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第一章 ちかづく
38 弟の願い
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横浜で姉親子と別れ、俺と隼人は二人で東京まで隣り合って座って帰った。
大晦日といい今日といい、隼人とこんなにゆっくり話すのはいつ以来だろう。
いや、むしろ初めてかもしれない。7歳も離れていると、話題が合うようになったのもここ2、3年の間だ。
貴重な年末年始になった。
「そういえば、お前、新居どうするの。都内?」
「香子ちゃんの実家の近くかなぁ。都内へも出られるし。香子ちゃんは互いの勤め先の真ん中辺りにしようかって言ってくれたけど、市役所勤めなのに、わざわざ市外に住むのもね。……子供できたら実家の近くが絶対いい、って友達も言ってたし」
俺は話を聞きつつ嘆息した。
住居、互いの職場、子供。
「いろいろ考えることあるなぁ、結婚となると」
「言外にめんどくさいって言ってるよ、兄さん」
隼人はくすくす笑った。俺は居心地悪く感じて目を逸らす。
「ま、そんときは我が社のインテリアをよろしく」
俺の勤める会社はインテリアメーカーだ。とは言え、ホテルなど事業者を中心に販売しているので、家庭用の販売はあまりしていないのだが。
「安くしてくれるなら考える」
隼人はにこやかに返した。
車内アナウンスが、次の停車駅を東京と告げる。俺は降りようと腰を浮かした。
「兄さん」
「ん?」
「兄さんには、幸せになってほしいと思ってるよ。俺も、姉さんも、みんな」
俺が何とも言えない顔をしていると、隼人は嬉しそうに笑った。
「気づいてないんだろうけど、橘さんといるときの兄さんの顔、家族といるときの兄さんとあんまり変わらなかったよ」
「それは、家族がいたからだろ」
「そうかなぁ。でも、初めて見たよ、あんなにリラックスしてるの。特に女の人には、いっつも気を張ってるように見えたから」
駅のホームが近づいてきたのを見ながら、俺はふと思ったことを口にする。
「お前も、腹をくくったの?香子ちゃんと会ってから」
隼人は一瞬驚いた後、何か思い出すように苦笑してから、笑った。
「そうだね。自分をごまかそうとしたこともあったけど、結局無駄だった」
「そっか」
ドアが開くので、さすがに腰を上げる。
「Good luck」
隼人が挙げた手を、ハイタッチの要領で軽く叩いた。
「そっちこそ。晴れ舞台楽しみにしてるぞ」
隼人の結婚式は今春の予定だ。
爽やかな笑顔で手を振る隼人を乗せ、電車は走り去った。
隼人が見えなくなると、俺は一息ついてから乗り換え口に向かった。
大晦日といい今日といい、隼人とこんなにゆっくり話すのはいつ以来だろう。
いや、むしろ初めてかもしれない。7歳も離れていると、話題が合うようになったのもここ2、3年の間だ。
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「そういえば、お前、新居どうするの。都内?」
「香子ちゃんの実家の近くかなぁ。都内へも出られるし。香子ちゃんは互いの勤め先の真ん中辺りにしようかって言ってくれたけど、市役所勤めなのに、わざわざ市外に住むのもね。……子供できたら実家の近くが絶対いい、って友達も言ってたし」
俺は話を聞きつつ嘆息した。
住居、互いの職場、子供。
「いろいろ考えることあるなぁ、結婚となると」
「言外にめんどくさいって言ってるよ、兄さん」
隼人はくすくす笑った。俺は居心地悪く感じて目を逸らす。
「ま、そんときは我が社のインテリアをよろしく」
俺の勤める会社はインテリアメーカーだ。とは言え、ホテルなど事業者を中心に販売しているので、家庭用の販売はあまりしていないのだが。
「安くしてくれるなら考える」
隼人はにこやかに返した。
車内アナウンスが、次の停車駅を東京と告げる。俺は降りようと腰を浮かした。
「兄さん」
「ん?」
「兄さんには、幸せになってほしいと思ってるよ。俺も、姉さんも、みんな」
俺が何とも言えない顔をしていると、隼人は嬉しそうに笑った。
「気づいてないんだろうけど、橘さんといるときの兄さんの顔、家族といるときの兄さんとあんまり変わらなかったよ」
「それは、家族がいたからだろ」
「そうかなぁ。でも、初めて見たよ、あんなにリラックスしてるの。特に女の人には、いっつも気を張ってるように見えたから」
駅のホームが近づいてきたのを見ながら、俺はふと思ったことを口にする。
「お前も、腹をくくったの?香子ちゃんと会ってから」
隼人は一瞬驚いた後、何か思い出すように苦笑してから、笑った。
「そうだね。自分をごまかそうとしたこともあったけど、結局無駄だった」
「そっか」
ドアが開くので、さすがに腰を上げる。
「Good luck」
隼人が挙げた手を、ハイタッチの要領で軽く叩いた。
「そっちこそ。晴れ舞台楽しみにしてるぞ」
隼人の結婚式は今春の予定だ。
爽やかな笑顔で手を振る隼人を乗せ、電車は走り去った。
隼人が見えなくなると、俺は一息ついてから乗り換え口に向かった。
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