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31 狐乙女とバレンタイン
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「そろそろバレンタインだねえ」
とコタツから顔を出した猫又の銀華がポツリと言った。
まだまだ厳しい寒さが続く稲荷神社だが、紗季の部屋はポカポカと温かい。
紗季の妖力で室温が保たれており、冬は温かく夏は涼しいのだ。
「バレンタインってなんなのじゃ?」
と編み物をしている手を止めた紗季が銀華に尋ねる。
気になる単語が聞こえてきたので、狐の耳がピンと立って、二本の尻尾がパタパタと動いた。
「恋人の男の子にチョコをあげる人間の行事だよ。まさか紗季は蓮の分、まだ作ってないの?」
「そ、そんな行事知らなかったのじゃー!」
「まずいねえ、蓮はモテるから、他の子からチョコを貰って紗季から貰えないと心が移っちゃうかもよ」
と銀華がニヤニヤとしながらからかう。
「まずいのじゃ。こうなったらチョコレートとやらをつくるのじゃ」
「うんうん、僕も手伝うよ」
「作り方を教えてほしいのじゃ!」
「了解、とりあえず材料買ってくるから待っててね」
銀華が出かけてしまうと、ポツンと残された紗季は、
「今どきは知らない行事がたくさんあるのう、楽しくていいのじゃ」
と呟き、再び編み物を始めた。
「ただいまー!材料買ってきたよ」
「おかえりなのじゃー」
「買い物してたらタルトがいたから連れてきたよ」
銀華と一緒に紗季の部屋に制服姿のタルトがやってきた。
「私もちょうど学校帰りに駅前のデパートで買い物してたの」
とタルトが言う。
「タルトは目立つからすぐ見つかったよ」
「銀華ほどじゃないよ」
と談笑する二人を見て、
「いつの間にか二人とも仲良くなったのう」
と紗季は微笑んだ。
「僕たちは生チョコを作ろう」
と銀華が紗季に言う。
「わかったのじゃ!タルトは何を作るのじゃ?」
「私はガトーショコラのケーキを作るよ」
「凄いのう、難しそうじゃ!」
紗季が関心していると、
「作ったことあるの?」
と銀華が尋ねる。
「ないけど、調べて作ればたぶんできるよ」
とタルトがスマホでガトーショコラの作り方を検索し始めた。
「タルトは頭が良いからのう」
「こういうのは得意なんだ。理科の実験と一緒だよ」
「うーん、ちょっと違うと思うけど」
と銀華は首を傾げたが、タルトはどうやら自信があるようだ。
「銀華先生、よろしくお願いしますなのじゃ」
台所に移動した紗季は、元気よく挨拶した。
「まずはチョコレートをみじん切りだよ」
「みじん切りなら任せてなのじゃ!」
料理で慣れた包丁捌きを紗季が披露する。
板チョコレートを贅沢に六枚、みじん切りにしていく。
「その間に鍋で生クリームを温めてっと」
「蓮も受験に無事合格したし、一安心だね」
と隣でガトーショコラ作りに奮闘するタルトが声をかけてきた。
「そうじゃのう、蓮は本当によく勉強しとったのう」
「タルトの指導が良かったんじゃないかな?」
と銀華が褒めると、
「ま、まあ私が教えたんだから、全然心配なんてしてなかったからね!」
とタルトは照れた様子だ。
「みじん切りできたのじゃ!」
「よし、そしたら温めた生クリームと一緒に混ぜよう!」
紗季と銀華はチョコと生クリームをボウルに移し、ゆっくりと混ぜ始めた。
「早く混ぜると冷えて固まっちゃうから、ゆっくりとね」
「わかったのじゃー」
「少し固まってきたから、湯煎しながら混ぜたほうがいいね」
「ふむふむ」
「ここいらでバターも混ぜてっと」
三人でワイワイとするお菓子作りはなかなか楽しい。
紗季は自然と笑顔になった。
「よし!そしたらあとは冷蔵庫で冷やしておいて!固まったら切り分けて、ココアパウダーを振りかけたら完成だよ」
