さくやこの

松丹子

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第一章 こちふかば

16 若干気まずい再会

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 翌週になると私の風邪はすっかり治った。
【復活しました!都合のいい日ある?】
 咲也くんに連絡する。不動産屋なら土日も仕事があるだろうと思っていたところ、予想は当たったらしい。平日の夜を含めていくつか候補が返ってきたが、
【でも、そちらのご都合に合わせます】
 と結ばれていた。その後数分時間を置いて、
【お仲間の皆さんも、もしよければご一緒に】
 とある。
 少し開いた間に、つい言葉の意図を考える。
 二人きりで気まずいということはないように思うのだが、となると変な期待をさせないためだろうか。
 思ったが、単に面白い人たちと思われた可能性もあるので、あまり深く考えないでおこうと、サクッと返信した。
【了解。来れるか聞いてみますー】

「こんばんはー」
「こんばんは」
 咲也くんは会釈すると、私たちの顔を見渡した。
 先手を取るように口を開いたのはヨーコさんだ。
「マーシーは早退して子どもの迎えに行ったで。残念やったな」
 笑みを含んだその声に、咲也くんははっとして肩をすくめる。
 そう、神崎さんは保育園からの呼び出しで急遽早退したのだ。アヤさんの帰宅後、入浴を手伝ってから来れたら来ると言っていたが、無理はするなと言っておいた。変に律儀な人である。
「え、なに。咲也くんも神崎さんのファン?」
 私の言葉に、ヨーコさんが笑い、咲也くんがうろたえた。
 ちなみに安田さんは、一駅隣の自宅に荷物を置くため一度帰宅している。主にヨーコさんの書類らしいが。何かと嬉しそうにパシられている姿を、周りは生温かい目で見ている。
「ファン、というか……」
「ファンやないなら、本気?」
「ちょっと、ヨーコさん」
 私が笑って肩を叩くが、穏やかな微笑を浮かべるその目は本気だ。まれに見る鋭さにギクリとした。
「や、やだなぁ、何を……」
 冗談で流そうと助けを求めるように咲也くんを見ると、困ったような笑顔のまま黙っている。
 何も言わない。その態度が意味するところに思考が追いつきそうになったとき、無駄に明るい声が空気を打ち壊した。
「お待たせしましたー。あれ?何か神妙な感じっすね。どしたんすか?」
「いえ、何でもないです。行きましょ行きましょー」
 あえてなのか天然なのか、空気を読まない安田さんの平常運転に密かに感謝しつつ、私は努めて明るく笑った。
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