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09 自慰
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「っ、ん、ん、ぁず、っ……!!」
ぎゅぎゅぎゅっと中心に集まった後、ぱっと破裂するような感覚。
「っ、は、はぁ、はぁ……」
私は手元のマッサージャーの振動を止めて、息を整える。達すると同時に感じる虚しさは、気にしないように努める。
東の家にミスキャンが入っていくのを見て以降、東に会いに行けずにいる。
東が女を取っ替えひっかえしている、なんて話は今までも聞いたことがあった。実際に出入りしているのは初めて見たけれど、私に繰り出す手練手管を考えれば、噂の信憑性は高い。
……少なくとも、童貞ではなかったはず。
ぐったりと弛緩した身体を、ベッドに横たえる。
さわ、とカーテンが揺れたのを見て、一瞬眉を寄せた。しまった、窓を開けっ放しだった。
でも、声は抑えていたつもりだし、あえて耳を澄ませでもしなければ聞こえることもないだろう。
私は長いため息をついて、枕を胸元に引き寄せる。
目を閉じると、しつこいくらいに東の顔が浮かんでくる。しかめっつら。不機嫌顔。無表情。ふて腐れてる顔。
その中にほとんど笑顔がないのが腹立たしい。
浮き出た鎖骨。華奢な手首。細い腰。
ああいう男はタイプじゃない。と思ってたはずなのに、もうタイプとかどうでもいいから抱いてほしい。
もしかしたら、東でなくてもいいんじゃないか。なんて新たな境地に気づく。とりあえず、元カレよりも東が上手かったことは確かだけど、東より上手い人が見つかれば、それでこの性欲も落ち着くんじゃなかろうかーーもし、そんな都合のいい人がいれば、だけど。
身体がぶるりと震える。
東から与えられた快感を思い出したからだ。
そしてまた、綺麗なたたずまいの横顔を思い出す。
取っ替え引っ替えする東と言えども、ああいう女子を遊び捨てることはないだろう。
一時的な関係でないなら、それは紛れもなく恋人。
私のことはもう、必要なくなるんだろう。
そもそも、東に必要とされてなんていたんだろうか。
出会ったときからずっと、私が勝手に、東の虚弱体質を憐れんで、支えてあげようと思っていただけなのかもしれない。
東はそんな私の好意にろくに感謝しなかったばかりか、時期によっては「俺の周りをウロチョロすんな」と明確に私に通告したくらいだ。
東の近くに引っ越して来たときだって、「よろしくね」と頭を下げるうちの両親を困ったような顔で見ていた。
初めて私が東の家を訪れたときだって、東は何も言ってない。私から抱いてと頼んで、きっと東は涙の名残を見て取って、断れなくて私を抱いたんだろう。
そう気づいた途端、切なくなる。
ああ、そうか。私は東にとって、別にいなくてもいい存在なんだ。
そんな単純なことに今さら気づき、自分で呆れる。私は何を勝手に勘違いしていたんだろう。私がいてあげれば東は心強いだろう、なんてことを、心の奥底で本気で思っていた。
マッサージャーをベッドに転がして、ショーツの中に手を突っ込む。
指先でひだを辿り、ぬかるみの中に指を滑らせると、目を閉じてしばらく内側を掻き回した。
いつも東が突き上げてくれるポイントを探り当てようとしたけど、私の指じゃ届かない。
私のそこに彼の指が当たり、私が喘いでしがみつくと、東はちょっとハンターみたいな目になる。いつも無感情な目がぎらついて、飢えた肉食獣みたいに見えて、ぞくぞくする。
「っはぁ……」
東の目を思い出して吐息が漏れた。水音がたたないように中を刺激しながら、まぶたの裏の東を見つめる。
「ぁずまぁ……」
自分の手でイクには、持続力がもたない。私はしばらく緩やかな快感を味わった後、シャワーへ向かった。
***
翌朝、大学へ行くために玄関のドアを開けたら、何やら衝撃があってたたらを踏んだ。
どさどさ、と何かが落ちる音と男性の声がして、慌てて廊下へ出る。
私より頭一つ分背の高い、20代前半の男性が、廊下の床に広がった書類を唖然として見下ろしていた。
「す、すみません、急に開けちゃって!」
私が息追いよくドアを開けたせいでぶつかったのだとはすぐに分かったから、慌てて書類を集め始める。
かき集めて差し出すと、男性は困ったような笑顔でそれを受けとった。
「すみません、こちらこそ。呆然としてしまって」
「い、いえ、あのほんとすみませんでした」
ぺこり、と頭を下げると、男性がくすりと笑った。不思議に思って見上げると、穏やかな笑顔で見下ろされる。
「元気がよくて可愛いなと思って」
可愛い、なんて言われ慣れない。思わず顔がぱっと赤くなったが、男性は「ごめん、セクハラかな」と手で口を押さえた。長くてきれいな指。東の手よりも男性的な節をしているけれど、ゴツゴツしているというほどではない。
きれいめカジュアルに身をつつんだ姿から感じる包容力は、元カレに抱いていた印象とちょっと似ていた。
有り体にいえば、私のタイプ。
「こ、これからは、気をつけて開けます」
「あはは、うん。俺も気をつけて前を通過することにするよ」
爽やかな笑顔で歩いていく男性が、ぼうっと見送っていた私に気づいて手を振った。
