小悪魔うさぎの発情期

松丹子

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本編

09

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「……てめぇ、いい加減にーー」
「黙って入れて」

 バン、とドアが開くなり、いらだたしげな拓哉に、理都子の冷たい声が告げた。
 いつもと違う理都子の気迫にうろたえたのか、拓哉は黙って道を譲る。
 理都子は拓哉の顔を見ることもなく、つかつかと中にーー仕事部屋へと入って行った。

「あっ、お前っ」
「……へぇ」

 慌てた拓哉の声に、理都子は冷たいあいづちで答える。
 デスク上のモニターには、二人の裸体の美少女が身体を寄せ合う絵が表示されていた。

「こういうの、描いてるんだ。女の子同士の絵?」
「……今回は……たまたま……だよ」

 拓哉が気まずそうに答える。
 二人の美少女は、どちらも幼い顔立ちをしているのに、現実には有り得ないほど豊かな胸をしていた。そうして過度なほど強調した表現ができることこそ、二次元ならでは楽しみなのかもしれない。
 一人は茶色い髪をお下げにしていて、もう一人の黒く長い髪の少女が、そのひと房を解いていた。

「ちょっと借りるね」

 理都子は言って、またクローゼットを開ける。中からずるずると引き出した段ボールに、目当てのものを探した。

「……おい。お前な。いい加減に……」
「黙って。じゃなければ、たまには手伝って」

 呆れた拓哉の声に、理都子は顔を上げることもなく淡々と返す。心中のモヤモヤはの原因は自分でもよく分からないが、秀治とのセックスで身体が満たされなかったのは確かだ。
 途中でイッたフリをしたつもりもなかったが、秀治は理都子の様子まで気にかけてはくれなかった。ーー結局、一度もイケないままだったのだ。

「手伝ってって……」
「開発してくれてもいいし、抱いてくれてもいいよ」

 理都子は言って、アダルトグッズを一つ手に取った。
 拓哉はため息をつく。

「……何怒ってんの」
「怒ってないよ」
「じゃあ、傷ついてる?」
「はぁ?」

 理都子はいらいらしてきた。拓哉が何を言いたいのか、理都子にはいまいち理解できない。
 そもそも、今の理都子に必要なのは言葉や理性ではなかった。熱であり、本能でありーー快楽だ。

「溜まってるの」

 理都子は立ち上がると、バイブを拓哉に放り投げた。
 拓哉はそれを片手で受け取り、じっと理都子を見下ろしている。

「今日、男と寝たけどイケなかった。ちゃんと気持ち良くなってから寝たくて、ここに来たの。いろいろしゃべってる暇があるなら、協力してよ。ドロドロにして、気が狂うくらい気持ち良くさせてよ」

 拓哉はため息をついて、バイブでトントンと肩を叩く。理都子はじっと拓哉を見つめていた。
 拓哉はまた、冷静なような情熱的なような、不思議な目をして理都子を見返す。

「気が狂うくらい……ね」

 呟いた拓哉の目に、今までと少し違う色が輝く。

「いいよ。試してみようか」

 それが彼の好奇心だと気づいて、理都子は唇の端を上げた。

 ***

 拓哉はバスタオルを床に広げて、理都子に横になるよう顎で示した。服を脱ぐべきか迷ったが、ひとまずそのまま横になる。

「……脱がせてほしい派?」
「どっちって言わなかったじゃん」
「服、汚れてもいいならいいけど」

 拓哉は言いながら理都子を見下ろしている。理都子はむすっとしながら、ショーツとストッキングを脱ぎ、ワンピースを脱ぎ、ブラジャーを脱ごうとして、拓哉に手で止められた。

「まった。それはそのままでいいや」
「……?」

 理都子は眉を寄せながら、ブラジャーだけを纏った身体をバスタオルの上に横たえる。拓哉はアダルトグッズが詰め込まれた箱を近くまで引きずってきて、手を洗った。
 眼鏡越しの拓哉の目は、欲望というよりも真剣さが勝っている。まるで手術を受けるような気分で、理都子は拓哉を見上げていた。

「理都」
「なに?」
「後ろってしたことある?」

 当然のように聞かれて、理都子は一瞬言葉を失った。

「……ない、けど」
「あ、そう。じゃあ今日はやめとこう」

 拓哉はただそれだけ言って、男性器を象ったオモチャにゴムを被せ、ローションを手にする。理都子が困惑していると、ぽいとバイブを渡された。

「それ、自分でしてて」
「自分でって……?」

 拓哉はやれやれと言うように、バイブを弱で起動させた。ブブブブブ、と聞き慣れた振動音が耳元に近づく。
 肌に触れるか、触れないか。絶妙な案配で、拓哉はそれを理都子の身体に走らせていく。

「っ……っん……」

 首筋、腕、脇腹、内股、ふくらはぎ……そしてまた上へ少しずつ戻ってきて、改めて理都子にそれを握らせると、ブラジャーをつけたままの胸の先にわずかに触れさせた。
 布越しのもどかしい刺激が、乳首に伝わる。

「ぅんっ……」
「気持ちいい?」

 にやりと笑う拓哉の笑顔は、やはり理都子の反応を楽しんでいるだけのようだ。理都子はそれをわずかに悔しく思いながらも、こくりと頷く。

「ぎゅうぎゅう押し付けるだけじゃなくて、自分で自分を焦らすのもイイんだよ。こっちは俺がしてあげるから」

 拓哉の「してあげる」という言葉に、身体が疼く。拓哉は理都子の身体にとろりとローションをかけて、「あ」と何かに気づいたように立ち上がった。

「え、なに?」

 ここまで来て放置されるのかと思いきや、拓哉は浴室に入る。
 シャワーの音がした後、ぴ、ぴ、と湯を張る音がした。

「ローションでべとべとになるから、すぐ入れるようにしとく」

 浴室から出てきた拓哉は、平気な顔で理都子の身体に向き直る。他の男とは全く違う言動は、理都子の予想をいちいち裏切ってくるが、それにあまり苛立ちを感じないのは不思議だった。

「身体の力、抜いてね。最初はマッサージみたいなもんだから」

 拓哉はそう言って、冷たいローションを指先で辿った。その冷たさと刺激に、理都子はわずかに身震いした。
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