上 下
37 / 55
第一章 白銀成長編

第三十七話 守れなかった命へ

しおりを挟む
 ソジュたちの元をってから数分後、護衛部門第一位のジョンと傭兵部門第三位のコンの2人は、敵の元へ近づくことができているのか不安を感じていた。
 先を進んでいるはずのオニキスからは何の報告もない。
 薄暗い森のせいで方向感覚を見失いそうになる。
 それでも前に進むことができているのは、ヒイラギが先導しているからだった。
 その足取りに迷いはなく、左手を鞘の上に置き、右手を柄にかけたまま進んでいく。

「ヒイラギくん。敵の居場所がわかるっすか?」

 コンは特定の場所を目指しているかのようなヒイラギの歩みに質問を投げた。
 その問いかけに前を向いたままではあるが、誠実にヒイラギは答えた。

「わかります。どうしてなのかを説明している時間はないのですが……。僕を信じてくれますか」
「もちろんっすよ! ちょっと不安になって聞いちゃっただけっす!」

 短い問答だったが、すっかりコンの表情は晴れた。
 対してジョンはまだ何か引っかかっていたが、ヒイラギの言葉を信じて進むことにした。

「止まれ」

 そんな3人の行く手を、音もなく着地したオニキスがはばんだ。

「オニキス、何かあったのか」
「ああ。この先にまた複数人の敵影があった。今回は傭兵ではない」

 ここでオニキスはヒイラギを見る。

「ほとんどは有象無象の賊だったが、その中に”武器狩り”の姿があった」

 その通り名を聞いた途端とたん、ヒイラギの目つきが変わった。

「”武器狩り”って、ヒイラギくんが討伐したやつっすよね……!」
「そうです……。トドメを刺したのはオニキスさんですが……」
「首を切って傭兵会に報告した。そんな状態のやつでも生き返らせられるということだな」

 ヒイラギを除く3人は、ソジュに話を聞き、ダリーなどの実物を見てはいたが、やはり死人がよみがえるという事象を消化できてはいなかった。
 
「”武器狩り”は僕に相手をさせてください」

 ヒイラギは剣を抜き放つと、ジョンにそう申し出た。
 オニキスが何も言わないのを見て、ジョンはそれを了承した。
 そしてそのまま戦い方を伝える。

「彼らと戦ったときと同じようにしよう。俺が攻撃を防ぎ、コンとオニキスは各個撃破、ヒイラギは”武器狩り”に集中する」

 ”武器狩り”の攻撃をまともにくらったら、俺たちの武器は粉々になるしなとも付け加えると、再び盾を構えて斧で叩いた。
 目を閉じてその音を聞いたジョンは、まとっている雰囲気が変わった。
 
「行くぞ」


 
「”天駆る暗殺者”がよかったが、お前も殺したかったからよいか」

 賊と4人の戦いが始まった。
 事前の打ち合わせ通り、ジョンは多くの敵の攻撃を寄せ、防ぎ、全体の負担の軽減を担っている。
 コンは地上から、オニキスは空中からジョン及びヒイラギ周辺の敵を仕留めていく。
 ヒイラギは”武器狩り”とにらみ合っていた。

「僕はあなたを止めなくてはならない。あなたがこれ以上、命を奪うことがないように」

 陽の光がほとんど差さないこの場所においても、ヒイラギの持つ剣は白銀色に浮かび上がっている。

「俺に殺されかけていたお前に、何ができるというんだ」

 空気を押しのけて、先の鋭い鋼鉄のハンマーがヒイラギへと迫る。
 ヒイラギは剣の側面を肩に当てると、真っ向からそのハンマーを防ぎにいく。
 ”武器狩り”の脳裏には、受け止めきれずに、そのまま吹き飛んでいった過去のヒイラギの姿が浮かんでいた。
 
 そこから先、今に至るまでの過程を彼は知らない。

「……!」

 激しい衝突音。
 
 地面に足をめり込ませて、とてつもない力が乗ったハンマーを受け止める。
 ほとんど動かないヒイラギの姿に”武器狩り”は目を見開いた。

 受け止めたとき、ヒイラギ自身も少し驚いていた。
 ”運と実力の盾”を守ろうとしてもろとも飛ばされた記憶が強く、頭の冷静な部分では無理だと思っていた。
 だが、なぜか体は受け止める構えを取り、そして本当に成し遂げた。

 ヒイラギは自身の無力さを知り、自身の原点を思い出し、命を守りながらここまで来た。
 それらの経験を得たこと、それに戦いを続けたことによって、初依頼の頃に比べて体が大きく、そして強くなっていた。
 無自覚だったゆえに、知らず知らずのうちに力を抑えてしまっていたが、ソジュの剣を折ったことで自身の成長に気付いたのだった。

「あなたと会ったときの僕は弱かった。今もまだまだ理想の守護者には程遠い」

 足を一歩踏み込んでハンマーをわずかに押し返す。

「そのせいで命を冒涜ぼうとくする者がいる……!」

 白銀の剣が鈍い色のハンマーを振り払った。
 ”武器狩り”はその気味が悪い体の柔軟さを利用して、再び振り下ろす。

「僕はあなたを止めて、先にいるそいつを倒すんだ!」

 ヒイラギはハンマーを受け流し、”武器狩り”の両腕を斬りつけた。
 そして”武器狩り”が痛みにひるむよりも先に、流れるようにして腰のあたりを切り裂いた。
 
「また俺はお前に……!」

 地に伏した”武器狩り”は、血走った目でヒイラギをにらむ。
 ヒイラギは振り返ってそれを見返すと、剣についた血を払った。

「僕はあなたの命とあなたが奪った命を絶対に忘れません。それらを背負い、これからも命を守ります」
「何を訳の分からないことを言う……!」

 伏せた状態から放たれた不自然な姿勢での蹴りを剣で止めて、そのままその足の筋をった。
 
「それが、僕が守れなかった命へのつぐないです。誰にも理解されなくていい、僕だけの誓いです」

 剣を鞘に入れると”武器狩り”から離れていく。
 その背中に向けて何かをずっとわめいていたが、そのうち、水を打ったように静かになったのだった。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

小さなことから〜露出〜えみ〜

サイコロ
恋愛
私の露出… 毎日更新していこうと思います よろしくおねがいします 感想等お待ちしております 取り入れて欲しい内容なども 書いてくださいね よりみなさんにお近く 考えやすく

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

スライム10,000体討伐から始まるハーレム生活

昼寝部
ファンタジー
 この世界は12歳になったら神からスキルを授かることができ、俺も12歳になった時にスキルを授かった。  しかし、俺のスキルは【@&¥#%】と正しく表記されず、役に立たないスキルということが判明した。  そんな中、両親を亡くした俺は妹に不自由のない生活を送ってもらうため、冒険者として活動を始める。  しかし、【@&¥#%】というスキルでは強いモンスターを討伐することができず、3年間冒険者をしてもスライムしか倒せなかった。  そんなある日、俺がスライムを10,000体討伐した瞬間、スキル【@&¥#%】がチートスキルへと変化して……。  これは、ある日突然、最強の冒険者となった主人公が、今まで『スライムしか倒せないゴミ』とバカにしてきた奴らに“ざまぁ”し、美少女たちと幸せな日々を過ごす物語。

女神から貰えるはずのチート能力をクラスメートに奪われ、原生林みたいなところに飛ばされたけどゲームキャラの能力が使えるので問題ありません

青山 有
ファンタジー
強引に言い寄る男から片思いの幼馴染を守ろうとした瞬間、教室に魔法陣が突如現れクラスごと異世界へ。 だが主人公と幼馴染、友人の三人は、女神から貰えるはずの希少スキルを他の生徒に奪われてしまう。さらに、一緒に召喚されたはずの生徒とは別の場所に弾かれてしまった。 女神から貰えるはずのチート能力は奪われ、弾かれた先は未開の原生林。 途方に暮れる主人公たち。 だが、たった一つの救いがあった。 三人は開発中のファンタジーRPGのキャラクターの能力を引き継いでいたのだ。 右も左も分からない異世界で途方に暮れる主人公たちが出会ったのは悩める大司教。 圧倒的な能力を持ちながら寄る辺なき主人公と、教会内部の勢力争いに勝利するためにも優秀な部下を必要としている大司教。 双方の利害が一致した。 ※他サイトで投稿した作品を加筆修正して投稿しております

