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1章 入学編
02 琥太郎の過去
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琥太郎は柚を連れてとりあえず人気のない中庭に移動した。
「琥太郎くん、手を繋いで連れ出してくれましたのね。さすが王子様」
と柚は目を輝かせる。
琥太郎はやれやれとため息をついた。
「柚、君はあやかしだろう」
「そうですわ」
「なんのあやかし?」
「伏見稲荷の白狐ですわ」
「なるほど、由緒正しきお嬢様ってわけだ。初対面で人間はあんなこと言わないんだよ。みんな驚いてたじゃないか」
「ごめんですわ、怒らないでくださいまし」
ブワッと目に涙を溜める柚に琥太郎は焦り、慌てて話題を逸らす。
「ところで、どこかで会ったことあったっけ?」
「まあ、柚のことなんて覚えてないのね」
柚はハンカチで目頭を押さえてシクシクと泣き出してしまった。
横を通りかかった二人組が
「ねえ見て、女の子泣かせてる」
と言っているのに気づき、琥太郎は必死で記憶を探り出した。
「あ!まさか、昔よく一緒に遊んでた白狐か!」
と琥太郎は思わず声を上げた。
「やっぱり!琥太郎くんは覚えてらっしゃったのね!」
「うんうん、懐かしいなあ」
「それなら、あの時にした婚約ももちろん忘れてらっしゃらないでしょう?」
と柚は照れながら言う。
「こ、婚約?」
「大人になったら、必ず結婚しようねって約束しましたわよね。琥太郎くんのお父様、お母様も公認だったわ。一緒にあやかしの王の血を守っていこうって」
この言葉を聞いて、琥太郎の顔が曇る。
「ごめん、それは無理だ」
「なんで!琥太郎くんもご家族も急に京からいなくなってしまって……。ずっと会いたかったのに……。あの日、何があったの?」
「そっか。柚にはあの時のことを話しておかないといけないね」
琥太郎は忌まわしい記憶について、ゆっくりと語り出した。
「僕は父さんみたいに強くて優しい王様になるんだ!ね、母さん!」
「そうねえ、琥太郎ならなれるわ」
「やったあ!」
はしゃいで回る琥太郎を父が嗜める。
「妖の王になるのはそんなに簡単じゃないぞ。突然変異を起こして人間を喰らう恐ろしい妖を討伐して、人間社会と共生するという大切な使命があるんだ」
「そんなこと言って、父さんは悪い妖を討伐したことなんてないんだろ!」
「うっ、ガキのくせに痛いところを突きやがって」
「まあまあ、妖が平和でいるっていう証じゃないですか。もう数百年も悪霊化した妖などいないのですから。ね、将太郎さん」
と母が言うと、
「うむ、それも確かにそうだな。さすが楓さんだ。ただし、お前には王の代々受け継いできた技と術をしっかりと受け継いでもらうからな」
「うえー、また稽古かよ!」
琥太郎は父に首根っこを掴まれ、ズルズルと引き摺られていく。その様子を母は微笑んで見ていた。
「やあ!」
屋敷の中庭にカッ!と音が鳴り、勢いよく打ち込んだ琥太郎の竹刀が父の竹刀に弾かれる。
「そんな打ち込みでは遅いぞ」
と言うなり、父の竹刀が頭上ギリギリでピタリと止まる。琥太郎は竹刀を投げ出し、地面に大の字で寝転んでしまった。
「もぉー、父さんには勝てっこ無いよ!」
「そんなことないぞ、お前は剣の才能がある。しっかりと鍛錬すれば父さんを超えられるさ」
「そんなもんかなあ」
「あと、何より大切なのは覚悟だ。何かを得るためには、何かを捨てなければならない。その強い気持ちが道を切り開くんだ」
「うーん、父さんの言うことは難しくてよくわからないよ」
その時、平穏な空気をつんざくような悲鳴が屋敷の外に響き渡った。
「この強力な妖気はまずいな」
と父が呟く。竹刀を捨て空に手をかざすと、父の手には一振りの刀が握られていた。その間にも屋敷の外では悲鳴が途切れることなく響いている。
「琥太郎、後ろに隠れていなさい」
という父の言葉に従い、琥太郎は震えながら庭木の後ろにうずくまり隠れた。
「ほう、日月護身の剣か」
返り血を浴びた一人の男がゆっくりと中庭に入ってくる。
「この騒ぎの正体はお前か、愚か者め」
と父が睨みつける。
「いかにも。外にいる雑魚どもは護衛か?平和ぼけした妖には失望させられたよ」
と言うと男は手に持っていた妖の首を無造作に庭に投げ捨てた。
「お前は何者だ?」
「我が名は土御門翠流。腐り切った妖の世を、力の支配する世界に書き換える者だ」
「たかが陰陽師風情がふざけたことを。死ぬ覚悟はできているんだろうな?」
「死ぬのはお前だ」
と言うと、背後から巨大な妖が七匹、屋敷の塀を破壊し侵入してきた。そのままの勢いで父に襲い掛かる。
「なかなかの妖を集めたな。だが俺の敵ではない」
ザンッ!
