素直になれない眠り姫

第１章 眠り姫の今昔

プロローグ

　十年前は「目つきが悪い」と評していた目を、涼やかだと思うようになったのはいつだろう。

　久々に触れられた肌が熱い。
　まっすぐに私を見つめる視線が、私の身体をますます熱くする。

　今までになく感じていることは、たぶん彼にも明らかで、何かごまかしの言葉を口にしたいのに、相手が一言も話さないから、つい唇を引き結ぶ。
　彼が無口なのはベッドの上だけじゃない。いつでも、どこでも、昔から、言葉数の少ない男だった。
　その割に、いつも丁寧な愛撫で、私を、溶かしていく。

「っんっ……」

　荒い息の合間から漏れる嬌声を、手のひらで止める。
　ふ、と優しい吐息が漏れる気配がした。

　今ーー笑った？

　だとしたら、見たかった。
　困惑と期待に揺れる目を向けると、大きな手が私の髪を撫でる。
　お気に入りのシャンプーの匂いが、その手の動きに合わせて鼻先に届く。
　何も言わないまま、男は私の頬に口づけた。腰に手を添え、ゆっくり押し進んで来る。

「あっーー」

　私は慌てて、男の首に手を回す。
　男はそれをやんわりと受け止める。
　律動が始まる。男の熱が、私の奥をノックする。
　揺さぶられながら、私は喘ぎ声をかみ殺せなくなる。

「っぁ、あ、ぁあっ」

　目の前がまたたいた、そのとき。

「－－竜次っーー！」

　彼の首に抱き着き、その名をーー呼んでしまった。