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第二章 本日は前田ワールドにご来場くださり、誠にありがとうございます。
51 Q4 その人のことが、嫌いですか?
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「ーー何、やってるの」
呆れたような前田の声に、はっと顔を上げた。しまった、半分ウトウトしてた。周りの人たちがちらちらこちらを見ているけれど、気にしない。この時たま発動する傍若無人なところがサリーちゃんなのである。えへん。
私は口元にヨダレを垂らしてたりしないか手で確認しながら、パイプ椅子から立ち上がった。
「何って、あんた待ってたに決まってるでしょ」
腰に手を当て、偉そうに胸を張ると、前田は全身の酸素を吐き出すような深い深ーいため息をついた。
と、思うと顔を反らして額に手を当てる。
ふぅーーっ、く。
前田は片手を翳して私から顔を隠し、クスクス笑い始めた。
あっ、貴重な笑顔!
思って覗き込もうとするが、あっさり手で制される。
「システム課の部屋の前に張り込みまでする必要が?」
「あ、あるに決まってるじゃない。大アリよ!」
こちらに向けた前田の目は、先ほどの笑いを隠し切れていない。甘さすら感じるその表情に私は困惑しつつ強がった。
そう、私はフレックス出勤を最大限活用して、前田の出待ち、もとい入り待ちをしていたのである。システム課のドアの前に、パイプ椅子持参で。
前田はやれやれと肩を竦めながら手招きし、オフィス横にあるフリースペースまで移動した。
私を振り向く顔は、平常通りの鉄仮面である。
ち、もうスマイリータイムは終わりか。
内心残念がっていると、
「俺に話でもあるの?」
「そ、そうだけど……あんたはないの?」
「うーん。どうだろう」
前田は珍しく曖昧な言葉で答えた。
「吉田さんの話による、かな」
私は眉を寄せる。
「何それ、私の出方次第ってこと?」
「まあ、だって、俺は言いたいことは言ったし」
「それってすーー」
ほとんど反射的に、前田が私の口を塞いだ。思いの外大きくて温かい手に私の頬が紅潮する。
「何するのよ」
「そっちこそそんな大音量で何言うつもり」
まあ、確かにそれもそうだ。オフィスの真ん前の廊下で口にすべきではなかった。反省反省。
「今夜の、予定は」
まだ頬の熱を感じながら、私が睨みつけるように言うと、前田はふんと鼻を鳴らした。
「俺のこと忘れてたお詫びに何かご馳走してくれるって言うなら行かないこともないけど」
出たー上から目線ー。
さすがにむっとした私は、一応気を使って小さな声で、
「……あんた私のこと好きなんじゃないの」
「吉田さんはキス魔だって社内に広めてもいいの?」
相変わらずの無表情さで前田は首を傾げる。私は舌打ちした。
「隙だらけのあんたが悪い」
「それ、男の台詞じゃないの。しかも痴漢とかそういう」
言われて私は前田を睨みつけた。その目に何の迫力もないのは、自分がよくわかっている。
不意に、前田が笑った。
私はその笑顔に目を奪われる。
ーーねえ。
何でそんなに、優しい目をするの。
ずるい。ずるいずるいずるい。
こんなじゃーーこんな気持ちじゃーー
あんたを嫌いだって、言えない。
そのとき、ちょっとだけ泣きそうになったのは、
切なさじゃなくて悔しさのせいだと、自分に言い聞かせた。
呆れたような前田の声に、はっと顔を上げた。しまった、半分ウトウトしてた。周りの人たちがちらちらこちらを見ているけれど、気にしない。この時たま発動する傍若無人なところがサリーちゃんなのである。えへん。
私は口元にヨダレを垂らしてたりしないか手で確認しながら、パイプ椅子から立ち上がった。
「何って、あんた待ってたに決まってるでしょ」
腰に手を当て、偉そうに胸を張ると、前田は全身の酸素を吐き出すような深い深ーいため息をついた。
と、思うと顔を反らして額に手を当てる。
ふぅーーっ、く。
前田は片手を翳して私から顔を隠し、クスクス笑い始めた。
あっ、貴重な笑顔!
思って覗き込もうとするが、あっさり手で制される。
「システム課の部屋の前に張り込みまでする必要が?」
「あ、あるに決まってるじゃない。大アリよ!」
こちらに向けた前田の目は、先ほどの笑いを隠し切れていない。甘さすら感じるその表情に私は困惑しつつ強がった。
そう、私はフレックス出勤を最大限活用して、前田の出待ち、もとい入り待ちをしていたのである。システム課のドアの前に、パイプ椅子持参で。
前田はやれやれと肩を竦めながら手招きし、オフィス横にあるフリースペースまで移動した。
私を振り向く顔は、平常通りの鉄仮面である。
ち、もうスマイリータイムは終わりか。
内心残念がっていると、
「俺に話でもあるの?」
「そ、そうだけど……あんたはないの?」
「うーん。どうだろう」
前田は珍しく曖昧な言葉で答えた。
「吉田さんの話による、かな」
私は眉を寄せる。
「何それ、私の出方次第ってこと?」
「まあ、だって、俺は言いたいことは言ったし」
「それってすーー」
ほとんど反射的に、前田が私の口を塞いだ。思いの外大きくて温かい手に私の頬が紅潮する。
「何するのよ」
「そっちこそそんな大音量で何言うつもり」
まあ、確かにそれもそうだ。オフィスの真ん前の廊下で口にすべきではなかった。反省反省。
「今夜の、予定は」
まだ頬の熱を感じながら、私が睨みつけるように言うと、前田はふんと鼻を鳴らした。
「俺のこと忘れてたお詫びに何かご馳走してくれるって言うなら行かないこともないけど」
出たー上から目線ー。
さすがにむっとした私は、一応気を使って小さな声で、
「……あんた私のこと好きなんじゃないの」
「吉田さんはキス魔だって社内に広めてもいいの?」
相変わらずの無表情さで前田は首を傾げる。私は舌打ちした。
「隙だらけのあんたが悪い」
「それ、男の台詞じゃないの。しかも痴漢とかそういう」
言われて私は前田を睨みつけた。その目に何の迫力もないのは、自分がよくわかっている。
不意に、前田が笑った。
私はその笑顔に目を奪われる。
ーーねえ。
何でそんなに、優しい目をするの。
ずるい。ずるいずるいずるい。
こんなじゃーーこんな気持ちじゃーー
あんたを嫌いだって、言えない。
そのとき、ちょっとだけ泣きそうになったのは、
切なさじゃなくて悔しさのせいだと、自分に言い聞かせた。
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