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1章 入学編

06 愛妻弁当をお作りしますわ!

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 フワフワと柔らかいものに包まれ、温もりを感じる。琥太郎は窓から差し込む朝日に起こされ、目を覚ました。

「あら、目が覚めましたのね、琥太郎くん」

 柚の整った顔が目の前にあり、琥太郎は驚いてベッドから落ちそうになる。美しい銀髪が朝日に照らされキラキラと輝いていた。

「柚、また俺のベッドに潜り込んできたのか」

「うふふ、昨日の琥太郎くんは可愛かったですわ。柚の尻尾を抱っこして離さないんですもの」

 琥太郎は恥ずかしくなり返す言葉を失った。柚は嬉しそうにモフモフとした銀の尻尾をゆらゆらと揺らす。

「と、とりあえず朝食食べるぞ!」
 恥ずかしさを隠すように琥太郎は言った。

 身支度を整えると、柚と一緒に電車に乗り高校へ向かう。高校生活も少しずつ慣れてきたところだ。池袋駅で電車を降りると、西口を出て高校はすぐそこだ。

「これからは手を繋いで登校するなんてどうでしょう?」
と柚がモジモジしながら言う。

「いやいや、そんな恥ずかしいことできるわけないだろう」

「そうですかー、せっかく名案だと思いましたのに。残念」
 落ち込む柚に、クラスメイトの女子達が声をかけてくる。

「柚ちゃーん、おはよう!」

「あ、琥太郎も!柚ちゃん琥太郎に変なことされてないでしょうね」

「するわけねーだろ!」

 柚がバラしてしまったことで、琥太郎と柚が一緒に住んでいることはすぐに噂になって広まった。二人とも複雑な家庭事情があるとクラスメイト達も受け入れてくれている。

「よう、琥太郎!相変わらずモテる男は大変だな」

 声をかけてきたのは隣の席の賀茂だ。

「賀茂、お前また変な噂流してるんじゃないだろうな?」

「いや、俺が流してるわけじゃないって。お前も今じゃ学校中で有名人だぜ。何せ学校一の美少女柚ちゃんをたぶらかしてるんだからな」

「たぶらかしてねーっつうの」

「噂って怖いな。なんせ琥太郎は入学初日に柚ちゃんに、俺の子を産め!って言い放ったことになってるぜ」

「なんだよ、その某漫画みたいなセリフ」

 柚の自己紹介のセリフに尾ひれはひれがついて勝手に広まっているらしい。教室に着くと、さっそく柚はクラスの女子たちに囲まれている。柚の世間知らずお嬢様キャラはクラスメイトに受けたようで、すっかり人気者だ。

「柚ちゃんは人気者だなー、それに比べて琥太郎、お前ってやつは」

「なんだよ賀茂」

「入学初日から柚ちゃんとイチャイチャしてるから、クラスの男子から恨みの目で見られてるじゃねーか」

「た、たしかに……」

 柚と話すたびにクラスメイトの男子達から
「リア充爆発しろ!」と非難されているのは、果たして仲良くなっていると言えるのだろうか?そう考えると、何も考えずに仲良くしている賀茂は結構良いやつなのかもしれない。

 授業が終わり、昼休みだ。いつも通り加茂と学食に行こうとすると、クラスの女子を引き連れて柚がこちらへ向かってきた。

「ほら、いっちゃいなよ!」

「柚ちゃん、勇気を出して!」

 照れてモジモジしながらやってきた柚は、
「琥太郎くん、今日はお弁当を作ってきましたの。一緒に食べてくださいませんか?」
と上目遣いで手作り弁当を差し出した。

「キャー、かわいい!」
とクラスの女子は盛り上がる一方で、
「くそー、琥太郎め爆発しろ!」
とクラスの男子からは大ブーイングだ。

「ありがとう、一緒に中庭で食べようか」

「やった!頑張って作った甲斐がありましたわ!」
 柚はピョンピョンと嬉しそうに飛び跳ねる。

「柚ちゃーん、俺のはー?」
と問いかける賀茂は、
「あんたのがあるわけないでしょ!邪魔しないの」
とクラスの女子に引きずられていった。あの2人も結構お似合いなのではないかと琥太郎は横目に見ながら柚と中庭に向かう。中庭のベンチで弁当を開けた琥太郎は、思わず声を上げた。

「おー、うまそう!」

「どうぞ食べてくださいまし」

 色とりどりの弁当から、唐揚げをまずは口に入れる。ジュワッと口の中に鶏肉の旨味が広がった。隣にあるタコさんウィンナーを続けて頬張る。

「ちゃんとお野菜も食べてくださいね」
 ニコニコと琥太郎が頬張る姿を眺める柚と目があい、ドキリとしてしまう。慌てて目を逸らすと、柚はニヤニヤしながら
「あらら、琥太郎くん、もしかして照れてますの?」
とからかってくる。

「照れてないって!」

「頬が赤くなってますわよ」

 琥太郎は恥ずかしさを誤魔化すようにご飯をかきこんだ。その様子を見た柚はうふふと嬉しそうに笑った。

 午後の授業を終え、柚と一緒に家に帰る。上板橋の帰り道を歩いていると、「にゃあ」と猫の鳴き声が聞こえた。近くの街路樹の茂みに近づいていくと、一匹の茶猫を見つけた。

「琥太郎さん!この猫は……」

「ああ、間違いない。呪いを受けてるな」

 猫は横腹に傷を負っており、そこから黒い呪いが溢れ出していた。

「おそらく呪いのせいで飯を食べられていないな」

「それでこんなに痩せてしまったのね。衰弱していますわ。早く保護しないと」

「この子を俺が一旦家へ連れて帰る。柚はこの子にあげるキャットフードを買ってきてくれないか?」

「わかりましたわ!」

 琥太郎は猫を抱え上げて、自宅へ急いだ。










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