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本編
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息を荒げる理都子の髪を、笑う拓哉の手が撫でる。
理都子はそれを恨めしい目で見やって、両手を伸ばした。
拓哉は理都子の意図を察して、おとなしく抱きしめられる。
「……また、私だけ」
「抱くなんて言ったっけ?」
「抱かないとも言ってない」
理都子はむくれて、拓哉の屹立へ手を伸ばす。ボクサーパンツではち切れんばかりになっていたそこは、なぜか少し落ち着いていた。
「……拓哉って、不能?」
「馬鹿言え」
拓哉は呆れた顔をして、理都子の身体を揉むように撫でる。
「なんつーか、奉仕する側になると、そっちに集中しちゃうんだよな。あれこれ試してみたくなるっつーか……」
「……研究熱心なことで」
「まあそんなとこ」
拓哉は言って、理都子の腰周りの肉をぶにぶにとつかむ。理都子は嫌だとその手を阻もうとしたが、やんわり指を絡め取られた。
「でも、理都って何だかんだ言って保守的だよな。あの箱ん中、結構色々あったのに。結局使ったの、バイブとディルドだけだろ」
拓哉の言葉に、理都子は微妙な顔をする。拓哉は笑った。
「どうせなら、色々試してみればいいのに。ハードなものはないんだから……モコモコの手錠とか、コスプレとか? 後ろ開発すんのも興味あるよね。あとは……」
「……一人で?」
なぜか目を輝かせる拓哉の言葉を、理都子の問いが遮る。
拓哉は一瞬、目を丸くして、理都子を見下ろした。
「一人じゃ、つまんない」
理都子が言うと、拓哉は笑う。その余裕が悔しくて、理都子は唇を尖らせた。拓哉はにやにやしながら、理都子を見つめる。
「もう一声」
拓哉の言葉に、理都子は観念する。
拓哉の首を抱き寄せ、その肩に顔をうずめてから、小さく言った。
「……拓哉がしてくれるなら」
あまりの気恥ずかしさに、声はか細くなった。拓哉に聞こえたかどうか不安になったが、拓哉が「あ」と言って笑い出し、理都子を抱きしめる。
その体温と、柔らかな揺れを感じながら戸惑う。
拓哉が黒い前髪の隙間から、理都子の目を覗き込んできた。
「今のはよかった。結構効いた。……もう一回言って?」
笑う目を見返せず、理都子はぺしんとその額を叩く。拓哉はまた笑って、理都子を抱きしめた。
悔しさと気恥ずかしさに、理都子は拓哉の前髪をくしゃくしゃにする。
「……拓哉。髪、切りなよ」
「なんで? ……あ。愛しの詩乃ちゃんに似てる、とか?」
「馬鹿、言わないで。詩乃と比べるなんて、百億光年早い」
理都子の返しに、拓哉が笑う。「小学生かよ」と言われて唇を尖らせた。その唇を、拓哉が軽く吸う。
「冗談だよ。俺は俺、詩乃さんは詩乃さん。一緒にすんじゃねーっつの」
「してないもん」
理都子はますます唇を尖らせ、拓哉の首筋に額を寄せる。
「……してないもん」
ぎゅう、と細腰に抱き着くと、拓哉はぽんぽんと理都子の頭を撫でた。
不意に、一方的に翻弄されているような気がして、理都子は拓哉の股間に手を伸ばす。
一度落ち着いた屹立は、また少し硬くなっている。
拓哉が腰を引いた。
「やめんか」
「なんで?」
「抱かねーっつの」
「だから、なんで」
理都子が唇を尖らせると、拓哉がため息をついた。
「ゴムがない」
気まずげに言われて、思わず笑う。
理都子は拓哉を押し返して、その股の間に顔を寄せた。ボクサーパンツ越しにそこに口づけると、ぴくんと拓哉自身が揺れる。
「やめろっつの。じゃねーと、孕ませんぞ」
「あはは、いいよ」
理都子は笑いながら、拓哉の屹立を布から取り出す。ぴょこんと顔を出したそれに舌を這わせてくわえると、体液特有の生臭さと塩気を感じた。
「そしたら、責任取ってくれる?」
理都子の口と手に弄ばれながら、拓哉が眉を寄せる。
「それ……どこまで本気?」
問われて、理都子は笑った。
「そっちこそ」
理都子が言うなり、拓哉が低く唸って理都子を組み敷く。
フローリングの冷たさと硬さを背中に感じながら、理都子は拓哉に手を伸ばした。
「拓哉」
拓哉はその腕におとなしく収まる。
「……これからも、一緒にいて」
理都子は囁きながら、もう気恥ずかしさなどどこかへ行ってしまったことに気づく。
自分以上に、自分のことを理解してくれていた幼なじみ。観察していたと言いながら、その実、見守ってくれているのだろうとは、今までもなんとなく分かっていた。
そう気づきながらーー甘えていたのだ。
「拓哉がいてくれたら……大丈夫な気がする」
「大丈夫って、何が」
「……詩乃が……結婚とか……しても」
言いながら、視界が歪んだ。
ああ、とうとう、詩乃が本当に誰かの元に行ってしまう。
それでも、純白に包まれた彼女の姿は、きっと女神のように綺麗だろう。
歪んだ室内灯の中に、純白の幻想を見て、息を止める。
それでも、拓哉がいてくれるなら、それを受け入れられそうな、気がする。
理都子の腕の中で、拓哉が笑った。
「仕方ねぇな」
言って、理都子の口にキスをする。互いの愛液の匂いがした。理都子はそれを感じながら笑う。
「それに、もうノーマルなセックスじゃ満足できる気がしない」
理都子が言うと、拓哉が噴き出した。
「お前、ほんと、歪んでんなぁ」
だがそれは、言葉に反して柔らかい笑顔だった。
「でも、そういう方が、理都らしいよ」
理都子の胸がぎゅうと詰まる。がさがさに乾いた心のどこかが、じわじわと満たされていく。
拓哉、と名前を呼んで、その胸にしがみついた。拓哉は理都子の髪を撫でながら、くつくつと笑う。
「ほんと、馬鹿だからなぁ、理都子は」
「そうだよ、馬鹿だよ」
髪を拓哉に混ぜられながら、理都子は目を閉じる。拓哉の硬いぬくもりと、繊細な指先。
気を抜くと浮かび上がり、心の中に波紋のように響いていく、憧れの人への想い。
ーーしかしそれも、いずれは過去になるだろう。
「どうせ……馬鹿だもん」
込み上げた涙をそのままに、拓哉の鼓動に耳を澄ませる。頬を伝い落ちてきた涙は、優しさを感じるほどに生温くて、同時に塩辛かった。
FIN.
***
ご覧くださり、ありがとうございました!
理都子はそれを恨めしい目で見やって、両手を伸ばした。
拓哉は理都子の意図を察して、おとなしく抱きしめられる。
「……また、私だけ」
「抱くなんて言ったっけ?」
「抱かないとも言ってない」
理都子はむくれて、拓哉の屹立へ手を伸ばす。ボクサーパンツではち切れんばかりになっていたそこは、なぜか少し落ち着いていた。
「……拓哉って、不能?」
「馬鹿言え」
拓哉は呆れた顔をして、理都子の身体を揉むように撫でる。
「なんつーか、奉仕する側になると、そっちに集中しちゃうんだよな。あれこれ試してみたくなるっつーか……」
「……研究熱心なことで」
「まあそんなとこ」
拓哉は言って、理都子の腰周りの肉をぶにぶにとつかむ。理都子は嫌だとその手を阻もうとしたが、やんわり指を絡め取られた。
「でも、理都って何だかんだ言って保守的だよな。あの箱ん中、結構色々あったのに。結局使ったの、バイブとディルドだけだろ」
拓哉の言葉に、理都子は微妙な顔をする。拓哉は笑った。
「どうせなら、色々試してみればいいのに。ハードなものはないんだから……モコモコの手錠とか、コスプレとか? 後ろ開発すんのも興味あるよね。あとは……」
「……一人で?」
なぜか目を輝かせる拓哉の言葉を、理都子の問いが遮る。
拓哉は一瞬、目を丸くして、理都子を見下ろした。
「一人じゃ、つまんない」
理都子が言うと、拓哉は笑う。その余裕が悔しくて、理都子は唇を尖らせた。拓哉はにやにやしながら、理都子を見つめる。
「もう一声」
拓哉の言葉に、理都子は観念する。
拓哉の首を抱き寄せ、その肩に顔をうずめてから、小さく言った。
「……拓哉がしてくれるなら」
あまりの気恥ずかしさに、声はか細くなった。拓哉に聞こえたかどうか不安になったが、拓哉が「あ」と言って笑い出し、理都子を抱きしめる。
その体温と、柔らかな揺れを感じながら戸惑う。
拓哉が黒い前髪の隙間から、理都子の目を覗き込んできた。
「今のはよかった。結構効いた。……もう一回言って?」
笑う目を見返せず、理都子はぺしんとその額を叩く。拓哉はまた笑って、理都子を抱きしめた。
悔しさと気恥ずかしさに、理都子は拓哉の前髪をくしゃくしゃにする。
「……拓哉。髪、切りなよ」
「なんで? ……あ。愛しの詩乃ちゃんに似てる、とか?」
「馬鹿、言わないで。詩乃と比べるなんて、百億光年早い」
理都子の返しに、拓哉が笑う。「小学生かよ」と言われて唇を尖らせた。その唇を、拓哉が軽く吸う。
「冗談だよ。俺は俺、詩乃さんは詩乃さん。一緒にすんじゃねーっつの」
「してないもん」
理都子はますます唇を尖らせ、拓哉の首筋に額を寄せる。
「……してないもん」
ぎゅう、と細腰に抱き着くと、拓哉はぽんぽんと理都子の頭を撫でた。
不意に、一方的に翻弄されているような気がして、理都子は拓哉の股間に手を伸ばす。
一度落ち着いた屹立は、また少し硬くなっている。
拓哉が腰を引いた。
「やめんか」
「なんで?」
「抱かねーっつの」
「だから、なんで」
理都子が唇を尖らせると、拓哉がため息をついた。
「ゴムがない」
気まずげに言われて、思わず笑う。
理都子は拓哉を押し返して、その股の間に顔を寄せた。ボクサーパンツ越しにそこに口づけると、ぴくんと拓哉自身が揺れる。
「やめろっつの。じゃねーと、孕ませんぞ」
「あはは、いいよ」
理都子は笑いながら、拓哉の屹立を布から取り出す。ぴょこんと顔を出したそれに舌を這わせてくわえると、体液特有の生臭さと塩気を感じた。
「そしたら、責任取ってくれる?」
理都子の口と手に弄ばれながら、拓哉が眉を寄せる。
「それ……どこまで本気?」
問われて、理都子は笑った。
「そっちこそ」
理都子が言うなり、拓哉が低く唸って理都子を組み敷く。
フローリングの冷たさと硬さを背中に感じながら、理都子は拓哉に手を伸ばした。
「拓哉」
拓哉はその腕におとなしく収まる。
「……これからも、一緒にいて」
理都子は囁きながら、もう気恥ずかしさなどどこかへ行ってしまったことに気づく。
自分以上に、自分のことを理解してくれていた幼なじみ。観察していたと言いながら、その実、見守ってくれているのだろうとは、今までもなんとなく分かっていた。
そう気づきながらーー甘えていたのだ。
「拓哉がいてくれたら……大丈夫な気がする」
「大丈夫って、何が」
「……詩乃が……結婚とか……しても」
言いながら、視界が歪んだ。
ああ、とうとう、詩乃が本当に誰かの元に行ってしまう。
それでも、純白に包まれた彼女の姿は、きっと女神のように綺麗だろう。
歪んだ室内灯の中に、純白の幻想を見て、息を止める。
それでも、拓哉がいてくれるなら、それを受け入れられそうな、気がする。
理都子の腕の中で、拓哉が笑った。
「仕方ねぇな」
言って、理都子の口にキスをする。互いの愛液の匂いがした。理都子はそれを感じながら笑う。
「それに、もうノーマルなセックスじゃ満足できる気がしない」
理都子が言うと、拓哉が噴き出した。
「お前、ほんと、歪んでんなぁ」
だがそれは、言葉に反して柔らかい笑顔だった。
「でも、そういう方が、理都らしいよ」
理都子の胸がぎゅうと詰まる。がさがさに乾いた心のどこかが、じわじわと満たされていく。
拓哉、と名前を呼んで、その胸にしがみついた。拓哉は理都子の髪を撫でながら、くつくつと笑う。
「ほんと、馬鹿だからなぁ、理都子は」
「そうだよ、馬鹿だよ」
髪を拓哉に混ぜられながら、理都子は目を閉じる。拓哉の硬いぬくもりと、繊細な指先。
気を抜くと浮かび上がり、心の中に波紋のように響いていく、憧れの人への想い。
ーーしかしそれも、いずれは過去になるだろう。
「どうせ……馬鹿だもん」
込み上げた涙をそのままに、拓哉の鼓動に耳を澄ませる。頬を伝い落ちてきた涙は、優しさを感じるほどに生温くて、同時に塩辛かった。
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