「ありがとうなのじゃ、銀華先生!」
「ちゃんとハートの箱にリボンをかけて蓮にあげるんだよ」
「な、バレンタインってそういうものなのかの!?」
顔を赤くして焦る紗季を見て、横でガトーショコラ作りに奮闘しているタルトが手を止めて笑った。
「そっちの方が蓮はきっと喜んでくれるよ。ガトーショコラもそろそろできそうだし、少し味見してみる?」
「おいしそうなのじゃー!」
紗季と銀華は二人とも尻尾をピンと立てて喜んだ。
二月一四日、稲荷神社では真っ赤に頬を染める紗季の姿があった。
「れ、蓮。一生懸命作ったのじゃ。受け取ってほしいのじゃ!」
と後ろに隠して持っていたハート型の箱をもじもじと手渡す。
「あ、ありがとう」
となんだか一緒に照れてしまった蓮は、お礼を言ってチョコを受け取った。
「いいぞー!ヒューヒュー!」
と銀華が合いの手を入れると、
「良い酒の肴になるなあ」
と天狗の三岳坊がぐいぐい日本酒を飲み進めた。
「からかわないでほしのじゃー!」
「こんな良い肴はなかなかないぞ」
ガハハと笑う三岳坊に、
「師匠!いつもありがとう!」
とタルトがいきなりガトーショコラのケーキをドンとホールで手渡した。
一瞬驚きで場が沈まったが、
「みんなで食べるから切り分けようねー」
と銀華が言うと、
「そ、そうなのじゃ!みんなで食べるのじゃ」
と緊張が解けた紗季が笑いながら切り分け始めた。
「三岳坊、お主が照れてモジモジしても気味が悪いぞ」
と紗季がからかう。
「う、うるさい!」
と三岳坊は日本酒をグイッとあおった。
コタツに入って皆でガトーショコラを食べ始める。
銀華の淹れてくれた紅茶もよく合う。
楽しく盛り上がる稲荷神社の鳥居に、二人の人影があった。
紗季と三岳坊がいち早く強力な妖力を察知して振り返る。
蓮のポケットで静かに寝ていた夜雀が、覚えのある恐ろしい妖力に驚いて目を覚ました。
「あらあら、この私を抜きにして随分楽しそうね」
「久しぶりの稲荷神社でありんすなぁ」
鳥居に佇む二人の人影は静かに微笑んだ。
とコタツから顔を出した猫又の銀華がポツリと言った。
まだまだ厳しい寒さが続く稲荷神社だが、紗季の部屋はポカポカと温かい。
紗季の妖力で室温が保たれており、冬は温かく夏は涼しいのだ。
「バレンタインってなんなのじゃ?」
と編み物をしている手を止めた紗季が銀華に尋ねる。
気になる単語が聞こえてきたので、狐の耳がピンと立って、二本の尻尾がパタパタと動いた。
「恋人の男の子にチョコをあげる人間の行事だよ。まさか紗季は蓮の分、まだ作ってないの?」
「そ、そんな行事知らなかったのじゃー!」
「まずいねえ、蓮はモテるから、他の子からチョコを貰って紗季から貰えないと心が移っちゃうかもよ」
と銀華がニヤニヤとしながらからかう。
「まずいのじゃ。こうなったらチョコレートとやらをつくるのじゃ」
「うんうん、僕も手伝うよ」
「作り方を教えてほしいのじゃ!」
「了解、とりあえず材料買ってくるから待っててね」
銀華が出かけてしまうと、ポツンと残された紗季は、
「今どきは知らない行事がたくさんあるのう、楽しくていいのじゃ」
と呟き、再び編み物を始めた。
「ただいまー!材料買ってきたよ」
「おかえりなのじゃー」
「買い物してたらタルトがいたから連れてきたよ」
銀華と一緒に紗季の部屋に制服姿のタルトがやってきた。
「私もちょうど学校帰りに駅前のデパートで買い物してたの」
とタルトが言う。
「タルトは目立つからすぐ見つかったよ」
「銀華ほどじゃないよ」
と談笑する二人を見て、
「いつの間にか二人とも仲良くなったのう」
と紗季は微笑んだ。
「僕たちは生チョコを作ろう」
と銀華が紗季に言う。
「わかったのじゃ!タルトは何を作るのじゃ?」
「私はガトーショコラのケーキを作るよ」
「凄いのう、難しそうじゃ!」
