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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。

48 連れションは女子文化として認定されているのだろうか。

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「サリーちゃーん」
 デスクに戻ってがっくり脱力した私は、歌うように呼ばれて振り返ると、レイラちゃんが立っていた。
「どうしたの?」
 何となく嫌な予感がしつつ問うと、ニッコリ笑って「トイレ休憩」と返ってきた。デザイン課はフロア違うだろ、えらい遠出のトイレだなと突っ込もうとしたが、ぐいと腕を取られる。
「ちょっと借りまーす」
「行ってらっしゃ~い」
 って佐々マネもなっちゃんもあっさりし過ぎ!マジで!?もうちょっとこう、え?みたいな空気出そうよ!醸し出して行こうよ!
 私は連れションしない主義だから、と言えばいいだろうか。そう思いつつも性急な強引さに飲まれて、部屋の外まで連れ出されてしまった。
「れ、レイラちゃん……」
「メイちゃんから聞いた?フリーダムの大爆笑」
 私の呼びかけを気にせず、レイラちゃんは心から楽しげな笑顔で言った。
 大、爆、笑……?
 私の目が点になる。 
 あの鉄仮面が……大爆笑……?
 表情筋の衰えが心配なあの男が?
 何で?どうして?
「サリーちゃんが何か言ったんでしょ?」
 私は眉を寄せた。
 言ったって……一応、私なりに精一杯のタンカを切ってきたつもりなのであって、笑われる要素が見当たらないのだけれど。
 思って、はっとする。もしかして最後のいーってやつが余計だった?幼稚過ぎてウケた?
 いろいろと可能性を検討していると、私の困惑した表情にまたレイラちゃんが笑った。
「メイちゃん、廊下からサリーちゃんの声がするなと思って様子見に言ったら、もうサリーちゃんはいなかったけど、フリーダムがお腹抱えて笑ってて、一緒にいた尾木くんがポカーンてしてたって」
 何だそれ!
 爆笑する前田、見たかったー!
 ーーって違う違う!
「わ、私一応、怒りをぶつけたつもりだったんだけど」
 被疑者に反省の色は見られないということですね!
 大変心外な結果に拳をわななかせると、レイラちゃんが首を傾げる。
「でも、過呼吸起こすんじゃないかと心配になるくらい笑ってたらしいよ。眼鏡外して涙拭うくらいに」
 レア過ぎるー!
 何故!どうして!その笑いは(やや不本意ながら)私の功績であるというのに、見られなかったのか!
 つーか眼鏡外したとことか見たことない!ないない!
 握った拳の意味が、明確に怒りから悔しさに変わったとき、レイラちゃんはますます首を傾げた。
「何だ、サリーちゃんが狙ってやった訳じゃないのか。一世一代のギャグでも披露したのかと思った」
 狙ってはいないよね。まあ結果的には一世一代のギャグになったのかもしれないけどね。できれば二度とやりたくないやつだよね。
 レイラちゃんがにやりとする。
「メイちゃんが言ってたよ。前田くん、眼鏡外して笑うとすごい可愛い顔してるんだね、初めて知ったー、って」
 私は弾かれたようにレイラちゃんの顔を見た。レイラちゃんが笑う。
「そんな顔しなくても大丈夫だよ。今までも見られなかった顔だもん。サリーちゃんがいなければこれからも笑ったりしないよ、きっと」
 その言葉に、胸を撫で下ろしている自分に気づく。
 同時に、レイラちゃんの含み笑いにも。
 何となく気まずく思ったとき、
「でも、あんまり拗らせない内にね」
「内にーー何?」
 声はついつい気弱になった。レイラちゃんは笑う。
「分かってる癖に。じゃ、また報告待ってまーす」
 ひらりと手を振り、レイラちゃんは去った。
 つったってーー何をどうしろと?
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