【完結】妖の王の継承者は正妻志望で学園1の銀髪美少女と共に最強スキル「異能狩り」で成り上がり復讐する〜

ひらたけなめこ

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2章 陰陽騒乱編

18 怨敵

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「姫華!」

 倒れ込む姫華に琥太郎は叫びながら、鎌鼬の群れを斬り進む。

「さすがにそろそろ妖力も切れそうだなあ。ボクはここらでお暇するよ」
とメルは肩をすくめた。

 琥太郎は鎌鼬を斬りながら考える。大百足の毒は十二神将の妖力をも上回る強力さだ。式神との妖力の流れを通じて姫華の体をも蝕んでいるのだろう。簡単な応急措置なら琥太郎もできるが、大百足の毒を解毒などとてもできないだろう。そうなると、考えられる手段は一つ。

「術者を殺し、毒の根源を断つ」

 鎌鼬を斬り終え、鬼閃脚でメルとの間合いを一気に詰めようとする。

「おおっと、そうはいかないよ」

 琥太郎の行く手を巨大な大百足が阻んだ。顔の前で威嚇するように大量の脚を複雑に蠢かしながら、毒液の滴る牙をガチガチと鳴らした。

「邪魔だ」

 琥太郎が大百足を空中で一旦静止し睨みつける。そのまま袈裟懸けに振り上げた刀を斬り下ろした。斬った瞬間、世界から音が消える。少しの間を置いて、大百足は両断されて絶命した。大きな音を立てて大百足が横たわる。

「う、嘘だ!ボクの作った最高傑作があ!作るのに何年かかったと思ってるんだ!」

「うるさい、死ね」

 琥太郎は大百足を斬った勢いのまま、刀を返しメルに斬りかかる。

「ひぃっ!」

 その場に座り込んだメルは、思わず目を瞑り両手を前に出す。琥太郎の刀は、メルの首筋ギリギリで止まっていた。刃筋が僅かに当たった首から、一筋の血がタラリと垂れる。

「い、命だけは助けてくれ!何でもするからあ!」

 こいつを殺さないと姫華は死ぬ。すぐにでもそれなら殺すしかないと分かっているはずだが、琥太郎は躊躇している自分に驚いた。今までは復讐のため、仇である妖を躊躇なく殺してきた。しかし、今回は一人の人間が相手である。頭では殺さなければと分かっていても、体がすぐには動かない。一方で、琥太郎は一人の人間の命を握っているこの状況に奇妙な恍惚を覚えていた。

「どうした、殺さないのか」

 急に耳元に囁くような声が響き、本能的に琥太郎は安綱を背後に向けて振り抜くと、飛びすさって何者かと距離を取った。

「お、お前は……」

 死の重圧から解放されたメルは涙を流し、自分を助けた者の名を叫んだ。

「す、翠流さまぁ!!」

 狩衣姿で長い黒髪を伸ばした男。間違いない。十年ぶりに会うその姿は、忘れるまでもなく琥太郎の脳裏に呪いのように染み付いていた。

「翠流!貴様を殺す!」

 琥太郎は安綱を構え直す。

「その妖力……妖の王と同じ力を感じるな。懐かしい。お前は何者だ?」

「俺の名は坂田琥太郎。妖の王の後継者だ!」

「妖の王の後継者?ああ、あの時のクズか。なかなか良い顔をするようになったじゃないか」

「お前を殺す今日という日を十年間待ち望んできたからな」

「なるほど。なかなか面白いな。最近酒呑童子と窮奇を殺したのはお前か。だがお前には覚悟が足りない」

「なんだと」

「お前は結局人間一人殺めるほどの覚悟も決められていないって言ってるんだ。メルを殺せないようでは、俺を殺すことなんてとてもできない。お前はまだ迷ってるな。修羅になりきれていない」

「うるさい。お前ら二人ともまとめて殺してやる」

 琥太郎は安綱を携え、翠流に斬りかかる。

ギィィン!と音を立てて、琥太郎の斬撃は清流の刀に止められた。

「その刀は……」

「ああ。日月護身の剣。お前の父の刀はなかなか使い心地が良いよ」

 琥太郎が一気に連続で仕掛ける斬撃を翠流は全て片手で捌いていく。

「剣捌きに迷いが出ているな。お前も気づいているんだろう?妖刀は守るための力ではない、奪うための力だ。お前は俺の妹一人すら救うことはできない」

 すると背後でぐったりと倒れていた姫華が、痙攣する体をなんとか起こそうとしながら、声を上げた。

「琥太郎!逃げて!今のあなたではまだ兄さんには敵わないわ!」

「そんなことはない!十年間修行してきたんだ!」

「そんなものは関係ない。妖刀はお前の周囲の者を傷つけ、やがてお前の命すらも喰らうだろう」

 首筋に向かって斬り下ろされた安綱を、翠流は防ぎつつ遠心力を利用し巻き上げる。安綱は宙に高く飛び、遙か後方の地面に突き刺さった。琥太郎はガックリと地面に膝をつく。

「さすが翠流さま。さあ!あの男をやってしまって!」

 メルが勢いづいて大声を出した。そのもとにツカツカと翠流は歩み寄っていく。

「お前は本当に役に立たないなあ。これだけ俺の妖力を貸してやったのに、大百足すらこのザマじゃないか」

「そ、それは……申し訳ございません、翠流さま!」

 そのまま翠流は日月護身の剣の切先をメルの右の眼球の手前に優雅な手つきで構えた。

「す、翠流さま。それだけはどうか許して」

 プチュン。と音がして、翠流はメルの眼球を刀で突き刺した。串刺しになり潰れた眼球から、噴水のように血が噴き出す。けたたましい叫び声が長々と響き渡った。

「おい、大丈夫か!姫華!」

「姫華様!今浄化で治療しますわ!」

「柚。賀茂。何故ここに」
 膝をつき茫然としていた琥太郎は我に帰る。

「柚ちゃんから連絡をもらって、警戒していたんだ。プライドの高い姫華がお前にボディガードを頼むってことは、何かあるんじゃないかとな」

「あれが、土御門翠流」

 姫華に浄化の光を当てながら、柚は呟いた。




 




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