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最終章 太極天命編
34 最後の闘い
しおりを挟む「さあ、この因縁を終わりにしようか」
と土御門翠流は日月護身の剣をスラリと抜いた。そのまま剣をスッと頭上に掲げると、上空に貴船神社の龍神が顕現した。龍神はそのまま日月護身の剣に吸い込まれるようにして消えていく。刀に神の力が宿り、月光を反射して蒼く輝いた。
「何を言おうと、お前をここで殺すことに変わりはない」
と琥太郎も二本の刀を抜く。夜の闇よりさらに深い、墨を垂らしたような黒が妖刀安綱から流れ出る。小太刀黒蝶のまわりには、黒揚羽が狂ったように飛び回った。
お互いに刀を構える。翠流は剣先を上げてやや右にずらした青眼の構えをとった。琥太郎は小太刀を低く地に這うように、大刀を天高く上段に掲げた独特の構えを取る。お互いの間合いがジリジリと詰まり、緊張感が増していった。ゆらゆらと翠流は剣先を揺らし、琥太郎の攻撃を誘いながら隙を狙う。琥太郎は小太刀で敵の正中線を制しながら、大刀を振り下ろす機会を伺った。先に仕掛けたのは琥太郎だった。安綱を激しい気合いと共に翠流の頭上に振り下ろす。それに対し、翠流はやや後退しながら刀の鎬で琥太郎の斬撃を流れる水のように受け流し、軌道をずらした。そのまま琥太郎の空いた腹目掛けて横凪に刀を一閃させる。咄嗟に応じた琥太郎は小太刀で辛うじて翠流の一撃を受け止めた。
「くっ!」
と琥太郎は顔を顰める。横薙ぎに掠った琥太郎の腹からは、薄く血が滲んだ。翠流も軌道が逸れたとはいえ剣先が額を掠ったようで、額に血が滲んでいる。
そのまま翠流は琥太郎の喉元目掛けて猛烈な片手突きを打ち込んだ。濁流が押し寄せるような猛烈な勢いに、琥太郎は辛うじて首元をかわすもそのまま後ろに吹き飛んだ。思わず尻餅をついた琥太郎に対して、翠流は追撃の斬撃を大上段から振り下ろす。頭上に迫った剣を琥太郎は小太刀と大刀をクロスさせるように受け止めた。ギリギリとお互いの刀を押し合い、鍔迫り合いとなる。琥太郎は立ち上がると、右に体をずらし側に大刀で斬撃しながら距離をとった。
「よくここまで登り詰めたな、坂田琥太郎!お前なら俺の気持ちがわかるだろう?強くなるために捨てて来た物、斬り捨てて来た者たちの重さを。そして強さへの渇望を」
「お前と俺の遺伝子が同じだとしても、俺はお前の考えなどわかりたくもないし、理解する気もない」
と琥太郎は吐き捨てる。
「残念だな。お前が唯一の俺の理解者になりうると考えていたのに」
と激しく斬り合いながら翠流は言った。
「お前は俺であり、俺はお前だ。育って来た環境が違うだけ。俺たちは本質的に同じだ」
と翠流は続ける。
「お前と一緒にするな!俺は俺だ。それ以上でもそれ以下でもない」
激しく剣がぶつかり合う音で、気を失っていた柚は目を覚ました。
「琥太郎くん!」
「柚、目が覚めたか!」
一瞬、琥太郎の集中が途切れる。その瞬間を翠流は見逃さなかった。袈裟懸けに刀を一閃させる。
「死ね、坂田琥太郎!」
だが、それすらも琥太郎の誘いの隙であった。琥太郎は小太刀で翠流の斬撃を流すと、そのまま脳天をカチ割る勢いで大刀を大きく振り下ろす。翠流は首を傾けて斬撃を紙一重でかわしたが、その肩に刀が深く食い込んだ。鮮血が吹き出し、翠流が後ろにのけぞった。返す刀で琥太郎は翠流の首を狙う。
「これで終わりだ、翠流!」
「お前がだ!坂田琥太郎!」
お互いに引くことなく斬撃を放った結果、すれ違いながら斬り合う形となった。琥太郎はガクリと膝をつく。一瞬のうちに両手首を切断された琥太郎の腕ごと刀は地面に落ちた。血飛沫が両腕から飛び散る。さらに一瞬のうちに脚の腱が斬られたため、琥太郎は膝立ちすらできずその場に崩れ落ちた。その胸には、日月護身の剣が突き立っていた。
「やめて!」
と柚が悲鳴を上げる。
「これまでか、勝負あったな」
と翠流が背中を向けたままポツリと言った。その言葉を最後に、翠流の首は地面にボトリと落ちた。残った胴体から血が吹き出し、地面に転がる。土御門翠流の人生初の敗北は、死を以て完結した。
「琥太郎くん、琥太郎くん!」
と柚は涙を流しながら駆け出す。
「琥太郎くん、どうかしっかりして!土御門翠流は死にました!あとはもう、何も恨むことも、戦うことも、ないのですわ!ここで死んではいけません!」
と必死で琥太郎によびかける。しかし、閉じられた琥太郎の瞳が開くことはなかった。
結界が解けるように消えていく。いつのまにか鞍馬山の影から日が登り、京は朝を迎えようとしていた。柚は膝の上に琥太郎の頭をのせ、膝枕をした。そのまま静かに琥太郎の頭を撫でる。
「琥太郎くん、私はあなたの事をお慕い申し上げておりました。昔から、今でも、ずっと、ずっとです。あなたがどんな絶望のもとにいても、私はあなたと共に歩むと決めております。琥太郎くん、もうあなたを一人にはさせません。一緒に行きましょう。地獄でもどこでも、柚はお供しますよ」
そう言うと、小太刀黒蝶を手に取り、柚は自分の首に押し当てた。白い首筋にプツプツと赤い血が玉となって現れる。柚の頬から流れた涙が一粒琥太郎の胸に刺さる日月護身の刀に零れ落ちた。その涙の雫は、朝日を反射して美しく輝いていた。
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