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第四夜 学生に宿泊場所を提供した結果。
03
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インターン最終日は土曜日だった。翌日曜日は大輝が群馬に帰る日でもある。
「大輝、夕飯どうする? 打ち上げとかあるのかな」
出かける前の大輝に聞くと、大輝は微笑んで首を振った。
「分からないけど、どちらにしろ帰ってくるよ。家に帰らなきゃいけないからって」
「え……いいの?」
仲良くなった人がいたんじゃないの?
私が首を傾げると、大輝は私の顔を覗き込んだ。
「夕飯、いっちゃん作ってくれる?」
「え……いいけど……」
あんまり期待しないでね、と言うと、大輝は嬉しそうに頷いた。
* * *
大輝が帰ってきたのは7時半で、夕飯は鍋にした。
おばさんに「痩せて帰ってきた」なんて言われないように、しっかり食べてもらわなきゃ。
「はー、美味かった。ごちそうさまでした」
締めは雑煮にして、スープまですっかり食べ尽くした後、大輝はよっこらせと立ち上がった。
「片付け俺やるから、いっちゃんお風呂入っておいでよ」
「え、でも私休みだったし。疲れてるだろうから大輝入りなよ」
「いいから」
大輝はちらりと私を見て、微笑む。
私は不覚にもその笑顔にときめいた。
「じゃ、じゃあ……入ってくるね」
言って、パジャマを手に浴室に入った。
この一週間、大輝はいつも通り、にこにこしてごろごろして、ときどき「いっちゃーん」なんてじゃれてきて、相変わらず子どもっぽいなぁ、なんて思っていたのだけれど。
ときどき見せる、包容力を感じる表情が、ああもうオトナになったんだな、なんて気づかされて。
戸惑っては、慌てて自分に言い聞かせていた。
相手は弟みたいな大輝なのに、何動揺してんの。
男を感じるとか、ないから。ないないないっ。
私は大輝のために張ったつもりだったお湯に口元を沈め、ぶくぶく息を吐き出した。
* * *
私がお風呂から上がると、次いで大輝が入って行った。
ドライヤーで髪を乾かしている間に、大輝が上がって来る。
まるでカラスの行水みたいだなぁと思いつつ振り向くと、そこには腰にタオル一枚巻いただけの大輝がいて、目のやり場に困った。
「ちょ、ちょっと……」
「パジャマ持って入るの忘れちゃった」
「はやく服着てよ」
「あはは、どうしたの。姉弟みたいなもんなんでしょ、俺たち」
「そ、そうだけど……」
大輝の身体は、胸が厚くて肩が広い。
小さくて下から見上げていた可愛い小学生が、いつの間にこんなに頑強な男に成長してしまったのだろう。
目のやり場に困った私は、あっちこっちに目をさまよわせていた。
「いっちゃん、何きょろきょろしてんの。自分の家なのに」
大輝は笑って、私に近づいて来る。
「か、風邪引くよ」
「んー、そしたらもうちょっとここにいられるかなぁ」
「ば、馬鹿」
睨みつけたつもりだったが、大輝には全然効果がなかったらしい。軽く笑うと、私の髪をふわりと撫でた。
「いっちゃんの髪、柔らかい」
「……大輝」
「昔からだよね。ふわふわしてて気持ちいい」
大輝の手は、髪から耳後ろへと降りた。
「いっちゃん、耳が小さいんだよね。ピアスは怖いけどイヤリングはすぐ落ちちゃうって言ってたね」
耳たぶをやわやわと指先で揉みながら言われ、私は目を反らす。
大輝の指は次いで私の唇に添えられた。
「唇、乾燥しやすいから、いっつもリップ塗ってたね。俺もねだって貸してもらったことあったな。覚えてる?」
覚えてる。多分あれは、高校生のとき。
食事の後に薬用リップを塗る私を見て、小学生の大輝が目を輝かせた。使いかけで汚いからと言ったのだけど、泣きそうな顔をした大輝に負けて、ついつい貸してしまったのだ。
「メントールが入っててさ、すっとするやつ。そういうリップ使うと、いっつもいっちゃんを思い出す。ーー今でも」
気づくと、大輝の顔が目の前にあった。
慌てて身体を引こうとしたが、腰と肩を包まれる。
「逃げないで」
囁くような声は、到底少年のそれではない。
ぞわりと背中に痺れが走る。
いつの間に、こんな、男に、なっちゃったの?
