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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。
08 いっそなじってください殴ってくださいお願いします。
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「とりあえず先に謝っときますごめんなさい」
「え?何、急に」
みんなで食卓を囲み、いただきますの直後に私が頭を下げると、香子とざっきーが顔を見合わせた。
私は頬をかきながら目線をさまよわせる。
「いやぁ、そのぅ……」
一体何をどう説明したものか。
「企業秘密なので詳しい話はできないのですが」
前置きをして、
「ゲームのキャラクター考えなきゃいけなくて、ざっきー使わせて貰っちゃった!てへっ」
気分としては語尾に星マークをつけてみる。ざっきーはぽかんとしていた。
「は?」
あ、その顔!駄目よ他の女子の前でしたら!
普段落ち着いているざっきーのポカン顔は、女子的にはなかなかの破壊力なのである。私は彼の香子への偏愛に近い溺愛ぷりを知っているので、まあちょっとしたビタミン剤程度に捉えられるけれど。
「お父さんゲームに出るの?」
翔太くんがパンをくわえながら小首を傾ける。可愛さにほだされそうだ。でへへ。
「うーんと、そういう訳じゃないんだけど……私、創作とか経験ないからさぁ」
私が苦笑すると、香子はふぅんと相槌を打った。
「隼人くんだけ?」
おおぅ、鋭いな香子。
「……幸弘と、相ちゃんと……マサトさん」
最後の一人は蚊のなくような声である。香子が噴き出した。
「どんなゲームか、大体想像ついた」
そうだよねぇバランスいいもんねぇあはは。
女子大に入った私と香子は、近隣大学に入った幸弘の紹介でインカレの合唱サークルに入った。相ちゃんもざっきーもそのサークル仲間であり、その妻達も同様だ。つまりうちの代は三組もカップルができちゃった訳なのよ。ま、香子たちは卒業からちょっと時間経ってたけどね。
「……へぇ?兄さんも?」
にこり、とざっきーが笑う。その笑顔に背筋の凍る思いがした。
怖ぇー、マジざっきーの笑顔ブリザード半端ねぇ。これあれでしょ、幸弘がよく浴びてるやつでしょ。よくあいつ堪えられるな。いや、考えてみたら、あいつざっきー大好きだからな、それでカバーできてるのかもしれない。愛って偉大。次、BLモノの企画が来たら使わせてもらおう。殺される覚悟で。
そんなことを考えているのを知ってか知らずか、って知ってるわけないけどさ、香子が楽しそうに笑っている。
「いいじゃない、名前が出る訳でもないし。よかった、サリーのお役に立って」
いつも助けてもらってるからさと笑う姿に、昔感じた棘や強がりはない。ああ大人になったなぁ。何となく置いてけぼりの気分で思う。同じだけ歳を重ねたはずなのに。方や彼氏にフラれて自暴自棄な仕事をし、方や二人の子育てしながら働くワーキングマザーとは。なんか差がついちゃったよね。こうして構ってくれるのがせめてもの救いだけど。
友人の幸せを喜びながらも、ついつい寂しく思えてしまう乙女心なのである。女の三十って微妙なお年頃よね。ほんと。
「じゃあ、発売開始したら一つ持ってきてね」
にこりとざっきーが笑った。おま、分かってるだろそれ、致命的な攻撃だって分かってやってるだろ!やっぱり怖いざっきーこわすぎる。がくぶる。
「一発殴ってもらっていいのでその件は不問にしていただけませんでしょうか」
「嫌だなぁ。いつもお世話になってるサリーちゃん殴るなんてしないよ。大丈夫、ちゃんと定価で買うから。あ、でもゲーム機がないな。相ちゃんちにあるよね、きっと。みんなで相ちゃんちに集まってサリーちゃんの偉業を拝見するとしよう」
そんなことをしたら偉業じゃなくて遺業になりそうである。ていうかねそうとは言えないけど十八禁だよ十八禁。決して十八金ではないよ。つーか男がやるな!いや、やって勝手に萌えるならいいけどあくまで勝手にやっていただきたい。パーティゲームにされては困るのであるだって乙女がひそやかに日々の疲れを癒すためのゲームなのだもの!
