素直になれない眠り姫

松丹子

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第1章 眠り姫の今昔

04

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 曽根は唇を重ねてから、私の頬を手で包む。
 最初からは深くならないキスは、まずは表面を重ねるだけ。その合間に、親指が頬を優しく撫でる。
 もう片方の手は、私の肩にある。やんわり、腕を撫でるような、ほぐすような、優しい動きを繰り返す。
 ぺろり、と唇を舐められて、ぴくんと反応する。曽根が目を細める。唇を重ねているから分からないけれど、笑っているように見える。愛されているような気がする。甘い目、というやつに見える。

「んっ……」

 くちゅ、と水音がたつ。唇を割って舌が入ってきた。肩を撫でていた手は、私の背中に回る。頬を撫でていた手は、頭の後ろに回っていく。
 舌で口の中を愛撫されながら、頭の後ろに置いた手指が耳裏を撫でた。つつつ、と撫でられて身体が反応する。曽根の愛撫は、日頃の不愛想が嘘のように優しい。

「っ、は」

 知らないうちに酸素不足になった脳が、空気を求めて息をつく。自然と上がった顎の下を、曽根の舌がざらりと舐める。「ん」と唇を引き結ぶと、舌は鎖骨まで下がって行った。ちゅ、と首元に優しいキスをして、顎に頬にキスを落としながらまた唇に戻って来る。
 背中に回った手が、気づけば腰の後ろに来ている。そこを撫でさすりながら、深いキス。頭後ろの手で固定されて、顔を逸らすこともできない。

 ……すき。

 私はこらえきれず、曽根の首に手を回す。曽根が目を細める。やっぱり笑っているんだと、思う。思いたい。今、このときーーベッドの上にいる間は。

「はぁっ……」

 曽根を求めて、腰が浮く。もっと。その先に触れて欲しい。本当は、こんな前戯なんて必要ないのだ。
 だって、脚に触れられただけで、そこは曽根を受け入れる準備ができているんだから。

「曽根っ……」
「ん」

 曽根が無駄口をたたかないのは、ベッドの上でも同じだ。曽根は私の身体を撫で、内股を撫で、タイトスカートを引き上げる。
 キスと愛撫を続けていたと思ったら、曽根はふと気づいたように私を見下ろした。

「服、脱ぐ?」
「ったり、前、でしょ」

 気恥ずかしいやら何やらで、とにかくにらみつける。
 まかりなりにも美容業界に勤める人間なのだ。服がもみくちゃになって気にならないわけもない。
 曽根は不意にいつもの無表情に戻って私から離れる。
 あ、そう。自分で脱げってことね。
 私はなんとなくふてくされながら、シャツを脱ぎ、スカートを脱ぐ。色気の演出なんて考える気もない。ざざっと脱いで、ソファの背にかけていたら、曽根もワイシャツのボタンを外してインナーシャツ共々脱ぎ去った。
 うっすらと割れた腹部に目が奪われる。
 同時に、ズボンを押し上げている屹立に気づいて、指でつついた。

「……何だよ」
「え、なんでもない」

 下着姿で笑った後、ストッキングも脱がなくてはと座りなおす。と、曽根が強引にまた押し倒してきた。

「な、何?」
「脱がせてやるよ」

 曽根が悪辣に笑って、私の胸元にキスを落とす。
 ちょっと強引なふるまいに、どきんと鼓動が高鳴る。
 豊かとはいえない胸には、下着の力でうっすらと谷間ができている。曽根はそこに口づけて、私の手を押しのけ、ストッキングとショーツに手を添えた。

