢しなさい。下の子を面倒見るのは当然なのだから」
「はい、わかりました」
パーティー、私の誕生日、どれも私だけのなんてなかった。親はいつも私以外のキョウダイばかり、
兄も姉や妹ばかり構ってばかり。姉は病弱だからと言い私に八つ当たりするばかり。妹は我儘放題。
誰も私の言葉を聞いてくれない。
誰も私を見てくれない。
そして婚約者だったオスカー様もその一人だ。病弱な姉を守ってあげたいと婚約破棄してすぐに姉と婚約をした。家族は姉を祝福していた。私に一言も…慰めもせず。
ある日、熱にうなされ誰もお見舞いにきてくれなかった時、前世を思い出す。前世の私は家族と仲良くもしており、色々と明るい性格の持ち主さん。
「……なんか、馬鹿みたいだわ!」
もう、我慢もやめよう!家族の前で良い子になるのはもうやめる!
ふるゆわ設定です。
※家族という呪縛から解き放たれ自分自身を見つめ、好きな事を見つけだすソフィアを応援して下さい!
※ざまあ話とか読むのは好きだけど書くとなると難しいので…読者様が望むような結末に納得いかないかもしれません。🙇♀️でも頑張るます。それでもよければ、どうぞ!
追加文
番外編も現在進行中です。こちらはまた別な主人公です。

結婚30年、契約満了したので離婚しませんか?
おもちのかたまり
恋愛
恋愛・小説 11位になりました!
皆様ありがとうございます。
「私、旦那様とお付き合いも甘いやり取りもしたことが無いから…ごめんなさい、ちょっと他人事なのかも。もちろん、貴方達の事は心から愛しているし、命より大事よ。」
眉根を下げて笑う母様に、一発じゃあ足りないなこれは。と確信した。幸い僕も姉さん達も祝福持ちだ。父様のような力極振りではないけれど、三対一なら勝ち目はある。
「じゃあ母様は、父様が嫌で離婚するわけではないんですか?」
ケーキを幸せそうに頬張っている母様は、僕の言葉にきょとん。と目を見開いて。…もしかすると、母様にとって父様は、関心を向ける程の相手ではないのかもしれない。嫌な予感に、今日一番の寒気がする。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇
20年前に攻略対象だった父親と、悪役令嬢の取り巻きだった母親の現在のお話。
ハッピーエンド・バットエンド・メリーバットエンド・女性軽視・女性蔑視
上記に当てはまりますので、苦手な方、ご不快に感じる方はお気を付けください。

セレナの居場所 ~下賜された側妃~
緑谷めい
恋愛
後宮が廃され、国王エドガルドの側妃だったセレナは、ルーベン・アルファーロ侯爵に下賜された。自らの新たな居場所を作ろうと努力するセレナだったが、夫ルーベンの幼馴染だという伯爵家令嬢クラーラが頻繁に屋敷を訪れることに違和感を覚える。
5年も苦しんだのだから、もうスッキリ幸せになってもいいですよね?
gacchi
恋愛
13歳の学園入学時から5年、第一王子と婚約しているミレーヌは王子妃教育に疲れていた。好きでもない王子のために苦労する意味ってあるんでしょうか。
そんなミレーヌに王子は新しい恋人を連れて
「婚約解消してくれる?優しいミレーヌなら許してくれるよね?」
もう私、こんな婚約者忘れてスッキリ幸せになってもいいですよね?
3/5 1章完結しました。おまけの後、2章になります。
4/4 完結しました。奨励賞受賞ありがとうございました。
1章が書籍になりました。
どうやら夫に疎まれているようなので、私はいなくなることにします
文野多咲
恋愛
秘めやかな空気が、寝台を囲う帳の内側に立ち込めていた。
夫であるゲルハルトがエレーヌを見下ろしている。
エレーヌの髪は乱れ、目はうるみ、体の奥は甘い熱で満ちている。エレーヌもまた、想いを込めて夫を見つめた。
「ゲルハルトさま、愛しています」
ゲルハルトはエレーヌをさも大切そうに撫でる。その手つきとは裏腹に、ぞっとするようなことを囁いてきた。
「エレーヌ、俺はあなたが憎い」
エレーヌは凍り付いた。

【完結】会いたいあなたはどこにもいない
野村にれ
恋愛
私の家族は反乱で殺され、私も処刑された。
そして私は家族の罪を暴いた貴族の娘として再び生まれた。
これは足りない罪を償えという意味なのか。
私の会いたいあなたはもうどこにもいないのに。
それでも償いのために生きている。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる