永久不変の剣を手に、人々の命の守護者となる

なで鯨

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第二章

第五十一話 自分の良心へ

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 あまりにも唐突なスリークの言葉に、ヒイラギは目を丸くする。
 それとは対照的に、ナーランは大きくうなずいていた。

「俺もそれがいいと思うぜ。この国の知り合いに話を聞いたけど、騎士団本部と王城がバタバタしているって言っていたぜ」

 ナーランの交友関係の広さに改めて驚きながら、ヒイラギも自分が集めた情報を話した。

「私は以前、依頼で助けた親子に再会しました。その子どものほうは騎士団の見習いで、彼に案内されて騎士団本部まで行ってきました」

 スリークは腕を組んだまま、ヒイラギの次の言葉を待っている。

「これはあくまで、私の主観になってしまうのですが、この国の騎士団は若い者が多く、一人ひとりがそれなりの実力を備えているように思いました」

 昼間、フォグを待っている間にヒイラギの前を通り過ぎた騎士たちを思い出しながら、締めの言葉に入る。

「もしも、この国が騎士を養成することに長けているのであれば、その秘密を探るためにも、騎士団本部への潜入はありだと思います」

 ナーランはやはり大きくうなずいている。
 スリークは表情こそ変えなかったが、組んでいた腕を解いた。
 そして、机の上で人差し指を立てた。

「今のヒイラギの話を聞いて、ひとつ提案がある。これができれば労力と危険性をかなり低くして騎士団本部へと入れるだろう。それも堂々と」
 
 ヒイラギの視線とスリークと視線が交差する。
 
 「そのためにも」

 立てていた指を、ヒイラギへと向けた。

「君には、自分の良心と戦ってもらうことになる」

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
 
 翌朝。フォグはハッと目を覚ました。
 昨日はヒイラギと再会できたことでかなり興奮してしまい、体力がいつの間にか底をついてしまった。
 目をこすって部屋の窓へと向かい、気持ちよい朝日を浴びる。
 睡眠によって体力を回復し、この朝日によって気力を取り戻す。

「よし! 今日もがんばるぞ!」

 フォグの朝の日課だった。

「おはよう、フォグ。昨日はおもてなしをしてくれてありがとう」

 部屋を出て、朝食を食べようとダイニングへ向かうと、椅子に座って優しく微笑んでいるヒイラギがいた。
 そのヒイラギの前には、簡素ながら栄養のバランスが考えられている朝食が並んでいた。

「お、おはようございます! すみません! もしかしてこの朝食って……!」
「僕が作ったよ。昨日のお礼にと思ってね」

 その言葉を聞いてすぐ、ヒイラギの対面の席に着いた。
 普段使っている食器に盛り付けられていたが、その食器すらも輝いて見えた。

「恐れ多いですが、食べないなんて選択肢はありません! いただきます!」

 焦りを抑えて口に運ぶ。
 朝に嬉しい優しい味付けに、笑顔が止まらない。
 次から次へ平らげていくフォグを見て、ヒイラギは一瞬視線を落としたあとに、笑った。

「レンティスさんと同じことを言うんだね。慌てなくても食べ物は逃げないから、落ち着いて、よく噛んで食べて」

 喉を詰まらせそうになっているフォグに、そっと水を差しだした。
 それをありがたそうに飲んでから、手を止めてヒイラギを見た。

「ありがとうございます! それで、今日のご予定は何か決まっていますか? また、案内が必要とあれば、上官へお願いしに行きますので!」

 だんだんと前のめりになっていくフォグをヒイラギはたしなめる。

「ありがとう。今日は案内は大丈夫なんだけど……ひとつ、お願いしてもいいかな」
「はい! ぼくにできることならなんでもしますよ! 本当になんでも!」

 意気込むフォグを見つめて、少しの間が開いた。
 むずむずと、何をお願いしてくれるのか待ちきれず、フォグは椅子から立ち上がった。

「お願いとは、なんでしょうか!」
「……フォグさ。とっても強くなったよね」
「はい! ヒイラギさんの足元にも及びませんが!」
「それって、騎士団に入ったから強くなったのかな?」
「そうです! 訓練の結果です!」
「その訓練さ、見せてもらうことってできるかな?」
「ここでですか?」
「いや……。できれば、でちゃんと見たいかな」

 フォグはその言葉を聞き終わって、大きな動作で自分の胸を叩いた。

「お任せください!」

 と、自信満々に答えたフォグの身支度が済むまで待ち、ふたりは騎士団本部へと向かった。

「では昨日と同じようにこのあたりでお待ちください! 上官にお願いしてきます!」

 さっと一礼して、ぶかぶかな兜を支えながらフォグは走っていった。
 その姿を見送りながら、ヒイラギは苦い顔をした。

 昨晩、スリークから提案されたのは、ことだった。
 最初、スリークにあった選択肢は、こっそりと騎士団本部へと忍び込むことだった。
 ナーランの知り合いに期待していたところだったが、さすがのナーランも、騎士団本部へのツテはなかった。
 潜入は難しいかと思ったとき、ヒイラギの知り合い、それもヒイラギに恩を感じている騎士団見習いがいると聞き、潜入から視察へと作戦を切り替えたのだった。
 ヒイラギも無駄な争いや危険性を避けられるならばと賛同したが、昨晩からずっと良心りょうしん呵責かしゃくにさいなまれていた。
 しかし、多くの命を守るため、ヒイラギはどうにか感情を抑えて、今、ここに立っていた。

「ヒイラギさんお待たせしました! ほかでもない”白銀の守護者”の頼みであるならば、ぜひご覧になってくださいとのことでした!」

 トントン拍子で進んでいく。
 かすかな違和感を感じたヒイラギは、フォグに気付かれない程度に警戒心を高めた。

(何らかの罠……の可能性もある。気を付けるに越したことはない)

「なんなら、模擬戦でもどうですか? って上官が! ぼくも、ヒイラギさんとお手合わせさせていただきたいです!」
「いいね。あまり経験できることではないし、ぜひお願いしようかな」
(実際に戦ってみれば、ここの騎士団員の質が鮮明にわかるし、親睦も深められればもっと情報を手に入れられるかもしれない)

 そうした考えのもと、ヒイラギはクルーマス王国騎士団員との模擬戦を承諾したのだった。
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