4 / 126
第一章 ちかづく
04 橘女史とサングリア(2)
しおりを挟む
「弟さんは、どこで出会ったの。彼女と」
橘の問いに、俺は笑った。
「聞いても参考になんねぇぞ」
「そ、そういう訳じゃないわよ」
橘が唇を尖らせる。
「大学時代のサークル仲間だって。一途な弟は、彼女を忘れられなかったそうだ」
俺の答えに、橘が目を丸くした。
「同じ人に育てられて、何でそんなに人間関係の築き方が違うの」
「そりゃあ性格が違うからだろ」
俺があっさり答えるが、橘は首を傾げる。納得行かないようだ。
「神崎と顔立ちが違うとか?」
そんなに気になることか。
呆れながら首を振った。
「いや、似てるな。顔つきは違うけど」
橘はふぅんと言って、グラスを傾けた。
「写真とかないの?」
問われてスマホを取りだし、しばらく画面に触れて答えた。
「成人のときと、こないだの母の日のはある」
「飛びすぎ。でも見せて」
画面をタップして写真を表示すると、橘が覗き込んで来た。
成人の写真は弓道をしているもの。段持ちの新成人は京都の三十三間堂での行事に参加できるらしく、そのときのものだ。
母の日の写真は、家族での集合写真。姉が子連れで帰省したので撮ったが、甥は優しい弟に懐いてその膝上に座っている。
写真はいずれも奈良に住む姉が撮って送ってくれたものだった。
「なんか、不思議」
俺の顔と写真の中の弟を見比べながら、橘は興味深そうに言った。
「神崎から毒気を抜いたらこうなるのかな」
「失礼なやつ」
俺が口を尖らせると、橘は笑う。
「あ、間違った。神崎から、毒気と煩悩を抜いて、硬派にしたらこうなるのかな」
「おいこら。好き勝手言いやがって」
俺はスマホを取り上げた。橘は笑いながらありがとう、と言い、深々と嘆息する。
「でも、そんなに素敵な弟がいるなら、紹介してもらえばよかった」
「お前、年下は無理とか言ってただろ。だいたい、大学時代からの想い人だぞ。敵わないよ」
俺の答えに、橘はうーんと考えてからぼやいた。
「そっかぁ。確かに、顔が神崎で中身が硬派だったら、ドンピシャでタイプだわ。会ってたら忘れられなかったかもしれないし、会わなくて正解だね」
……ん?
今の台詞はつまり……
「俺の顔がタイプってこと?」
俺が問うと、橘は当然のように言った。
「あれ、言ったことなかったっけ。最初会ったときからそう思ってたよ。でも中身がチャラいから、観賞用」
俺はふぅんと言ってハイボールの残りを飲み干し、カウンターの前に置いて声をかけた。
「ウィスキーのロックを、ダブルで」
「飲むねえ」
橘が嬉しそうに言う。俺ほどではないにしろ彼女も飲む方だ。
俺は机に肘をつくと、にやりと笑って言った。
「だって今日、お前の奢りだろ」
「何でよ」
橘が怪訝そうに眉を寄せる。俺は差し出された新しいグラスに口づけながら言った。
「何だか知らねぇが、たまってんだろ。俺の顔見ながら飯食って気を晴らそうってんなら、相応の対価は払っていいんじゃねぇの」
橘は一瞬の間の後、決心したようにサングリアを飲み干した。
カウンターに向かって赤ワインを頼むと、俺の目をまっすぐ見て言う。
「分かった。それなら今日はとことんつき合ってもらうから」
橘の問いに、俺は笑った。
「聞いても参考になんねぇぞ」
「そ、そういう訳じゃないわよ」
橘が唇を尖らせる。
「大学時代のサークル仲間だって。一途な弟は、彼女を忘れられなかったそうだ」
俺の答えに、橘が目を丸くした。
「同じ人に育てられて、何でそんなに人間関係の築き方が違うの」
「そりゃあ性格が違うからだろ」
俺があっさり答えるが、橘は首を傾げる。納得行かないようだ。
「神崎と顔立ちが違うとか?」
そんなに気になることか。
呆れながら首を振った。
「いや、似てるな。顔つきは違うけど」
橘はふぅんと言って、グラスを傾けた。
「写真とかないの?」
問われてスマホを取りだし、しばらく画面に触れて答えた。
「成人のときと、こないだの母の日のはある」
「飛びすぎ。でも見せて」
画面をタップして写真を表示すると、橘が覗き込んで来た。
成人の写真は弓道をしているもの。段持ちの新成人は京都の三十三間堂での行事に参加できるらしく、そのときのものだ。
母の日の写真は、家族での集合写真。姉が子連れで帰省したので撮ったが、甥は優しい弟に懐いてその膝上に座っている。
写真はいずれも奈良に住む姉が撮って送ってくれたものだった。
「なんか、不思議」
俺の顔と写真の中の弟を見比べながら、橘は興味深そうに言った。
「神崎から毒気を抜いたらこうなるのかな」
「失礼なやつ」
俺が口を尖らせると、橘は笑う。
「あ、間違った。神崎から、毒気と煩悩を抜いて、硬派にしたらこうなるのかな」
「おいこら。好き勝手言いやがって」
俺はスマホを取り上げた。橘は笑いながらありがとう、と言い、深々と嘆息する。
「でも、そんなに素敵な弟がいるなら、紹介してもらえばよかった」
「お前、年下は無理とか言ってただろ。だいたい、大学時代からの想い人だぞ。敵わないよ」
俺の答えに、橘はうーんと考えてからぼやいた。
「そっかぁ。確かに、顔が神崎で中身が硬派だったら、ドンピシャでタイプだわ。会ってたら忘れられなかったかもしれないし、会わなくて正解だね」
……ん?