父が刀を横凪に一閃すると、七匹の妖たちの首が一気に飛んだ。周囲に大量の血と臓物が飛び散る。
「次はお前だ!」
と翠流に斬りかかろうとすると、
「妖の王も衰えたものだな」
と翠流はため息をついた。
「なにっ!」
「その程度の斬撃では俺の七鬼衆はいくらでも蘇るさ」
再生した妖たちは不気味な笑みを浮かべて父の前に立ちはだかる。
「ならば何度でも斬り伏せるのみ!」
父は再び刀を構え、妖たちに斬りかかっていった。
「琥太郎くん、手を繋いで連れ出してくれましたのね。さすが王子様」
と柚は目を輝かせる。
琥太郎はやれやれとため息をついた。
「柚、君はあやかしだろう」
「そうですわ」
「なんのあやかし?」
「伏見稲荷の白狐ですわ」
「なるほど、由緒正しきお嬢様ってわけだ。初対面で人間はあんなこと言わないんだよ。みんな驚いてたじゃないか」
「ごめんですわ、怒らないでくださいまし」
ブワッと目に涙を溜める柚に琥太郎は焦り、慌てて話題を逸らす。
「ところで、どこかで会ったことあったっけ?」
「まあ、柚のことなんて覚えてないのね」
柚はハンカチで目頭を押さえてシクシクと泣き出してしまった。
横を通りかかった二人組が
「ねえ見て、女の子泣かせてる」
と言っているのに気づき、琥太郎は必死で記憶を探り出した。
「あ!まさか、昔よく一緒に遊んでた白狐か!」
と琥太郎は思わず声を上げた。
「やっぱり!琥太郎くんは覚えてらっしゃったのね!」
「うんうん、懐かしいなあ」
「それなら、あの時にした婚約ももちろん忘れてらっしゃらないでしょう?」
と柚は照れながら言う。
「こ、婚約?」
「大人になったら、必ず結婚しようねって約束しましたわよね。琥太郎くんのお父様、お母様も公認だったわ。一緒にあやかしの王の血を守っていこうって」
この言葉を聞いて、琥太郎の顔が曇る。
「ごめん、それは無理だ」
「なんで!琥太郎くんもご家族も急に京からいなくなってしまって……。ずっと会いたかったのに……。あの日、何があったの?」
「そっか。柚にはあの時のことを話しておかないといけないね」
琥太郎は忌まわしい記憶について、ゆっくりと語り出した。
「僕は父さんみたいに強くて優しい王様になるんだ!ね、母さん!」
「そうねえ、琥太郎ならなれるわ」
「やったあ!」
はしゃいで回る琥太郎を父が嗜める。
「妖の王になるのはそんなに簡単じゃないぞ。突然変異を起こして人間を喰らう恐ろしい妖を討伐して、人間社会と共生するという大切な使命があるんだ」
「そんなこと言って、父さんは悪い妖を討伐したことなんてないんだろ!」
「うっ、ガキのくせに痛いところを突きやがって」
「まあまあ、妖が平和でいるっていう証じゃないですか。もう数百年も悪霊化した妖などいないのですから。ね、将太郎さん」
と母が言うと、
「うむ、それも確かにそうだな。さすが楓さんだ。ただし、お前には王の代々受け継いできた技と術をしっかりと受け継いでもらうからな」
「うえー、また稽古かよ!」
琥太郎は父に首根っこを掴まれ、ズルズルと引き摺られていく。その様子を母は微笑んで見ていた。
「やあ!」
屋敷の中庭にカッ!と音が鳴り、勢いよく打ち込んだ琥太郎の竹刀が父の竹刀に弾かれる。
「そんな打ち込みでは遅いぞ」
と言うなり、父の竹刀が頭上ギリギリでピタリと止まる。琥太郎は竹刀を投げ出し、地面に大の字で寝転んでしまった。
「もぉー、父さんには勝てっこ無いよ!」
「そんなことないぞ、お前は剣の才能がある。しっかりと鍛錬すれば父さんを超えられるさ」
「そんなもんかなあ」
「あと、何より大切なのは覚悟だ。何かを得るためには、何かを捨てなければならない。その強い気持ちが道を切り開くんだ」
「うーん、父さんの言うことは難しくてよくわからないよ」
その時、平穏な空気をつんざくような悲鳴が屋敷の外に響き渡った。
「この強力な妖気はまずいな」
と父が呟く。竹刀を捨て空に手をかざすと、父の手には一振りの刀が握られていた。その間にも屋敷の外では悲鳴が途切れることなく響いている。
「琥太郎、後ろに隠れていなさい」
という父の言葉に従い、琥太郎は震えながら庭木の後ろにうずくまり隠れた。
「ほう、日月護身の剣か」
返り血を浴びた一人の男がゆっくりと中庭に入ってくる。
「この騒ぎの正体はお前か、愚か者め」
と父が睨みつける。
「いかにも。外にいる雑魚どもは護衛か?平和ぼけした妖には失望させられたよ」
と言うと男は手に持っていた妖の首を無造作に庭に投げ捨てた。
「お前は何者だ?」
「我が名は土御門翠流。腐り切った妖の世を、力の支配する世界に書き換える者だ」
「たかが陰陽師風情がふざけたことを。死ぬ覚悟はできているんだろうな?」
「死ぬのはお前だ」
と言うと、背後から巨大な妖が七匹、屋敷の塀を破壊し侵入してきた。そのままの勢いで父に襲い掛かる。
「なかなかの妖を集めたな。だが俺の敵ではない」
ザンッ!
父が刀を横凪に一閃すると、七匹の妖たちの首が一気に飛んだ。周囲に大量の血と臓物が飛び散る。
「次はお前だ!」
と翠流に斬りかかろうとすると、
「妖の王も衰えたものだな」
と翠流はため息をついた。
「なにっ!」
「その程度の斬撃では俺の七鬼衆はいくらでも蘇るさ」
再生した妖たちは不気味な笑みを浮かべて父の前に立ちはだかる。
「ならば何度でも斬り伏せるのみ!」
父は再び刀を構え、妖たちに斬りかかっていった。
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