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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
18 ランチタイムに再会を果たした爽やかリーマンが癒し系である件について。
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その後も前田には週に二度、打ち合わせで会っているが、二週間経った今になってもジャージを返しそびれたままだ。
仕事と無関係に持って行けばいいだけの話なのだが、基本的に会いたくないのだから仕方ない。 打ち合わせで会うときですら、私は極力奴との会話を避けるべく、できるだけ遠くの席に座ってみたり、打ち合わせが終わったらすぐに去ったりしている。
ーーが、それは私の一方的な努力であって、前田は何か考えている様子はなかった。必要であれば私に話しかけて来るし、必要なければ黙っている。
なんとなく勝手に翻弄されているような気になりながら、それが大変悔しい。大体にしてどうしてこんなに振り回されるのか分からない。けれども、一言でも口を開けば小馬鹿にしたような前田調が始まり、短気な私はついついブチ切れ、周りがたしなめたり笑ったりするのである。気づけばおしどり夫婦とか夫婦漫才とか、ほんといいように言われていて、それがまた私を大変不愉快にさせるのであった。
というわけで、午後にその打ち合わせを控え、私は大変イライラしていた。こういうときは自分を鼓舞するべし!と、昼休みになるやいそいそとコンビニへ足を運び、例の自分へのご褒美的アイスの並ぶ冷凍庫の前で目を輝かせる。
「わ!限定フレーバー、二種類ともある!」
先日撒き散らしたラズベリーチョコと、レモンチーズの二種類だ。既に今季はどちらも別の機会に食べたのだが、期間限定品はこの時期を逃すと次がない可能性が高い。さて今日はどっちにしようかと腕組みをして真剣に考えていると、頭上から声が降って来た。
「両方ともあるね」
はっとして顔を上げると、先日快くアイスを譲ってくれた爽やかリーマンが立っている。私はわたわたと無駄な手の動きをしつつ、口をぱくぱくさせたが、
「せ、先日はどうも」
「どういたしまして」
にこり、と微笑まれてまたどぎまぎする。わが社にはスーツ姿の男性がいないので、それだけでも数割増に見える不思議。制服萌え、コスチューム萌えってあるよね。あるある。とセルフ井戸端会議を心中で繰り広げる。
「あ、あの。お礼に一つ奢ります」
私が喉から手が出るほど欲しがっていたものを譲ってくれた紳士である。お礼せねばと思って提案したのだが、彼は笑った。
「いいよ。ただ譲っただけだから、何か損した訳じゃない」
「え、でも」
いうなれば、アイスを口にする機会という、お金で買えない損をしたはずなのだが。きっと彼は私のように心の狭い人ではないのだろう。穏やかに微笑んだ。
「ご飯はもう食べた?」
「あ、これから何か買って食べようかと……」
「じゃあ、一緒しようよ」
言いながら彼は手近なところにあったカゴを手にし、期間限定フレーバーを二種類カゴの中に入れた。
「これがデザート。で、お昼ご飯は何にする?」
「え……」
私はどう反応してよいやら分からず戸惑った。頬が紅潮しているのが分かる。
「ええと……自分の分は自分で出します」
言ってカゴを取り、アイスを一つ入れ替える。彼はまた爽やかに笑った。
「二種類ともあると、どっちにしようか迷うよね。分け合えば両方食べられるでしょう」
彼の言葉に、私は気恥ずかしくて俯いた。
「迷ってたの、バレてましたか……」
「うん。すごい真剣に考えてたから」
にこにこする笑顔には邪気がない。天使が男性だったらこんな感じかしら。癒される……。
午後に控えているブリザード前田とはえらい差である。そうか、ブリザードに凍りつかないくらい、事前に暖まっておけばいい。ついついそんな妄想をしていると、
「さて、早くしないと昼休み終わっちゃう。何買う?弁当?おにぎり?パン?」
彼はカゴを持ったまま、食事系の陳列棚へ足を運ぶ。私もその後をついて行った。
仕事と無関係に持って行けばいいだけの話なのだが、基本的に会いたくないのだから仕方ない。 打ち合わせで会うときですら、私は極力奴との会話を避けるべく、できるだけ遠くの席に座ってみたり、打ち合わせが終わったらすぐに去ったりしている。
ーーが、それは私の一方的な努力であって、前田は何か考えている様子はなかった。必要であれば私に話しかけて来るし、必要なければ黙っている。
なんとなく勝手に翻弄されているような気になりながら、それが大変悔しい。大体にしてどうしてこんなに振り回されるのか分からない。けれども、一言でも口を開けば小馬鹿にしたような前田調が始まり、短気な私はついついブチ切れ、周りがたしなめたり笑ったりするのである。気づけばおしどり夫婦とか夫婦漫才とか、ほんといいように言われていて、それがまた私を大変不愉快にさせるのであった。
というわけで、午後にその打ち合わせを控え、私は大変イライラしていた。こういうときは自分を鼓舞するべし!と、昼休みになるやいそいそとコンビニへ足を運び、例の自分へのご褒美的アイスの並ぶ冷凍庫の前で目を輝かせる。
「わ!限定フレーバー、二種類ともある!」
先日撒き散らしたラズベリーチョコと、レモンチーズの二種類だ。既に今季はどちらも別の機会に食べたのだが、期間限定品はこの時期を逃すと次がない可能性が高い。さて今日はどっちにしようかと腕組みをして真剣に考えていると、頭上から声が降って来た。
「両方ともあるね」
はっとして顔を上げると、先日快くアイスを譲ってくれた爽やかリーマンが立っている。私はわたわたと無駄な手の動きをしつつ、口をぱくぱくさせたが、
「せ、先日はどうも」
「どういたしまして」
にこり、と微笑まれてまたどぎまぎする。わが社にはスーツ姿の男性がいないので、それだけでも数割増に見える不思議。制服萌え、コスチューム萌えってあるよね。あるある。とセルフ井戸端会議を心中で繰り広げる。
「あ、あの。お礼に一つ奢ります」
私が喉から手が出るほど欲しがっていたものを譲ってくれた紳士である。お礼せねばと思って提案したのだが、彼は笑った。
「いいよ。ただ譲っただけだから、何か損した訳じゃない」
「え、でも」
いうなれば、アイスを口にする機会という、お金で買えない損をしたはずなのだが。きっと彼は私のように心の狭い人ではないのだろう。穏やかに微笑んだ。
「ご飯はもう食べた?」
「あ、これから何か買って食べようかと……」
「じゃあ、一緒しようよ」
言いながら彼は手近なところにあったカゴを手にし、期間限定フレーバーを二種類カゴの中に入れた。
「これがデザート。で、お昼ご飯は何にする?」
「え……」
私はどう反応してよいやら分からず戸惑った。頬が紅潮しているのが分かる。
「ええと……自分の分は自分で出します」
言ってカゴを取り、アイスを一つ入れ替える。彼はまた爽やかに笑った。
「二種類ともあると、どっちにしようか迷うよね。分け合えば両方食べられるでしょう」
彼の言葉に、私は気恥ずかしくて俯いた。
「迷ってたの、バレてましたか……」
「うん。すごい真剣に考えてたから」
にこにこする笑顔には邪気がない。天使が男性だったらこんな感じかしら。癒される……。
午後に控えているブリザード前田とはえらい差である。そうか、ブリザードに凍りつかないくらい、事前に暖まっておけばいい。ついついそんな妄想をしていると、
「さて、早くしないと昼休み終わっちゃう。何買う?弁当?おにぎり?パン?」
彼はカゴを持ったまま、食事系の陳列棚へ足を運ぶ。私もその後をついて行った。
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