特殊部隊の俺が転生すると、目の前で絶世の美人母娘が犯されそうで助けたら、とんでもないヤンデレ貴族だった

なるとし
ファンタジー
 鷹取晴翔(たかとりはると)は陸上自衛隊のとある特殊部隊に所属している。だが、ある日、訓練の途中、不慮の事故に遭い、異世界に転生することとなる。  特殊部隊で使っていた武器や防具などを召喚できる特殊能力を謎の存在から授かり、目を開けたら、絶世の美女とも呼ばれる母娘が男たちによって犯されそうになっていた。  武装状態の鷹取晴翔は、持ち前の優秀な身体能力と武器を使い、その母娘と敷地にいる使用人たちを救う。  だけど、その母と娘二人は、    とおおおおんでもないヤンデレだった…… 第3回次世代ファンタジーカップに出すために一部を修正して投稿したものです。

元おっさんの俺、公爵家嫡男に転生~普通にしてるだけなのに、次々と問題が降りかかってくる~

おとら@ 書籍発売中
ファンタジー
アルカディア王国の公爵家嫡男であるアレク(十六歳)はある日突然、前触れもなく前世の記憶を蘇らせる。 どうやら、それまでの自分はグータラ生活を送っていて、ろくでもない評判のようだ。 そんな中、アラフォー社畜だった前世の記憶が蘇り混乱しつつも、今の生活に慣れようとするが……。 その行動は以前とは違く見え、色々と勘違いをされる羽目に。 その結果、様々な女性に迫られることになる。 元婚約者にしてツンデレ王女、専属メイドのお調子者エルフ、決闘を仕掛けてくるクーデレ竜人姫、世話をすることなったドジっ子犬耳娘など……。 「ハーレムは嫌だァァァァ! どうしてこうなった!?」 今日も、そんな彼の悲鳴が響き渡る。

貧乏冒険者で底辺配信者の生きる希望もないおっさんバズる~庭のFランク(実際はSSSランク)ダンジョンで活動すること15年、最強になりました~

喰寝丸太
ファンタジー
おっさんは経済的に、そして冒険者としても底辺だった。 庭にダンジョンができたが最初のザコがスライムということでFランクダンジョン認定された。 そして18年。 おっさんの実力が白日の下に。 FランクダンジョンはSSSランクだった。 最初のザコ敵はアイアンスライム。 特徴は大量の経験値を持っていて硬い、そして逃げる。 追い詰められると不壊と言われるダンジョンの壁すら溶かす酸を出す。 そんなダンジョンでの15年の月日はおっさんを最強にさせた。 世間から隠されていた最強の化け物がいま世に出る。

テンプレな異世界を楽しんでね♪~元おっさんの異世界生活~【加筆修正版】

永倉伊織
ファンタジー
神の力によって異世界に転生した長倉真八(39歳)、転生した世界は彼のよく知る「異世界小説」のような世界だった。 転生した彼の身体は20歳の若者になったが、精神は何故か39歳のおっさんのままだった。 こうして元おっさんとして第2の人生を歩む事になった彼は異世界小説でよくある展開、いわゆるテンプレな出来事に巻き込まれながらも、出逢いや別れ、時には仲間とゆる~い冒険の旅に出たり 授かった能力を使いつつも普通に生きていこうとする、おっさんの物語である。 ◇ ◇ ◇ 本作は主人公が異世界で「生活」していく事がメインのお話しなので、派手な出来事は起こりません。 序盤は1話あたりの文字数が少なめですが 全体的には1話2000文字前後でサクッと読める内容を目指してます。

処理中です...