「や、破らないで、ね」

 念のため言った声は、上擦ってたどたどしくなった。曽根がいたずらっぽい目で私を見る。

「破ったら弁償してやるよ」
「や、やだ。気に入ってるんだから」

 曽根はふんと鼻を鳴らして、私の首筋に吸い付く。いつもよりも強めの吸い付きに戸惑った。

「跡つけないでよ!」
「どうせお前んとこ、スカーフするから関係ねぇだろ」
「か、関係なくないっ」

 カウンターでの制服のことを言っているんだろう。暴れる私をやんわり手で制して、「ストッキング敗れてもいいのか」と曽根が言う。私は仕方なくおとなしくなった。
 曽根はうむと頷いて、私のショーツとストッキングを下ろしていく。脱ぐときのみっともない姿を見られるのは嫌だなと思っているのに気付いているのかいないのか、キスをしながら脱がせてくれる。タイミングをみて膝を曲げ、脱がせやすいようにアシストした。
 曽根は脱がせたストッキングを、私が服を置いたソファに置く。
 再び上に覆いかぶさって、深い口づけが始まる。曽根の胸に手を置き、そのキスに応える。大胸筋から腹筋へ、そっと割れ目を辿ると、曽根の身体が震えた。感じているんだろうか。ちょっと嬉しくなって目を細める。曽根がむっとした顔をした。
 スラックスと下着から少しだけ覗いた曽根の腰骨に手を添える。その上、くびれの部分を親指で撫でる。曽根が私の身体を撫でるのと同じように、優しく。曽根は眉を寄せてその手を払い、ガチャ、とベルトを緩めてスラックスを下す。私にキスをしながら器用にスラックスを脱ぎ捨て、枕もとのゴムを開けた。

「挿れるぞ」

 私の膝を割り、蜜口に肉棒を押し付けて、曽根が脅すような顔をする。私は笑った。

「ん、いいよ」

 手を伸ばすと、曽根が身体を沈めてきた。先ほどからずっと求めていた質量と熱に、「は」と吐息が漏れる。満たされていく。身体も、心も。入り切ったかな、と思う頃、曽根がもうひと押し、ぐりぐり、と奥へ進んだ。

「ぁあ」

 甘い声が、口から洩れた。曽根がまたにやりとする。気恥ずかしくなって、私は唇を引き結ぶ。

「よかったら、いいって言えよ」
「よくなかったら、何度も抱かれない」

 言い返す言葉が終わらないうちに、曽根がずん、と一突きしてきた。「ぁん!」と甲高い嬌声が漏れ、「ちょっとぉ!」と批難の声を挙げる。曽根はふんと満足げに私を見下ろしてから、私の脇腹を撫で、胸のカップ越しに乳首をこすった。私の膣がきゅうと彼を締め付ける。

「や、もぉっ……」

 その先の文句は嬌声に掻き消えた。律動が始まり、身体が揺れる度に余裕がなくなっていく。曽根の指は下着越しに私の乳首を撫でさすり、高ぶってきた頃合いを見はからって、下着の中に指先を入れて直接こねた。

「ぁあ、あああっ……!」

 私は腕を伸ばして曽根の首にしがみつく。曽根は優しく私を抱きとめた。それでも、腰の動きは止めない。前後する動きに合わせて、くちゅくちゅといやらしい音が部屋に響く。

「や、や、曽根、曽根っ……!」
「イケよ」

 荒い吐息の合間に、曽根が言う。その声はひどくセクシーだ。ぎゅぅとしがみついた彼の身体は、うっすら汗ばんでいる。身にまとった香水の匂いがする。さわやかな。ミント系の。
 わたしのだいすきな。

「ぁああああっ」

 曽根の律動がますます激しくなって、私は手で顔を覆った。

「見せろよ」

 曽根の手が、私の手首をベッドに押し付ける。私はいやいやをして、それでも快感の波に抗えず、嬌声をあげる。

「曽根、曽根っ」

 曽根は奥だけで腰を動かす。それがすごく、いいところに当たっている。その動きを私が好きだと、彼は知っているのだ。

「はぁ、あああ、イく……っ!」

 ぎゅうぎゅうと彼自身を締め付けて、私の意識が弾けた。
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