今の台詞はつまり……
「俺の顔がタイプってこと?」
俺が問うと、橘は当然のように言った。
「あれ、言ったことなかったっけ。最初会ったときからそう思ってたよ。でも中身がチャラいから、観賞用」
俺はふぅんと言ってハイボールの残りを飲み干し、カウンターの前に置いて声をかけた。
「ウィスキーのロックを、ダブルで」
「飲むねえ」
橘が嬉しそうに言う。俺ほどではないにしろ彼女も飲む方だ。
俺は机に肘をつくと、にやりと笑って言った。
「だって今日、お前の奢りだろ」
「何でよ」
橘が怪訝そうに眉を寄せる。俺は差し出された新しいグラスに口づけながら言った。
「何だか知らねぇが、たまってんだろ。俺の顔見ながら飯食って気を晴らそうってんなら、相応の対価は払っていいんじゃねぇの」
橘は一瞬の間の後、決心したようにサングリアを飲み干した。
カウンターに向かって赤ワインを頼むと、俺の目をまっすぐ見て言う。
「分かった。それなら今日はとことんつき合ってもらうから」
0
お気に入りに追加
391
あなたにおすすめの小説
Perverse
伊吹美香
恋愛
『高嶺の花』なんて立派なものじゃない
ただ一人の女として愛してほしいだけなの…
あなたはゆっくりと私の心に浸食してくる
触れ合う身体は熱いのに
あなたの心がわからない…
あなたは私に何を求めてるの?
私の気持ちはあなたに届いているの?
周りからは高嶺の花と呼ばれ本当の自分を出し切れずに悩んでいる女
三崎結菜
×
口も態度も悪いが営業成績No.1で結菜を振り回す冷たい同期男
柴垣義人
大人オフィスラブ
恋とキスは背伸びして
葉月 まい
恋愛
結城 美怜(24歳)…身長160㎝、平社員
成瀬 隼斗(33歳)…身長182㎝、本部長
年齢差 9歳
身長差 22㎝
役職 雲泥の差
この違い、恋愛には大きな壁?
そして同期の卓の存在
異性の親友は成立する?
数々の壁を乗り越え、結ばれるまでの
二人の恋の物語
腹黒上司が実は激甘だった件について。
あさの紅茶
恋愛
私の上司、坪内さん。
彼はヤバいです。
サラサラヘアに甘いマスクで笑った顔はまさに王子様。
まわりからキャーキャー言われてるけど、仕事中の彼は腹黒悪魔だよ。
本当に厳しいんだから。
ことごとく女子を振って泣かせてきたくせに、ここにきて何故か私のことを好きだと言う。
マジで?
意味不明なんだけど。
めっちゃ意地悪なのに、かいま見える優しさにいつしか胸がぎゅっとなってしまうようになった。
素直に甘えたいとさえ思った。
だけど、私はその想いに応えられないよ。
どうしたらいいかわからない…。
**********
この作品は、他のサイトにも掲載しています。
【完】あなたから、目が離せない。
ツチノカヲリ
恋愛
入社して3年目、デザイン設計会社で膨大な仕事に追われる金目杏里(かなめあんり)は今日も徹夜で図面を引いていた。共に徹夜で仕事をしていた現場監理の松山一成(まつやまひとなり)は、12歳年上の頼れる男性。直属の上司ではないが金目の入社当時からとても世話になっている。お互い「人として」の好感は持っているものの、あくまで普通の会社の仲間、という間柄だった。ところがある夏、金目の30歳の誕生日をきっかけに、だんだんと二人の距離が縮まってきて、、、。
・全18話、エピソードによってヒーローとヒロインの視点で書かれています。
甘過ぎるオフィスで塩過ぎる彼と・・・
希花 紀歩
恋愛
24時間二人きりで甘~い💕お仕事!?
『膝の上に座って。』『悪いけど仕事の為だから。』
小さな翻訳会社でアシスタント兼翻訳チェッカーとして働く風永 唯仁子(かざなが ゆにこ)(26)は頼まれると断れない性格。
ある日社長から、急ぎの翻訳案件の為に翻訳者と同じ家に缶詰になり作業を進めるように命令される。気が進まないものの、この案件を無事仕上げることが出来れば憧れていた翻訳コーディネーターになれると言われ、頑張ろうと心を決める。
しかし翻訳者・若泉 透葵(わかいずみ とき)(28)は美青年で優秀な翻訳者であるが何を考えているのかわからない。
彼のベッドが置かれた部屋で二人きりで甘い恋愛シミュレーションゲームの翻訳を進めるが、透葵は翻訳の参考にする為と言って、唯仁子にあれやこれやのスキンシップをしてきて・・・!?
過去の恋愛のトラウマから仕事関係の人と恋愛関係になりたくない唯仁子と、恋愛はくだらないものだと思っている透葵だったが・・・。
*導入部分は説明部分が多く退屈かもしれませんが、この物語に必要な部分なので、こらえて読み進めて頂けると有り難いです。
<表紙イラスト>
男女:わかめサロンパス様
背景:アート宇都宮様
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる