41 / 126
第一章 ちかづく
41 肉食系後輩男子
しおりを挟む
職場に戻って同僚のお使いを果たし、みんなでと声をかけて大袋のチョコレートを共用テーブルに置いた。みんながThank youと返すのを聞きながら自分のデスクに座る。
午前中のほとんどは、メールチェックと関係各所へ新年の挨拶で終わったので、後回しにしていた次のプロモーションイベントの企画書のファイルを開く。
ーーこれ、俺は担当外れた方がいいんだろうな。
書きかけていたその文書を見ながら、ぼんやり思っていた。
できるだけはやく発ち、いつまでとハッキリしない転勤。
ひとまずは一週間ほど、様子見に行って、長引きそうなら今の家を引き払おう。
まあ、行ってみたらアッサリ帰って来れるかもしれないし。逆に俺じゃ無理だって分かるかもしれないし。
画面を見ながら考えていたら、隣のデスクの後輩、ジョーがこちらを向いた。日本人だが、名前が安田丈なので当然のようにジョーと呼ばれている。正直うらやましい。俺も子供ができたらグローバルに使えてキラキラもしていない名前がつけたいものだ。
ーーそんな予定は全くないが。
「そういえば、マーシー。財務部の忘年会、どうだったんですか?」
ジョーはひょろりとしてこざっぱりした容姿をしているが、目が大きくて童顔だ。好奇心旺盛な目をくるりと開いた笑顔はなかなか愛嬌があり、社内のお姉様方のアイドルでもある。
「ヨーコさんとも話しました?」
そして意外と肉食系男子だ。ついでに年上好き。
今のターゲットは名取さんだが、おっとりしているが故にか、全く手応えがないらしい。むしろアピールに気づいていないのではないか。天然恐るべし。
「話したっていうか……」
ベタベタ触られた。それも結構キワドイところまで。
正直、財務部女子の中で一番危険なのは名取さんだと思ったくらいだ。気づかないうちにベルトに手がかかっていたときには、さすがに肝が冷えた。
「……まあ、酒の席だからな。酔ってたんだろ」
とてもそうは見えなかったのだが、あれで素面だったら怖すぎる。酔っていたのだと思いたい。
思っていると、マイクが笑った。
「女子に囲まれて鼻の下を伸ばしてた、って財務部の奴が言ってたけど。まあひがみだろうね」
俺は引きつった笑顔を返した。
どれだけ必死に自分の身を守ってたと思ってんだ。女ってのはスイッチ入るとエグイんだぞ、いろいろと!
名取さんと姉の笑顔を思い出しながら心中で叫ぶ。
「話した以外の何かがあったんですか?」
ぐいと顔を寄せるジョー。勘弁してくれよ、俺は被害者だ。
「お前だって、イヴの日とっとと帰り支度してただろ。予定あったんじゃないの」
「あれはまあ、遊びみたいなもんで」
最低なことをさらりと口にする。外資系大手でバイリンガルだと、笑ってるだけでめっちゃ女の子寄ってきますよねー、マジ勝ち組!と以前爽やかに笑っていたのを思い出した。
いつか刺されるぞ。って、俺もそう思われてんだな。
人の振り見て我が振り直せ、とはこのことか。
「次回はお前を呼ぶよう推薦しとくよ、山崎部長に」
山崎部長が俺に声をかけたのは、前に一緒に仕事していたからだろう。俺の人気がどうなのかは知らないが、ジョーとて社内での人気はそこそこのはず。そうなれば、山崎部長、ジョー、俺の三人にとってウィンウィンだ。
「ありがとうございます!」
語尾に音符が飛びそうな口調で笑うと、ジョーはまた自分のパソコンに向き合った。
午前中のほとんどは、メールチェックと関係各所へ新年の挨拶で終わったので、後回しにしていた次のプロモーションイベントの企画書のファイルを開く。