一週間、何事もなく過ごしてきたのに。
昔と変わらない態度だったのに。
どうして、いつの間に、こんなに。
「……いっちゃん」
私の知らない男の声が、慣れた呼び方で私を呼ぶ。
痺れたように動けない私の唇に、その唇が触れた。
お風呂上がりで、しっとりと濡れた唇。
「……ずっと、こうしたかった」
私の目を見るその目は、熱い想いを帯びている。
「……待って……大輝」
「待たない。もう充分待った」
大輝は言って、私の手を掴んだ。タオルで覆っただけの腰にその手を引き寄せ、そこにさわらせる。
間違いなく男性の持つそれの硬さに、私は身体を強張らせた。
「それとも、いっちゃんは……俺のこと、嫌?」
大輝は上目遣いで私を見た。小さいときの彼の顔が重なり、言葉を失う。
逆転した身長差があるのに上目遣いなんて、器用なものだ。
考えてみれば、大輝は私よりも大概のことを器用にこなした。なのに私に甘えたがった。それは六歳の年齢差が故だと思っていたけれど、もしかしてーー
「いっちゃん、大好き」
身動きの取れない私を、大輝がぎゅっと抱きしめる。
布をまとっていない上腕の肌は、私のものよりもみずみずしかった。
「いっちゃん。好きだよ。大好き。俺、がんばったから、ご褒美ちょうだい? くれるよね、優しいいっちゃんだもん。いっつも俺に甘いいっちゃんだもん。俺のわがまま、聞いてくれるでしょう?」
大輝は私を抱きしめて、頬に、首にキスをする。私は突き放そうとその胸に手を添えるけれど、触れた筋肉の弾力にたじろぐばかりで力が入らない。
「だ、大輝……大輝」
「ねえ、いっちゃんが欲しい。インターンがんばったご褒美。いいでしょ、いっちゃん。お願い」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と私の顔中にキスが降りてくる。熱く硬くなった下腹部のそれを私の腰に擦り寄せてくる。少年だと思っていた従弟は知らない間に男になって、私を女として見ていただなんて。
「だ、だい……」
「いっちゃん、好き」
唇が唇を塞いだ。丁寧で丹念なキスが始まる。呼吸を求めて口を離そうとしても、すぐに大輝にふさがれた。
ば、馬鹿。水泳やってた人間の肺活量についていけるわけないでしょうが!
酸欠で頭がくらくらしてくる。でも、私が彼のキスに感じていることも認めずにはいられなかった。
「ふ……ん、は……だい、んん……」
「いっちゃん……いっちゃ、……ん、……はぁ……嬉しい……いっちゃん……」
身体の力が抜けてきた私の腰周りを大輝がさすり、揉む。
その愛撫はキスほどの鍛練を感じない、拙い動きをしていた。
「大輝っ……」
「可愛い。いっちゃん、可愛い。ね、いっちゃん。俺、初めてはいっちゃんとって決めてたんだ。俺の初めて、もらってくれるよね? ね? ね?」
「ちょ、ちょっと待って。う、嘘でしょ」
膝の力が抜けるほどのキスをする男が童貞だなんて信じられるか!
と思っていたら、大輝は真面目くさった顔をして私を見つめた。
「だって、いっちゃんの方がきっと経験豊富だし。せめてキスくらい上手くないと、抱いても抱かれてもくれないでしょう? だからがんばったんだよ」
そんなくだらないことでがんばるな!
どや顔の大輝に全力でツッコミを入れたかったが、息が乱れてうまい言葉が浮かばない私は、潤んだ目で睨みつけることしかできない。
しかし何か言ってやろうと、深々息を吐き出した。
「がんばったって、誰と?」
大輝がぎくりとする。
「だ、だってさ、いきなりいっちゃんとだと、俺もうまくできないだろうと思ったし、その」
「女の子、ダシにしたってこと?」
「だ、ダシっていうか、ええと」
「歴代の彼女、何人いるのよ」
大輝の目が潤んでいる。子犬のようにすら見えるその顔にほだされそうになる自分を叱咤し、きゅっと顔に力を入れて大輝を睨みつけた。
大輝はその視線を受けて、急にはっと目を輝かせる。
「……いっちゃん、もしかしてそれ、ヤキモチ?」
「はっ?」
「ヤキモチなの? ねえ、そうなの?」
大輝はキラキラした目で私の目を覗き込んだ。ありもしないしっぽが左右に揺れる幻想を見て、私は思わず目を反らす。
「なんだ、そうなの? いっちゃんも俺のこと、好きなんだ。大好きなんだ。そうでしょ。そうだよね、いっちゃん」
晴々としたいい笑顔で、大輝はふわりと私を抱き上げた。
抱き上げられた安定感に戸惑う。
「ちょ、ちょっと待って。離して。離そう。そして話し合おう。話せば分かる」
「うん、そうだね、そうしよう。話し合おう」
どさ、とベッドに身体を乗せられ、大輝が私を組み敷いた。
「ベッドの上で、ね」
にこりと言うと、文句を言いかけた私の唇を大輝のそれが塞いだ。
「大輝、夕飯どうする? 打ち上げとかあるのかな」
出かける前の大輝に聞くと、大輝は微笑んで首を振った。
「分からないけど、どちらにしろ帰ってくるよ。家に帰らなきゃいけないからって」
「え……いいの?」
仲良くなった人がいたんじゃないの?