私は思わず手を振り返してから、なんだか気恥ずかしくなってうつむいた。
ぎゅぎゅぎゅっと中心に集まった後、ぱっと破裂するような感覚。
「っ、は、はぁ、はぁ……」
私は手元のマッサージャーの振動を止めて、息を整える。達すると同時に感じる虚しさは、気にしないように努める。
東の家にミスキャンが入っていくのを見て以降、東に会いに行けずにいる。
東が女を取っ替えひっかえしている、なんて話は今までも聞いたことがあった。実際に出入りしているのは初めて見たけれど、私に繰り出す手練手管を考えれば、噂の信憑性は高い。
……少なくとも、童貞ではなかったはず。
ぐったりと弛緩した身体を、ベッドに横たえる。
さわ、とカーテンが揺れたのを見て、一瞬眉を寄せた。しまった、窓を開けっ放しだった。
でも、声は抑えていたつもりだし、あえて耳を澄ませでもしなければ聞こえることもないだろう。
私は長いため息をついて、枕を胸元に引き寄せる。
目を閉じると、しつこいくらいに東の顔が浮かんでくる。しかめっつら。不機嫌顔。無表情。ふて腐れてる顔。
その中にほとんど笑顔がないのが腹立たしい。
浮き出た鎖骨。華奢な手首。細い腰。
ああいう男はタイプじゃない。と思ってたはずなのに、もうタイプとかどうでもいいから抱いてほしい。
もしかしたら、東でなくてもいいんじゃないか。なんて新たな境地に気づく。とりあえず、元カレよりも東が上手かったことは確かだけど、東より上手い人が見つかれば、それでこの性欲も落ち着くんじゃなかろうかーーもし、そんな都合のいい人がいれば、だけど。
身体がぶるりと震える。
東から与えられた快感を思い出したからだ。
そしてまた、綺麗なたたずまいの横顔を思い出す。
取っ替え引っ替えする東と言えども、ああいう女子を遊び捨てることはないだろう。
一時的な関係でないなら、それは紛れもなく恋人。
私のことはもう、必要なくなるんだろう。
そもそも、東に必要とされてなんていたんだろうか。
出会ったときからずっと、私が勝手に、東の虚弱体質を憐れんで、支えてあげようと思っていただけなのかもしれない。
東はそんな私の好意にろくに感謝しなかったばかりか、時期によっては「俺の周りをウロチョロすんな」と明確に私に通告したくらいだ。
東の近くに引っ越して来たときだって、「よろしくね」と頭を下げるうちの両親を困ったような顔で見ていた。
初めて私が東の家を訪れたときだって、東は何も言ってない。私から抱いてと頼んで、きっと東は涙の名残を見て取って、断れなくて私を抱いたんだろう。
そう気づいた途端、切なくなる。
ああ、そうか。私は東にとって、別にいなくてもいい存在なんだ。
そんな単純なことに今さら気づき、自分で呆れる。私は何を勝手に勘違いしていたんだろう。私がいてあげれば東は心強いだろう、なんてことを、心の奥底で本気で思っていた。
マッサージャーをベッドに転がして、ショーツの中に手を突っ込む。
指先でひだを辿り、ぬかるみの中に指を滑らせると、目を閉じてしばらく内側を掻き回した。
いつも東が突き上げてくれるポイントを探り当てようとしたけど、私の指じゃ届かない。
私のそこに彼の指が当たり、私が喘いでしがみつくと、東はちょっとハンターみたいな目になる。いつも無感情な目がぎらついて、飢えた肉食獣みたいに見えて、ぞくぞくする。
「っはぁ……」
東の目を思い出して吐息が漏れた。水音がたたないように中を刺激しながら、まぶたの裏の東を見つめる。
「ぁずまぁ……」
自分の手でイクには、持続力がもたない。私はしばらく緩やかな快感を味わった後、シャワーへ向かった。
***
翌朝、大学へ行くために玄関のドアを開けたら、何やら衝撃があってたたらを踏んだ。
どさどさ、と何かが落ちる音と男性の声がして、慌てて廊下へ出る。
私より頭一つ分背の高い、20代前半の男性が、廊下の床に広がった書類を唖然として見下ろしていた。
「す、すみません、急に開けちゃって!」
私が息追いよくドアを開けたせいでぶつかったのだとはすぐに分かったから、慌てて書類を集め始める。
かき集めて差し出すと、男性は困ったような笑顔でそれを受けとった。
「すみません、こちらこそ。呆然としてしまって」
「い、いえ、あのほんとすみませんでした」
ぺこり、と頭を下げると、男性がくすりと笑った。不思議に思って見上げると、穏やかな笑顔で見下ろされる。
「元気がよくて可愛いなと思って」
可愛い、なんて言われ慣れない。思わず顔がぱっと赤くなったが、男性は「ごめん、セクハラかな」と手で口を押さえた。長くてきれいな指。東の手よりも男性的な節をしているけれど、ゴツゴツしているというほどではない。
きれいめカジュアルに身をつつんだ姿から感じる包容力は、元カレに抱いていた印象とちょっと似ていた。
有り体にいえば、私のタイプ。
「こ、これからは、気をつけて開けます」
「あはは、うん。俺も気をつけて前を通過することにするよ」
爽やかな笑顔で歩いていく男性が、ぼうっと見送っていた私に気づいて手を振った。
私は思わず手を振り返してから、なんだか気恥ずかしくなってうつむいた。
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