期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。

45 基本に立ち戻るのが筋ってもんよ。

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「そういうときは、シンプルな質問を自分に投げかけてみればいいんじゃないの」
 とっ散らかった思考にうんうん言っていた私は、いつだか香子が言っていた言葉を思い出す。
 シンプルな質問。
 脳内でテスト問題を作る自分を想像した。私も早紀と一緒に教職免許を取ったので、テストだって一度は作ったことがある。あれはあれでなかなか悩ましいもんだと、作る側になって初めて気づいた。今となっては、いい思い出である。免許使うこともないので本当にただの思い出だけど。
 ーーQ1 今気になっていることは何ですか。
 ……こういう感じかな。何か変かな。まあいいや、ちょっと続けてみよう。
 うーんと、気になっていること。前田という男について。……なのかな。でも、前田そのものという訳じゃないような気もする。前田と自分の関係について?ううん?なんだかそれもちょっと違う。
 これはあれだな、問題が良くなさそうだ。とりあえず先に進んでみよう、Q2。
 ーーQ2 気になったきっかけは何ですか。
 きっかけ……って残業中のしでかしちゃったアレだよね。その、キスだよね。
 あれ?でもそもそも何であのとき二人になったんだっけ。私が残業に差し入れしたからで、それは前田からのアイスの差し入れがあったからで、そんでもってそれは私が仕事でミスして落ち込んだからで……
 ーーQ3 その人のことが好きですか。
 質問を思い浮かべたところで、私はぶんぶんと首を振った。違う。こんなんじゃ誘導尋問だ。裁判長!誘導尋問です。認めます。検察官は質問に注意してください。分かりました。では質問を変えます。
 ーーその人のことを考えると、どういう気持ちになりますか。
 その質問を自分に投げかけて、ふと気づいた。
 考えてみれば、あれだけ言い合いをしていたのにネガティブイメージがない。ほとんど奇跡みたいだ。言い方が気に食わないとかいろいろあるけど、でも前田の存在を否定するような気持ちには全然ならない。それはきっと前田自身が悪い奴じゃないと分かっているからだ。なんだかんだで助けてくれる。レイラちゃんが言ってた同期会の話だけじゃない、仕事でミスしたときのアイスだってそう。そんな風に、さりげなく、でも確かに、気遣かってくれていた。何かと。彼氏にフラれたことも、気づいてくれていたーー
 ああ、なんてことだろう。ヒントなんていくらでも転がってたのに。前田は私のことをーー好きかどうかはともかく、気にしてくれていたんだろう。ずっと。もしかしたら、研修のときの言い合い以降。きっとそうだ、あんなガチでぶつかり合ったんだから。それを私はすっかり、綺麗さっぱり忘れていて、さぞかしーーさぞかし、呆れたに違いない。呆れて当然だ。
 研修では、互いに互いを傷つけたのだから。
 どこからスタートすればいいんだろう。前田と会ってから、四年が経っている。なんとなくイビツになってしまった私たちの関係は、どこからやり直せばいいんだろう。とりあえず、心を開くところから?分からない。よく分からない。でも、前田は言った。私のことが好きだって。もしかしたら、友人としてのそれかもしれないけど。それでも、歩み寄ってくれようとーー多分、しているのだろうとーー思えなくも、ない。
 回りくどくなるのは許してほしい。だってあいつの思考回路なんて本当によく分からない。ほとんど感情を写さない表情は、万華鏡のようにくるくる変わる私の表情と真逆だ。察しろとしうのに無理がある。
 ーー人間関係の基本は、挨拶です。
 学校の先生がまぶたの裏に浮かんだ。
 そう。挨拶だ。
 おはよう、ごめんね、ありがとう。
 よし、そうだ、そこに立ち戻ろう。
 まずはーー研修のときのことを、ちゃんと謝ろう。
 話は、それからだ。
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