期待外れな吉田さん、自由人な前田くん

松丹子

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第一章 ギャップ萌えって、いい方向へのギャップじゃなきゃ萌えないよね。

05 眼鏡かけてるから仏頂面ですむと思ったら大間違いだぜ眼鏡男子よ。

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「吉田さん、お疲れ」
 もう頭の中が真っ白だ。とりあえず遺言とか書いといた方がいい気がする。ていうかざっきーのことだ、生命的抹殺では生温いと判断して社会的抹殺を図る可能性があり得る。彼が溺愛している妻である香子を一刻も早く味方につけた方が良さそうだ。くっそー、奴のことは大学時代散々いじってやったからな、ここぞとばかりに反撃の機会を与えてしまった。
「吉田さんお疲れ!」
 自由に空気を吸えるのも今だけかもしれない。そうだ思う存分吸っておこう。空気って美味しいなオフィスの埃っぽさを気にしなければ。そういえばこれだけ人がいてもなくならない酸素ってすごくね?化学とかよくわかんないけど。高校でモルとか出てきた時点で私の化学終わったからね。早いって?いやだって意味わかんなかったんだもん。何モルってそれおいしいの?でも、なんか友達でベンゼン環?あのほら六角形に化学記号が生えてるあれ。あれ書くのが趣味とか言う奴いたけど全然わかんなかったよねその意味。テストで時間余ったらベンゼン環書くんだって暇だから。暇だからベンゼン環書くって何だよ暇だったら暇らしく寝てるとかすればいいじゃんね。
「よーしーだーさーん!」
「うあっ!」
 耳元で名前を呼ばれて飛び跳ねた。そちらを見やると細身の眼鏡男子が立っている。胡散臭そうな表情で見つめられて大変居心地が悪い。何よあんたが声かけたんでしょ。どうして私が居心地悪くならなきゃいけないのよぐすん。
「……何でしょう」
 眼鏡男子は無表情な顔のままふーんと言った。あ、もしかしてこの人あれか。この不機嫌そうな顔が素か。笑う筋肉が発達してないんだな。今からそれではいかんぞ若者よ。
「覚えてないんだ」
「は?」
「いや、いい」
 眼鏡男子はやっぱり変わらない表情のまま私の前を去って行った。何となく置いてけぼりを食ったような気分になって大変寂しい。そんな私の寂しさを察したのか、佐々マネから声がかかった。はーいと間延びした返事をしながらゆるゆると近づくと、佐々マネは私の肩にポンと手を置いて言った。
「よかったね。今朝急に作り直すなんてなかなか思いきったことしたもんだけど、吹っ切れたのかな?」
 まあ吹っ切れましたけど。いろいろと。おかげさまで社会的抹殺の心配をする程度には窮地に陥った自覚もありますけど。
「ええまあ」
 曖昧な返事でへらりと引き攣った笑顔を返すと、
「佐々マネ、骨は拾ってくださいね」
 小さな呟きに佐々マネは首を傾げた。
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