私が首を傾げると、大輝は私の顔を覗き込んだ。
「夕飯、いっちゃん作ってくれる?」
「え……いいけど……」
あんまり期待しないでね、と言うと、大輝は嬉しそうに頷いた。
* * *
大輝が帰ってきたのは7時半で、夕飯は鍋にした。
おばさんに「痩せて帰ってきた」なんて言われないように、しっかり食べてもらわなきゃ。
「はー、美味かった。ごちそうさまでした」
締めは雑煮にして、スープまですっかり食べ尽くした後、大輝はよっこらせと立ち上がった。
「片付け俺やるから、いっちゃんお風呂入っておいでよ」
「え、でも私休みだったし。疲れてるだろうから大輝入りなよ」
「いいから」
大輝はちらりと私を見て、微笑む。
私は不覚にもその笑顔にときめいた。
「じゃ、じゃあ……入ってくるね」
言って、パジャマを手に浴室に入った。
この一週間、大輝はいつも通り、にこにこしてごろごろして、ときどき「いっちゃーん」なんてじゃれてきて、相変わらず子どもっぽいなぁ、なんて思っていたのだけれど。
ときどき見せる、包容力を感じる表情が、ああもうオトナになったんだな、なんて気づかされて。
戸惑っては、慌てて自分に言い聞かせていた。
相手は弟みたいな大輝なのに、何動揺してんの。
男を感じるとか、ないから。ないないないっ。
私は大輝のために張ったつもりだったお湯に口元を沈め、ぶくぶく息を吐き出した。
* * *
私がお風呂から上がると、次いで大輝が入って行った。
ドライヤーで髪を乾かしている間に、大輝が上がって来る。
まるでカラスの行水みたいだなぁと思いつつ振り向くと、そこには腰にタオル一枚巻いただけの大輝がいて、目のやり場に困った。
「ちょ、ちょっと……」
「パジャマ持って入るの忘れちゃった」
「はやく服着てよ」
「あはは、どうしたの。姉弟みたいなもんなんでしょ、俺たち」
「そ、そうだけど……」
大輝の身体は、胸が厚くて肩が広い。
小さくて下から見上げていた可愛い小学生が、いつの間にこんなに頑強な男に成長してしまったのだろう。
目のやり場に困った私は、あっちこっちに目をさまよわせていた。
「いっちゃん、何きょろきょろしてんの。自分の家なのに」
大輝は笑って、私に近づいて来る。
「か、風邪引くよ」
「んー、そしたらもうちょっとここにいられるかなぁ」
「ば、馬鹿」
睨みつけたつもりだったが、大輝には全然効果がなかったらしい。軽く笑うと、私の髪をふわりと撫でた。
「いっちゃんの髪、柔らかい」
「……大輝」
「昔からだよね。ふわふわしてて気持ちいい」
大輝の手は、髪から耳後ろへと降りた。
「いっちゃん、耳が小さいんだよね。ピアスは怖いけどイヤリングはすぐ落ちちゃうって言ってたね」
耳たぶをやわやわと指先で揉みながら言われ、私は目を反らす。
大輝の指は次いで私の唇に添えられた。
「唇、乾燥しやすいから、いっつもリップ塗ってたね。俺もねだって貸してもらったことあったな。覚えてる?」
覚えてる。多分あれは、高校生のとき。
食事の後に薬用リップを塗る私を見て、小学生の大輝が目を輝かせた。使いかけで汚いからと言ったのだけど、泣きそうな顔をした大輝に負けて、ついつい貸してしまったのだ。
「メントールが入っててさ、すっとするやつ。そういうリップ使うと、いっつもいっちゃんを思い出す。ーー今でも」
気づくと、大輝の顔が目の前にあった。
慌てて身体を引こうとしたが、腰と肩を包まれる。
「逃げないで」
囁くような声は、到底少年のそれではない。
ぞわりと背中に痺れが走る。
いつの間に、こんな、男に、なっちゃったの?