紗季が関心していると、
「作ったことあるの?」
と銀華が尋ねる。
「ないけど、調べて作ればたぶんできるよ」
とタルトがスマホでガトーショコラの作り方を検索し始めた。
「タルトは頭が良いからのう」
「こういうのは得意なんだ。理科の実験と一緒だよ」
「うーん、ちょっと違うと思うけど」
と銀華は首を傾げたが、タルトはどうやら自信があるようだ。
「銀華先生、よろしくお願いしますなのじゃ」
台所に移動した紗季は、元気よく挨拶した。
「まずはチョコレートをみじん切りだよ」
「みじん切りなら任せてなのじゃ!」
料理で慣れた包丁捌きを紗季が披露する。
板チョコレートを贅沢に六枚、みじん切りにしていく。
「その間に鍋で生クリームを温めてっと」
「蓮も受験に無事合格したし、一安心だね」
と隣でガトーショコラ作りに奮闘するタルトが声をかけてきた。
「そうじゃのう、蓮は本当によく勉強しとったのう」
「タルトの指導が良かったんじゃないかな?」
と銀華が褒めると、
「ま、まあ私が教えたんだから、全然心配なんてしてなかったからね!」
とタルトは照れた様子だ。
「みじん切りできたのじゃ!」
「よし、そしたら温めた生クリームと一緒に混ぜよう!」
紗季と銀華はチョコと生クリームをボウルに移し、ゆっくりと混ぜ始めた。
「早く混ぜると冷えて固まっちゃうから、ゆっくりとね」
「わかったのじゃー」
「少し固まってきたから、湯煎しながら混ぜたほうがいいね」
「ふむふむ」
「ここいらでバターも混ぜてっと」
三人でワイワイとするお菓子作りはなかなか楽しい。
紗季は自然と笑顔になった。
「よし!そしたらあとは冷蔵庫で冷やしておいて!固まったら切り分けて、ココアパウダーを振りかけたら完成だよ」
「ありがとうなのじゃ、銀華先生!」
「ちゃんとハートの箱にリボンをかけて蓮にあげるんだよ」
「な、バレンタインってそういうものなのかの!?」
顔を赤くして焦る紗季を見て、横でガトーショコラ作りに奮闘しているタルトが手を止めて笑った。
「そっちの方が蓮はきっと喜んでくれるよ。ガトーショコラもそろそろできそうだし、少し味見してみる?」
「おいしそうなのじゃー!」
紗季と銀華は二人とも尻尾をピンと立てて喜んだ。
二月一四日、稲荷神社では真っ赤に頬を染める紗季の姿があった。
「れ、蓮。一生懸命作ったのじゃ。受け取ってほしいのじゃ!」
と後ろに隠して持っていたハート型の箱をもじもじと手渡す。
「あ、ありがとう」
となんだか一緒に照れてしまった蓮は、お礼を言ってチョコを受け取った。
「いいぞー!ヒューヒュー!」
と銀華が合いの手を入れると、
「良い酒の肴になるなあ」
と天狗の三岳坊がぐいぐい日本酒を飲み進めた。
「からかわないでほしのじゃー!」
「こんな良い肴はなかなかないぞ」
ガハハと笑う三岳坊に、
「師匠!いつもありがとう!」
とタルトがいきなりガトーショコラのケーキをドンとホールで手渡した。
一瞬驚きで場が沈まったが、
「みんなで食べるから切り分けようねー」
と銀華が言うと、
「そ、そうなのじゃ!みんなで食べるのじゃ」
と緊張が解けた紗季が笑いながら切り分け始めた。
「三岳坊、お主が照れてモジモジしても気味が悪いぞ」
と紗季がからかう。
「う、うるさい!」
と三岳坊は日本酒をグイッとあおった。
コタツに入って皆でガトーショコラを食べ始める。
銀華の淹れてくれた紅茶もよく合う。
楽しく盛り上がる稲荷神社の鳥居に、二人の人影があった。
紗季と三岳坊がいち早く強力な妖力を察知して振り返る。
蓮のポケットで静かに寝ていた夜雀が、覚えのある恐ろしい妖力に驚いて目を覚ました。
「あらあら、この私を抜きにして随分楽しそうね」
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