頭の中をぐるんぐるんと巡る言い逃れともつかない言葉は口先をついて出るほど決定打になるものでもなく、むしろバレれば更に苦行を追加されかねない。ぐぬぬと喉を鳴らすばかりである。そんな私を見て香子はからりと笑う。
「またサリーが武士みたいになってる」
武士って何だ。両刀使いか。違った二本差しの間違い。両刀使いはまた違う話だわいやん。
「サリーちゃん、がんばってるんだね!」
翔太くんがにこりと笑って言った。その笑顔が眩しい。塗しすぎる。
思わずがっくりと頭を垂れて嘆息した。香子が首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや……私いつのまにこんなに汚れてしまったのだろうと……」
一種の賢者モードである。こんないたいけな子供と比べるのが間違ってるんだけどね。それは分かってるんだけどね。
汚れっちまったかなしみに。ってこのフレーズは何だっけ。私国文学専攻じゃないから分かんなーいサリーちゃんわかんなーい。
「疲れてるみたいね」
香子が苦笑した。
「うん、そうみたい」
どっちかっていうと憑かれてる気がする。何だろうこの身体を包む疲労感。あああれか、ざっきーの呪いか。
「しかしそこでがんばってるねと言う翔太くんが天然タラシとしか思えない」
「うん、私も今から心配してる」
がんばってという応援は、がんばってる人にとっては逆効果。そんなことをこの四歳児はわかっているのかいないのか。どちらにしても末恐ろしい。
「翔太くん、あと十五年したらさぁ、サリーちゃんと結婚してくれる?」
「え?うん、いいよ」
翔太くんは笑った。
「お母さんの次に結婚してあげる」
大人三人が噴き出して、一気に場の空気が和む。やっぱり男子はママが大好きなのねとほんわかした私だったが、ざっきーが丁寧に説明し始めた。
お母さんはお父さんと結婚してるから翔太とは結婚できないよ。え、そうなの?じゃあお父さんとお母さんが結婚しなければいいんじゃない?ダメだよ。お父さんとお母さんは好き合ってるんだもん。でもお母さんと翔太も好き合ってるよ。いやそうだけど違うの。それとは違うの。
段々ムキになっていくざっきーを、香子が微妙な苦笑でなだめるのだった。
「でも、よかった。思ったより元気そうで」
香子は駅まで送ってくれながら言った。子供達がいるとどうしてもゆっくり話ができないので、子供二人はざっきーに預けて出てきたのだ。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん」
香子は微笑んだ。その穏やかな顔に、ああ大人になったなぁ、と他人事のように思う。
「サリーは案外自分の気持ちに鈍感だから」
あんまりがんばりすぎないでね。
私はついつい笑った。どこかで聞いた台詞だなと思ったから。
「それ、香子のことでしょ」
「サリーはそう言うけどさ」
二人で笑いながら、駅までの短い距離を歩いて行った。
「え?何、急に」
みんなで食卓を囲み、いただきますの直後に私が頭を下げると、香子とざっきーが顔を見合わせた。
私は頬をかきながら目線をさまよわせる。
「いやぁ、そのぅ……」
一体何をどう説明したものか。
「企業秘密なので詳しい話はできないのですが」
前置きをして、
「ゲームのキャラクター考えなきゃいけなくて、ざっきー使わせて貰っちゃった!てへっ」
気分としては語尾に星マークをつけてみる。ざっきーはぽかんとしていた。
「は?」
あ、その顔!駄目よ他の女子の前でしたら!
普段落ち着いているざっきーのポカン顔は、女子的にはなかなかの破壊力なのである。私は彼の香子への偏愛に近い溺愛ぷりを知っているので、まあちょっとしたビタミン剤程度に捉えられるけれど。
「お父さんゲームに出るの?」
翔太くんがパンをくわえながら小首を傾ける。可愛さにほだされそうだ。でへへ。
「うーんと、そういう訳じゃないんだけど……私、創作とか経験ないからさぁ」
私が苦笑すると、香子はふぅんと相槌を打った。
「隼人くんだけ?」
おおぅ、鋭いな香子。
「……幸弘と、相ちゃんと……マサトさん」
最後の一人は蚊のなくような声である。香子が噴き出した。
「どんなゲームか、大体想像ついた」
そうだよねぇバランスいいもんねぇあはは。
女子大に入った私と香子は、近隣大学に入った幸弘の紹介でインカレの合唱サークルに入った。相ちゃんもざっきーもそのサークル仲間であり、その妻達も同様だ。つまりうちの代は三組もカップルができちゃった訳なのよ。ま、香子たちは卒業からちょっと時間経ってたけどね。
「……へぇ?兄さんも?」
にこり、とざっきーが笑う。その笑顔に背筋の凍る思いがした。