一週間、何事もなく過ごしてきたのに。
昔と変わらない態度だったのに。
どうして、いつの間に、こんなに。
「……いっちゃん」
私の知らない男の声が、慣れた呼び方で私を呼ぶ。
痺れたように動けない私の唇に、その唇が触れた。
お風呂上がりで、しっとりと濡れた唇。
「……ずっと、こうしたかった」
私の目を見るその目は、熱い想いを帯びている。
「……待って……大輝」
「待たない。もう充分待った」
大輝は言って、私の手を掴んだ。タオルで覆っただけの腰にその手を引き寄せ、そこにさわらせる。
間違いなく男性の持つそれの硬さに、私は身体を強張らせた。
「それとも、いっちゃんは……俺のこと、嫌?」
大輝は上目遣いで私を見た。小さいときの彼の顔が重なり、言葉を失う。
逆転した身長差があるのに上目遣いなんて、器用なものだ。
考えてみれば、大輝は私よりも大概のことを器用にこなした。なのに私に甘えたがった。それは六歳の年齢差が故だと思っていたけれど、もしかしてーー
「いっちゃん、大好き」
身動きの取れない私を、大輝がぎゅっと抱きしめる。
布をまとっていない上腕の肌は、私のものよりもみずみずしかった。
「いっちゃん。好きだよ。大好き。俺、がんばったから、ご褒美ちょうだい? くれるよね、優しいいっちゃんだもん。いっつも俺に甘いいっちゃんだもん。俺のわがまま、聞いてくれるでしょう?」
大輝は私を抱きしめて、頬に、首にキスをする。私は突き放そうとその胸に手を添えるけれど、触れた筋肉の弾力にたじろぐばかりで力が入らない。
「だ、大輝……大輝」
「ねえ、いっちゃんが欲しい。インターンがんばったご褒美。いいでしょ、いっちゃん。お願い」
ちゅ、ちゅ、ちゅ、と私の顔中にキスが降りてくる。熱く硬くなった下腹部のそれを私の腰に擦り寄せてくる。少年だと思っていた従弟は知らない間に男になって、私を女として見ていただなんて。
「だ、だい……」
「いっちゃん、好き」
唇が唇を塞いだ。丁寧で丹念なキスが始まる。呼吸を求めて口を離そうとしても、すぐに大輝にふさがれた。
ば、馬鹿。水泳やってた人間の肺活量についていけるわけないでしょうが!
酸欠で頭がくらくらしてくる。でも、私が彼のキスに感じていることも認めずにはいられなかった。
「ふ……ん、は……だい、んん……」
「いっちゃん……いっちゃ、……ん、……はぁ……嬉しい……いっちゃん……」
身体の力が抜けてきた私の腰周りを大輝がさすり、揉む。
その愛撫はキスほどの鍛練を感じない、拙い動きをしていた。
「大輝っ……」
「可愛い。いっちゃん、可愛い。ね、いっちゃん。俺、初めてはいっちゃんとって決めてたんだ。俺の初めて、もらってくれるよね? ね? ね?」
「ちょ、ちょっと待って。う、嘘でしょ」
膝の力が抜けるほどのキスをする男が童貞だなんて信じられるか!
と思っていたら、大輝は真面目くさった顔をして私を見つめた。
「だって、いっちゃんの方がきっと経験豊富だし。せめてキスくらい上手くないと、抱いても抱かれてもくれないでしょう? だからがんばったんだよ」
そんなくだらないことでがんばるな!
どや顔の大輝に全力でツッコミを入れたかったが、息が乱れてうまい言葉が浮かばない私は、潤んだ目で睨みつけることしかできない。
しかし何か言ってやろうと、深々息を吐き出した。
「がんばったって、誰と?」
大輝がぎくりとする。
「だ、だってさ、いきなりいっちゃんとだと、俺もうまくできないだろうと思ったし、その」
「女の子、ダシにしたってこと?」
「だ、ダシっていうか、ええと」
「歴代の彼女、何人いるのよ」
大輝の目が潤んでいる。子犬のようにすら見えるその顔にほだされそうになる自分を叱咤し、きゅっと顔に力を入れて大輝を睨みつけた。
大輝はその視線を受けて、急にはっと目を輝かせる。
「……いっちゃん、もしかしてそれ、ヤキモチ?」
「はっ?」
「ヤキモチなの? ねえ、そうなの?」
大輝はキラキラした目で私の目を覗き込んだ。ありもしないしっぽが左右に揺れる幻想を見て、私は思わず目を反らす。
「なんだ、そうなの? いっちゃんも俺のこと、好きなんだ。大好きなんだ。そうでしょ。そうだよね、いっちゃん」
晴々としたいい笑顔で、大輝はふわりと私を抱き上げた。
抱き上げられた安定感に戸惑う。
「ちょ、ちょっと待って。離して。離そう。そして話し合おう。話せば分かる」
「うん、そうだね、そうしよう。話し合おう」
どさ、とベッドに身体を乗せられ、大輝が私を組み敷いた。
「ベッドの上で、ね」
にこりと言うと、文句を言いかけた私の唇を大輝のそれが塞いだ。
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