ーーこれ、俺は担当外れた方がいいんだろうな。
書きかけていたその文書を見ながら、ぼんやり思っていた。
できるだけはやく発ち、いつまでとハッキリしない転勤。
ひとまずは一週間ほど、様子見に行って、長引きそうなら今の家を引き払おう。
まあ、行ってみたらアッサリ帰って来れるかもしれないし。逆に俺じゃ無理だって分かるかもしれないし。
画面を見ながら考えていたら、隣のデスクの後輩、ジョーがこちらを向いた。日本人だが、名前が安田丈なので当然のようにジョーと呼ばれている。正直うらやましい。俺も子供ができたらグローバルに使えてキラキラもしていない名前がつけたいものだ。
ーーそんな予定は全くないが。
「そういえば、マーシー。財務部の忘年会、どうだったんですか?」
ジョーはひょろりとしてこざっぱりした容姿をしているが、目が大きくて童顔だ。好奇心旺盛な目をくるりと開いた笑顔はなかなか愛嬌があり、社内のお姉様方のアイドルでもある。
「ヨーコさんとも話しました?」
そして意外と肉食系男子だ。ついでに年上好き。
今のターゲットは名取さんだが、おっとりしているが故にか、全く手応えがないらしい。むしろアピールに気づいていないのではないか。天然恐るべし。
「話したっていうか……」
ベタベタ触られた。それも結構キワドイところまで。
正直、財務部女子の中で一番危険なのは名取さんだと思ったくらいだ。気づかないうちにベルトに手がかかっていたときには、さすがに肝が冷えた。
「……まあ、酒の席だからな。酔ってたんだろ」
とてもそうは見えなかったのだが、あれで素面だったら怖すぎる。酔っていたのだと思いたい。
思っていると、マイクが笑った。
「女子に囲まれて鼻の下を伸ばしてた、って財務部の奴が言ってたけど。まあひがみだろうね」
俺は引きつった笑顔を返した。
どれだけ必死に自分の身を守ってたと思ってんだ。女ってのはスイッチ入るとエグイんだぞ、いろいろと!
名取さんと姉の笑顔を思い出しながら心中で叫ぶ。
「話した以外の何かがあったんですか?」
ぐいと顔を寄せるジョー。勘弁してくれよ、俺は被害者だ。
「お前だって、イヴの日とっとと帰り支度してただろ。予定あったんじゃないの」
「あれはまあ、遊びみたいなもんで」
最低なことをさらりと口にする。外資系大手でバイリンガルだと、笑ってるだけでめっちゃ女の子寄ってきますよねー、マジ勝ち組!と以前爽やかに笑っていたのを思い出した。
いつか刺されるぞ。って、俺もそう思われてんだな。
人の振り見て我が振り直せ、とはこのことか。
「次回はお前を呼ぶよう推薦しとくよ、山崎部長に」
山崎部長が俺に声をかけたのは、前に一緒に仕事していたからだろう。俺の人気がどうなのかは知らないが、ジョーとて社内での人気はそこそこのはず。そうなれば、山崎部長、ジョー、俺の三人にとってウィンウィンだ。
「ありがとうございます!」
語尾に音符が飛びそうな口調で笑うと、ジョーはまた自分のパソコンに向き合った。
0
お気に入りに追加
390
あなたにおすすめの小説
極悪家庭教師の溺愛レッスン~悪魔な彼はお隣さん~
恵喜 どうこ
恋愛
「高校合格のお礼をくれない?」
そう言っておねだりしてきたのはお隣の家庭教師のお兄ちゃん。
私よりも10歳上のお兄ちゃんはずっと憧れの人だったんだけど、好きだという告白もないままに男女の関係に発展してしまった私は苦しくて、どうしようもなくて、彼の一挙手一投足にただ振り回されてしまっていた。
葵は私のことを本当はどう思ってるの?
私は葵のことをどう思ってるの?
意地悪なカテキョに翻弄されっぱなし。
こうなったら確かめなくちゃ!
