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第一章 こちふかば
06 ハイスペックすぎてドン引き
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「お父さんのご飯おいしいんだよー」
ほくほく顔でタッパーを示す悠人くん。やっぱり神崎さんが作ったのかと思いつつ、紙皿を出してタッパーを開く。マリネとマカロニサラダ、おにぎり状にしたちらし寿司。
昨日作ったって言ってたけど、昨夜ってことか。仕事から帰ってこんなん作ったわけ?信じらんない。
ハイスペックな個性は、一定のレベルを越えると、もうそれ以上の感慨が湧かないものらしい。というかむしろ引くわ。なんだこの男。私絶対結婚したくないーーいやそもそも誰とも結婚する気ないけどさ。
いやーでもこの人、アヤさんと結婚できてよかったね。いやマジで。きっと憧れてる女子もさ、近くにいると鬱陶しいと思うよ。この人、割と完璧主義っていうか、自分ができるレベルは当然相手も達成できると思ってるからさ。知らず知らず厭味なんだよね。無自覚だから諦めるときもあるけど、余計腹立つときもある。
そんなことを考えながら眺めていると、神崎さんはおばちゃま方から愛想笑いでビールを受け取っている。こらこら、知らない人から食べ物をもらっちゃいけません、って教えてるんじゃないのか。と内心ツッコミを入れるが何も言わず、生温かく見守ることにする。人の好意を断れない気質も相変わらずだ。
私は神崎さんが持ってきてくれた黒糖焼酎をコップに注ぐ。冷えきっているので自分が持ってきた水筒から白湯を入れた。
「お前、もしかして持ってきたのそれだけ?」
「いや、ちょっとサンドイッチも買ってたんですけど、朝食代わりにつまみ食いしてたら全部食べちゃいました。どうせみんな美味しいもの持ってきてくれるだろうし」
神崎さんは完全に呆れ返っている。
「まあ、暖かい飲み物持ってきたのは正しいと思うけど。……白湯なぁ」
「いや、大正解でしょう、白湯。だいたいのものと割れるじゃないですか」
いやだからその発想がな、と神崎さんは憐れむような目で私を見てくる。その視線にふてくされて顔を反らした。まったく、世間一般的な女子の基準で私を判断するのはやめていただきたい。貴方の奥さんのように、デキるけどフツーの女の幸せを欲してるっていうタイプじゃないんですからね、私は。
心中思いつつ酒をすする。
「くぅー。冷えた身体に染み渡るぅ」
「悠人、健人。こういう人は連れて来るなよ」
「何でですか。いくらでも一緒に飲んであげますよ、お義父さん」
「うわ勘弁。マジで勘弁」
私たち二人の会話を聞いていたのか、後ろで噴き出すのが聞こえた。振り向くと爽やか好青年の咲也くんが笑っている。
「あっ、くだらない話してる場合じゃなかったね。お礼忘れてた。ごめんね、ありがとう。助かったよー」
「悪いね」
私が軽やかに言うと、神崎さんも微笑して咲也くんにお礼を言った。
「いいえ。僕も楽しくなりそうで嬉しいです」
咲也くんは照れ臭そうに微笑んだ。少年のように澄んだ微笑みにほわんとする、のは体内に入った酒のせいか。
「いやー、いいね。君。気に入ったよー」
ぱしぱしと肩をたたくと、咲也くんが笑う。神崎さんが半眼を私に向けているのを感じつつ、気にしない。神崎さんの視線など、いちいち気にしてはいられない。
「仲いいんですね」
「腐れ縁と言ってくれ」
「まあ、長年世話してあげてますからね」
「どっちがだよ」
「あああ、いいんですかそんな反抗的な姿勢で。忘れたい過去もあるんじゃないですか、いろいろ」
またしても始まる幼稚な言い合いに、咲也くんはまた笑った。
「楽しいなぁ。こんなに笑ってるの、いつぶりだろう」
「えー。笑いがないのはよくないなぁ。よーし、笑いの女神江原あきら、今日は君を死ぬほど笑わせてあげよう」
「そんな肩書き初めて聞いたぞ」
「とりあえず神崎さんのやっちまったエピソードから行ってもいいすかね」
「てめぇ殴るぞ」
「やだぁ、お子様の前でー。暴力はんたーい」
「ぶりっ子すんな、気持ち悪い」
神崎さんが心底嫌そうに言うと、ご飯と飲み物に意識が行っていた悠人くんが急に顔を上げた。
「お父さん、ケンカは駄目だよ」
