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第1章 眠り姫の今昔
05
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ことを終えて息が整うと、曽根はむくりと起き上がって身支度を始めた。
その後ろ頭を見ながら、私も身体を起こす。
はいっ。特別仕様、終了っ。
もっと心身のぬくもりに浸っていたい気持ちをぐっとこらえて、私も身支度を始める。
と、曽根が私を見ていることに気づいた。
「……何?」
「いや……」
曽根は唇をへの字にしたまま、ワイシャツのボタンを留めていく。
「何よ」
私が言うと、曽根はちらりとブーツを一瞥した。
「それ、履くのは自分で履けんの?」
「……じゃなかったら、更衣室で誰が履かせてくれんのよ」
私が言うと、曽根はそれもそうだと頷いた。
曽根はハンガーにかけたジャケットを羽織り、ネクタイを首にかけた。
長い指がネクタイを弄ぶさまをぼんやり見つめる。
「西野」
呼ばれて、はっと我に返った。
「何?」
見上げたけれど、曽根は首元のネクタイを見たままだ。
「俺、来週からしばらく会えないから」
…………。
思考が止まる。
「ヘルプで横浜店勤務するから。多分、戻ってくんの年明けくらい」
曽根は淡々と言った。私はじわじわと言葉を理解して、「あ、そう」とあいづちを打つ。
2か月。
2か月ね。
余裕よ、2か月くらい。
ネクタイを締め終えた曽根は、私の顔を見た。
「じゃ、お先」
無表情なまま言って、鞄を手にし、部屋を出ていく。
ぱたん、とドアが閉まった音を最後に、沈黙が下りた。
…………。
あれ、だめだ。頭が動かない。
自分がショックを受けていることだけは分かったけれど、一体何にショックを受けているのかが分からず、ただただ混乱する。
……え、なに、曽根。なんなの。
しばらく会えない。
ヘルプで横浜店。戻ってくるの年明け。
曽根から聞いた断片的な情報が、ぐるんぐるんと脳内を回る。
そして、ふっつりとこみ上げたのは、怒りだった。
「せめて、また連絡する、くらい言えーっっっ!!」
ドアに向かって枕を投げつける。ばふん、とドアにぶつかった白い枕は、ぽふ、と床に落ちた。
こみ上げる涙に気づき、ぶんぶんと首を横に振る。
こんなことで泣いてたまるか。
曽根のくせに。
曽根ごときに。
たかが、曽根……
「曽根の馬鹿ぁーっ!!」
私はもう一つの枕を抱き寄せて、顔を埋めた。
その後ろ頭を見ながら、私も身体を起こす。
はいっ。特別仕様、終了っ。
もっと心身のぬくもりに浸っていたい気持ちをぐっとこらえて、私も身支度を始める。
と、曽根が私を見ていることに気づいた。
「……何?」
「いや……」
曽根は唇をへの字にしたまま、ワイシャツのボタンを留めていく。
「何よ」
私が言うと、曽根はちらりとブーツを一瞥した。
「それ、履くのは自分で履けんの?」
「……じゃなかったら、更衣室で誰が履かせてくれんのよ」
私が言うと、曽根はそれもそうだと頷いた。
曽根はハンガーにかけたジャケットを羽織り、ネクタイを首にかけた。
長い指がネクタイを弄ぶさまをぼんやり見つめる。
「西野」
呼ばれて、はっと我に返った。
「何?」
見上げたけれど、曽根は首元のネクタイを見たままだ。
「俺、来週からしばらく会えないから」
…………。
思考が止まる。
「ヘルプで横浜店勤務するから。多分、戻ってくんの年明けくらい」
曽根は淡々と言った。私はじわじわと言葉を理解して、「あ、そう」とあいづちを打つ。
2か月。
2か月ね。
余裕よ、2か月くらい。
ネクタイを締め終えた曽根は、私の顔を見た。
「じゃ、お先」
無表情なまま言って、鞄を手にし、部屋を出ていく。
ぱたん、とドアが閉まった音を最後に、沈黙が下りた。
…………。
あれ、だめだ。頭が動かない。
自分がショックを受けていることだけは分かったけれど、一体何にショックを受けているのかが分からず、ただただ混乱する。
……え、なに、曽根。なんなの。
しばらく会えない。
ヘルプで横浜店。戻ってくるの年明け。
曽根から聞いた断片的な情報が、ぐるんぐるんと脳内を回る。
そして、ふっつりとこみ上げたのは、怒りだった。
「せめて、また連絡する、くらい言えーっっっ!!」
ドアに向かって枕を投げつける。ばふん、とドアにぶつかった白い枕は、ぽふ、と床に落ちた。
こみ上げる涙に気づき、ぶんぶんと首を横に振る。
こんなことで泣いてたまるか。
曽根のくせに。
曽根ごときに。
たかが、曽根……
「曽根の馬鹿ぁーっ!!」
私はもう一つの枕を抱き寄せて、顔を埋めた。
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