葵の気持ちも、自分の気持ちも!
だけど甘い誘惑が多すぎて――
ちょっぴりスパイスをきかせた大人の男と女子高生のラブストーリーです。
元カノと復縁する方法
なとみ
恋愛
「別れよっか」
同棲して1年ちょっとの榛名旭(はるな あさひ)に、ある日別れを告げられた無自覚男の瀬戸口颯(せとぐち そう)。
会社の同僚でもある二人の付き合いは、突然終わりを迎える。
自分の気持ちを振り返りながら、復縁に向けて頑張るお話。
表紙はまるぶち銀河様からの頂き物です。素敵です!
推活♡指南〜秘密持ちVtuberはスパダリ社長の溺愛にほだされる〜
湊未来
恋愛
「同じファンとして、推し活に協力してくれ!」
「はっ?」
突然呼び出された社長室。総務課の地味メガネこと『清瀬穂花(きよせほのか)』は、困惑していた。今朝落とした自分のマスコットを握りしめ、頭を下げる美丈夫『一色颯真(いっしきそうま)』からの突然の申し出に。
しかも、彼は穂花の分身『Vチューバー花音』のコアなファンだった。
モデル顔負けのイケメン社長がヲタクで、自分のファン!?
素性がバレる訳にはいかない。絶対に……
自分の分身であるVチューバーを推すファンに、推し活指南しなければならなくなった地味メガネOLと、並々ならぬ愛を『推し』に注ぐイケメンヲタク社長とのハートフルラブコメディ。
果たして、イケメンヲタク社長は無事に『推し』を手に入れる事が出来るのか。
恋煩いの幸せレシピ ~社長と秘密の恋始めます~
神原オホカミ【書籍発売中】
恋愛
会社に内緒でダブルワークをしている芽生は、アルバイト先の居酒屋で自身が勤める会社の社長に遭遇。
一般社員の顔なんて覚えていないはずと思っていたのが間違いで、気が付けば、クビの代わりに週末に家政婦の仕事をすることに!?
美味しいご飯と家族と仕事と夢。
能天気色気無し女子が、横暴な俺様社長と繰り広げる、お料理恋愛ラブコメ。
※注意※ 2020年執筆作品
◆表紙画像は簡単表紙メーカー様で作成しています。
◆無断転写や内容の模倣はご遠慮ください。
◆大変申し訳ありませんが不定期更新です。また、予告なく非公開にすることがあります。
◆文章をAI学習に使うことは絶対にしないでください。
◆カクヨムさん/エブリスタさん/なろうさんでも掲載してます。
あまやかしても、いいですか?
藤川巴/智江千佳子
恋愛
結婚相手は会社の王子様。
「俺ね、ダメなんだ」
「あーもう、キスしたい」
「それこそだめです」
甘々(しすぎる)男子×冷静(に見えるだけ)女子の
契約結婚生活とはこれいかに。
ズボラ上司の甘い罠
松丹子
恋愛
小松春菜の上司、小野田は、無精髭に瓶底眼鏡、乱れた髪にゆるいネクタイ。
仕事はできる人なのに、あまりにももったいない!
かと思えば、イメチェンして来た課長はタイプど真ん中。
やばい。見惚れる。一体これで仕事になるのか?
上司の魅力から逃れようとしながら逃れきれず溺愛される、自分に自信のないフツーの女子の話。になる予定。
隠れオタクの女子社員は若社長に溺愛される
永久保セツナ
恋愛
【最終話まで毎日20時更新】
「少女趣味」ならぬ「少年趣味」(プラモデルやカードゲームなど男性的な趣味)を隠して暮らしていた女子社員・能登原こずえは、ある日勤めている会社のイケメン若社長・藤井スバルに趣味がバレてしまう。
しかしそこから二人は意気投合し、やがて恋愛関係に発展する――?
肝心のターゲット層である女性に理解できるか分からない異色の女性向け恋愛小説!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる