小悪魔うさぎの発情期

松丹子

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本編

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 理都子が自分でバイブを手にし、左右の胸に当てる間、拓哉は理都子の脚を揉み始めた。
 考えてみれば、幼なじみだが身体の関係があったわけでもない拓哉に、身体を触れられたことなどほとんどない。 羞恥心はなかったが、非現実的な、非日常的な情景が、それだけでも理都子の中の何かを煽った。

「理都子」

 低くも高くもない拓哉の声が、理都子の名を呼ぶ。その手はふくらはぎを撫で、ふとももへと滑っていく。

「……なに」

 ブブブブブ、というバイブ音を聞きながら理都子が応じる。すでに呼吸はうわずったものになりつつあり、頬が紅潮しているのを自覚した。
 3月も下旬に近い夜、真冬ほどではないとはいえ、フローリングにバスタオル一枚を敷いた上に横たわっているのだ。肌寒いはずなのに、身体はほてって、この先に与えられる快感を期待している。
 拓哉は静かに理都子の脚を撫でている。ときには本当にマッサージするように、かと思うと指先だけ、つつ、とフェザータッチで円を描く。
 決定的な刺激はないのに、理都子の気分は否応なしに高まっていく。

「名前呼ばれるの、好きな方? それとも、何も言わない方がいい?」

 拓哉に聞かれて戸惑う。そんなことは、考えたこともなかった。が。

「……嫌いじゃ、ないと思う」
「ああ、そう」

 拓哉は薄く微笑む。それこそあまり印象に残らない顔立ちだと思っていたが、拓哉の薄い唇は見ようによってはひどく男らしく、官能的だった。
 が、その唇が理都子のそれに近づく気配はない。

 拓哉の手はふくらはぎには触れず、理都子のふとももをまさぐっている。内側から外側へ。そしてまた、内側へ。
 弧を描いたり直線だったり、動きの規則性に慣れた頃にはまた違う動きに変わる。
 理都子はわずかに身じろぎして、腰を揺らした。全く触れられていないそこが、しとどに潤っているのが分かる。

「理都。我慢、我慢」

 笑いを含んだ拓哉の声が、上から降って来る。
 拓哉の手が理都子の腰をさする。その指に、ときどき硬いところを感じた。

「……ペンだこ」
「ん?」

 問い返す拓哉の声は、聞いたこともないほど柔らかい。理都子は喉に唾を流し込んで、もう一度繰り返した。
 拓哉は何を言われたのか気づいて、自分の右手の指を見る。ペンの握り癖の問題なのか、親指のつけね、普通ならたこのできようもないところにそれはあった。

「ああ、ごめん。肌に当たる? 変な感じ?」
「ううん……」

 理都子はゆるく首を振る。そして目を閉じる。

「変、じゃない……拓哉の、手なんだなって……思う」

 ふ、と拓哉が笑った気配がした。理都子はそれにつられて目を開ける。部屋の明かりが逆光になって、拓哉の表情は分からない。

「目、閉じてていいよ。明かり、微調整できないから、眩しいでしょ」
「……ん……」

 理都子は目を閉じる。男にしては華奢な拓哉の手が、理都子の身体を撫でていく。脇腹。下腹部。内もも。
 日頃男を誘う蜜壷に手が近づく度、無意識に腰が浮いてそこへ導こうとする。
 拓哉はそうと察しているのだろうが、核心には触れず腰や尻を掴んだ。やわりやわりと揉みこまれ、理都子の身体から力が抜けていく。溶けていく。
 バイブを持つ手からも力が抜けるが、拓哉がそれを許さない。

「こら。ちゃんと持ってて。ここと……ここと……」

 ブブブブブ、とバイブが優しく、意地悪く理都子の乳首を振動させる。
 「眠くなる? 寝たらやめるよ」と拓哉が笑う。理都子はあいまいに頷くが、もう腰の疼きが我慢ならない。

「拓哉ぁ……」

 甘えた声で名を呼び、腰をうねらせる。
 上がった息が色っぽいのを自覚しながら、こんなに艶めいている女を前に欲情しない拓哉を不思議に思う。

「欲しいの?」
「うんん……ほしぃぃ……」
「仕方ないな」

 拓哉は言って、理都子の両膝を曲げさせた。M字に開いた股の間に、拓哉の腕が入る。
 ずずずずず、と入ってきたのは、指ではなく、男性器を模したディルドだった。

「あああああっ」

 理都子の歓喜の声が挙がる。拓哉は理都子の体内にオモチャを押し進めながら、鼻で笑う。

「もう、今日はホンモノ入れてもらったんでしょ。なら、慣らす必要ないよね」

 言いながら、意地悪くディルドを揺らしてみせた。上下、または左右と、挿入しながら理都子のいいところを探すような刺激に、理都子の腰がときどき跳ねる。拓哉は理都子の片膝を曲げてストレッチするように腹の方へ押さえ付けながら、さらけ出された秘部にそれを埋めた。

「ほら、もうすっかり飲み込んだよ。中、ヒクついてるね。理都、分かる?」
「んっ……、ん、わか、る」
「いい子だね。手、離してみようか」

 拓哉がディルドに添えた力を緩める。それが膣圧で外に出ていく感覚があり、理都子はふるふると首を横に振った。

「やだ……ちゃんと持ってて」
「奥がいいの?」

 拓哉はくすくす笑いながら、ぐいと一層奥へ押し込む。理都子は声未満の嬌声と吐息をついた。拓哉はディルドを奥に固定したまま、角度を変えたり回してみたりして、理都子の中の感度をとらえていく。

「理都。おっぱい見せて」

 理都子は言われて、後ろ手でブラジャーのホックを外した。解放された胸がふるりとブラジャーを押し上げ、めくれ上がる。
 拓哉はディルドで理都子の中を掻き回しながら、器用にも片手でローションの蓋を開け、理都子の胸に垂らした。
 その冷たさに、理都子がぴくりと肩を奮わせる。拓哉がくつくつと笑う。

「ごめん、冷たかった?」

 拓哉の声は、すっかり残酷な優しさを思わせるものになっていた。理都子は拓哉のオモチャになったような感覚を抱く。
 ディルドを押し込んでいた拓哉の片手の指先が、ツンと外側の蕾を押して、びくんと身体が跳ね上がる。
 クリトリスと乳首、両方を指でこねられながら、ディルドがぐいぐいと理都子の中を刺激する。

「理都、痛かったら言ってね」

 拓哉の楽しげな声が言って、小さな蕾を向きだしにする。柔らかな皮に隠れていたクリトリスの芯が直接拓哉の指先に触れて、ぴりぴりするほどの快感が理都子の身体を走った。

「んんんっ……!!」

 粗い呼吸と快感の波に、理都子の理性は完全に溶けきっている。粘膜同士の接触が全くないのに、与えられる快感は今までにないほど強かった。
 拓哉は乳首をつまみ、こね、ときどき乳房を乱暴に揺する。「ほんとデカいね」と満足げに笑いながら、両方の乳房を片手で寄せ、二つの頂きを押し、弾く。
 その間にも、クリトリスへの刺激は緩めない。ディルドは理都子が好きな当たりをゆるゆると刺激しつづけている。

「拓哉、拓哉ぁ」
「なに、理都」

 鼻にかかった声で、理都子が呼ぶ。拓哉は余裕のある声で答える。

「も、もう、イカせて、やだ、イキたい」
「もう?」

 拓哉は仕方ないなと言うように笑った。

「堪え性なしだね、理都は。……それか、欲しがりなのかな」

 ぽつりと言うと、拓哉は身体を理都子の脚の間に滑り込ませた。一瞬、彼自身を挿入するのかと期待する。が、拓哉はディルドを自分の腹部で押しこみ、理都子の脚を自分の両肩へ抱えた。
 完全に自由になった両手を、理都子の胸とクリトリスへ伸ばす。

「ここかな……理都がイイのは」

 ガツガツと、体温のないオモチャが理都子の中をまさぐる。拓哉の繊細な指がリズミカルに蕾をこすり、乳首をつまむ。

「あっ、あ、あ、あっ、や、たく、拓哉っ、い、いぃっ……!!」

 拓哉の体重が乗ったディルドの突く動きに、理都子は恍惚とした声を挙げる。
 「イッていいよ」と拓哉が囁く。
 理都子はぎゅぅと目をつぶり、拓哉が与える刺激だけを感じる。
 目の前がぱっと白くなったときには、拓哉が「うわっ」と驚いた声がした。
 荒い呼吸をしながらぼやけた視界で見やると、拓哉が苦笑しながら眼鏡を外している。

「……そんなに良かった?」

 服の袖で顔を拭う拓哉から、その手に持つ眼鏡へ視線を動かす。
 眼鏡はローションとは違う水気で濡れていた。

「うん……良かった」

 理都子はおとなしく頷く。半ば放心状態だった。拓哉が笑いながら、自らの潮で濡れた理都子の下腹部を敷いたバスタオルで軽く拭ってくれる。

「風呂、入れる? 入れてやってもいいけど」
「うん……」

 理都子はのろのろと起き上がって、ふぅ、と一息ついた。

「向こうまで、付き添ってやろうか」
「うん……ありがとう」

 拓哉が理都子に肩を貸し、浴室まで連れていく。理都子の膝はかくかく笑っていて、拓哉はおかしくて仕方ないというように笑っていた。

「お湯、汚していいからそのまま入れ。タオル準備しとく」
「うん……」

 理都子は言われるがまま、浴槽の縁をまたいで湯舟に浸かった。お湯がじわりと身体を温める。

「理都、タオルここ置いとくぞ。あと着替えも」
「ありがとう……」

 拓哉に答えて、理都子はため息をついた。

「拓哉」
「なんだよ」
「……ほんとに童貞じゃなかったんだね」

 拓哉は一瞬の間の後、「そこかよ」と理都子の額を突いた。「あー、俺も顔洗お。汚ね」と言いながら浴室を出ていくと、理都子からは見えなくなる。

 理都子は拓哉の気配に耳をそばだてながら、快感の後特有の浮遊感に浸っていた。
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