平岸の骸たち

新たなごみ箱

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序章

前約『盗みもの』

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 前略、皆様いかがお過ごしでしょうか。

 さて、皆さま、いきなりで悪いのですが、推理小説の主人公といえばどんな人間を思い浮かべるでしょうか。

 普通推理小説の主人公といえば、探偵、小説家、大学生など、ちょっと奇抜ではあるが、皆さまの身近にいそうな人合った物が主人公で合ったでしょう。

 ある日、大学生が警察に捕まり、物語がスタート、冤罪を晴らすために奮闘する。

 ある日、事件現場にいると、たまたま居合わせた探偵が『犯人はこの中にいる!』と決め台詞を吐き、犯人を言い当てる。

 そんな、感じで物語は進んでいくものであろう。安心してほしい。この物語のもう一人の主人公である。『女性』は間違いなく、推理小説にぴったり合っている役職を持っている。

 まあ、俺のほうはちょっと違うのだが、あれはそう!始まりは、俺があの『探偵』の家に侵入した時の話だ。

 ___________________________________

 「さてと、侵入成功」

 カギを壊し、中に入る。玄関には高そうな置物が何個も置いてある。俺はその置物を片っ端からカバンに詰めていく。
 時刻は深夜、裏から仕入れた情報によると、ここに住んでいる小説家はかなりの頻度で外出するらしく今日も留守にしているようだ。

 「監視カメラもつけてないとか不用心すぎるだろ。楽勝だ」

 といっても、監視カメラがあったところで無駄なんだが。

 玄関のものを一通りバッグの中に入れると、扉を開け、リビングに入る。そこは作業部屋になっていた。

 本棚に囲まれて、おり、部屋の真ん中には机が置いてあった。机のまわりにはいくつもの本が積み重なり、本棚にあるものも床に置いてあるものにもすべてにブックカバーがしてある。それに床には、何度も書き直したであろう。くしゃくしゃになった原稿用紙がいくつも転がっていた。

 「かなり話の構成に迷ってたんだなぁ、まあ俺には関係ないけど...ってなんだ?」

 テーブルの上のあるものに目が留まる。そこにはほかの本とは違い、ボロボロになった小説が一冊だけ置いてあった。
 この本にだけブックカバーがしてなく、本の橋がボロボロになっている。何回も読み返しているようだ。
 タイトルは。
 
 「水面?」

 「その本に触れたね」

 テーブルの上の本を読もうとすると誰かに声を掛けられる。俺はあわてて玄関のほうを向くと、そこには女性が立っていた。
 長い黒髪に白いYシャツ、ドラマに出てきそうな体系と顔をした女性は、片手にペンとメモ用紙を持っていた。
 
 「きみはその本が気になったんだね、うれしいけど複雑だ。その本は私の命よりも大切な本でね、その本に触れられると、自分でもびっくりするほど感情のコントロールができなくなる」

 俺は急いでポケットのナイフを取り出す。護身用で、一度も使ったことはないが、この状況は仕方ない。

 「私を女性だからと油断しないんだね。君」

「物語にはな、たまに勇敢な奴が登場する。考えもないのに人質に名乗り出たり、力がないのに立ち向かったり、昔はそんな奴もこの世界にいたさ、だが今は違う」

「なぜだい?」

「そんな勇敢な奴は日頃から努力をするからだ。努力して、力を手に入れる。だから自信のあるやつには近づかない。俺は臆病で弱いからな、強い奴には勝てない」

 「いい判断だね、でもこれを予想できたかな」

 彼女が指を鳴らした瞬間、背筋が凍る。なんだ。これは、何かが、何かが後ろにいる。

 「君の話興味深いよ、確かにそうだ、今の世界で立ち向かう人は必ず力を持っている、だがね」

 
 
 「君の話は今の私には何にも関係はない」

 少しずつ、後ろを振り向く。そこにいたのは。

 骨だった。頭蓋骨、大きな頭蓋骨、それがケタケタ笑っている。

 何が起きているか、わからない。目の前のこれは本当に現実なのか?

 「君が話していた人間、それは勇敢な人間じゃない。その人達は無謀な人間というんだよ。無謀と勇敢は違う。勇敢な人間は計画的で、無謀な人間は無計画な人間のことだ。簡単だろ?」

 女性に背中を押され、体制が崩れる俺は大きな頭蓋骨に飲み込まれ、意識を失った。

 ___________________________________

 「ふふふっ、アハハ!」

 五月蠅い、女性の大きな笑い声で目が覚める。どうやらソファーで寝てしまったようだ。
 体を起き上がらせて、周りを見渡す。ここはどこだろうか。

 声がしたほうを見ると、女性が辞書ほど大きな本を読みながら笑っている。まるでギャグマンガをみているような。

 「ああ、目が覚めたかい?」

 「ここは、どこですか」

 「ああ、ここかい?ここは私の家、君はね、私の家に空き巣をしに来た泥棒だよ。」

 この女性は何を言っているんだろうか、そもそも僕は泥棒をするほどお金に困っていないし泥棒なら今頃こんなところで寝てないで警察に突き出されているはずだ。

 「何を言っているんだって顔をしているね、君今までの記憶はあるかい?」

 記憶、あれ?僕は今までどう生きてきたんだっけ、わからない。そもそも僕の名前はなんだっけ。唯一覚えているのは、骸骨に飲み込まれたことだけ。

 「ああ、すまない、説明するよ。君の記憶を奪ったのは私だ、私の能力、『scull』というのだけど、こいつは骸骨が飲み込んだ人間を『知識』『記憶』『情報』に分けて3冊の本に変換してくれるんだ。それで、私が君の記憶を読み始めたんだが、君の人生が奇想天外で面白くてね!君をこのまま本にするのはもったいないと思って、『情報』『知識』を君に返したんだ。」