怖ぇー、マジざっきーの笑顔ブリザード半端ねぇ。これあれでしょ、幸弘がよく浴びてるやつでしょ。よくあいつ堪えられるな。いや、考えてみたら、あいつざっきー大好きだからな、それでカバーできてるのかもしれない。愛って偉大。次、BLモノの企画が来たら使わせてもらおう。殺される覚悟で。
そんなことを考えているのを知ってか知らずか、って知ってるわけないけどさ、香子が楽しそうに笑っている。
「いいじゃない、名前が出る訳でもないし。よかった、サリーのお役に立って」
いつも助けてもらってるからさと笑う姿に、昔感じた棘や強がりはない。ああ大人になったなぁ。何となく置いてけぼりの気分で思う。同じだけ歳を重ねたはずなのに。方や彼氏にフラれて自暴自棄な仕事をし、方や二人の子育てしながら働くワーキングマザーとは。なんか差がついちゃったよね。こうして構ってくれるのがせめてもの救いだけど。
友人の幸せを喜びながらも、ついつい寂しく思えてしまう乙女心なのである。女の三十って微妙なお年頃よね。ほんと。
「じゃあ、発売開始したら一つ持ってきてね」
にこりとざっきーが笑った。おま、分かってるだろそれ、致命的な攻撃だって分かってやってるだろ!やっぱり怖いざっきーこわすぎる。がくぶる。
「一発殴ってもらっていいのでその件は不問にしていただけませんでしょうか」
「嫌だなぁ。いつもお世話になってるサリーちゃん殴るなんてしないよ。大丈夫、ちゃんと定価で買うから。あ、でもゲーム機がないな。相ちゃんちにあるよね、きっと。みんなで相ちゃんちに集まってサリーちゃんの偉業を拝見するとしよう」
そんなことをしたら偉業じゃなくて遺業になりそうである。ていうかねそうとは言えないけど十八禁だよ十八禁。決して十八金ではないよ。つーか男がやるな!いや、やって勝手に萌えるならいいけどあくまで勝手にやっていただきたい。パーティゲームにされては困るのであるだって乙女がひそやかに日々の疲れを癒すためのゲームなのだもの!
頭の中をぐるんぐるんと巡る言い逃れともつかない言葉は口先をついて出るほど決定打になるものでもなく、むしろバレれば更に苦行を追加されかねない。ぐぬぬと喉を鳴らすばかりである。そんな私を見て香子はからりと笑う。
「またサリーが武士みたいになってる」
武士って何だ。両刀使いか。違った二本差しの間違い。両刀使いはまた違う話だわいやん。
「サリーちゃん、がんばってるんだね!」
翔太くんがにこりと笑って言った。その笑顔が眩しい。塗しすぎる。
思わずがっくりと頭を垂れて嘆息した。香子が首を傾げる。
「どうしたの?」
「いや……私いつのまにこんなに汚れてしまったのだろうと……」
一種の賢者モードである。こんないたいけな子供と比べるのが間違ってるんだけどね。それは分かってるんだけどね。
汚れっちまったかなしみに。ってこのフレーズは何だっけ。私国文学専攻じゃないから分かんなーいサリーちゃんわかんなーい。
「疲れてるみたいね」
香子が苦笑した。
「うん、そうみたい」
どっちかっていうと憑かれてる気がする。何だろうこの身体を包む疲労感。あああれか、ざっきーの呪いか。
「しかしそこでがんばってるねと言う翔太くんが天然タラシとしか思えない」
「うん、私も今から心配してる」
がんばってという応援は、がんばってる人にとっては逆効果。そんなことをこの四歳児はわかっているのかいないのか。どちらにしても末恐ろしい。
「翔太くん、あと十五年したらさぁ、サリーちゃんと結婚してくれる?」
「え?うん、いいよ」
翔太くんは笑った。
「お母さんの次に結婚してあげる」
大人三人が噴き出して、一気に場の空気が和む。やっぱり男子はママが大好きなのねとほんわかした私だったが、ざっきーが丁寧に説明し始めた。
お母さんはお父さんと結婚してるから翔太とは結婚できないよ。え、そうなの?じゃあお父さんとお母さんが結婚しなければいいんじゃない?ダメだよ。お父さんとお母さんは好き合ってるんだもん。でもお母さんと翔太も好き合ってるよ。いやそうだけど違うの。それとは違うの。
段々ムキになっていくざっきーを、香子が微妙な苦笑でなだめるのだった。
「でも、よかった。思ったより元気そうで」
香子は駅まで送ってくれながら言った。子供達がいるとどうしてもゆっくり話ができないので、子供二人はざっきーに預けて出てきたのだ。
「ごめんね、心配かけて」
「ううん」
香子は微笑んだ。その穏やかな顔に、ああ大人になったなぁ、と他人事のように思う。
「サリーは案外自分の気持ちに鈍感だから」
あんまりがんばりすぎないでね。
私はついつい笑った。どこかで聞いた台詞だなと思ったから。
「それ、香子のことでしょ」
「サリーはそう言うけどさ」
二人で笑いながら、駅までの短い距離を歩いて行った。
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