モテ男とデキ女の奥手な恋

松丹子

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第一章 ちかづく

24 兄と弟(2)

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「お前ってさ、香子ちゃん以外と付き合った子いるの?」
 浮き立った姿を見たことがないので、俺が問うと、隼人は苦笑した。
「うーん。何度か食事行ったりは、したことあるけど……それくらいかな」
「マジで?……いや、馬鹿にしてるわけじゃなくて。女に言い寄られたとき、どうやってスルーしてたの」
 俺は素朴に疑問だったのだ。このスペックで、女が寄って来ないはずがない。どうやってそれをかわしていたというのか。
「必要以上に近づかなければ、相手も分かるよ」
 隼人は答えた。
「その人によって、置くべき距離は違うけど。時々、はっきり言わなきゃわからない人もいるし」
 我が身に置き換えて考えるが、そんなことができそうにもない。つーかいちいちめんどくさい。
 それを察したのか、隼人は続けた。
「兄さん、なんだかんだ言って人付き合いがいいよね。どうでもいいと思ってる人でも、誘われると断らないじゃない」
「お前は断るの?」
「うん。割とはっきり断るよ。興味ないって」
 俺は思わず感心した。ついつい断る理由もないと思ってしまうが、隼人はそうではないらしい。
「女の人ともそうでしょ。フリーのときに誘われると、恋人もいないし、いいか、ってなる」
 鋭い。
 俺は否定出来ず、黙ったまま、空いたグラスにブランデーをつぎ足した。
「俺は、逆にそういう人付き合いできないから。大切にしたいと思う人との関係だけでいっぱいいっぱい」
 耳に痛い。俺は強がってにやりと笑った。
「でも、大切な人、満足させてあげようと思えば、経験も必要じゃないの。結婚って、身体の相性も大事って言うだろ」
 隼人はますます苦笑を濃くする。
「どうかな。でも、お互い比べる経験がなければ、それはそれで大丈夫なような気がしてるよ」
 ーーそれって、もしかして。
「香子ちゃんと、まだ寝てないの?」
 俺は表情が強張るのを感じた。
 隼人はブランデーを口にしながら一瞬躊躇い、ごくわずかに頷く。
「彼女の希望だから。……姉さんもそう言ってたでしょ。婚前にはしないって」
「言ってはいたけど……」
 その件についてのコメントは差し控えて置くことにして、
「お前の部屋行き来してて、そういうことがないなんて。鋼の意思か」
「そういう訳じゃないけど……まあ、堪えてはいる。いろいろと」
 まあ、そうだろう。好きな女と二人でいれば。
「てことは、童貞と処女ってことか」
 隼人はあからさまに嫌そうな顔をした。そういう下世話な言葉で現してほしくないんだろう。
 ただの同期でありながら身体の関係を持った俺と橘。
 婚約までしていながらプラトニックな関係を続けている隼人と香子ちゃん。
「お前と俺、足して二で割ればちょうどいいんだろうになぁ……」
「よくない」
 隼人は唇を尖らせた。年下の弟らしく見える顔だ。
「そしたらきっと香子ちゃんに好きになってもらえなかったよ」
 そういうもんか、と俺は弟のむくれた顔を見て笑った。
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