 「つまり、どういうことですか?」

 「君の記憶は私が預かった。返してほしければ私の助手になって私についてきなさい。」

 わかりやすく、どっちが泥棒かわからない話をされて私は戸惑ったが、人質になっているのが自分の記憶なので少し考えた後、私はうなずいた。
 
 ______________________________________


 玄関まで案内されて、僕は外に出される。驚いたもう二度と外に出られない覚悟をしていたから、こんなに早く外に出られたのは想定外だ。

 外に出ると、心地よい夜風が吹く。ここら一帯は森になっていて、住宅地からは少し離れている。いわゆる地主の家という言葉が似あうような家だ。

 僕は女性についていく、家を見て立ち止まった僕を彼女は訝しげに見てくる。
 
 「君、失礼なことを考えてないかい?」

 「地主の家だなぁっと考えていました」

 「言っておくが、私の家は一般家庭だったよ、この家は、小説で稼いだ正当なお金で買ったんだ。」

 「こんな豪邸で、監視カメラをつけないって不用心じゃないですか」

 「泥棒が侵入したら、いい体験になるだろう。そういう人間は本しても問題がない人間だ。どんな小説も大事なのはフィクションとノンフィクションをどうブレンドするかだ、どっちかが多くても最悪な物語になるし、少なくてもだめだ。自分にできる体験はすべきだし、妄想もするべきなんだよ。とついた。これに乗るといい」

 1分ほど歩いたところにあったのは、車庫だった。その車庫は広く、車が二台置いてあった。一台はお金持ちが持っていそうな...なんか早そうな赤い車、もう一台は普通のワゴン車だった。
 
 「ほら、こっちだよ」

 ...どうやら僕が乗るのは、早そうな車のようだ。

 ________________________

 「はい!到着!」

 早そうな車で向かったのは、車どおりが多い大きな道路の近くにある。普段は近寄らないような怪しいビルだった。

 小さい探偵さんと眠りの名探偵がいそうなそんなデザインのビルは、6階建てになっているらしく、小さいレストランや小さいお店、相談所が複数入っているようだ。

 「ん?」
 
 「ほら、いくよ」

 彼女が扉を開ける。蛍光灯が付いている階段を僕と彼女は上り始めた。

 「ここは」

 4階まで上ったところで、彼女はおどろくべきところで立ち止まった。
 
 看板には水面怪奇現象相談所平岸本店と書いており、彼女はそこのカギをあけようとしていた。

 「どうしたんだい?」

 「あなたこんな胡散臭い商売やってたんですか」

 「失礼な、私の専門はホラーだよ、だったらそういう被害あった人に話を聞くのが一番じゃないか」

 「...なんで平岸店と書いてるんですか?ほかに本店があるんですか?」

 「いや、こうしたほうが人来るかなって」

 浅知恵だ...

「まあ、さっきの骸骨を見たら、信じざる負えないですけど...」

 そもそもとして疑問は多い、僕は泥棒をしたらしいが、今まで生きていたということは、怪奇現象にはあったことがないってわけだ。
 その証拠に怪奇現象についての知識はほとんどない。
 そんな、一般人が見られないものを相談しに来る人間なんているわけが。

 「いるんだよ、結構」

 小説家がある本を取り出すと、来客用の机の上に置く。
 その本のタイトルは依頼者の声というタイトルの本だった。

 「怪奇現象は善良な一般人では見ることができない。会うこともない。だがね、それは善良な場合だ、いい?この日本には、コンビニの数よりも多くの神社が存在する。なぜかわかるかい?それほどに日本は奇妙な出来事が多発した国だからだ」

 彼女は本を開く、様々な景色の写真、依頼者、だが依頼者は全員暗い顔をしている。加えて、すべての写真が夕暮れ、または明け方に撮られている。

 「夕暮れ時と明け方に彼らは現れる。彼らは本来人間に危害を加えることはない。だが、彼らの領域が誰かに害された場合、彼らは牙をむく」

 「怪奇現象はそこらじゅうで発生しているっていうのか」

 「加えてこの北海道は、歴史的に見ても様々な信仰が入り乱れた場所だ、ロシアのイスラム教、日本の仏教、神道、そしてアイヌの神々。この北海道は、そんな伝説が大量に入ってきて、溢れてしまっている。私の能力もどこの神が与えたものかはわからない。どこも神様だらけのこの北海道はバランスが崩れたせいで神様が現実に介入できてしまう」

