モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

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第一章 ちかづく

40 GOOD LUCK

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 デスクに戻った俺は、何となく疲れを感じながら椅子に腰を下ろした。
 ふと、デスク上に置いたままにしていた味気ない紙袋が目に入る。
 そういえば、まだ今日は橘を見かけていない。
「マーシー、なんか疲れてる?」
 言いながらコーヒーをデスクに置いてくれたのは、チーフでイギリス出身のクリス。金髪碧眼の大柄な女性で、下手な男より背が高い。
 イギリス在住の彼氏と超遠距離恋愛中の彼女は、イギリスに異動希望を出していて、帰国できたら結婚する予定らしい。
 姐御肌で、細かい点によく気づく、頼れる存在だ。
「ちょっとね。最近、なんだか想定外のことが多くて」
「それは、仕事で?それともプライベートで?」
 なかなか確信をつく質問に、俺は苦笑を返す。
「両方だな」
「ふぅん」
 クリスは自分のカップに口をつけながら、俺のデスクに軽く寄りかかる。
「マーシーって、振り回されるほど何かに執着しないタイプだと思ったけど。そうでもないのね」
 俺はますます苦笑を強くした。
「俺もそう思ってたよ」
 クリスは楽しそうに笑った。
「いいじゃない、それが生きるってことよ。グッドラック、マーシー」
「君もね、クリス」
 返しながら、同じ励ましの言葉を隼人にも言われたな、と思い出す。
 クリスが自分のデスクに戻ると、彼女がいれてくれたコーヒーを手に取った。
 機械でドリップしたコーヒーは、苦味と雑味が強い。
 その苦味を口の中で転がしながら、俺はパソコンを開いた。
 パソコンのログイン状況を見ると、橘のそれは在席を示す緑になっている。
 社内チャットを使ってメッセージを送ろうか迷ったが、やめた。
 コーヒーを全て飲みきると、マイクと同僚に声をかける。
「ちょっとコンビニ行ってきます。何かいるものある人?」
 同僚から、タバコとペットボトル飲料のリクエストを承ると、コートを羽織って外に出た。

 コンビニで同僚の飲み物をカゴに入れ、ついでにみんなに差し入れようと大袋のチョコレート菓子をほうり込む。
 タバコは会計のときにレジに声をかけるので後にするとして、小さく設置されている、ちょっとした手土産コーナーで立ち止まった。
 クッキーやパウンドケーキ、せんべいなどが並んでいるが、どれもピンと来ない。
 近くの店に行き直すかと思ったとき、小ぶりで割としゃれた包みに目が留まった。コーヒー豆を色とりどりのチョコレートでコーティングしてあるお菓子のようだ。
 それを一つ手に取り、会計に向かう。
 まあ、改まったもの渡しても恐縮するだろうし。コンビニで買ったなら気軽に受け取れるだろ。
 何か自分への言い訳じみていることには、気づかないふりをした。
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