息子の鋭い一言に、神崎さんは言葉を詰まらせた。いやー、将来有望な若者である。私は思わず緩む口元を紙コップで隠した。
ほくほく顔でタッパーを示す悠人くん。やっぱり神崎さんが作ったのかと思いつつ、紙皿を出してタッパーを開く。マリネとマカロニサラダ、おにぎり状にしたちらし寿司。
昨日作ったって言ってたけど、昨夜ってことか。仕事から帰ってこんなん作ったわけ?信じらんない。
ハイスペックな個性は、一定のレベルを越えると、もうそれ以上の感慨が湧かないものらしい。というかむしろ引くわ。なんだこの男。私絶対結婚したくないーーいやそもそも誰とも結婚する気ないけどさ。
いやーでもこの人、アヤさんと結婚できてよかったね。いやマジで。きっと憧れてる女子もさ、近くにいると鬱陶しいと思うよ。この人、割と完璧主義っていうか、自分ができるレベルは当然相手も達成できると思ってるからさ。知らず知らず厭味なんだよね。無自覚だから諦めるときもあるけど、余計腹立つときもある。
そんなことを考えながら眺めていると、神崎さんはおばちゃま方から愛想笑いでビールを受け取っている。こらこら、知らない人から食べ物をもらっちゃいけません、って教えてるんじゃないのか。と内心ツッコミを入れるが何も言わず、生温かく見守ることにする。人の好意を断れない気質も相変わらずだ。
私は神崎さんが持ってきてくれた黒糖焼酎をコップに注ぐ。冷えきっているので自分が持ってきた水筒から白湯を入れた。
「お前、もしかして持ってきたのそれだけ?」
「いや、ちょっとサンドイッチも買ってたんですけど、朝食代わりにつまみ食いしてたら全部食べちゃいました。どうせみんな美味しいもの持ってきてくれるだろうし」
神崎さんは完全に呆れ返っている。
「まあ、暖かい飲み物持ってきたのは正しいと思うけど。……白湯なぁ」
「いや、大正解でしょう、白湯。だいたいのものと割れるじゃないですか」
いやだからその発想がな、と神崎さんは憐れむような目で私を見てくる。その視線にふてくされて顔を反らした。まったく、世間一般的な女子の基準で私を判断するのはやめていただきたい。貴方の奥さんのように、デキるけどフツーの女の幸せを欲してるっていうタイプじゃないんですからね、私は。
心中思いつつ酒をすする。
「くぅー。冷えた身体に染み渡るぅ」
「悠人、健人。こういう人は連れて来るなよ」
「何でですか。いくらでも一緒に飲んであげますよ、お義父さん」
「うわ勘弁。マジで勘弁」
私たち二人の会話を聞いていたのか、後ろで噴き出すのが聞こえた。振り向くと爽やか好青年の咲也くんが笑っている。
「あっ、くだらない話してる場合じゃなかったね。お礼忘れてた。ごめんね、ありがとう。助かったよー」
「悪いね」
私が軽やかに言うと、神崎さんも微笑して咲也くんにお礼を言った。
「いいえ。僕も楽しくなりそうで嬉しいです」
咲也くんは照れ臭そうに微笑んだ。少年のように澄んだ微笑みにほわんとする、のは体内に入った酒のせいか。
「いやー、いいね。君。気に入ったよー」
ぱしぱしと肩をたたくと、咲也くんが笑う。神崎さんが半眼を私に向けているのを感じつつ、気にしない。神崎さんの視線など、いちいち気にしてはいられない。
「仲いいんですね」
「腐れ縁と言ってくれ」
「まあ、長年世話してあげてますからね」
「どっちがだよ」
「あああ、いいんですかそんな反抗的な姿勢で。忘れたい過去もあるんじゃないですか、いろいろ」
またしても始まる幼稚な言い合いに、咲也くんはまた笑った。
「楽しいなぁ。こんなに笑ってるの、いつぶりだろう」
「えー。笑いがないのはよくないなぁ。よーし、笑いの女神江原あきら、今日は君を死ぬほど笑わせてあげよう」
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「やだぁ、お子様の前でー。暴力はんたーい」
「ぶりっ子すんな、気持ち悪い」
神崎さんが心底嫌そうに言うと、ご飯と飲み物に意識が行っていた悠人くんが急に顔を上げた。
「お父さん、ケンカは駄目だよ」
息子の鋭い一言に、神崎さんは言葉を詰まらせた。いやー、将来有望な若者である。私は思わず緩む口元を紙コップで隠した。
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