 「だからどういうことなんだ!はっきり言え!」

 「この北海道は、その場にいる何かが、現実に介入できる日本で唯一の場所!作法やルールはそれぞれの何かたちが、自分たちのルールで人を罰している!」

 わからない。ばかばかしい話だろう。誰もがそう思う。だが、俺は信じ始めていた。たぶん、俺はこの話を聞いたことがある。

 「私がこの場所にいるのには理由がある。この平岸周辺は、境界線があやふやな場所が多いからだ」

 「...境界線?」

 「山の中、奇妙な形の道、地下通路、そして坂、坂や山には日本の神が宿る。そして、怪異たちは奇妙なところにに潜んでいる。またここは伝説が異様に少ない。つまり、話すことが禁じられたものが多いからだ」

 「あんたはそういう存在から依頼者を救おうと考えているんだな」

 「違う。依頼者なんてどうでもいい、私は怪異を体験をした人間の記憶を読んでみたい、何を体験し、何におびえ、何をしでかしたのか。それが読みたい」

 その言葉を聞いて、一般人はたぶん幻滅するんだと思う。だが、少なくとも僕は安心していた。
 僕は人助けが苦手だ、人助け以外ならある程度できる。
 
 「さて、怪異のことを話したところで...君にはある事件を推理してもらう」

 「推理?なんで」

 「これからいろんなところで一緒に取材するんだから、頭の出来を確かめようと思ってねー。とあった。これだ、言っておくけど、ここは探偵事務所じゃない。相手は目に見えない怪異だ、だけど、怒ってしまっているのには必ず理由がある。それを推理してみるといい」
 
 パラパラと本をめくる。そしてあるページで手を止め、私に見せてくる。

 見出しには、『八つ橋滝で消えたもの』を書かれていた。







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 おまけ『scull』の能力

 「いやぁ、君の記憶は何周しても面白いね、どうすればこんな悲惨な人生おくれるんだい」

 「記憶を奪われた挙句に3時間待たされてしかも今までの人生を否定された人間の気持ち考えてください」

 「だって、君泥棒じゃないか、知っているかい?日本って国は犯罪者に一番罵声を浴びせる国なんだよ。アハハ!」

 こいつ性格悪いなぁ。

 「少し質問いいですか」

 「ああ、なんだい」

 「あなたが持つ、スカル?でしたっけ、その能力は『知識』『記憶』『情報』の3つに分けて人間を本に変換するんですよね?」

 「そうだよ、それがどうかしたのかい?」

 「『情報』はわかります。体の情報、病気の状況は本人が気づかない場合もある。でも『知識』と『記憶』って何が違うんですか?」

 「いい質問だ!」

 彼女は指をパチンとならす。その瞬間、扉が開いて、ホワイトボードがひとりでに入ってきて、彼女の後ろで停止した。

 「『知識』と『記憶』の違いは、簡単に言い換えれば『勉強』と『思い出』だ。例えば、君に残っているのは、知識なんだが、君は今日本語をしゃべれているだろう?」

 「ああ、そうですね」

 「日本語を勉強で習った。習ったことは脳に『知識』として返還される。だが、例えばだが、君の今年の目標はなんだ?」

 「ええーと...わかりません」

 「そう、君が決めて思い入れのあるもの、君が対面して感じた記憶、公園で遊び、鬼ごっこをして楽しいと思った思い出!それが記憶だ」

 「つまりどういうことなんですか?」

 「...つまりは、鬼ごっこの『ルールを覚えているのが知識』鬼ごっこの『思い出や一緒にやった友達、やっている時の感情が記憶』だ。主観的か常識かの違いだね。鬼ごっこのルールはわかっていても、やったことを思い出せないのが君の今の状態だ」

 「...つまり今の僕の状態は、自分に関することは一切思い出せない状態なんですね」

 「...私ってやっぱり説明下手なんだな」

 落ち込む彼女を無視して机の上にある本を見る。
 
 「ああ、無理やり奪い取ろうなんて考えないほうがいい。私が奪った記憶は私にしか閲覧できないし、記憶の本を手にしたところで自分で自分の記憶を元に戻す術は存在しない。私が許可しない限りは、君の記憶は永遠に戻らないままだ」

 「いや、それは別にいいんですけど、助手って具体的に何をすればいいのかなって。ほら、漫画ならわかるんですよ、トーン張りとか、でも小説家って何かを手伝うってイメージがないんですけど」

 「君、泥棒なのに盗もうじゃなくて正当な報酬として返してもらおうと思ったのかい?変わっているなぁ、いやこれが常識的な判断ではあるんだが、なんかほかにないのかい、恨み言とか」

 「いや、確かに僕、その記憶はないんですけど、僕があなたの家に侵入したからこんなことになってるんですよね?なら自分の責任なので」

 「泥棒とは思えない発言だね」

 「それで、僕は何をすればいいんですか?家政婦とかすればいいんですか?」

 「まあそれもしてもらおうとしているが、話しただろう。私には特別な力がある。その能力を使えば、どんな人間の記憶だろうと、奪うことができるんだ。ついてきてくれ」

 そう言われ、僕は玄関を出た。
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